ソード妖夢オンライン2 東方剣舞郷 ~ Myongressive.
原稿用紙換算472枚
東方Project×ソードアート・オンラインのクロスオーバー。SAO編第二部。
〇七 序:初恋のち告白
西暦二〇二二年一一月一二日、イルファング・ザ・コボルトロード戦後。
魔理沙やディアベルたちに内緒で出立した私は、弟子から片腕へとランクアップしたキリトの案内で、胸踊る冒険へと駆けだしていた。
第二層主街区ウルバスを迂回し、雑魚モンスターを蹴散らしつつ一時間近く南東へと走りつづける。第二層のメインテーマは牛ということで、高原のような牧草地帯に牛型モンスターがたくさんうろついている。美味しそうな牛は実際に調理可能な肉アイテムまでドロップする。お得だ。
牛の狩りは意外に面白い。なんて楽しいのだろう。デスゲームということを忘れてしまうほど、私はこの世界を、本来のゲームそのものとして遊んでいる。
それも私がひとりではないからだ。
SAOで私と肩を並べて戦える技倆を持つ、唯一の男の子がいる。キリトという高性能ナビゲーターのおかげで、私のソードアート・オンラインは初日からずっと、充実したものとなっていた。
幽々子さまゴメンなさい。魔理沙もすまない。もう自分に嘘をつくのを止めたのだ。いや、行動的には、最初から付いてなかった。だから私は欲求の赴くまま、肉牛さん切り裂き魔となって走る。途中に町がふたつあったが、キリトが無視していいと言ったので寄らない。そのうち最初の目的地であるマロメという村に到着した。
第二層にはテーブルマウンテンという台地状の岩山が点在している。町や村はなぜかその台地を丸ごとくりぬいた内側にあり、遠くからはどれが町や村だかまるで分からない。それでもマップを広げれば圏内を示す赤マークが灯っているので、それを元に見当は付けられる。マロメは村なので規模は小さく、そのテーブルマウンテンも小振り。崖の下にぽつんと開いた入口をくぐれば、直径一〇〇メートルもない、自然の城塞村へとご案内。壁の役割を果たしているテーブルマウンテンの高さは四〇メートル近くもあり、まるで深皿の底にでもいる気分だ。
高い外周のせいで日影が村に深く覆い被さり、すこし肌寒い。秋も深まっているし、この層では肌着もアンダーも長袖が必要だろう。私たちは装備をメンテナンスあるいは更新し、アイテムも補充することにした。たとえばおなじ赤ポーションでも、第一層とは値段も回復量も違う。効率化のため、手持ちの総入れ替えだ。
思うところがあったようで、キリトが要望を出した。しかもなぜか私へと踏み込むように近寄って。
「コボルトロードのようなあの恐怖は、もう味わいたくない。頼むからみょんは、防具を装備してくれ」
わずか三〇~四〇センチ足らずから真面目な顔で見つめられ、私の胸はまるで走っているような鼓動を脈打っている。
まったくこの男の子は、ほとんどの人とは目線すらろくに合わせられないくせに、いったん内側に入って友達ともなれば、異性に対してさえこうも安易に接近してくる。臆病なのか確信犯なのか、それとも大胆なのか無神経なのか、私にはよく分からない。
「……そうですねキリト。私も合わせるべき部分は合わせなきゃ」
ボス戦であやうく死ぬところだった私は、キリトたっての願いに、こだわりをあっさりと捨てることにした。幻想郷とSAOは違うから。
私の強さはあくまでも能力値の範囲内でしか発揮できない。耐久力もそうだ。幻想郷で私たち人妖が鎧などをほとんどまったく着けないのは、必要以前に肉体のほうが頑強だからだ。それに鎧兜は用意するのにお金も時間もかかるくせに、一~二回のスペルカード対戦でダメになる。服ならばずっと安いし、人によっては妖力や魔力でインスタント生産も可能だ。私は剣を振るしか能がないので、白玉楼の人魂さんに縫って貰っている。
武具屋へ行くと、私は胸当て・肘当て・臑当て・グローブ・革ブーツ・革ベルトなど、革製の防具をひと揃い買った。金属製は買わない。軽金属装備スキルといった相応のスキルが必要だからだ。
鎧下をカバーするアンダーウェアも町娘のような服ではもう駄目なので、緑色のベストを脱ぎ、白シャツを草色のシャツに着替えた。ベルトを付けるためスカートも交換となり、ベルト通し機能があるキュロットタイプでは――欲しかった緑系で、プリーツ入りのかわいいミニがあったので即購入した。短くてややめくれやすいが、下がレギンスなので問題はない。これで私は魔理沙やにとりに近いコンセプトの装備となった。SAOの標準的な防具を身にまといつつ、装束で幻想郷のカラーを再現するやり方だ。全体的に緑系統の色が目立つ配色を守っている。さっきまで着ていた服はストレージに残しておく。宿屋など、プライベート用だ。女の子たるもの、非効率と分かっていても、おしゃれを忘れてはいけない。
新しい冒険用装備の私を見て、キリトが頷いた。
「やはりSAOならこうでないとね。とても似合ってるよ」
素直に嬉しい……いちいちときめくな、私の心臓よ。
「キリトはますます黒色率が高くなってますよね。元は青と黒だったのに」
漆黒の剣士と呼んで良いほど、いまのキリトは黒一色にまとまっている。とくに一番上より羽織っているロングコートはツヤ出し黒革で、夜のような深い黒だ。コート・オブ・ミッドナイト。コボルト王のLAボーナスドロップ品だけど、これがまた、華奢で細身のキリトに良く合ってるんだ。
「みょんとやってる早駆けプレイが人にどう思われるかを想像すると、いよいよブラックがいいような気がしてね。悪党っぽいだろ」
本当に凄い連中をいくらでも見てきた私にとっては、せいぜいで微笑ましく可愛い盗賊さんだ。
「露悪趣味ですねぇ。いくらコンビでパートナーだからって、私は付き合わないですよ」
「そういえばいつも緑が中心だな。黒なのはリボンくらいだし」
「緑は二代前から魂魄家のベーシックカラーなんですよ」
「コンパクケ――家ってことか? じゃあコンパク流って、みょんの本名はもしかして。ああ、いや、あまり込み入ったリアルを聞くのは失礼だな。すまん」
うっかりだな私。すぐ油断してしまう。
「言っていいのかしら? まあいいでしょうねキリトには。私の名前は魂魄妖夢。魂魄流の当代宗家です」
胸に手を当てて、フルネームと正体のごく一部を伝えると、キリトの目が点になっていた。
「嗜みや習い事なんてレベルじゃない、伝統に裏打ちされた実践剣術だよな。その宗家とは、家系のほう? それとも当主のほう?」
「当主ですね」
「なら家元と同義だよな。つまりコンパクヨウムはその歳で、誰もが認めた正当な継承者……」
「いやあそれほどでも」
人に言われるとすごそうな気がしてきた。もっとも冥界や幻想郷には、私なんかより凄い連中がたくさんいる。ソードアート・オンラインで私が無双をしていられるのも、魔法のない剣の世界だからだ。
キリトが身を乗り出して聞いてきた。
「流派としての歴史はどれくらい?」
「……すくなくとも五〇〇年はあります」
本当は一〇〇〇年以上だが、あえて半分にする。
だがその数字でもキリトの表情が輝いてきた。こういうものに憧れる年頃だ。
「戦国時代かよ! なら、みょんが普段使っていたのは、竹刀じゃなくて本当のカタナだよな」
「もちろん。銘は楼観剣と白楼剣ですよ」
「ちなみにロウカンとかハクロウの制作年は?」
「ゆうに七、八〇〇年は経っています。業物よ」
こちらは事実だ。白玉楼はその長い歴史の中で幾度か武器を更新してきたらしいが、それは道具の進歩に合わせてきたから。刀剣類として理想に近い日本刀は、鎌倉時代には完成の域に達していた。ならばもはや失われない限り変える必要はない。交替のない期間が延びるほどに、それは冥界の守りが鉄壁であることを物語っていた。私にとっては誇りの数字でもある。
「か、鎌倉時代かよ! なにもかも数百年単位か。いいなあ。名字がそのまま流派だし、道理でやたらめったら強いわけだ」
キリトはいてもたってもいられなくなり、アニールブレードとスタウトブラウドを抜いて、私がよく行う打ち込みパターンのひとつを真似し始めた。肩と腕の動きが大きく、二本の剣がものすごい勢いで振られる。通常の剣道や剣術と違って打ち込み後の残心へ繋げず、あとはひたすら豪快な連続技がつづく。軌道が不規則なうえ攻撃がまったく途切れないから、もし対戦者がいれば肝を冷やし、勝てる気がしないだろう。
どうだと誇らしげにキリトの顔が言っている。これがSAOだと。
覚え立ての剣舞とは、私にもとても見えないほど、すでに自分のものとしている。演武として見ればまだまだ洗練はされていない。だが実技としては有用だ。この重い攻撃の数々は、現実でも本当に人を殺せるレベルなのだ。私の動きを参考にしながら、すぐ自分に合うスタイルを見つけ、確立した。キリトの天性は基礎と応用を同時に習得してしまう速成にもある。うらやましくもあるが、なんとも頼もしい。
「たしかここから上段よりこんな感じが巻き打ちに似てて、つぎは踏み込んで刺突……初顔の敵にもガシガシ急所へ当ててクリティカルヒットばっかだしな。剣道だと反則取られまくりそうだ」
「剣道は昇華された克己の道、剣術はより純粋なただの戦闘技術。私の太刀筋は防具や装甲の裏を――基本的に動脈や臓腑を狙いますから、剣道でやったら最後、相手が大怪我しちゃいますよ。SAOは実戦オンリーで物理再現度も優秀ですから、そのぶん有利になるだけですよ」
剣舞を終えたキリトがいい汗を掻いたと背伸びする。
「これほど本格的に大層な子と、俺は旅をしてきたのか。本物のサバイバル剣術をマンツーマンで習えるなんて、おそろしく恵まれているな。今後はヨウムさんって言ったほうがいいかな?」
「よしてよ恥ずかしい。いまさら改まってもお互い詮方ないじゃないですか。キリトって散々私の素や本性を見てきましたよね」
「まあたしかに……お人好しで素直なのに肝心なとこで抜けてて、その割に三度の飯よりバトルが好きな、変な子だし」
「ひど~い。あなたの戦闘中毒も相当なものですよ」
内心ではまったく怒っていないが、私はぷいと顔を反らして拗ねたふりをした。ただキリトはそれ以上、話を続けなかった。メニューを呼び出し、自分のスキル一覧とにらめっこを始めている。
「どうしたんですか」
「みょんが想像以上にマジモノのサムライだと知ったからには、コンビとしてスキルビルドを見直さないといけないと思ってね。みょんは俺に合わせてくれた。だから俺もみょんに合わせる。それがコンビってもんだろ? パートナーとして、俺がみょんの領域に並ぶのは至難の業だ。この先もしばらく俺のほうが弱いままなら、今後のために取っておきたいスキルがある――戦闘時回復だ」
合わせる……の一言に、また私の胸がときめいた。平静を装うのが大変だ。キリトはどうしてこう、私が喜ぶことばかりを次々と。
「――いま、キリトのスロットも四個ですよね。たしか片手用直剣・投剣・索敵……あとは?」
レベル一二でスロットが四つに増えたばかりで、キリトが新たになにを入れたか知らない。
「疾走だな」
「私は片手用曲刀・武器防御・疾走・軽業よ」
リーチが短いぶんキリトと違って敵により肉薄するため、一フレームでも接近を早められる疾走や軽業は重要だ。防具を装備して、すこし体が重くなった。スキルに頼る割合は高くなるだろう。
「疾走に軽業まで持ってるみょんと並ぶには、疾走は外せないな。よし、索敵を除けよう。感覚の鋭敏なみょんといればアクティブMobに奇襲されることもないから、育てるのは後回しにしてもいい」
キリトはさっさとスキルと入れ替えてしまった。外したスキルは習熟度がいくら高くても効果がなくなるうえ、なぜか熟練度まで消えてしまう鬼仕様だ。キリトの経験がそのぶん失われることになる。とくにまだ序盤だから、影響は大きい。
「その戦闘時回復って、戦闘判定中しかHPが回復しないバフ系スキルですよね。私たちの戦闘はほとんど秒殺なのに、どうして必要なんです?」
バフとは緩衝系を意味するバッファーから来ている。MMORPGでは補助魔法を掛けることをバフというが、基本魔法がないSAOでもバトルヒーリングといったスキルが存在している。私が選んだ疾走&軽業もバフのようなものだ。
「決まってる」
キリトは私に、無駄に爽やかな得意顔を向けてきた。拳に親指を立てて、GJポーズ。
「中・大ボス戦さ!」
「ボスさんね……」
さらに彼は道具屋へ戻ると、大量の回復ポーションを買い込んだ。なんと一〇〇本近く、一万コル以上の出費である。
「……こんなに買って、どうするんですか」
オブジェクト化したポーションをあちこちのポケットへ入れながら、黒の剣士はマイペースに返す。
「スキル修行のためだよ。バトルヒーリングを短期間で使い物にするには、お金がかかるんだ」
なんにせよキリトは、私と一緒にいることを前提とした能力構成へ切り替えようとしているのだ。所持金のおそらく半分以上、一万コルもの大金を惜しげもなく投じる姿勢は、素直に嬉しい。いまのキリトの中で、私は誰よりも最優先のポジションにいる。
マロメ村を後にして、私とキリトはさらに先を急いだ。やはり駆け足のままだ。魔理沙たちが追いつけない早さで進んでしまおう。それが抜け駆け速攻プレイ。すでに霧雨魔理沙・クライン・射命丸文・蓬莱山輝夜からメッセージが届いている。
『SAOの妖夢は見たことがないくらい生き生きしすぎて、すっかり私情の塊だぜ。真面目な妖夢はどこいった。こちらもすぐ追いついてやるから、せいぜい微笑ましい辻斬り婚前旅行を楽しんで来い』
『みょん吉、俺が追いついたら二刀流でも教えてくれよ。ついでに潤いもヨロシクな』
『早すぎます妖夢さん。荒ぶってないで、いいかげんまともに取材させてくださいよ~~。ウルバスはいま、第一層解放でお祭り騒ぎです。ディアベルさんが第一層から来た連中に繰り返し、一〇分くらい胴上げされてましたよ。そうそう、魔理沙さんのフレンドに、ネズミ印でキュートな情報屋さんがいたんですけど、彼女が教えてくれたレストランに、面白いケーキが! なんと隠しステータスの幸運値が、一時的に上昇するんですよ。そのトレンブル・ショートケーキを食べて、清く正しい射命丸文、ただいま全力ラッキーに取材中! 早くカメラが欲しいです。できればライカのM型! 今日の攻略戦で資金も貯まりましたし、明日くらいには文々。新聞を発行できそうです』
『いまの一瞬にかなうものはなにもないわ。そのままお行きなさい。永遠は傷がついても永遠だけれど、その過去に閉じ込める思い出は、いましか創れないのだから』
どうやらみんな、私の暴走を許してくれるようだ。ありがたく突っ走っていこう。
あとは野となれ山となれ。
キリトにもクラインからのメッセージが届いていた。かなり目を回していたので、先駆けの駄賃をおもにメンタル面で支払わされたようだった。
顔をけっこう赤く染めたキリトは、私と一〇分以上目を合わせなかった。察するに、どうも男女の関係をからかわれたみたいだった。魔理沙のいたずらのせいで、クラ之介の中で私とキリトはおそらく仲睦まじい間柄だろう。野武士のくせに余計なことを。
コンビの男の子に意識されて、正直なところ私は嬉しい。望んではいなかったはずなのに、しだいに欲求が増しているのが怖い。いつ元の世界へ戻されるか、いつまで一緒にいられるか、まったく分からない。だからいまを大切にしたかった。同時に私が消えたあとのキリトに必要以上の心の空洞を作りたくもなかった。それは私のほうもおなじだ。
最初はただの知辺だったキリト。つづけて男友達となり、いまは親友未満のような関係だろうか? しだいに絆が深まりつつも、どこまで近づくことが許されるのか、私はそのじつ量りかねてもいる。
せめて――幻想郷より、便りのひとつでもあればいいのだが。
私が四人のメッセージを読み、適当な返事を送っていた間、キリトは戦闘のたびわざと牛モンスターの強攻撃を受けてから倒していた。まともなヒットでHPが減るが、そのつどポーションを飲む。二~三回食らっていきなりイエローゾーンまで落とす律儀ぶりだ。戦闘時回復は面白いことに、スキルを使用した継続時間ではなく、受けたダメージ量によって熟練度が高まり、回復量も増えるらしい。一度の戦闘でポーションを一本ずつ消費する。戦闘と戦闘の間は数分ほど開くので、その間に回復してしまうのだ。バトルの間隔はかなり短めだが、延々と走っているのでつぎの敵と短時間で遭遇する。
「……もしかしてこれが修行? ただの作業じゃないですか」
ゲーム経験の浅い私にとって、デジタルデータ以外の要素も向上する形でないと、修行には見えない。それゆえ私が選択しているスキルもリアルの戦闘スタイルと直結しているものばかりだし、今後もその傾向が強いだろう。
「RPGの修行は本来、こういう地味なものさ」
命がかかった極限状態でこのような自傷的行為、本来ならもはやほとんど自殺にも近い愚行だろう。だけどSAOのシステムと相性の良い魂魄流二刀剣術のおかげで、戦闘時回復スキルの最前線修行などという離れ業が可能となっている。
妖怪二刀流による秒殺アタックがなければ、キリトも最前線でこのような無茶はしないだろう――いや、すでに無茶ではない。私もただ呆れただけで、危険だという認識すらろくに欠けているし、あまり問題だとも思っていない。それだけ私とキリトの攻撃性能はあまりにも高く、爆発的な殲滅力を有している。一撃目さえ当てればほとんどの雑魚がジ・エンド。心理的なアドバンテージが、私とキリトの気ままな二人旅を支えている。
そこには先へ進みたい、より強い敵を倒したいという欲求も燻っている。私の心がすこしでも躍る敵は、ボスクラスか、良くて迷宮区タワーの武器持ちだ。フィールドなんか観光気分で走り抜けるのみ。
牛どもの抵抗を鎧袖一触で撃滅しつつ、やがて第二層の関門にぶつかった。
周囲をことごとく山肌に囲まれた幅五〇メートル、長さ二〇〇メートルていどの窪地に、巨大な雄牛が待ちかまえていた。角が四本もあって、まるで妖怪牛だ。
「あれがこの第二層唯一のフィールドボス、ブルバス・バウだ」
牧場と牛がテーマというだけに、ボスも牛さんだ。ただし特大級。HPバーはやはり二段ある。
「体高だけでも四メートルはありそうですね。これまでのボスで一番大きいです」
「この先もっと大きなボスもいる。圧倒されないよう、気を引き締めようぜ。あとあいつの攻撃パターンだが――」
「情報は不要ですよ。お楽しみが減るじゃない」
「え?」
「……あのていどの化け物、斬り捨て慣れています」
「大きく出たね辻斬りみょん。ゾウさんを斬るようなもんだぞアレ」
私は自分の武器を上段でバンザイでもするように構えた。派手なわりに対人ではかえって不利となるので、これまでキリトに見せたことのないレアな型だけど、巨体の獲物相手には比較的よく使う。いまの曲刀はペール・エッジが二本。ようやくオリジナル名を持つ準レア品をゲットできた。片方が適当なモンスタードロップ、もう一方が道端のトレジャーボックスだった。
巨大雄牛が足を踏みならし、突撃してきた。土煙が後方へたなびき、見る者にかなりの威圧感を放っている――はずであるが、はたして私は涼しいものだ。キリトもコンビの気楽なさまに安心したのか、隣で見よう見まねの変則上段を取っている。いやそれ、腰の入り方が間違ってるから。
「生兵法は怪我の元ですよ」
「いいんだよ。そのためのバトルヒーリングだ」
どうも失敗前提は織り込み済みらしい。
ブルバス・バウが迫ってきた。その重突撃はどう見ても武器防御で受けきれるわけがないので、体を捻りつつ牙へとペール・エッジを打ち込み、闘牛士のように軽くいなした。ただし隣ですごい音がして、視界の隅でキリトが宙に舞っている。
私の意図するところを聞かなかったため、回避に失敗したようだ。
あまりキリトの心配はしない。フロアボスと比べて、フィールドボスの攻撃力は低い。私とキリトは第一層の効率限界近くまでレベルをあげている。いくら体高四メートルの重戦車チャージだろうが、コボルトロードのように必殺級ダメージになるといった理不尽はありえない。もちろん現実なら即死だろうが、SAOはあくまでもゲームだ。
私はもう一度ブルバス・バウの突撃を紙一重でかわした。猛牛の性能を測っている。加速度や突進距離、純粋な速さは、ギリギリ間近まで引きつけないと知ることができない。
二回の突進で、だいたいのタイミングは掴めた。たぶん、いける。
またまた雄牛さんがチャージしてくる。起き上がったキリトが、私が仕掛けようとしているのに気付いたようで、お勉強モードになって観察していた。キリトのHPバーを確認したら、四割近く減っている。
助走と屈伸を経て、私はできうる限り高く跳んだ。いまのレベルなら、対空ソードスキルの力を使わずとも一メートル以上はジャンプできる。その最高点で私は二本の曲刀を大上段に掲げ、両足を大胆に開いて、ブルバス・バウの鼻面へとジャストタイミングで振り下ろした。全体重を乗せた最大限のブーストに、さらに牛さん自身の速度も加わり、兜割りのどぎついヒット音が響いた。急所をやられ、巨牛が悲壮に吼える。
このままだと牛に激突するので、私は広げた両足でブルバス・バウの頭を踏みつけていた。高所から着地したような強烈な加重がかかるが、全力で踏ん張り我慢する。五秒間の急減速。装備が軽いおかげで耐えきった。HPバーが数ドット削れている。
ブルバス・バウの動きがにぶり、歩く速度になっていた。ダメージディレイ中で、慣性によって前進しているだけだ。私はこの隙を逃すまいと、頭部に乗っかったマウントポジションよりまず両眼へ同時に曲刀をねじ込んだ。巨牛が啼きわめくが構わず、無慈悲にもブルバス・バウの急所という急所をつぎつぎと刺してゆく。頭部には弱い部分が多い。頭骨そのものはどんな動物でも頑丈なものだが、目や耳や鼻といった感覚器や、骨で覆うわけにいかない首は脆いのだ。
硬直より回復してバウ君が暴れ出したが、私は頭に乗ったままだ。首の裏側に移動して、西部劇のロデオみたいにまたがり、あちこち刺し続けている。首筋から背骨は脊髄という神経の太い束が走っていて、その辺りを集中的に狙えばダメージボーナスが大きい。
茅場晶彦も変なところで律儀で、生き物として攻撃されたら弱い部分を、モンスターにもありのまま反映している。おかげで実用重視な私の必殺剣術がとても有効だ。現実と違うところは、いくら刻んでも行動不能にならないところか。目を潰したと思ったけど、まだ見えているようだ。そういえばマニュアルに書いてあった。SAOでは腕や足などの部位損失は発生するが、あくまでも一時的なものだし、失明や難聴といった感覚喪失現象は再現しないと。ちなみにスペルカード戦でこのような残酷な斬り方は間違ってもやらない。
急所ばかりを狙った連続攻撃でHPを急速に減らし、ブルバス・バウ君がどっと崩れた。
タンブルになったみたい。数十秒は復活しない、私たちにとっては馴染みになりつつある転倒ステータスだ。
「全力攻撃!」
キリトが調子のいいことを言って、二刀で脇腹を刻んでいた。私は首から降りて、キリトの隣でおなじくソードダンスを踊る。
「今のやつ、最初のはなんだ? 盾も使わずフィールドボスのチャージ攻撃を止めるなんて、えらい離れ業を見たような気がするんだが」
「頭上花剪斬です。本当なら刀一本で斬る技ですけど、いまはまだ剣も握力も弱いから、二刀流で添えたほうが効率いいですね」
会話してるけど目の前の肉壁は真っ赤なダメージエフェクトで埋め尽くされ、さらに増えている。私たちの体はずっと半自動的に戦い続けている。
「俺の知る限り、あんな豪快な跳躍技なんて、ゲームやお話の世界にしかないんだけどな……軌道が定まってしまうから、対人戦なら簡単に避けられるよな」
「私の流派にはそれがあるんですよ。弦月斬も本来はジャンプする対空技で、いまのバージョンはむしろほとんど円心流転斬に近いですね。キリトもすぐに覚えると思いますよ」
「……対空技があるコンパク流って、どれだけ変わったやつとの戦闘を想定してるんだよ。忍者とか?」
「戦国時代にはいろんな武芸者がいたって話ですね」
適当に誤魔化して話を終わらせると、私はそろそろ再現可能だと思っていたつぎの技を試してみた。
数歩退いて腰を低くすると、低姿勢より踏み込みつつ右の曲刀で渾身の水平一閃、さらに下段より左を上段へ全力で斬りあげ、最後に頭上花剪の小ジャンプ版を牛の腹に叩き込む――まだ余裕があったので、着地と同時に両手を下より上へクロスさせて、X字に深く切り裂いた。二本の曲刀が私の背中でぴたりと止まる。バンザイのような姿勢で、前屈みになっている。
「うん、なかなか動けるようになってきましたね」
「いまのは通常の連続技とは違うね。あきらかに早かった」
「生死流転斬と結跏趺斬です。最初の三連が流転ね」
「連続技になりにくいけど、ケッカフザンってのは最後のトドメにちょうど良さそうだね。同時に斬りつけてしかもクロス斬撃なんて、まるでアニメみたいでカッコイイぜ」
たしかに結跏趺斬は連続では使いにくい。本来ならこれは剣気を飛ばす技なのだから。もちろんSAOではそこまで再現しない。キリトは結跏趺斬が気に入ったようで、さっそくX字に刻む攻撃をその場で繰り返し、繰り返しとめどなく――繰り返す?
「キリト?」
なんとキリトは、切り上げた両手を、そのままの体勢からまた切り下げた。X字が行ったり来たり、幾度となく交差してゆく。攻撃硬直の解除タイミングを体が覚え込んでいるようで、一度の失敗もなく完璧な連続技となっている。私が唖然としてそのダイナミックな攻撃を見物してるうちに、ブルバス・バウのHPがゼロになり、ポリゴンの大粒となって弾け飛んだ。いったい何往復したのだろう。
結構な経験値と大量の入手アイテムが表示されていくが、私はそれに構わず、曲刀を鞘に戻しながらキリトの元へ駆け寄った。この興奮を伝えたい。
「キリト、凄い! オリジナル技ですよそれ!」
武器を背中に戻したキリトが、首をかしげる。
「なんだって? 俺はケッカフザンを――あっ」
気付いたようだ。
「私の場合、結跏趺斬の終了体勢からは、いちいち手首を返して、さらにタメを入れないと、きちんと威力を乗せた返し斬りが出来ないのよ。だって曲刀は片刃だから」
「もしかしてこれって、みょんが二日目に言ってた……最終的に返し斬りが早くなるという」
キリトの手を取ってぶんぶんと上下に揺らす。
「私が教えられない直剣用の宿題、ひとまずクリアです。まさか偶然とはいえ自力でオリジナル技を編み出すなんて、キリトえらい!」
「オリジナル技――」
「そうよ。これは魂魄流にはない、キリトの技です! しかも見た目も派手で、クラ之介にも自慢できるわ!」
私は感激のあまり、気がついたらキリトの首に抱きついていた。ああ、我ながらなんという破廉恥なことを。でも体が言うことを――聞かない。私はこんな子じゃないのに、ないのに。
「キリトすご~~い! 格好いい~~! 素敵~~!」
幽々子さまもきっと「あらあらまあまあ」って面白がるよ。子供のように懐かれて、キリトも目を回しているよ。
キリトが作り出した技は、SAOでは派手だけど、現実の私が使っている必殺技の数々と比べれば地味に写るだろう。でも私は技の誕生に立ち合えてとても興奮している。それは編み出したのがキリトだからだ。
私にとって彼が特別な子だからだ。
このような期待以上のイベントがあって、抑えておくなんてもう出来ない。
もうだめだ。
はいはい、自覚しましたよ。思い知りましたよ。
出会ってまだ一週間なのに、もう引き返せませんよ。
だって。
彼は。
彼は教えてくれた。
彼は綺麗で怖くない。
彼は天性のものを持っている。
彼は後ろを任せられるほど強くなった。
彼は助けてくれた。
彼は合わせてくれる。
彼は課題をクリアした。
彼は……一緒にいて、心地よい。楽しい。
私は。
私は、私は私は……私は。
キリトが好きだ!
* *
オリジナル技はキリトのお願いで、私が命名することになった。
「結跏趺斬は、正しいとされる座禅、難しい足の組み方から来ています。結跏趺坐というんですね」
「大仏とかがやってる、両足とも足裏が見えてるやつか?」
「そうです。それでね、結跏趺坐には右前の吉祥坐と、左前の降魔坐があるんです」
「ふんふん」
「単発技の結跏趺斬は右か左か、どちらかしか出来ませんが、キリトの連続交差は、左だろうが右だろうが気分しだいで自由自在ですね。だから――合わせて吉祥降魔剣はどうでしょうか」
私はメモに漢字を書いて、キリトに見せた。
「読み方が仏教から離れて、普通になるんだね」
「だって私には使えないキリトだけの技ですから、そのほうがいいかなと思ったの」
「あえて吉祥降魔剣ではダメかな?」
「ちょっと難しくて、人に説明するとき、面倒じゃないです?」
「みょんの考えてくれた技名だから、大丈夫だ」
「……わかりました。じゃあそれで決定ね」
体温が高い。私の顔は常になく真っ赤に染まっているはずだ。キリトはそれを平気で見つめてくる。なんという羞恥プレイ。でもイヤじゃない。初恋を認めてしまえば、あとはなんというか、なにもかもがご褒美だ。
キリトといるだけで幸せな気分だ。ふたりきりで旅に出て正解だった。これはもう、ボーナスステージが延々と続いているようなものだから。魔理沙やクラインにもからかわれずに済む。
ブルバス・バウが守っていた先にはジャングル地帯が広がっていて、急に遠方の視界が悪くなっている。基本的な地形は変わらず、テーブルマウンテンが散らばっている。もっともマップを見れば町や村がすぐわかるし、キリトという生き字引がいるから、私たちは迷うことなく最短ルートで進み続けている。
モンスターと出会えば、キリトは戦闘時回復スキル修行で、相変わらずわざとダメージを受けてから倒している。さっそくあの吉祥降魔剣で刻みまくる。いまもフィールド最大のザコ牛トレンブリング・カウを、鮮やかな八連鎖でのした。
「そういえばキリト。どうしてさっきのボス戦、私の避け方を真似しようとしたんですか?」
「クラインがブーストの練習をやってて、初日にたくさんダメージ貰ってただろ」
「そうですね。でもそのおかげか、トールバーナで再会したらずいぶん上達していましたね」
「それだよ。俺がさらに強くなるには、もっとギリギリで戦わないといけないんだ。さっきのボス戦も、もらったダメージこそでかかったけど、バトルヒーリングスキルのおかげで戦闘中に二〇〇くらいは回復できた」
私にも覚えがあった。師匠の妖忌お爺様に何度、竹刀で頭を打たれたことか。
「……わかった。私はキリトのやり方を、見守ることにします」
キリトはすこしでも短期間で、最大限に強くなろうとしている。攻撃はすでに高い水準にある。ならば今度の課題は防御術というわけだ。私のように最低限の動きでかわすには、ダメージを受ける覚悟でぎりぎりまで引きつけて、それから見切る修行を重ねなければいけない。つまり死線をくぐる度胸がないと、ダメージディーラー向けの守りは身につかないのだ。
移動中、魔理沙からメッセージの返信があった。
私の送った返事は適当だったが、その中にひとつの質問を混ぜていた。
『なぜ魔理沙は、生来の性格や性質に反した戦闘指揮を、SAOで執ってるんですか?』
魔理沙の答えは私を満足させた。
『リーダーとして戦いを指揮して、戦闘を勝利へと導くのは、魔法やスペルカードの開発に似ている。SAOには魔法がないから、戦いが軍隊式になってしまうのは、私なりのSAOでのスペルカードだ。陣形は火力だぜ』
……なるほど。魔法やスペカは、常におなじものを再現できなければ意味がない。だから魔理沙の戦いは、集団をひとつの秩序として組み立てる、すなわち軍隊式と化す。ブンゴウ・カナトコ・ツリノブセリは、それぞれがSAO式のスペルカードなのだ。
普通の魔法使いという異名が示すように、魔理沙は幻想郷でけして強力な存在ではない。天才の霊夢に離されまいと、魔法の研究を怠らない努力型だが、誰よりも多くの時間を強くなることに割いてきた私にはかなわない。魔理沙のスペルカードは見た目ど派手なものが多いが、短時間に火力を集中させる戦術は、思えば堅実な手ともいえる。指揮によるスペカの自己表現と、勝利へのこだわり。
魔理沙はやはり魔理沙のままだった。SAOで彼女は、自分の魔法を見つけたのだ。
友達が胸の内を告白してくれた。それなら私も、この調子の良い魔法使いには伝えておこう。
『隣にいる子を本当に好きになってしまいました。長命の半人半霊が短命の人間に恋をする。この先、辛いことや涙に崩れることもあるかも知れませんが、いまは魔理沙に一言だけ。ありがとう』
この爆弾があとはどう伝わるか、知ったものか。私は素直な性格が邪魔をして、魔理沙や射命丸文には隠し事なんてまるで出来ない。どうせバレるなら、早いほうが私も心の整理が付くのでいいだろう。
ジャングルを戦いながら進むこと二〇分あまり。私とキリトは迷宮区タワーを見上げる村タランについた。
まずアイテム類を整理することにした。ふたりだけのボス戦はアイテムがたくさん手に入るのだが、SAOは装備品だけでも無数に種類があり、ランダムに入手した大半はどうしても不要となる。だからどんどん売ってしまうのだが、店売りにはないレアとみられるものもあって、それは売らずに取っておく。たとえばいくら拭いても汚れないハンカチといった、謎の道具だ。素材系にもレアそうなものがある。
NPCに売ったアイテムはサーバから消滅してしまうので、レアアイテムをうかつに始末するのはマナー違反だ。キリトによればこういうもののためにプレイヤーオークションやプレイヤーショップがあって、そこを通せばレア品・準レア品・素材アイテムも、必要とする人の元で役立つ。
買い物が終わると、キリトが「案内したいところがある」と言って、私を意外な店へ連れて行ってくれた。
そこは村の外れに、つまり外壁に近い場所にあり、あまり目立つ建物ではない。ただ店の種類を示す看板の絵が、変わっていた。
「え、この看板マークって……お酒ですよね?」
ワインボトルとグラスがささやかに並んでいる。それを見ただけで、よだれが。
「コボルトロード戦後にみょんが言ってただろ? 酒が飲みたいって。SAOにもあるんだよ。酒場がね」
「お酒!」
町と呼べる規模になれば、どこにも一軒は酒場があるという話だった。第一層で見なかったのは、ナビゲーション役のキリトがガイドしてくれなかったからにすぎないらしい。MMO初心者の中学生女子ということで配慮してくれていたようだ。その私がじつは酒を欲していたと知ってすぐこれだ。キリトの気遣いが嬉しかった。
NPCウェイターの渡したメニューには、さすがに大好物の日本酒こそなかったが、ワインにエールや果実酒が用意されていた。
「およよっ! 場末な割に、けっこうラインアップが豊富ですね。キリト、ありがとう!」
「そこまで喜ばれると、照れるな。でも俺たち中学生だぞ?」
逸る気分のままに、私はエール二杯と果実酒を注文した。キリトが呆れていたが、エールといったビール類や、ソーダ割などが前提の果実酒では、アルコール度数が低すぎて、量をあおらないと酔えないのだ。ワインは私のイメージでは上等品なので、もっと雰囲気を楽しみたい機会に取っておく。
キリトがNPC店長を呼び、あちこちで狩った牛肉アイテムの調理を依頼した。食材持ち込みは出来ない店も多いけど、酒場のような敷居の低い店では、ほとんど問題なく受けてくれるらしい。
肉料理が来るのを待たず、私はキリトと杯を交わす。
「今日の戦果は、コボルトロードの首級と、ブルバス・バウのお肉。さらにキリトの新技。今日の勝利と、明日の勝利に、かーんぱ~~い!」
「か、乾杯」
私のテンションについていけないキリトだけど、いちおう乾杯には付き合ってくれた。キリトが選んだのはエールのジョッキ一杯だけだ。まだ中学生のはずだけど、ジョッキ一杯まるごとって大丈夫かな? まともな飲酒経験あるのかな?
とりあえず疑問もそぞろに私はジョッキの中身を半分ほど一気呑みした。うむ、なかなかの味と、喉越しではないか――あとは数分もすれば、ほんのりと体温が上昇してきて、いい感じになってくるのだ。
キリトはちょびちょび飲んでいる。
「青少年、飲むときは思いっきりです!」
「絡み酒かよ」
「幽々子さまがすぐハメを外すので、私は仕切り屋になるんですよー」
「だから誰だよ。きみはすぐ知らない人の名を言うね」
私は気分が高揚してきて、なんかバカみたいなノリになってきた。
今日あった戦いや、モンスターのクリーチャー造形について、いろいろと阿呆なことを適当に述べる。キリトは完全に聞く側に回ってしまった。
メインディッシュはブルバス・バウの照り焼きだ。芳香な匂いが店内に充満している。カラっと仕上がっていて、噛むと肉汁が口内に広がって美味しい。さすがA級食材のフィールドボス。私はすっかり上機嫌になっていた。
一五分ほど経ったときだった。
なんとなく話が途切れた隙間を突いて、向かい席のキリトが前触れもなく言った。
「なあみょん」
「なあに?」
「きみって、俺のこと、その――」
目を合わせず、明後日の方向を見ながら。
「――好きなのか?」
とんでもないことを聞いてきた。
「うぷっ」
むせた。
私はそのとき、口にジョッキをくわえてなかったことを、これほど感謝したことはなかった。きっとキリトの顔にむけて、中身を思いっきり噴いてしまっただろう。
体温が一気に上昇する。心臓がヒートアップだ。
「ななななな、なにを言ってるのですか~?」
「……クラインが」
あのメッセージか。ブルバス・バウ戦前にキリトが受けたものだ。
「ク~ラ~の~す~け~~!」
にわかにクラインへの怒りが込み上げてくる。刻んでやろうか。
「キリト、クラ之介は、なんて書いていたんですか?」
「最初のメールが」
「待って!」
「え?」
「メッセージ、複数?」
「ああ。二通ほど」
私が知らない間に、二通目があっただと。そうか、この村に入って、アイテムを整理していたときか。
「一通目で、みょんが俺を好きだって。だから受け入れてやれよと」
「相棒として! 友達としてですよ!」
「二通目で、みょんが本当に惚れた宣言をしたと」
「まりさー……」
私の怒りゲージは急速にしぼんだ。だって、自業自得すぎる。魔理沙はいつもクラインと一緒に行動している。クラインはキリトのフレンドだ。私は魔理沙にキリト好き宣言をした。その話がクライン以下略。
「みょん?」
ここは正念場だぞ魂魄妖夢。心臓がデッドヒートマックスハート。なににデッドしてんの?
「ねえキリト――もし私の気持ちがクラ之介の書いた通りだったら、どう思いますか?」
キリトは細くしなやかな眉を揺らせて、答えた。
「ふつうに嬉しい」
「どうして? キリトにも好きな子や、仲の良い女の子くらい、いるんじゃないんですか。だってキリト、とても格好いいですし。素敵ですし……」
「俺のことそんなに言ってくれるの、みょんくらいだぞ。幸か不幸か、俺は対人スキルが低いから、仲の良い異性なんか出来た試しがないよ。女友達といえる子は、みょんが最初だ」
やばい。嬉しい。本能がチャンスだと言っている。ダメなのに、いけないのに。でも……
「……キリトは、私が、えーと、す、好きですか?」
「それは正直、わからない。でも可愛いな、愛しいなとは、思ってる。できれば守ってあげられるよう、きみに一刻でも早く、追いつきたいとも」
クラインに背中を押されたからか、真顔で言ってくれたよこの男の子。しかも妹とやり直すためだったはずなのに、ただ強くありたいはずなのに、私のためって……ああっ。
胸を突きあげてくる、この感動はなんだろう。
「もし私が、キリトの彼女になりたいとか、大それたことを考えていたら?」
我ながらダイレクトすぎる質問を連続でぶつけている。あまりにも諸刃だが、口が止まってくれない。私がこの少年へ寄せている恋慕の情を、当のキリトも予感しているだろう。酒の勢いは、なんて恐ろしい。
キリトは何秒か考え、慎重な口ぶりで答えてくれる。
「たぶん俺はまだみょんを好きかどうかとか、よく理解していない。でもみょ……ヨウムは、俺のためにいろいろと骨を折ってくれた。命を失いかけるような目にも遭った。俺はだから、精一杯その誠意に感謝で応えたい。つまり……ヨウムが望むなら、俺の返答は、ひとつだけ。OKだ」
OKと来たよ!
キリトの顔が見たこともないくらい真っ赤だ。だからその言葉は、いい加減なものじゃなくて、真摯だ。あとは私がどう答えるか。
感極まった。言葉が出ない。
キリトがぼやけてくる。焦点が合わない。そうか――涙だ。私はいま、泣いている。嬉しすぎて、止まらない。
「あ、ありがとう……」
涙を拭おうとして、ハンカチがないのに気付いた。メニューを操作して、いくら拭いても汚れない謎のハンカチを出そうとするが、うまく手が動かない。
そこに差し出された、一枚の白い布。なんだ、おなじのキリトも持ってたんだ。ペアじゃないか。
「キリト」
「これを使って」
「う、うん……」
私は涙を拭う。でもどんどん出てくる。感涙の洪水だ。
「あうあうう、止まらないよ。みっともないです」
キリトはなにも言わず、私が泣きやむまで待ってくれた。
何分経過したのだろう。
私はキリトに、ちゃんと言うべきことがある。付き合いたいけど、付き合えない。私はたぶん、キリトよりも先にいなくなる。だから、これ以上は――
「キリト、取り乱してごめんなさい。でも酒の席ですよね。酔ってしまった余興ですよ、これは」
「すまないがヨウム。じつはソードアート・オンラインの酒には、酔う効果まではないんだ。俺たちのような未成年も遊ぶゲームだし、あくまでも食事シミュレーションだから。アルコールの摂取もないよな。前もって言ってなくて、悪い」
「……なんですと~~?」
じゃあ私は、雰囲気に酔ってたのか! バカすぎて、消えたいくらい恥ずかしい。
「ででで、でも、私がキリトに懸想してるって証拠なんか」
ああっ、間抜けすぎる。もう認めたも同然じゃない。懸想などというキリトにとって難しい単語に置き換えたところで、あんな嬉し泣きまでしたし、通用するはずがない。
「SAOの過剰気味な感情表現システムについては知ってるよね。簡単には誤魔化せない。とくにきみは、その性格が、ポーカーフェイスにはまったく向いていないじゃないか」
ほらやはり。この突っ込みは、もうかわせない。的確すぎる。
「いじわるですね……言わせたいんですか?」
「クラインの件がなくても、そうじゃないかなあと、ずっと感じていた。何日か前トールバーナで、どうして俺に良くしてくれるんだって聞いただろ? あのときすでに、俺のこと好きなのかなって、もしそうだったらいいなって、漠然と思っていたんだ」
「……迷惑じゃないの?」
「どうして? とても励みになるし、迷惑どころかありがたい。嬉しいよ。きみほど強くて綺麗な子がなぜ、俺みたいなコミュ障のゲーマーなんかに好意を寄せてくれるのかと思うと、はっきり言って、誇りに感じるし、自信もつく」
嬉しくて死にそう。体温も危ない。私はいま、熱病にかかっている。追い詰められたところに、いい意味の褒め殺しを受けてしまった。
トドメだった。
「やはり言わせたいんですね」
「ヨウム?」
「ええい、もうどうとでもなれ!」
席を立って、向かい席のキリトをまじっと見つめ、たぎる勢いだけで――
「好きよ!」
告白してやった。
「おっ……」
首まで赤く染めたキリトがにわかに身震いする。
口上は止まらない。
「私は、魂魄妖夢は、あなたのことが好きです! いつのまにか好感度マックスで、気がついたら惚れておりました。おまけに初恋よ! どうだキリト!」
なにが「どうだ」なのか、私もサッパリわからんぞ~~。好きって自覚して一時間足らずで告白とか、なんだよこのハイスピードゴールイン。
思いの丈をぶつけられたキリトは、どうも感動してるっぽい。女の子から告白なんて、はじめてだろう。私も愛の告白なんて大舞台は初体験だ。
私は立ったまま、動きを停めてしまった。考えなしだったので、あとが続かない。どうしよう。頭が真っ白だ。
それはキリトもおなじようで、私がつぎになにをするのか待っているようだ。でも困った。わかんない。
「…………」
「…………」
互いに顔を真っ赤に染めて見つめ合うという、ひたすら恥ずかしい時間がそのまま経過してゆく。
「…………」
「…………」
心臓どくどく。ビートがロックで弾んでいる。
「あ、あの……キリト」
このまま沈黙していても始まらないので、私からリードしてみた。
「お、おう」
キリトの反応は鈍くて堅い。きっと私とおなじように、興奮と感動と緊張が混じった複雑な心境なのだろうか。キリトのほうから話を振ってきたのに、いざ私の告白を受けたら深く動揺している。それだけの影響を与えたのは、私の「好き」という想いを込めた、本気の言葉の羅列。どう見ても彼の表情に嫌そうな気配はひとかけらもなく、私を強く意識してくれている。しかもかなりプラスの方向に。その事実が、とてつもなく嬉しい。
もしかして、想像以上に脈がある? 本当に期待してもいい? 彼女になってもいい?
そう考えただけで、胸の鼓動がまた凄いことになってきた。彼は座ったままだから、まるで私が自分をディスプレーにでも晒してるようで妙な気分だ。このままでは事態も進展のしようがないので、自分を落ち着かせるため椅子へ座った。
「……ど、どうしましょうか。このまま夕食を再開します?」
「えーと、そうだな。とりあえずお礼だ。ありがとう。俺みたいなのを好きになってくれて、告白までしてくれて、ありがとう」
キリトがなぜか頭を軽く下げてくる。いまいち自信に欠けるのはお互い様か。私も気が晴れたので、なんとなくおじぎを返す。
「はい。私もその、心のなにかが片付いたといいましょうか、やりましたって感じです。恥ずかしかったですけど」
「こ、これからもコンビだよな。付き合いはどうする?」
「え? それって……」
キリトのほうから、ついいま妄想していた提案が来るとは。
「このままコンビとしてフランクな関係を維持するのか、それとも彼氏彼女として交際し、距離を縮めるのか」
「あ……」
たしかにキリトは私が望めば男女交際OKと言ってくれた。つまり選択権は私にある。これはもう、ハッピーエンドへの道しるべが整ってしまっているよ。
「そこまであまり深くは考えてませんでした。どうなのって聞いたくせに私って抜けてますねえ」
おそらく無意識のうちに返答を求める言い方になったのだろう。その「どうだ」へ、キリトはさっそく返事をくれた。
「俺はみょんの彼氏になってもいいと考えてる」
どうも流れからとても「好きですけど付き合えません」とは言えそうにない。それに私の本音はもちろん付き合いたい。お年頃だし、デートとかハグとかいろいろしてみたいに決まってる。派手に告白してしまった以上、建前を今後も守り通すのはとても難しそうだ。
自分の性格を考え、私はさっさと結論を出した。
「……こんなデスゲームで異常な毎日ですけど、あなたが隣にいればどんなモンスターであろうとも勇気を持って切り抜けて行けると思います」
「任された」
「では形も大事なので、ここは改めて――」
未熟な私は、ときによって周囲に流されやすい。いまがまさにそれだが、結構なことだよ。雰囲気の助けでも借りないと、自分の背を押す勇気なんて出てこないだろう。この機会を逃せば、陰に籠もるような暗い明日が待っていそうで怖い。
だから私は掴むのだ。明るい未来へと向かう最後のセリフをゆっくりと、黒髪の思い人へ伝える。
「キリトさん、好きです。私をあなたの彼女にしてください」
今度は、いくぶんか落ち着いてスマートに言えた。
予定調和に乗ってやった私。だからキリトも、このドタバタ寸劇にふさわしい、望まれうる結果をちょうだい。
私にできるのは、ただ見つめることだけ。
唇を半分噛むような感じで待っていると、キリトの目が細められた。優しい感情が私に伝わってくる。彼の前髪が軽く揺れ、サイドで一房が跳ねた。
「ただのゲーマーで甲斐性なしだけど、こんな俺で良ければ。はい、彼氏になるよ」
――予告通り、無事に受諾された。でもそれなりに不安だったので、一気に安堵した。
「……うれしい……ありがとう」
心が喜び一色に満たされる。安心によってまた視界がブレてきた。
「キリト、うん。やっぱり素敵ですあなたは」
私はキリトのハンカチで涙を拭き取る。涙腺がとても緩くなっている。これが私なりの告白か。確認を取りつつ何段階も踏んでから、最後に仕切り直しまで行った。真面目っぽい割に不器用でまぬけだけど、青春しているよ。胸がすこし痛い。痛いけど、熱くて、悪くない緊張だ。
「なんの奇跡か冗談か。きれいな彼女ができて、俺のほうこそ光栄だよ。よろしくな、ヨウム」
「あの、ふつつかものですが、よろしくお願いします。それでは彼氏彼女となった記念として、改めて乾杯しましょう!」
「やはり元気だなあ君は。乾杯」
こつんと、泡の抜けたジョッキが音を立てた。
私はまずくなった炭酸抜きエールを、みんな喉へ流し込んだ。味なんかどうでもいい。
「あ~~、嬉しい楽しい幸せです! もうなんという日なのかしら!」
声に出すと、すこし落ち着いた。
ま、いいかあ。
相思相愛かどうかは微妙なおつきあいだけど、男女交際ごっこはできる関係になったわけだから、初恋としては上々じゃない? ただの切ない片想いよりはずっとマシってものだ。いや、切ないとか体験してないし。する前になんか、魔理沙やクラインの工作モドキで上手くいってしまって。
――ただ、どうしても先を考えてしまう。別れるときが辛いだろう。私はキリトとは、寿命がまったく違う。種族が違う。住む世界も法理も違う。私はすでに働いているし、義務教育期間内のキリトは現実に戻ればブランクを取り戻さなければいけない。この恋は、おつきあいは、どのように転んでも、きっと、かならず、涙の離別で終わるだろう。茨の道を進んでるなあ私。キリトもできるだけ傷つけたくない。どうしよう。こうしよう。わけがわからないよ。
私は愚直にも、悪手を選択してしまった。これもディアベルの余計な一言からはじまって、魔理沙とクラインが妙なことを……ありがとう。恩に着る。彼らがいなければ、私の性格では告白なんてありえなかった。やがて襲って来たであろう、忍耐の恋心に身を焦がしていたかもしれない。
開放してしまった私の心。それにキリトの寛容があって、交際を実現させた。
なるように任せるしかない。
私の恋は、へんてこりんに旅立つのだ。私といえば、私らしい。こうなればもう、いまを楽しむしかない。どのような恋路を歩んでいこうかな。
「告白して良かったぁ♪」
「どういたしまして」
新米彼氏が、浮かれはしゃぐ私を、優しい瞳で見てくれている。でもその細目って、なにかモコモコした愛玩動物でも見るような感じがするんだけど~~?
* *
それから私とキリトの、初々しくも猛烈過激な攻略デート路がはじまった。
第二層フロアボスは念のため一日のレベリングを置いて、初挑戦で無事に撃破した。キリトと言い合いになって、LAを取ったらキスをご褒美なんて、つまりディアベル発案の女神のキスを賭けちゃったものだから、さあ大変。私はどうしてもキリトにキスさせたくて、魂魄流剣術をさらにふたつ、強引ながら再現した。疾走スキルは便利で、突撃技の敷居を下げてくれる。ただ突進する現世斬と、リーバーを利用した桜花閃々だ。
でも結局、キリトがかっ攫っていきやがんの。第二層フロアボスは牛頭人体タウロス族のバラン将軍&ナト大佐とアステリオス王、二段構えだった。取り巻きのナト大佐は私が倒したけど、これはキスの対象外。本命ターゲットの将軍と王様はキリトがぶっ殺した。バトルヒーリングがようやく使い物になる熟練度に到達して、回復POT不要で少々大胆に戦えるようになったのが大きかった。吉祥降魔剣もあるしね。これがまた格好いいんだ。バラン将軍相手に、最高で一度に七回X字を刻んで、つまり一四連撃いったのよコレ。私は良くて一二連だよ。抜かれたけど、残念でもなんでもないのが、惚れた側の弱み。
だって勝っても負けてもキスだもんね。
女神のキスは、キリトが冗談で「二回ぶんだし、ここは口にするか?」とか聞いてきたので、第三層の圏内まで保留してから、背後よりぷすってオシリを刺してあげた。キリトはズムフトの街開き目前ですっかり油断していた。
「うおっ、ごめんみょん。言い過ぎたよ」
「けっけっ。辻斬りナメんな」
町や村の中はSAOでは別名で圏内といい、システムのHP保護が働いている。攻撃してもキリトの生命力は減らないし、私も犯罪者プレイヤー扱いにならない。オイタをしたキリト、斬り放題!
「みょんを怒らせたら怖いって、肝に銘じておくよ」
「接吻なんてまだ早いです」
「え~~、したいんじゃないの?」
「もちろん欲求はあるわよ。でもキリトは、私にまだ惚れていません! そんなのでやっても、キスごっこ。ただのご褒美にすぎませんよ。私のファーストキッスはですね、愛がないとダメなんです」
「アイシテイマス。キスヲクダサイ」
「天界法輪斬!」
「マジで勘弁~~!」
二回転斬りでキリトを宙に放り投げてやった。
いまの私はキリトのステータス的なアクセサリーにすぎない。私はSAOではちょっとした有名人。長野ちゃんを無自覚のうちに落とした優男として、羨望を浴びるキリトはそのうち有名になる。いまはいいけど、なにかの用事で下に降りることもある。そうなれば、どこにいても注目されるカップルだ。だからきちんと好きになってくれないとイヤだ。そのときこそファーストキスは捧げてもいい……たぶん。覚悟なんかないけど。実際に来ないとどうするかなんて、分からないだろうな。
別れるときが辛いから、もう接近したくない、これ以上仲良くならなくていい――と思ってたはずなのに、実際にお付き合いごっこをはじめると、私の欲望がどんどん大きくなってきていて、抑制するのが大変だ。キリトにもっと振り向いてほしいと思っている。エゴイズム。冥界の浄土に暮らす私が、ますます煩悩に穢れていく。
あ、女神のキスは普通に頬にしてあげたよ。左右に二回ね。
でも幸せに思うと、なんとも想い想われる正しい関係にあこがれるわけで。
ささやかな不安が、第三層の森林フィールドを走っていてつい出てしまった。
「キリトをもうすこし攻略したいですねー」
「なにか言ったか?」
「いえいえ、なーんでも、なーいですよ~?」
「俺の心を攻略したいなら、高く付くぜ。ふっ」
「……キリトの、ばか」
「みょんは俺が好きぃ~~」
「みょ~~ん! 悪い? キリトがそんなに可愛いからいけないのよ」
「可愛いのはみょんだぞ。俺の一〇〇〇倍は可憐だな」
「……あ、ありがとう。嬉しいです――って、安いな私! 我ながらチョロいわ!」
「そうだね。出会って一週間で勝手に惚れてくれたし」
「違うわ、キリトだからですよ。もしキリトがキバオウさんみたいなら、いまごろ一〇回は刻んでいましたね」
「俺ってそんなに、みょんを怒らせてたのか?」
「キリトは顔がいいから許すのです!」
「……俺は、まさか顔で好きになられたのか? ショックだおよよよん」
「ち、違いますよ! もし私がただの面食いなら、ディアベルさんとかのほうになびきますよ。キリトはその……」
「その?」
「格好いいですし、強いし優しいし、律儀な紳士だし、正義漢だし……でも私みたいに不器用で、人と距離を取りがちとか、欠点もいろいろありますけど、そういうのも込みで、みんな合わせて……」
「合わせて?」
「キリトとして、す、す、好き……きゃーっ! 恥ずかしいです!」
黄色い声出しちゃった。私って、こんなキャラだったっけ? 自分で貴重なデレデレを体験してるけど、考えるより先に動いちゃうんだ。機会あらば本能が媚びを売ってるんだよね。びっくり。
「まだまだ修行が足りないな。でも愛いやつめ」
わあい。頭を撫でられた。時速二〇キロ近くで走りながらだゾ? 器用だな。
「褒めてキリト。もっと撫でてください」
「それほど甘くないぜ」
「私、彼女性能をあげてもっと可愛くなります。あなたを虜にしちゃう」
「いまので十分に萌えるぜ。それでこそ俺の女だ。GJみょん」
「俺の女って……キリト、私をからかうの、好きでしょう」
「好きだ」
主語がなかったので一瞬、どちらの好きか迷った。
「…………」
「もちろん、みょんを弄くるほうがな」
「みょーん」
なにも考えないバカトークがときどき交わされるけど、私とキリトの関係はさほど変わっていない。カップルとしてまともに付き合ってるっていえるのかなこれ? まあずっとデートしてるようなものだし、楽しければ別にいいかな。
必要なものとレアアイテムだけ残して手に入れたものはみんな売り払っていたけど、森がテーマの第三層攻略中、最初のフィールドボスを倒した際、ついにストレージが満杯になってしまった。するとキリトは主街区ズムフトまで戻って、宿屋の一部屋を長期契約で借り、そこをアイテム保管庫にしちゃった。
以後アイテムストレージの限界が近づくたび、私たちはレアアイテムを置きに行った。時間帯は人がほとんどいなくなる深夜で、こげ茶色のみすぼらしいローブで全身を隠して。
フロアボス戦のたび、女神のキスを賭けた。おかげでとてつもない速度で私とキリトは層を重ねていく。私は最初からそうだったけど、キリトも固定ボス以外にはほとんど興味をなくしたようで、フィールドはまさに散歩道となった。じつは第三層にあがった直後、第九層までつづくキャンペーン型クエストへの分岐路があったんだけど、ボス退治がそのぶん遅くなるって聞いた私が、つい「キスしないわよ」って言っちゃった。
それで吹っ切れたのか、キリトは「ボスポラス海峡!」とやけくそ気味に言いながら主街区へと走って行っちゃったんだよね。でもボスだけ喰らうのも良かったようで。キリトによれば「大ボスをふたりで倒せば、実入りが絶大で、クエストを一度に二〇近くクリアしたのとおなじだ」とのこと。中ボスでも五個ぶんくらいにはなるらしい。うんうん、それならたしかに、キャンペーンクエストとか遠回りしなくてもいいよね別に。そういえば私、自分ではクエストって一度も受けたことないや。
まず第三層フロアボスのネリウス・ジ・イビルトレントはHP総量こそ多かったけど、金属の武器を持っていなかった。範囲攻撃もただ毒の地形を広げるだけ。第一層&第二層ボス戦と比べて難易度は落ちている。そんなふざけた奴が敵であるわけがなく、最後は私の纏縛剣二〇連撃で沈んだ。以降、第七層まで先達の面目躍如で、すべて私がラストアタックを奪い、キス権をゲットした。ふっふっふ、キリトめ。私のおでこや頬へキスするたびに、妙な葛藤と戦っていたなエロ坊主。
意識しろ妄想しろ。そして私に惚れなさい。
連敗で悔しいのか、キリトが私の技を次々と覚えて使うようになった。多用するのは円心流転斬と生死流転斬で、地に足を付けた重い攻撃で押しながら叩き斬る技が好きなようだ。キリトらしいや。
あとキリトが、私のことをいつも妖夢と呼ぶようになった!
「――というわけなんだが、ヨウムはどう思う?」
「わあい! やった、やっぱり昇進してます!」
「はい? またどうでも良いことで騒いでるのかい」
「なにかが昇進したんですよ」
「その昇進とやらは、エアなんとかだったり、気のせいじゃないのか」
「ねえキリト。私の名前を呼んでみてください」
「ヨウム。これがなにか?」
「うふふふふ、知らないのはキリトばかりなりです」
「なんだよまったく。ヨウムって、相変わらず変な子だな」
また言ってくれてるよ。私は歌い始める。
「昇進、昇進♪ 私がキリトの中で昇進~~」
「……え?」
ぴしっと彼を指さして、宣言だぞ。
「攻め落としちゃいますよ」
「まるで、みょんな小動物みたいだぞ」
「斬ります」
「なんでー!」
第七層攻略中だった。第三層ズムフトへ三回目のアイテム収納に降りてきた私は、ふと深夜営業の道具屋に、すこしだけ懐かしいものを見つけた。
「文々。新聞じゃない。本当に発行しちゃってましたか」
アインクラッド版のすでに第三号だった。私はバックナンバーを求めたがとっくに売り切れで、仕方ないのでその最新号だけ回収した。幻想郷とおなじく無料だったのですこしお得感がある。キリトと回し読みした。
「……フロントランナーに、解放の英雄ですって。こそばゆくて気恥ずかしいですね」
「実態は俺とヨウムでキス権賭けてLA勝負してるだけだなんて、とても言えないな。英雄かどうかはともかく、ランナーって呼び名は俺たちに合ってる。実際、移動の八割は走ってるだろ」
SAOのアバターはいくら走っても体はまったく疲れないので、四六時中走っていたほうが、効率面では便利かもしれない。隠しステータスも含め、疲労に類するパラメーターが存在しない。ただ脳みそ君のほうはそれなりに疲れるので、フロアボス攻略戦後はさすがに歩く。
第八層で三体目のフィールドボスを捻り潰した直後、魔理沙よりフレンドメッセージが届いた。
『好きな奴と仲良くしてるところすまんが、そろそろ一度降りてこい。幻想郷史上、最強最高のド間抜けを捕まえたぜ。今後のため善後策を立てておきたい』
添付ファイルがあった。
「……なにかしら」
クリックして拡大すると、それは写真だった。第四~五層くらいから手に入りはじめる、記録結晶によるものだ。携帯カメラていどの性能しかないので、ファインダー付きレンズ交換式カメラでないと満足できない射命丸文は不満たらたらだろう。ファンタジー世界のくせになぜかクーラーがあるので、機械式カメラもありそうだった。
――あ~~。なるほど。
「たしかに、最強最高です」
そこには幽々子さまのご友人、凄絶な金髪美女が写っている。ただし圏内のど真ん中で感情的に激高して両手斧を振り回し、無断撮影に涙目で無駄な抵抗を試みているという、喜劇かなにかと見紛うような、普段からは想像もつかない冴えないカリスマ崩壊。
幻想郷の賢者、八雲紫さまの、一〇〇年後まで語り草にされるであろう、お間抜けな姿があった。
すでに第八層の迷宮区が目の前だったので、戻る手間を考えて、魔理沙と紫さまの件はとりあえず後回しとした。キリトにも言ってない。
なんかややこしそうだし。
知らないうちにSAOに囚われてしまった紫さまよりも、キリトとの剣舞デートが優先だ。好きな人とふたりきりのフロントラインで、いまの甘い空気を一秒でも長く吸っていたい。でも第九層にあがったら真剣に考えないとね。
第八層フロアボスは第三層以来となる金属武器なしだったのでわずか四分で片が付き、久方ぶりにキリトがLAを取った。でもぜんぜん悔しくないんだよね。好きになってこれほど変わるなんて、怖いなあ。私の弱さに繋がらなければいいけど。そういえば剣を振る喜びよりも、キリトといられる幸せのほうが上位に来てるや。ありゃりゃ。
「ヨウム、おでこに。まだ頬だけだから」
「うん……いきますよ」
私のキスは、キリトの額に。身長差があるから、すこし屈んだキリトへ、私が精一杯に背伸びする形で。
うわあ、すこし乱れた鼻息が胸に当たってるよ。キリトってば若いなあ。あ、本当に若いか。
キスが終わると、キリトの顔が珍しくとても赤くなっていた。私が告白したとき以来だ。私はなんでもないことで毎日のように簡単に赤く染まっているけど、キリトはけっこう落ち着いてるんだよね。たまにはこうして慌てさせたいな。
「胸が……近かった」
「およよ、女神のキスの感想は?」
「……彼氏が揉むと成長するって言うよな」
「あ゙っ?」
「うわ待ってくれ。頼むから曲刀抜かないで。冗談に決まってるだろ」
「キリト、エッチなネタはほどほどにしましょうね」
いまの私はソフトレザーの胸当てで、体のラインがはっきり出ている。キスのとき、キリトの目前にその胸が来てたんだ。
「俺は健康優良な男子中学生だぞ。反応しないとむしろ男が廃る」
「わ、私も健全な女子辻斬りですよ……」
「俺たちはもう付き合ってるんだから、無理にやめといたほうがいいよ」
「スルーされた。辻斬りスルーされた」
「色仕掛けは嬉しいけど、その胸で迫られてもな」
「はい? 迫ってませんよ! なんですかそれ。私が発情してたとでも言いたいんですか? マウストゥマウスも許してないのに」
「ヨウムは情緒不安定なところがいいんだから、策士キャラなんて似合わないよ。なにか変なものでも食ったみたいに見える」
「……みょ、みょーん! わけわかんない。策士ってなんですかそれー! 未熟肯定って新感覚の羞恥プレイかなにか?」
「未完成の美ってやつかな。剣豪的な強さに精神面が伴っていないアンバランスが、ほら、なんていうのかな、萌えるというか和むんだよ」
「褒められてなーい! キリトの変態! わかりました、勘違い演じて、私をからかってたんですね」
「やっと正解だ。そうやってムキになるところもグッド」
キリトこそ慣れない人の前だと挙動不審になるくせに~~。
「こ、こうなったら本当に誘惑しちゃいますよ? 色気がなくても手なんていくらでもあるんですから。ケモノミミでもいこうかしら」
「本人の前で堂々とそんなこと呟くなよ。作戦の意味ないって」
やけくそだい。すでにメニューを開いていて、アバターフィギュアに特定アイテムを設定。
「レアアイテム奥義、黒猫さんネコミミ装着です! オプションでキャットテイルもありますよ。ほかにもワンちゃんとキツネさんになれます」
私の黒リボンがネコミミバンドに変わった。おしりにも軽い違和感があって、黒ネコのしっぽがぶら下がっている。仮装アイテムだけど、ブラックカラーは非売品のレア物だ。アイテムのプロパティに書いてるから、調べなくてもわかる。
「本当に実行するか? でもこれは……イケる。なんという妄想賢者タイム。よし、両手を結んで、招きネコみたいに曲げてみて」
「こ、こう?」
「首を傾げて、猫背で上目遣い。両足は内股」
「は、恥ずかしいです」
「最後に、ネコみたいに啼いてみてくれ」
「……にゃーん」
キリト相手だと、恥ずかしくても期待に応えようとしちゃう。もちろん限度はあるよ。
にやけている彼氏。鼻の下を伸ばしているさまは、なんか気持ち悪い。
「リ、リクエストしていいか。できれば、もっと媚びるように」
「にゃぁ~~ん♪」
キリトが満足そうな表情で、親指を立ててきた。
「GJ。さすが俺の彼女。あとは語尾を『にゃ』にすれば、晴れて免許皆伝だ」
「やったにゃ! ……なんの免許にゃ?」
「萌えるヨウム検定一級。あざとい手管に、ロリコンどもはイチコロだな」
「愛想ふりまきたいの、キリトだけなんですけどぉ」
私なりにキリトを振り回していたけど、彼にも振り回されっぱなしで、なんとも喜怒哀楽の波が激しい。
ずっと楽しんでいる。私はキリトに魂魄流を教えながら、同時に自分の思い出も作っている。私たちは強すぎて、とてもデスゲームとは信じられない気楽な道程だ。第一層にはいまでも、恐怖に震えて閉じ籠もっている人がたくさんいるというのに。フィールドやダンジョンで戦っている人も、きっと大勢がいつ襲いくるかわからない死に怯えている。突端にいて道を拓きながらも、うつつを抜かしているような私たちに、なにか出来ないだろうか。
二回目のふたり旅、この宴は、そろそろお開きだ。
いいかげん霧雨魔理沙や紫さまと会うべきだろう。キリトの持っている情報は第一〇層までだ。魔理沙たちの目的はメッセージに書いてないけど、私にもわかる。まともな攻略集団を結成しようという腹づもりだ。意志の統一を図りやすい幻想郷メンバーを地歩として、烏合の衆にすぎない高レベルプレイヤー群をひとつにまとめる。私たちがいなくなったあとでも、残された人たちがきちんと攻略を続けていけるよう、人材と組織を育てる。こんなところだろう。それが魔理沙や紫さまの考えそうなことだ。あのふたりには積極的に秩序や調和を志向するところがある。魔理沙は弱きがゆえ、紫さまは強きがゆえに。義務から妖怪退治をしていた霊夢とは違う。
私たちが一向に救出されない理由も、幻想郷の賢者なら知っていると思う。内容によっては、私はキリトとの付き合い方や、身の振り方を真剣に考えなければいけない。私はそのために、どうしても小休止を取る必要があった。
私とキリトとの交際は、あくまでも恋愛ごっこだ。
スペルカードルール対戦、いわゆる弾幕ごっことおなじで、真の意味でのめり込んではいない。私はキリトをかなり本気で好きだけど、愛してまではいない。まだ一四歳相当の心が、私に好き以上の感情を、全人生を賭けるまでの強靱な意志や決意を、容易には抱かせない。おなじくキリトは、私をいじらしいとか好ましくは思っても、マジで好きになんて、そう簡単にはなってくれないだろう。一二歳から一四歳かそこらの精神は、男子よりも女子のほうが早く発達するのだ。キリトはやんちゃな男の子。それでいい。私もしょせん、そういう幼い部分を持ったわんぱくな子を好きになってしまうていどの精神年齢でしかないのだから。
人間よりも長く生きる人妖であることが、こういうときはすこし恨めしい。
すでにいろんな見聞を得ているがため、なにも考えず素直に若い恋を、自分にいざ到来した人生初となる大切な本番を、無邪気に謳歌するということが私はなかなか出来ないのだ……もっとバカップルになって、人が眉をひそめるほど遊び倒したいのに。それに何年か経てば、キリトの心はぐんと成長してしまう。私はキリトのタイムスケールでは不変とおなじだから、確実について行けなくなる。キリトがロリコンさんになるか、雲のように高い包容力を持っていない限り、この付き合いは継続しえない。正体も明かす必要が出てくる。人から見れば、私はバケモノだ。将来を見通すほどに高いハードルばかりで、みんな歯がゆい。
それでもいまは十分に幸せだ。なんという楽しい日々だったのだろう。
ほんの一〇日ほどだったけど、じつに充実していた。
第九層への階段をのぼりながら、私は隣の愛おしい彼氏に感謝する。
「ありがとう、キリト」
「なんだい急にあらたまって」
「好きよ」
奇襲成功。息を詰まらせたキリトが、目を反らす。
「……どうも。俺もその、好きだよ」
「あはははは、照れてる照れてる」
知らないでしょキリト。あなたいま、私のことをはじめて、きちんと「好き」と言ってくれたんだよ。たとえ反射的な返礼だとしても、私には決定的瞬間だったんだよ。でも教えないんだ。私だけが覚えていればいい、記念なんだから。
できれば魔理沙たちと会ったあとも、この楽しいお遊戯がつづくことを祈りたい。
第九層に入って、主街区カレスの転移門でいつもの街開き。時刻はほぼお昼。でも空は見えない。カレスは聖大樹と呼ばれる超巨木のふもとにあるんだ。おっきな日影に隠れてる。
転移門にはシャボン玉の表面みたいな透明な壁がゆらゆらしていて、キリトが触ると光の波紋が起きた。輝くリングが門全体に広がっていく。広がりきったときがアクティベート、転移門の有効化が終了したときだ。街開きの終了ともなる。
これまでは完全に開通する前にさっさと逃げだしていたんだけど、私はキリトの手を取って、近くの建物の影に隠れた。
「どうしたんだ。逃げ切れなくなるぞ」
「キリト。そろそろレアアイテム、放出しません? フィールドボスは一日くらい放置していても平気でしょう。突出したレベルを持ってる私たちにしか初見では倒せません」
私とキリトはとっくにレベル二〇を超えている。つねに誰よりも経験値の多い敵と戦いしかも快刀乱麻に秒殺。そのうえ数十人で倒すべきフィールドボスやフロアボスをふたりで食べ尽くしているのだから、当然の結果だった。
「そうだな、あまり後回しにすると、低層のレアアイテムはありがたみがなくなる。常設のオークションハウスがはじまりの街に出来てるって、新聞に紹介記事があったな。そこにまとめて引き取って貰おうか」
「オークションじゃなくて、一計があります」
私は腹案をキリトに伝えた。彼は数秒だけ悩んだけど、私の迷いない顔を見ると、首を縦に振った。
NPC楽団によるファンファーレが鳴った。街開きが終わったようだった。ガヤガヤと人の声。転移してきた一番乗りさんたちが、フロントランナーの背中を探しているのだろう。だけど今回ばかりは、見つからないよ。
「ヨウム、剣を一本に減らして、ローブを着て。手頃な食堂で二〇分くらい時間を潰してから、どさくさに紛れるぞ。待つ間にクラインやウィッチ・マリサと連絡を取る」
「うん」
パーティーのリーダーはいまだに私の扱いなんだけど、やはりこういうときの指示やタイミングは彼氏に任せることが多い。華奢だからそれほど広くはないけど、頼もしい背中だった。
こうして私とキリトの、呑気なふたり旅は閉幕した。
※スロットより外したスキルは熟練度が消える鬼仕様
原作の様々な描写から補完設定。確信したのはプログレッシブ1巻、強化詐欺エピソード。追記:2014年9月プログレッシブ3巻相当で公式描写を確認。
※恋をする妖夢
SAO原作のヒロインは例外なくキリトに恋をする。恋愛展開は抗議もあったが、メインステージがSAO側である以上、避けて通れないテーマである。恋を回避するほうがむしろ原作に失礼ではなかろうか。恋愛の根拠は東方側の解釈を借り本編終盤で明かされる。なお本妻アスナは排斥されない。