あかんー。焼き肉でお父ちゃんやお母ちゃんにみんな食べられたー。春日家って、みんな揃ってふつうの人より遅いはずやねんよ。それでも私、のろまの亀やった。いややー。肉を食べたかったー。あのカルビのコテコテなところとか、レバーの焼けるいい音とか、私みんな唾液だけ飲んで終わったんよ。
びんしょおや! 3年生の目標はすばやくなるんやー!
まずはな、ロデオで特訓や。椅子に逆向きで正座に座って、カッポカッポするんや。ほな行くでー。ガコガコ、ガコガコ。なんや音が変やなあ。これロデオちゃうで。ガコガコガコガコ。おおお、すこしええ感じや、ちよちゃん見といてや、これが新生春日歩やでー。あははは――あー――痛っ!
これはな、ちゃうねん。
やっぱ音が悪かった。無効や、なかったんや。後頭部のコブは本当はないねんよ。邪道でなく、やはりちゃんとした運動や。筋力あーっぷ。うでたて20回! おりゃー!! うでたてーーー! ぺちゃ。うう……暦ちゃん、コツ教えて? え、わからへんの?
これはな、ちゃうねん。
筋力アップしても体重が重くなって素速くならんねん。これもなかったことにしよ。腕がすこし引きつってるんはな、本当はないねんよ。よし、柔軟をアップや! いくで柔軟体操~~。座って両足を伸ばし、背骨をまっすぐにして両手を手先まで足先に向かってぴんと張り、そのまま前屈に――んーっ、んーっ……あかん、90度から動かへん。え、暦ちゃん手本見せてくれるて?
……たこちゅー!
たこさんや、暦ちゃん紙のようにぴったりや。すごいでー。ええなー。私も希望がわいた。暦ちゃんにできるなら、私にもきっとできるねん。
んーっ、んーっ、んーっ、んーっ、んーっ、んーっ――……うー、できへん。
びんしょおや、3年生の目標はびんしょおや、よし、椅子よ動け。
がこがこ、がこがこ。
私はこの暴れ馬を乗りこなすでー。
がこがこ、がこがこ。
そういや馬ていうたら、ローマ字で書いたUMAてなにかの略やったなー。ネス湖のネッシーとか、屈斜路湖のクッシーとか、シーばっかやな。シーシー。
がこがこ、がこがこ。
あ、光や! これはUFO? ちゃう、伸びて動いとるで、生きとる、UMAや! シーや!
ばこ。
「あう」
……うしろに転んで天井の照明勘違いしただけやった。
57 普通の生徒に戻りたい (アニメ版13話5【原作4巻4~6P相当】)
ともちゃんがちよちゃんの天才能力と榊ちゃんの運動能力を手に入れてボンクラーズを抜け出るつもりやねん。あかん、あかんでー。そないなことさせへんねん。ともちゃんが普通の生徒に戻ったら、のこされた私と神楽ちゃんはどーしたらええのん? そうや、戻るんやったら、3人同時やでー! 断固阻止するねん。忘れ物能力と遅刻能力をあげたる。どうや、失敗したやろー。な、ともちゃん。戻るときは3人一緒やで?
来月は修学旅行やー。にこにこて、ちよちゃん楽しみにしとるんやなあ。ああ、ゆかり先生じつは中止になりましたて言うたー。ちよちゃん見る見るしぼんどる。かわいそうに、でもかわいいなー。先生あわててフォローや、なーんてのはうそうそやって。ニコニコしてるとついて、先生も人の子なんやなあ。ついいじめとうなるん、私もわかるよ。あ、智ちゃん手を挙げた。
「わかります」
ああん、それ私もいいたかったのにー。こうなったら後で職員室に言いにいこっ。
なあなあお母ちゃん、今日な、学校ですごいことあってん。修学旅行の話でちよちゃんがあまりに嬉しそーにしとってな、ゆかり先生が冗談で中止になったて言うたときや、えらいものを見た!
ちよちゃんが、ちよちゃんが人間の限界を突破したんや!
いきなり体の輪郭がおかしくなってな、2頭身くらいにしぼんで、しだいに色も抜けて白くなっていったんよ。すごかったわー。さすがは天才やなー。
「……なにいまさらなこと言っとるん歩」
へ? いまさらて……
「そないなていどのことやったら、あんたいつもやってるやん」
修学旅行で沖縄ですー。しーさーがいっぱいやー。しーさーやいびーん。しーさーやいびーん。神楽ちゃんやー。しーさーやいびーみ? あはは、ばれてへんねん。沖縄弁て便利やなー。
ゆかり先生やー。しーさーやいびーみ?
「しーさーあいびらん!」
へ?
「いい性格してるなあ? 大阪」
な、なんでゆかり先生わかったのん?
秘かにちよちゃんが手を挙げとった……
しもたー、ちよちゃん優等生やもん、先生に私のいたずら言っとるよなー。
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72 ちゃんぷるぷるー (原作4巻27~28・30・35・38P)
「父ちゃーん、修学旅行おもろかったでー」
「そか、それはよかったなー」
「それでな、おせんみこちゃーでしーさーやいびーみでさーたーあんだぎーやねん」
「そかそか」
「ちゃんぷるーでぴかにゃーやねん」
「そかそか、おもろかったんやなー」
「ちゃんぷるー食べよ。材料沖縄で買うてきた。父ちゃん作ってー」
「そかそか、美味しかったんやなー」
「ちゃんぷるー」
「そかそか、じゃ俺、風呂入ってくるわ」
「ちゃんぷるー」
「そかそか、ちょっと背中洗ってくれや」
「ちゃんぷるー」
「そかそか、ほらっ、おまえも入れや」
「ちゃんぷるー」
「そかそか、おまえ胸ちーっとも大きくならへんな。お父ちゃんがぷるぷる揉んだる」
「父ちゃ……ん……ぷる……あん、ハアハア。ええねん」
「そかそか」
海のな……3文字が好きです。いくらー、なまこー。あははははは! あははははは!
修学旅行で沖縄の海に行きました。
いくら、おらへんねー。しもうた! いくらは魚やないねん。なんかこう、奇妙な物体や。でも海で取れるんは知ってる。たぶんなんやろ、なまこの仲間やろか。
なまこ探そ、なまこ……おった! なまこやー! なまこーなまこー。なまこー!!
あー、なんかもう我慢できへん、なんとなく暦ちゃんにぶつけたる!
73 徳島の人になった (アニメ版22話2【原作4巻47P時系列】)
夏やー、3回目の合宿やー。泳ぐでー。浮き輪も完備やねん。わーい、サンダルを脱いで……あわわ。熱い……今度こそ……あわわ。が、我慢できへんねん。どしてみんな平気なんー。私、暑いのも寒いのもふつうより耐性ないねんやろか。そういえばずいぶんなネコ舌やもんなあ。
あー、サンダル流されてもうたー!
……ごめんなー、サンダル1号。そのまんまで海に入ったのあかんかったんやなー。しもた! 私はどうやって灼熱の砂浜を越えたらええねんやろう。砂漠や! この大砂漠を――みんな平気なんやなー。よし、私も行くねん! サンダルなんかに頼らずに。行くでー。とりゃあ。
あわわわわわわわ阿波踊り――!!
74 モーモー泳ぎ (アニメ版22話2【原作4巻47P時系列】)
神楽ちゃん水着の線がくっきり出とるんやねー。
「そのままはだかで泳いでも大丈夫ちゃうー?」
「え?」
「神楽ー、相手にするなー」
「よみちゃんああ言うてきたけど私は構わへんでー。なあなあ、確かめよー?」
「いや、ちょっとそれは……」
「たしかめよーやー」
「恥ずかしいし」
「えー。神楽ちゃんやったら大丈夫やでー。みんな気付いても誇れるもん」
「なにをだ?」
「ぼいんぼいん」
31 いばらゆかり (いばら姫+原作4巻53~54P)
ある国で待望のお姫さまが生まれ、お祝いのパーティーがありました。しかしその場に怪しげな格好をした女が乱入してきました。彼女は殿上を許された身分の高い魔女ですが、意地悪だったので今回は誰も呼ばなかったのです。
「もー怒った! 呪いかける! そいつは15歳の誕生日までに、糸紡ぎの錘の針で指刺して死んじゃうんだー!」
悪い魔女は笑いながら去っていきました。王様とお后様は弱りました。
「これはとても困ったです」
「わんっ」
そこにメガネをかけた魔女が進み出てきました。
「大丈夫です。あいつは幼馴染みなので対抗魔法をかけることができました。呪いを解くのは無理ですので、姫さまは眠ることになるでしょう。同時に薄まった死の呪いが皆に伝わり、周囲の者ごと永遠に眠ることになるでしょう。永遠といっても文字通りではなく、姫さまはいつしか選ばれた者、たとえば王子様のキスで蘇ります。このとき皆も眠りから醒め、姫さまは浦島太郎のような思いをしなくて済みます。さらに深いいばらに城ごと私たちを守らせましょう。姫さまは博物館の展示室や金持ちのコレクション室、見せ物小屋などで眠りから醒めずに済みます。城の外はとっくに他国の領土になっているでしょうが、そこまでは面倒見切れません」
「……なんだかおとぎ話らしくない妙にリアルな匂いがしますけど、よろしく頼みますです」
「は。それでは私はあのバカ智を追いかけてぶん殴ってきます」
「お手柔らかにね~、よみさん」
「わんっ」
「なんです忠吉さん――でなくて、おまえ」
「わんっ」
「なるほど、国中すべての糸紡ぎ器を破壊しろと……そうすれば呪いは発動しないかも知れない、と。なるほどです。合理的ですね、わかりました。おふれを出しましょう」
こうしてちよちゃん――もとい王様は国中の糸紡ぎを破壊させました。王様は有能だったので、原作のように杜撰な放任は行いませんでした。糸紡ぎ器の密輸や持ち込みも厳しく監視禁止し、糸紡ぎで副収入を得ていた農民たちに社会的補償を行いました。1つの家庭内手工業が滅んだわけですから、それに代わるものを興さなければなりません。いろいろと試行錯誤を繰り返し、羊皮紙製造で穴埋めの目処がついた頃には、15年という歳月が経過していました。
お姫さまはそれはそれは美しく成長していました。目つきが妙に悪いのが難点でしたが。
「うっさいわねー」
お姫さまの名前はゆかりといいました。
「なんで呼び捨てなのよ!」
だっていつもゆかり先生ですから。
「って、作者が前面に出てきていいのか? 19世紀以前の小説じゃあるまいし」
これはむかしむかしのおとぎ話です。
「まあそれはいいわ。で、私は楽しくパーティーの席にいるわけね」
今日は彼女の15歳の誕生日ですが、城内はいつもの年より豪勢に祝っています。ゆかりはその理由を呪いが解ける日だからとは知りません。呪いの存在も知りませんでした。誰もお姫さまを心配させまいと教えていなかったのです。
「父ちゃん母ちゃん、疲れたんでちょっと散歩してくるよー」
「わんっ」
「いいですよー」
「どうでもいいけど、なんでいつまで経っても子供と犬なんだろ」
それは言わないお約束。ちなみに王様は口元におひげを生やしていますがまるで付け髭のようで絶妙にかわいいです。
散歩に出たゆかりは、いつのまにか物見の塔に入っていました。いつも塔を守っている神楽という衛兵が、無礼講ということでパーティーに参加していたからです。生まれてはじめての場所に好奇心をかきたてられ、最上階まで上がってしまいました。
「なにこれ?」
ゆかりが見つけたそれは、生まれてはじめて見るものでした。それはなんと、この国から消えたはずの糸紡ぎ器でした。母の形見を燃やすのを惜しんだにゃもという兵士が、布を被せて秘かに隠していたのです。この15年間魔法がかけられたかのように不自然に誰もが気に留めなかったその覆いが、なにかの運命か、これまた魔法の仕業のように自然と落ち、ゆかりの前に内の正体をあらわしていたのです。なにもかもが、おそろしくご都合主義ですねえ。
「なにこの車輪。変なのー」
ゆかりは面白くなってその糸紡ぎ器をてきとうに触っていました。
そして、お約束です。
「痛いわーん」
糸紡ぎの針に指を刺したとたん、ゆかりの意識が薄まりだします。そのままたまたま近くにあった豪奢できれいな天蓋つき貴婦人用ベッドに倒れ込み、たまたま上を向いてたまたま両手を胸元に組んで眠り込んでしまいました。すると城中にいた人もたちまち永遠の眠りに陥ってしまい、大量のいばらがにょきにょきと生えてきて城を覆いました。
それから1世紀が経過しました。いきなり王を失った版図は戦乱の世に突入し、さらには周辺諸国の侵入を受けて国土は荒廃しました。いまでは全領土が完全に周辺諸国に分割編入されています。原作が触れないところで大いなる悲劇が起きていたのです。魔女は2人とも恨まれた人々に追われ、命からがら国外へ亡命しています。その逃避行で幼馴染みの間に禁断の愛が芽生えたというのはまた別のお話。
いばらの城は姫にキスをすれば時の封土から解放されるだろうという噂が立っています。姫を助けたら、同時に城が手にはいると。でも領土がないので、たちまち周囲国に攻められて滅ぼされるのはわかりきっています。王子様は誰1人として挑戦しませんでした。かわりに盗賊やエリート指向の若者がどんどん挑戦しては、生き物のように絡みつくいばらの前に屈していきました。
ある日、いばらの城の前にすらりと背が高く、長髪が凛々しい剣士があらわれました。
「ここに、伝説のネココネコが……」
彼は見目こその宝塚のように良いのですが、そのじつ山奥の田舎者で、誤った噂に踊らされてここに来ました。
「ネココネコは私が頂いた!」
若者はドラとバチを持ってがんがん鳴らしました。でも音はゆかり姫まで届きません。
「やはりもっと近くで鳴らすしかないか……」
ゆかりをどうかするというところは正しく伝わっているようですが、根本的なところで間違っています。騒音で起きるのなら、100年の間に雷やら嵐やら地震やらで起きる機会はいくらでもあったでしょうに。
彼は腰の鞘からすらりと剣を抜きました。その得物は剣というには短すぎ、どちらかというとナイフといいようとしかないものです。貧乏で金がないのでしょう、格好つけのため長い鞘に入れていたようです。とにかくその心許ないナイフ1本でいばらに挑んでいきました。
またもや愚か者が1人、いばらの前に倒れるのでしょうか? ところがです。どういうわけか、ナイフで切ったところからいばらがつぎつぎにしおれてゆくではありませんか。いばらはまるでこの若者の到来を喜んでいるかのように、軽く斬りつけるだけで大きく退き、つぎつぎに若者の前に道を譲っていきます。
城はもはや廃墟同然で、いばらによって戦争の砲火に晒されたように破壊されています。そここに転がっている人間は着ている服ごと時の流れから隔離されています。1人として立っている者はいません。この100年に幾度かあった洪水で流され、あちこちで流木のように土砂とともに溜まっています。
若者はあちらこちらを散策して高価な宝を物色して回りました。しかし目的のネココネコはなかなか見つからないようです。5日目にしてようやくいばらを掻き分け、真の正解である塔の最上階に到達しました。やはり原作のようにいきなり行き着けるわけではないようです。
そこには朽ちかけのベッドに眠る人らしきものがありました。なぜらしきかというと、蜘蛛の巣が貼って見るも無惨だったからです。それをどけるとこんどは乾いたフンの山です。若者が見上げると新しいのや古いのを含め、かなりの数の鳥の巣があります。天蓋がちょうど営巣に適していて、繁殖の時期になると毎年のように小鳥たちが集まっているようです。若者はシーズンオフ(?)であるのをほっとすると同時に、惜しいな、という顔をしていました。
彼はかわいいものであればなんでもかんでも好きだったのです。
さて彼はいよいよ現れたゆかり(顔以外まだフンまみれ)を見てため息をつきました。
「あまり好みじゃないが――起こすしかないか」
若者は道を引き返し、野営していた王宮の広間まで戻ると、ドラとバチを持ってふたたび塔の上に行こうとしました。と、若者の前に狩人が1人、立っていました。
「かおりん」
「さ……榊さん。見つけたんですね。あの女を起こして、結婚するんですね!」
狩人は怖い顔をして弓に矢をつがえ、その切先を向けてきます。
「誤解するな。私はただネココネコのありかを」
「いやー! フケツー! せっかく今年は一緒に来れたのに!」
意味不明なことを叫んで矢を放ちました。
「すまん」
若者は矢を避けると、狩人を抑え付けようとします。体格差は歴然なのに、しかし狩人は火事場の馬鹿力で互角に抵抗しています。
「もうー! なんでここでも同性なの? 私だけでも女の子にしてー!」
「わ、私はただネココネコを……」
「榊さんと結婚したいー!」
2人の力比べは延々とつづいています。
しばらく待っていましたが、飽きてきました。そろそろ物語を終わらせたいので、不詳ながら司会進行――もとい神の視点である私が、ゆかりを起こしに行きましょう。
えーと、塔は……あ、いばらが邪魔をしています。これでは起こしにいけません。若者は物語を終わらせる使者だったのでいばらも道を譲りましたが、私ではだめのようです。狩人はどうやって侵入したか不明ですが、おそらく邪悪な愛の力でしょう。仕方がありません。なにか、道を拓くものがいりますね。
戻って、えーと。なんでしたっけ? ああ、ドラとバチでしたっけ? どういうわけか突然頭の中がくらくらしてきました。私は――私って、なにものやったやろ?
なんでちよちゃんがここにいるのん? 王様まだ寝とるんちゃうかー。よみちゃんも国外追放ちゃうの? 智ちゃんとの愛の巣はどうなったん、そもそも1世紀経ってもう死んでるやろ。あああ、思いだしたでー。今いるんはフライパンでガンガン起こすんやった。榊ちゃんの格好よかったもん、フライパンで起こすのやってみたい。
あー、ちゃうねん。道がいばらだらけやねん。せやからいるんはあのナイフや。榊ちゃんのナイフ借りよっと。ナイフナイフ~。あった、ナイフや。微妙に重いけどナイフやー。これでいばらなんかさくさくやでー。あれ? いばらがないねん。まあええわ。先生起こすのは私の役目やねん。じつは私が王子や。キスするでー。愛の口づけ。
……暗い部屋やなあ。ここどこ? 塔の上とちゃうねん。ゆかり先生おったおった。あ、起きてもたー。キスしたかったのに、榊ちゃん秘かにキスしとったんかー。しっぱいやー。
100年満期やでー。みんな起きなさい~~。あー、古い時代に銀行なんかあるわけないやん。
あれ? なんで私、包丁持っとるん?
今年もゆかり先生の誕生日忘れとったー。夏休み中やもん、しょーがないやん。でもこのままやとゆかり先生壊れたままで怖くてあかんねん。みんなでお金集めてなにかゆかりちゃんに贈らへんー?
て私とちよちゃんで提案したらな、いつのまにか私、みんなから預かったお金持ってちよちゃんと一緒にデパート来てました。なんでやねん。
「ゆかり先生が気に入らなかったときは、私たちの責任ということですね」
「叱られとうないー。ええもん選ばないとあかんねん」
「心理学的に見て、一番安全なのはにゃも先生とおなじバッグですね」
「でもそれて意地とか体面やん? ゆかり先生が本当に欲しがるの、なんなんやろ」
「ゆかり先生は大人ですから――私なんかより歳の近い大阪さんのほうが分かると思いますよー」
「そうなん?」
「大阪さんは、どういうのが心の底から欲しいと思いますか?」
「たこやき1年分!」
はあ――台風ってええなー。
今年も台風が来たでー。よっしゃ! 傘さして挑むでー。この傘な、超強力なんよ。外国製の特注でな、風速35mにまで耐えるんやで。うわー! 大変やー! あはははは! あはははは! 風が強いでー! 雨よもっと降れ~。
あめあめふれふれ~。
そういえばあの歌、母さんがジャノメてなんやろ。ヘビの目やろか。ヘビの目て小さいんよな。あんな小さい目ん玉で、なにするんやろ。ピンポン? 卓球? 温泉卓球なら得意やでー。胸元をはだけたら、相手が男の人やと赤うなって負けてくれるねん。それで蛇の目のなんやったっけ? まあええわ。
それより雨や。この台風やー。おお! ぴかーってしたでー。雷もや! もう最強やなあ。うれしいでー。なんてええ風や! もう最高や。うれしいー。うひゃー! あははははははー!
「台風が楽しいか?」
……智ちゃん暦ちゃん、濡れとる。あー、弱い傘やったんか? だめやなー。台風には特注やでー。
「台風がそんなに楽しいか?」
……ここは、本当のこと言ったらあかん。ごめんなさいていうた。でもな、ほんまは楽しいねん♪ 帰りも叫びながら帰ったでー。
あははははー!
8 あにめ演出 (アニメ版23話1【原作4巻71P相当】)
競争の一覧が公開やて? ホンマ? パン食い競争あるやろか! 激しくキボンヌ! ちよちゃーん、ぱ……ぱんきゅいっちょーー!
ぱんきゅいっちょぱんきゅいっちょぱんきゅいっちょ――
なんでエコーしとるん?
パン食い競争をまちがえてパンキュイッチョて呼んだ瞬間や、デジャブ(既視感)があった。なんや、これ私、むかし体験したことがあるねんで。
――パンツ1丁。そうや、私は体育祭でブルマやのうて、パンツ1丁になるのが夢にちがいなかったんやー! ……んなわけないて。
75 貰われて大阪 (アニメ版23話1【原作4巻72P時系列】)
ゆかり先生が体育祭でまたにゃも先生と賭けしとるみたいや。その説明で私が1万円札の諭吉さんになってもうた。私は賞金なんでゆかり先生が勝ったらゆかりちゃんに貰われるんやけど、借金しとったみたいで私はにゃも先生に払われてしまうんや。にゃも先生が勝ったら勝ったらで私はやはりにゃも先生のもので、どちらにしてもにゃも先生に引き取られる運命なんや。
「あら大阪さん、なぜあんたが私のクラスにいるのよ」
「えー? 私ー、にゃも先生に貰われたんちゃうのー? 諭吉さんやねん」
パン食い競争の練習しよ思たんやけど、パン吊る方法がわからへんねん。
神楽ちゃんが釣り針で吊るて教えてくれた。怖い競技や。ぶるぶるや。ガクガクブルブルや。でもな、私はこないなことでめげへんねん。2年間待って待って待ち遠して、やっと採用されたパン食い競争や。私の学校生活はもうパン食い競争のためにあった思うほどやねん。私の人生や、すべてや。それがパン食い競争や。私はパン食い競争に選ばれたパン食いの勇者や。
屋上や。
「ほ、本当にやるんですか大阪さん?」
「ちよちゃーん、用意できたー?」
「どんなことになっても知りませんよー?」
「ええねん。これもすべては私のパンキュイチョに対する愛が成せる技やねん。ここまでできるつーんが、私の証明になるねん。パン食いの神様も見てるはずや。だからうまくいくねん!」
目の前に、あんパンが吊られてる。いくでー!
ぱく。
――――――痛い! 痛い! 痛い! 痛いねん! なんもしゃべられへん。いや、そーやのーて、とにかく痛いねん! うわー! もうだめや、死ぬ、死ぬで。私しにますで。おかーさんおとーさんごめんなさい、先立つ不幸をおゆるしくださいって、そんなんやのーて、あかん! だめや! USOや! いや未確認生物やのーてな、嘘なんや。わかった! パン食い競争の神様なんておらへんねん。いくら八百万(やおろず)も神様がおるてゆーてもな、神様がたんじょーしたとき、どこにもパン食い競争なんてなかったねん。だってパンって外国から来たもんやもん。せやから、パン食い競争には神も仏もないねん。だから痛いんや!
ああああああ!
ちよちゃんが泣きながら私の周りをおたおた走ってるねん。私も手足をふらふらさせて、助けを呼ぼうとしてるねんけど、なんにもできへんねん。あー、あー、って、口から妙な声が出るだけや。宙づりで、釣り竿がしなってて、全体重を頬が支えてて、私は魚の気持ちがやっとわかったんや……
パン食い競争には、神も仏もおらへんねん。なんて危険な競技や。
19 あんぱん娘 (原作4巻72・79~80P+アンパンマン)
パン食い競争や!
ふふふ、1年越しに渡ったあんぱんによる特訓の成果を披露するときが、いま来たんや。
アンパンマンも見てイメージトレーニングは万全や。あんぱん娘やで。パン食い競争は私が主役や。あはははは!
「なお今回のパン食い競争では、1コースから順にあんぱん、クリームパン、ジャムパン、カレーパン、メロンパンが吊されています。どれでも御自由にどうぞ!」
な……
「なんやってぇーーー!?」
ガビーン。
ど、どないしよっ。どれでもええねんか? 私は2コースであんぱんは1コースや。1コースの狙うべきやろか。でもあんぱん以外も捨てがたいねん。あんぱん以外が出てくるなんて聞いてなかったで。漫画のパン食い競争みんなあんぱんやんなんで今回だけいろいろあって自由やねん。責任者出てこい! いやちがうねんよ、あんぱんでなくてもむしろそっちのほうがええねん。カレーもメロンも好きやし――あー! はじまってもうた。待ってやー!
ああん、どうしてみんな悩まへんの? まっすぐ目指してるやん。私このままやとクリームなんやろか。クリームてほおばったら中のクリームでてきいへんやろか。それで鼻が詰まってな、大変やで。でもクリーム美味しいねん。あのまったりとしたんがな、ああん、考えがまとまらへんねん。
えええ! なんで3コースの子がこちらに来るのん? あ、4コースが3コースに! まっすぐのクリームなくなるやん! こちらは1コースを……1コースの子速いねん。なんでやねん。私が、あんぱん娘があんぱんコースの子に負けるて、ジャムおじさん責任とってやー! バイキンマンに言いつけてやる。あああ……みんなもってかれてまう。
私の……5コースのが。これしかないねん! いくで最後のフルパワーや。どりゃ、どりゃ! なんで取れへんねん。智ちゃんとの連中ではすぐ取れたのに。降りてきてやー。ああん、歓声や、誰かゴールしたんか。私はあんぱん娘やのに負けるなんて、実はドキンちゃんやったんか。
はあはあ――なんとかゴールできたんよ。最下位やった……
これはメロンパンや。メロンパンナておったなあ。ロールパンナになるんよな。正義と悪で、変身するねん。そうや、私はドキンちゃんやなく、メロンパンナやったんよ。
あー、おいしいわ。帰りにロールパン買わな。
割れろ割れろ……あー、今日も失敗やー。わりばしうまく割れへんなー。みんなどーしてきれいに割れるん? みんな4巻75ページ左上の1コマ目見てやー。
「そいつは幸せだなー!」
「なに怒ってんのー?」
リレーや! 私の秘策を披露するでー! おりゃあ! 両手を広げて――! ああ、左が抜かれとる、うわー、右も抜かれた。なんでやー、なんでやねん。
しもたー、きっと事前に披露しとったんが悪かったんや。私のミスやな、みんな私に勝つために私を研究しとったにちがいない。
16 どこかの声 (アニメ版24話1【原作4巻91P相当】)
図書室で榊ちゃんがパソコンつついとった。なにしてんのー? てのぞき込んだんよ。
そのときや。
『天使の微笑み萌え~!』
なんや数万人ぶんの男の人の声がしたような気がしたんよ。なんやったんやろう?
あー、ピカニャー死んどるー。
ピカチューかわいいなー。私な、ポケットモンスターの隠れファンやねん。女の子で高校生で受験生やのにポケモン見とるのばれたら恥ずかしーから、誰にも言ってへんのや。
それにしても、修学旅行で見たイリオモテヤマネコかわいかったなー。えーと、えーと、沖縄弁でなんていったやろ、忘れてもうた。
え? あのヤマネコが榊ちゃんの前に来たて、ほんま、すごいやん! 島から東京まで来たんか、これは感動や。ピカチュー並に健気でえらいポケモンやなあ。ピカニャー。あれ? ピカニャーちゃうん? ピカ……ピカ……にゃ? ピッカー、ピカッ? ピー? ピカチュー! なるほど、やっぱピカニャーやん。
「警察と仲の悪い鳥なーんだ」
「サギ?」
「水をあっという間に氷にするには?」
「点付けたらえーんちゃう?」
「日本語は日本の言葉、英語はどこの国の言葉?」
「日本やろ?」
「トラックにかぼちゃ、なす、トマトが乗ってます! 急カーブで落ちたのは?」
「スピードかなぁ」
なんや驚いとるよーやけど、それて昨夜のテレビでやっとったやん。智ちゃんアホちゃうのん?
「この問題は私がずっと暖めてきたものなんだ。それを即答した大阪、あんたはえらい!」
いやだからそれて昨日……
「ところで受験といえば私が考えた記憶術なんだけど、お魚を食べて――」
それも昨日みのもんたがやっとったでー。
20 2年半越し (原作1巻46・4巻127~128P)
私なあ、割り箸割るのが下手なんよ。2回に1回くらいしか成功せえへんねん。それでな、あまりにきれいに割れたときはいつも嬉しくて、まわりに見せとったんよ。いまの学校では、1年の6月が最初やったやろか。それまで1月以上、クリティカルが出なかったんよ。たまにしか成功せえへんて、まるで陶芸家やなー。陶芸家て気に入らへんの割るんよね。私は失敗しても使うから自然に優しいねん。
受験を間近に控えた3年の12月な、ちよちゃんがいきなりきれいに割れる割り方教えてくれたんよ――下持てばよかったんやねえ。そういえばちよちゃんいっつも下から割ってたんやけど、どうしてそないな変わった持ち方するんか不思議に思てたんよ。水くさいなあ、もっと早く教えてくれたら、陶芸家の気分味わんで済んだやん。2年半やで2年半。いじわるやねえ、黒ちよやで。
まあええわ。ふっふっふ、私はこれで大学行くねんよ。陶芸家は卒業や。
パキン――パキン――パキン
あはははは! ええなー。きれいに割れるなー。
パキン――パキン――パキン
ええわ! これはええわ! おもろいー!
パキン――パキン――パキ?
あ、誰かのごつい手が。誰やろう?
学食のおばちゃん? あん、痛い頭はたかんといて。
あん、ごめんなさいごめんなさい私が悪かったですもうしません。
68 あくび体操 (アニメ版19話1【原作4巻127~128P時系列】)
えらい陽気やったんで屋上であくびしたら、みんなに見事なあくびて言われました。トレビアーンなん? 絵に描いたようなて恥ずかしいな、光栄や。私はあくびの免許皆伝やねん。大阪流あくび術やねんでー。さあちよちゃん智ちゃん、2人であくびの練習やでー。
はあああぁぁぁ。眠くなってきました。
――はああああ……Zzzzzzz。
69 区別 (アニメ版19話2【原作4巻127~128P時系列】)
私なー、カレーとハヤシライスの区別がつかへんねん。スプーンの扱いが下手ですぐ服につくからあまり食べないせいやも知れへんけど……
「よみちゃーん。カレーとハヤシてどうちがうのー?」
「……それで?」
「なんやのんその冷たい反応はー。聞くは一時の恥やていうやん」
「いやおまえはその一時が毎日だからなあ」
「そうなんか――すこしは自分でなんとかせなあかんちうわけやな」
「それでどうやって区別するんだ?」
「うーん、よっしゃ、ホームランや。服についた色で見分けるんや」
「はあ?」
「私は必ず服を汚すねん。せやから染みの色を覚えたらええねん。色の表を作ってな――」
「待てよおい!」
正月や! 初詣や! 合格祈願や!
選ばれし者の10円を使うで!
どの自販機に入れても戻ってきた特別な10円やねん。
おりゃっ、特別よ頼んだでー。
おお、ここの神社の鐘ってええ音がするやん。
がらがらがらがら――がらがらがらがら
あはははは! ええなー。きれいな音や。
がらがらがらがら――がらがらがらがら
ええわ! これはええわ! おもろいー!
がらがらがらがら――がらが
あ、誰かのごつい手が。誰やろう?
宮司のおんちゃん? あん、痛いて、手ぇひっぱらんといて。
あん、ごめんなさいごめんなさい私が悪かったですもうしません。
……なんや最近似たような経験をした気がする。
受験が近いのでちよちゃんちで勉強会することになったんよ。ほんでな、こたつがあってん。こたつ。私の居場所、こたつ。私の家では電気代がもったないて、ようけ寒うなってからてまだ出してへのに、さすがはちよちゃんや。金持ちはええなー。もうある。ほんまにええな! ちよちゃんになりたい。寝るしかないて、寝た! もう激しく寝た。気持ちよかった~~。これからは毎日ちよちゃんちに行こ。
……なにか忘れとる。
79 元凶 (アニメ版25話4【原作4巻149P時系列】)
ちよちゃん家でみんな集まって勉強会や。
「3年てあっというまやなー。ちよちゃんはずいぶん大きなった。榊ちゃんの胸も大きなったし、私はだいぶしっかりしてきた。それで智――」
「おい! それって聞き捨てならねーぞ!」
よみちゃんがすごい剣幕で言うてきた。
「智ちゃんはバカのまんまやし、神楽ちゃん――」
「待てー、大阪!」
「神楽ちゃんは榊さんに勝てんかった」
「うわー、それ言うなー! しくしく」
神楽ちゃんが泣きだして、よみちゃんと智ちゃんががおーって恐竜みたいな顔しとる。
「それでよみちゃんはグラマーになった」
「え……そ、そうか? あはは――そうかそうか」
「こらよみー。なに懐柔されてんだよー!」
「おまえがバカのままなのはあたりまえだろ? な?」
「キー! グラマーってことは、尻と胸に血がもってかれてるってことじゃないか。それって頭はパーってことだろ」
「なんだとこのバカ! 私よりバストでもヒップでも劣るおまえが、成績でも負けてるのはどう説明するんだ!」
「なんだとー。テストなんかでは私の知性は量れないんだぜ」
「ちよちゃんの言葉を持ち出すな! だいたいあれはセンター試験にしか適用できないだろう」
「ちがうもん、私は本当はもっと賢いんだい!」
「あー、喧嘩がはじまってもうたなー。誰のせいやー?」
みんなが一斉に私を指さした。
「えー?」
今日は受験の面接日や。すべり止めやけど、本気で受けるねん。いやみんな本気で頑張ってますよ? 昨夜寝てもうたんは、あれは余裕があったわけではのうて、こたつが悪いねん。気持ちよすぎてな?
私の番や。面接の特訓はしとるから大丈夫や。なにが来てもちゃんと答えられるねん。ここ大阪ちゃうからボケたらあかんねんよ。私天然ボケやて言われるけど、たまに大阪人らしくわざとやるねん。でもそれここでやったらあかん。大事な面接や。まじめに行こ。
「あなたの名前は春日歩さんですね」
「はい」
あー、なんで5人もおるのん? 緊張するねん。あかん、まじめに、まじめや、まじめで、まじろう。すいいてきとうか。いいくにつくろうかまくらばくふ。
「履歴書では部活なしとありますが、あなたが高校で打ち込んだものはなにかありますか?」
来た! 来たで、まじめに答えよ。
「はい。打ち込みました」
「なにに打ち込みましたか?」
「なにに、ではありません。なにを、です」
「……? よくわかりませんが、なにを打ち込みましたか?」
「くさびです」
「……はい?」
「ちなみにそれは――」
なんやペラペラな薄い手紙が来てね、落ちてもうた。「くさび!」やのうて「くさびです」て、ちゃんとまじめ丁寧に答えたのになんでやろ。あのときの私は大阪人やのうて、まじめな春日歩やったのに……
80 にゅうんこ (アニメ版25話5【原作4巻157P相当】)
いよいよ合格発表や。ちよちゃんが智ちゃんのお守りにパワーを再充填してるでー。あー! いまなにか青い光が出たでー! ちよちゃーんすごーい! わーい、私も智ちゃんも受かった、受かったで。ちよちゃんのパワーすごいねん。
今度はよみちゃんの番や。実は私も修行して光るパワーを手に入れたんで。見てやー。
みゅーんみゅーん。
どや? 茶色く光っとるやろ? 入魂のうんこパワーやねん。これでよみちゃんの合格は決まったも同然やで。
81 注目 (アニメ版26話2【原作4巻170P相当】)
卒業式やねん。でもかふんしょおであまり本調子やないねん。
「へーちょ」
うわみんな一斉に振り向いた! やばいねん。校長先生のほう見てやー。
「へーちょ」
またやねん。あかん、これはあかんねん。あかんねんでー。
「わりばしぱきーん」
よし、今度のくしゃみは誰も振り向かへんかったな。やはりへーちょがあかんのや。
「くすくす……くすくす」
あれ、なんでみんな笑っとるん? もしかして注目浴びとるの私?