時系列順
79
先輩(アニメ版10話4【原作2巻62P相当】)
40
手相(原作2巻64P)
27
脳天に(原作2巻66P)
120
逆転(原作2巻66P+創作)
71
ともたこ(原作2巻72~73P)
96
やっちゃった(アニメ版18話4【原作2巻80P時系列】)
49
電話(原作2巻80~82P)
97
むぎゅう(アニメ版18話4【原作2巻82P相当】)
32
清く正しく(原作2巻86P)
84
待てないよ(アニメ版12話4【原作2巻129~130P相当】)
89
くるくるホラー(原作2巻131~132P)
25
早く大人になりたいのう(アニメ版12話5【原作2巻133P相当】)
82
禁じられた遊び(原作2巻142P)
24
お魚さん(原作2巻158~160P)
46
当然だろ!(原作3巻5P)
48
ベルリンの赤い雨(創作+原作3巻13P)
20
マゾちよ(創作+原作3巻13~14P)
85
不慮の(アニメ版15話1【原作3巻25P時系列】)
86
ごめんあずま先生
(あずまんがリサイクル154~156P+アニメ版15話1【【原作1巻133P相当+原作3巻25P時系列】】)
37
バカには勝てん(原作3巻26~27P)
45
認めてちょんまげ(原作3巻30~31P)
87
犯人は木村です(アニメ版15話3【原作3巻30~31P時系列】)
90
萌える(アニメ版16話1【原作3巻44P相当】)
52
思惑(原作3巻43・46~48・50~51P)
91
おなじ(アニメ版16話3~5【原作3巻42・50~52P相当】)
9
野蛮人(原作3巻64P)
124
ちがう(原作3巻64P)
121
犯人は私!(原作3巻66P)
118
白の連鎖(原作3巻67~69P)
51
純真(原作3巻71P)
17
おおばかです(原作3巻72P)
38
夢の決死行(原作3巻76~82P+SF)
(
21の前日談・春日歩のボケ日記
14と連動)
44
うそ(原作3巻85~89P)
94
ちがう(アニメ版18話1+原作3巻86P)
108
踏んだり蹴ったり(原作3巻91~92P)
21
発明(原作3巻113~114P+SF)
68
四千年(創作+原作3巻115P)
80
まどろみ(原作3巻116P)
42
呪いのアイテム2(原作3巻126P)
98
体験しました(アニメ版19話3~5【原作3巻127~128P時系列】)
79 先輩 (アニメ版10話4【原作2巻62P相当】)
2年生になって気に入らないことがある。それは1年生の連中だ! 大阪のボケと1階を歩いたら、私を取り囲んで可愛いですねと抜かしやがった! 怖くて震えてしまったぜ。くそう、屈辱だ。お仲間連中はかわいいだけでいいとかほざくし、大阪は下敷きの静電気でおさげを上下させて遊びやがる。
私は2年生だ。たしかにまだ4歳は年下だが、1年坊主め、私を先輩を呼びなさい! 我慢できなくて後輩を1人捕まえ、むりやり先輩と呼ばせた。ふふふ、気持ちいいぜすっきりしたぞ。
つぎの日、登校すると玄関で1年生が待ちかまえていた。
「美浜ちよ先輩ー、おはようございまーす」
「おはようございまーす」
なんか声が黄色いが応えてやる。ふふふ、気持ちいいぜ。
「かわいいー♪」
うっ……なぜだ、なぜ嬉しくない。あ、昨日の後輩が混じってる。そうか、貴様か。貴様が言ったんだな。どういう風に皆に伝えたかだいたい予想はつくぞ。
「美浜せんぱーい♪」
こ、応えないわけにはいかないよな、これ。手を振ってやる。
「あーん、かわいいー」
くそう、私は先輩だ、尊敬すべき先輩なんだぞ……
昨日テレビで見て手相をすこしかじった。プロに比べたら大したことはないが、まあ天才だから多少のことは見えるだろう。さっそくのっぽの手相でも見てやろうか。ほれっ、見せなはれ。
……ぼろぼろやんけ。
うん、見事にぼろぼろですな。雑巾のように。これは――えーと。どうしたんだろう。なんといったらよいか。
「どうかな?」
「ど、どうって……あの……」
言葉に詰まってしまった。なにかに噛まれたのか引っかかれたのかわからないが、傷だらけで手相の線が切れまくっている。
「えーと。これって」
「私、今年は幸運かな?」
「えーと……運命線も生命線も切れてますね」
「それって、お先真っ暗ということ?」
「はっ!」
今日はソフトボール。超飛び級の私が普通の高校生に混じってできるかそんなこと! でもやらなければ「子供だから」とまた言われるだろう。差別だか逆差別だかよくわからないが、平等に参加するしかない。願わくば、飛んでこないでほしい……木偶と体力バカが勝負している。いやだな、球速があると三振を取れやすいかわりに打たれた球は飛びやすいんだよな。しかも打つほうもパワーヒッター……
あ、来た。
……痛い。
目が覚めると、ベッドでした。
「私は、どうしたんだ?」
「ちよちゃん、大丈夫か?」
心配そうな顔をして声をかけてきたのは、たしかこの春からおなじクラスになった神楽さんです。体育着を着ています。そういえば私はソフトボールの授業を受けていたのでした。ボールが飛んできて、受け取ろうとしたのですけど、失敗して頭に受けてしまい、気絶してしまったのですね。つまりここは保健室です。
私は天才なのですぐ自分の状況を理解しました。お利口です、えっへん。
「ちよちゃん……痛くないか? ごめん――私の打った球が」
榊さんが私の頭をさすってきます。すこし大きな手で、不器用になでてきました。大丈夫、痛くなどありません。本当はすこし痛いんですけど、私は大人なので大丈夫なんです。
「大丈夫だぜ、木偶の棒。ふふふ、私は天才さまだもんなあ」
「…………え」
榊さんと神楽さんが、なぜか驚いた顔をして私を見ています。あれ? なにか私、変ですか?
「なにおかしな顔してやがるんだバカ野郎ども。さっさと授業に戻りやがれ。私はなあ、ついでだから残りの授業、みんなさぼってやるぜ。かったるくてやってられっか。ふふふ」
「ちよちゃん、どうしたんだよ」
いったいなにがどうしたというのでしょう。私は正常で、お利口で、いつもの通りです。
「なんだあ、勝負おたくの体力バカ。私はいつもの通りだぜ? ――そうだ。木偶よ、愛しのボケお見舞いに来させてくれよ。キスしてえからな。それくらいわがまま言ってもいいだろう?」
「ちよちゃんが――おかしくなった」
「なんだと木偶野郎。私のどこがおかしいってんだ? あん?」
榊さんが青ざめてぶるぶる震えています。
神楽さんは慌てて保険の先生を呼んで来て――あれ、なんですか? あの……私、普通ですよ? 別になにもないですよ? なんで脳外科に? あのその、私……
暴走バカと一緒に帰っていると、外人に英語で声をかけられた。私がすらすらと応答して道を教えてやると、英語をまともに話せない暴走バカはすっかり私に感心していた。
ふふふ。
寄った本屋で立ち読みをしていると、また外人にフランス語で話しかけられた。私がすらすらと受け応えて日本料理の本を教えてやると、仏語がわからない暴走バカはますます私に感心していた。
ふふふ。
本屋を出てすぐに、またまた外人にアラビア語らしきもので話しかけられた。いくら私が欧米8ヶ国語を操るといっても、この国籍不詳なアラブ圏っぽい人の言葉は理解できない。と、いきなり暴走バカがすらすらと受け答えはじめたではないか! 最後は2人で笑って肩をたたき合う仲になっていた。
がーん。
「ねえ……ともちゃん。あの人、どこの国の人だったの?」
「しらなーい。なに言ってたかもわからなかったし」
「――へ?」
96 やっちゃった (アニメ版18話4【原作2巻80P時系列】)
マジカルランドに行こうとしていたら、メガネが行けなくなった。残念だなあメガネ。寝冷えでもしたんじゃないのか? ――まあいい。それで私がとりあえず優等生よろしくお見舞いに行こうかと提案したら、暴走バカが顔を近づけて諭してきたぜ。ずいぶんと近づけてくるんだな……あ。
ちゅっ。
暦が遊園地に行けなくなった。子供じゃあるまいに、寝冷えの風邪らしい。つまりは冷静なふりをしていながら、彼女が1番楽しみにしていたわけだ。かわいいなあ。そんな彼女に、素敵なプレゼントをしてやろう。遊園地で電話をかけてあげるのだ。と思った矢先、ジェットコースターで智バカが先にかけてやがった。危ない危ない、またもやいつぞとおなじ発想だったか。私の心理があいつとおなじだなんて、ショックだなあ。もっとお利口にならないと。
いいことを思いついた。暦に恨まれずに電話をかける。これでオリジナリティが出るわけで智とは異なるはずだ。
「だめですよー、うかれちゃって裸で寝たりするからー。めっ!」
あははは! やっぱり智って勘違いして激しく怒ってるよ。私が恨まれることはなくなったなあ、かしこいぜ私。電話を他の連中に回す。楽しいぜパワーが電波を介して向こうに流れているのがわかる。暦すっかり黙ってるみたいだなあ。明日が楽しみだなあ。
翌朝、暦ったらまだ完治してないはずなのに無理して学校に来たよ。さっそくそしらぬふりをして出迎えたけど、智と大阪が楽しかったぜーって煽ってキレさせたね。あははは! 壊れて暴れてるぜ。あれ? なんでこっちに来るんだ?
「裸で寝たなんて知らないと智も大阪も言ってるけど、どういうこと?」
あ……。
97 むぎゅう (アニメ版18話4【原作2巻82P相当】)
マジカルランドに行った翌朝、学校に行くとメガネが来てた。ボンクラーズが楽しかったぜとわめいて怒りゲージを溜めさせてるぜ。ふふふ、私がそのリミッターを解除してさしあげよう。ほら、これがお土産ですよー。開けて開けてー。あららー、それは記念写真を焼き付けてくれるマグカップですねー。うらやましいですかー? まちがえてしまいましたー。すいませーん。あははははは。やったー、キレた、暴発したー。
ふふふ、成功だぜ。わざとやったなんで思わないだろうな。わっ、こらボンクラーズなぜ私のほうに逃げてくる! 私を巻き込むなおまえら盾になれ! ――あー!
むぎゅう。
「ちよちゃん結婚して」
「年齢差考えてから言わんかいボケ」
THE END
84 待てないよ (アニメ版12話4【原作2巻129~130P相当】)
今日の水泳の目標は、真ん中まで行くことだぜ。私の順番が来た。飛び込み台に立って――ムリだ、やはり怖いぜ。下に降りて直接泳ぎ始めるぜ。よし、スタート。
懸命に泳ぐぜ。私のフォームはそれはそれはもうプロ並の効率を持っている。だがなぜか息継ぎが出来ない。そろそろマスターしないと恥ずかしいぜ。まだまだがんばる。がんばれ、うう……限界、ここまでだ! はあはあ。新記録か?
距離を確認しようとした瞬間、後頭部に衝撃を感じた。ごいん。うげー!! と、智のバカやろー! ……ぶくぶく。
はあはあ、死ぬかと思った。
「ちよちゃんちっちゃいから見えないんだよ」
それが人を溺れさせた犯罪者のいうことか! ほら神楽、こいつを叱れ!
「足が届かないから死と隣り合わせなんだぜ」
がーん。なぜそこまで言いますかおまえら。
はやく、一刻……いや、一秒でもはやく大きくなりたいです……
89 くるくるホラー (原作2巻131~132P)
ともの暴走バカは掃除中によくホウキを回して遊んでいる。ほこりが舞って大迷惑だぜ。こんな悪い子にはおしおきをしてやる。めっ。
いつもは間接的に仕掛けて失敗ばかりしているので、たまには直接ひざかっくんをお見舞いしてやろう。今日も暴走バカがホウキ回しをはじめた。気付かれないようゆっくりと背後に回って、よし、今だ!
しゃがんで暴走バカの膝を押した。不意をつかれて膝をかくんと曲げた暴走バカは、そのまま姿勢を崩した。ふふふ、ここでいつもの私なら暴走バカの下敷きになるとかいったボケをかますところだが、今日はそれくらい予想していた。とっさに横に抜けて、暴走バカのクッションになる不名誉から逃れることに成功――
――そんなバカなー!
バカが、暴走バカが飛んでいる!
やつはホウキを高速回転させて、宙に浮かんで転倒を回避しやがったのだ!
こいつ……何者だ。私の額に一筋の冷たい汗が流れ下った。やつは私のほうを無造作に見ると、にやりと微笑んだ。
25 早く大人になりたいのう (アニメ版12話5【原作2巻133P相当】)
忠吉さんを散歩に連れてやっていたら、静かなウドの大木とばったり。こいつはどうも忠吉さんに異常な興味があるようだ。おそらく食べたいのだろう。だが私がいるかぎり、この超絶ウルトラミラクルスーパー高級非常食は絶対に渡すものか。いつでも舌がとろけるように美味しい状態に保つため、このように毎日清く正しく運動させているのだ。
愛想よく受け答えしつつ警戒して一緒に歩いていると、公園でかつての同級生どもが遊んでいる。あやつらはまだ子供なのだ。だが、さすがにすこしうらやましい。私の頭は大人だが、本能はやはり子供なのだ。子供である以上、精神安静のためにはたまに子供っぽい遊びも必要だ。あやつらのように四六時中遊ぶ必要はない。たまにでよい。そのたまにが、最近めっきりなくなっている。ストレスが溜まって辛抱たまらん。おかげでときどき百合になったりマゾになったりで大変だ。
それとこれとは関係ないが、私の溢れる欲望をさすがの木偶の棒も察したのか、なわとびを持っていた。うわっ! 辛抱たまらん! 遊ぶぞ、もう激しく遊ぶぞ! ほらっ、跳ぶぞ! あはははははは! 楽しいなー。忠吉さんよ、回すがよい。木偶よ永遠に死ぬまで回せ。跳ぶのはこの私だけだー! べろべろばー!
そのときであった。どこからともなく走ってくる影! 私は突き飛ばされ、痛い目にあった。なにやつ! さては非常食を奪わんとする手の者か? と思えば、なんてことはない。バカだ。ようバカ、縄に包まれてお縄になった下手人のようじゃのう。けけけ。似合っておるわ。あん? 混ぜろ? うーん、どうしようかのう。と迷っていると、天然とメガネがやってきた。おまえら暇だなあ……
そいつらとストレスを発散して遊んだぞ。もうね、たんまりと子供らしくな。あいつらにしてみれば遊んでやってるぜ、というよりは、完全に幼少の頃に戻ってなつかしいな、という感じだろう。その気持ちはわからないでもない。でもな、おまえらいつも遊びまくりだろーが。ガキと同じだな。私はこうしてたまに遊ぶだけでいいのだ。あはははは。それが凡人と天才との差というものさ。どうだあ、すごいだろ。えっへん……
しまった、あまりに子供っぽいぞ。
今年の合宿は神楽の体力バカが参加する。やって来たあやつは水泳をしていたせいかすっかり真っ黒で、いかにも「遊んでいる」風だった。大阪が遊び人やと指摘し、私も小学校のときクラスの男子がそうだったと言った。するとどういうわけか大阪にちょっと違うとか言われた。どういうことだろう。
私の小学校では背丈の高い草むらに隠れたお医者さんごっこが流行っていて、日に焼けた連中はみんないけない遊びに没頭していた。ついには1女子の処女喪失という事態も起きたが、私のすばらしい裏工作で表沙汰にならずに済んだ。同時にその事件を機に悪しき遊びを止めさせたのも私だ。
ここまで尽力したのは、当時私は国が実験的に進めていた超飛び級の最終候補に残っていたからだ。表沙汰になれば、高校に編入できる機会を失うのは確実だった。組織の恥は関係なくとも連帯責任として波及する。それに私は無関係だったというわけではない――みるちーが女になった瞬間に立ち会ったのは私だから。
今年も私の別荘で合宿だ。小市民どもを相手に金持ちの優越に浸る幸せな時間だ。だがその夜、酒が入った体育教師が私に理解できない話をした。 ……? 男と女が? 男が元気に跳ねるお魚さんを…………わかりません。小市民のくせに、体育教師は私の知らない世界を知っている!! いったいなんだこれは! まったくわからない! ここは一時の恥と、隣にいる天然ボケに聞いてみた。
「そのうちわかる」
……えええええ? まさか、この女も知っているのか! 私だけ知らない! よく見ると、みんな訳知り顔で、しかし顔を真っ赤にして聞き入っている。私だけ理解できない? くやしい。せっかく悦に浸ろうと思っていたのに! 自己中女は? 役立たずな担任は平気な顔。体育教師の話をむしろ面白そうに聞いている。まるで私たちに体育教師のプライベートが知られるのを楽しんでいるように。は! そうなのだ、これは体育教師のプライベート。私が知らない世界……そしてそれを熱心に聞いている同級生たち。彼女たちは、おそらく経験がないのだ。
男だけが育てているという謎のお魚さんをどこかに入れたことが。
今日から2学期だ。がんばりましょーって言ったら、智のバカが優等生みたいなこと言ってるんだよって頭をぺちぺち叩いてきた。かわすためにへへって可愛くしたら、逆効果みたいでどんどん叩いてきた。痛っ、痛いってこの暴走野郎、ていうか私が優等生なのは当然だろ! ボンクラ!
信号機の前で立っていたら、ふと思いついた。
『白だけ踏んで渡れたら、今日はいい事があります』
実行だぜ! 1歩、2歩、3歩……ブブー……なんだ?
ブブブブブブ~~!!
うるせえな――って、トラックぢゃん! あっはっは、信号赤だったぜ?
私はマゾだ。いじめられるのが辛抱たまらん。いやがっているフリをして、その実カイカンに酔っている。飛び級をしたのもより目立っていじめられるだろうと思ったからだ。理事長に金を積んで指名した担任は私の享楽を充たしてくれる。すこしブルジョアっぽくふるまえば、すぐに叩いてくれる。
だがそれ以上にすばらしい収穫は、クラスメイトの智ちゃんだ。最近はいかに彼女の気を引き、いじめられるように仕向けるかが私の日課になっている。このあいだも通学途中、信号のむこうに智ちゃんがいるのを見てから、わざと白だけ踏んで渡って見せた。するとやはり通せんぼをしてくる。気付かぬふりをして寸前で止まり、ゆっくり見上げて彼女を視界に捉えると、なんという得意そうな顔! ああ、その瞬間私の体内を桃色の感覚が突き抜け、なんともいえない幸せな興奮に包まれた。
うー、辛抱たまらん。パンツがすこし濡れた。学校についたらトイレで下着を交換しないと。その後怒ってるフリも忘れなかった。これで彼女は明日も私を本来以外の目的でトイレに向かわせるだろう。
85 不慮の (アニメ版15話1【原作3巻25P時系列】)
今年も体育祭の季節が来たぜ! どうやって勝とう! なに? 足を引っ張るやつもいるって、私はこの頭脳で影ながら貢献しているのだぞ暴走バカ。おまえだろ引っ張っているのは! ほらメガネも突っ込んできたし――え? 去年暴走バカ、徒競走でゴール寸前で転んで、後続をみんな巻き込んだって……それって上位を走っていたということか? ああ、ごめん、それ私のせいだ。私がたまたま借り物競走のいたずら工作に出ているときに、そんな不幸な事故が起きていたとは。それなあ、私の仕掛けだよまちがいなく。暴走バカが足を引っかけたんだねー。てへっ。
(あずまんがリサイクル154~156P+アニメ版15話1【原作1巻133P相当+原作3巻25P時系列】)
体育祭の応援合戦でコスチュームの相談をしていたら、ロリコン先公が1枚の絵を持って割り込んできた。なんだこれは? 和洋折衷で派手な装飾の棒を持った少女。ああ、これがおたくがよく騒ぐマイナー系な魔法少女の典型というわけか。
その晩、夢に変な茶色い動物が出てきた。
「わしはあずまきよひこやねん」
「……はい?」
「だからわしは作者様や。えらいんやでー」
「はあ」
「この魔法のバトンやるさかい、適当に平和を守ってくれや」
昼間、木村野郎が見せた絵の棒が出てきた。意外と重い。
翌朝起きると、なんと枕元にでんと置いてある奇妙な物体!
「な、なんだこれー!」
それは夢に出てきた、ピンク色の棒! たしかあのおかしな獣はバトンとか言っていたが、どうひいき目に見ても棒だろやはり。
……とりあえずなかったことにしてそいつをゴミ箱に突っ込むと、いつも通り着替えて――
「ぐふふふふ……」
「なにを見てるか貴様ー!」
夢のおやじ臭い生き物にゴミ箱から抜いた棒を投げつける。
「あべしっ」
「ふんっ。スケベめ」
「――このわしにこんなことしてええのかーー? わしは作者様やでー」
「うるさいな。で、なんでここにいる?」
「それは秘密です」
「……出て行けよ。着替えられないだろ」
「大丈夫。このバトンを振って『プリティミューテーション・マジカルリコール』もしくは『ジュゲームジュゲームゴコウノスリキレ・サミーデイビスブロイラチキーン』と唱えたらいい」
「なんだそれ? 『どちらか』ってなんだ?」
「マジカルナイト1と2で発生した設定の差だ」
「はあ?」
「とにかくおパンツを見られたくなければ、さっさと唱える!」
「わかったよ……ぷりてぃーみゅーてーしょんまじかるりこーる」
そのときだった。私の体がいきなり光り、さらにそのつぎの瞬間、寝間着が水に溶けるように消え去ったのだ。
「ど……」
光り薄まりながら私の体を包み、新たな服に着替えさせてゆく。現実を越えた出来事に、正直怖い。
「どーんどーん」
光が消えると、私は上半身着物、下半身ミニスカートといういかにも萌え萌えな服装になっていた。手にはもちろん奇妙なバトンを握ったままだ。鏡で見るといつのまにかおさげも結ばれており、蓮の花をあしらった飾り付けがなされている。
「ヒャ――ヒャヒャ! かわええ尻や微乳を堪能させていただきましたわ」
「き、貴様……」
「ほなっ、プリティサミーちゃん」
「誰がプリティサミーだ? こら待たんかいボケ!」
ボカン。
わからない人は検索してね♪
体育祭で借り物競走に参加することになった。
じつはすこしでも有利になるため紙に細工をしてある。いたずらで好きな異性、嫌いな先生など、さぞや時間がかかりそうな困りものも混ぜてある。
元々の中には美人のお姉さんとか尊敬する人とか、私が一番毛嫌いする身もよだつものがけっこうあった。そいつらはまるごと始末し、メガネなど差し障りのないものばかり残してある。メガネだけなぜか10枚もあったのが謎だが。そういえば……残したものの中でひとつだけ変わったものがあった。
ブルマ。
誰が決めたのだろう。やたら汚い字だったが、個人的にウケたのでそのまま残した。
競争開始。
私は足が遅いので、あっというまに置いてけぼり。紙を取るのは最後だ。しかし大丈夫。心理学上の細工も怠りない。人は急ぐときにおなじものを選ぶとなると、すこしでも楽なものを無意識で選びがちだ。私が選ぶ予定のものは、ぴったりと合わさっている。黄金律のように完全なものだ。もっとも選ばれにくい。そしてその紙には「自分」と書いてあるのだ。自分を抱く姿勢でゴールインすればよい。品物を確かめる係の人は洗脳しているので大丈夫。開きが大きい選ばれやすいものほど、借りるのに時間のかかりそうなものばかり書いてある。
よし、先についた連中ほどまごまごして困り果てているぞ。私が一番だ。のこる最後の、ぴったりと閉じた紙を――そこには自分と書いてあるはず……
……はい?
『バカ』
――――……
なーーーーーー!!!!!!!!
なんだこりゃなんだこりゃ、どうすればいい? これは……こんなものは知らない。私が入れた中にはなかったぞ。なんだこの困りものは。見過ごしていた。そうだ、見過ごしていたのだ。あるいは私が昨夜取り替えた後、今朝以降に追加されたやつだろう! なんてこった。この字、どこかで見たな……ブルマとおなじ奴だ。
どういう感性を持っているのだ。まるで大阪だ。いや大阪なら「変わったもの」であって「困りもの」はない。というか借りるのが不可能なものを書くだろう。誰だこの確信犯は! まるで智の暴走バカじゃないか。暴走バカ……そうか! なるほど!
私は自分のクラスの応援席まで駆ける。バカバカバカバカ……ひとつの言葉だけが単純に脳内を
駆け巡る。もはや一等でのゴールインは無理だ。順位などどうでもよい。とにかく負けず嫌いな性格が、私をひたすらな行動に駆り立てる。私が知るかぎり最高のバカよ!
「あ、あのっ」
バカを探す。いない。どこいった!
「またメガネか?」
暦さん、ごめん、ちがう。
「いえっ、あのっ。えーとえーと」
なんで言えばいいのだろう。一瞬言葉に詰まる……
「ブルマか? 脱ぐか?」
トモチャン━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━キター!!!
「ともちゃん来て!」
「おお!」
迷わず智バカの手を引き、駆ける。ゴールイン! なんとか2位、得点にかろうじて貢献できた。自分の役割を果たせてうれしい。喜びの余韻に浸っていると、智バカが近寄って聞いてきた。
「ねーねー何だったのー? 美人のお姉さん? 尊敬する人とか?」
ハァ?
なんで貴様がそれを知っている? そういえば私が応援席に来たとき、いきなりブルマって言ってた……なるほど。あはははは、そういえばこいつ、準備委員だったなあ。
してやられたぜ。まさか偶然借り物競走担当だったとはねえ。メガネばかり10枚も入ってたのも、暦を困らせるためだろ。
まったく、敗北だ、完敗だ。バカの強運に負けた。
私はバカと書かれた紙を手の中でこねくりまわし、
「だーー!!」
おもいっきり千切り飛ばしたのさ。
P.S.
「どうしたんですか千尋さん。困った顔をしてもじもじして」
「あのその、木村先生なら持ってると思って……ブルマ」
体育祭も後半に突入した。つぎは玉入れだ。玉転がしではひどい目にあったので、今度こそ決める。聞くところによれば智バカも大阪ボケも去年は1個も入れられなかったらしい。かくいう私もそうだが、今年こそは! 少なくともこいつらには勝つ。
競技がはじまった! 去年は作戦なしだったのがいけない。今年は作戦をたてた。玉をたくさんつかみ、抱え投げるように一度に……玉がねえ! うわー、みなさんどんどん掴みますねー。私がたくさん取れないじゃないですか。家でみるちーやゆかちゃんと練習したときはうまくいったのに、これが高校生の体力ってやつ? ようやく数個掴んだぜ。ううむ、下手な鉄砲作戦は無理だ。基本に忠実、狙って投げるしかない。
ほらっ! 外れた。ほらっ! 外れた――今度こそ、ほらっ!
ぽす。
は! や、やっ――……やったぜ! おいおい、やれば出来るじゃねえか。入ったよ智バカ、入ったよ大阪ボケ。なあなあ、見たよなあ? 見たよな。見たっていえよコラ。頼むから見たって認知してください。
……夢中やんこの人ら。
うむむ――とりあえず、投げよ。
87 犯人は木村です (アニメ版15話3【原作3巻30~31P時系列】)
こ、この学校はなぜ女子に騎馬戦をやらせるのだ! しかもポジションはじゃんけん……わ、私がなぜ先頭で下なのだ! こら智の暴走バカ、暴れるな、重い、重いぜううう――もうダメ、うぎゃー、自滅したー! ブルマ大股開きー。こらスケベ男子ども鼻血垂らすな! 大阪ボケおまえパンツはみ出てるぞ。うわメガネ私のブルマ掴むなよパンツが見えてしまうだろってもう見えてるしいやん恥ずかしーですみんな見ないでー、見ないでください後生ですから。
屈辱だ。こんなセクシャルハラスメントやらせたやつ殺す!
90 萌える (アニメ版16話1【原作3巻44P相当】)
智の暴走バカが私の真似をして「天才ですよー」とかほざい――いや、おっしゃった。その声が……その声が、萌えるじゃねーかよおい。ちょっとだけ大阪並だぜ。ハアハア。
「満点ですよー」
し、辛抱たまらん。いい声だ。なぜいつもこの可愛い声でしゃべらないおい。いかんハアハアが顔に出てしまう。ここは我慢しないと……とりあえずあやつに真似を止めさせないと……目には目を!
髪を下ろし、必死に顔がにやけるのを我慢しつつ言う。
「そんなんじゃありませんのだ」
はあはあ、辛抱しながらなのでおかしな言い方になってしまったが、ようやくともがやめてくれた……萌えたぜ樋口智恵子ぉー。
52 思惑 (原作3巻43・46~48・50~51P)
学級委員長としての仕事は大変だ。とくにイベント、すなわち学校行事における監督の労は最たるものだろう。いつも私に笑いを提供してくれる愛玩動物どもが一転して迷惑という牙を剥いてくるからだ。この文化祭もそうだ。
目下準備中だが、大阪ヴォケが天然をいかんなく発揮し、私を神経衰弱の寸前にまで追い込んだ。逆転でないファールホームランの乱発でだしものの決定を阻害し、作業がはかどらず時間的余裕がなくてパニックになりかけると、時計の針を戻そうとする極めつけのボケでとどめを刺した。他の連中もすくなからず同罪だ。ボンクラ智は用意された人形で正義の味方ごっこをしだしてガキのごとく暴走し、その人形がネコだったためウド榊まで参加する始末。まじめにやっているのは体力バカくらい。それにしてもメガネはどこに消えたのだ?
いたいた、メガネ。どこで油を売ってた? 私の成績表をよくするべく、ちよ様のためにせっせと働けよ。え? 特別コスチューム?
あの、これ、なんなんでしょう。
……ペンギンすか。歩きにくいそうだなあ。もしかしてこれって、止めになったお化け喫茶で湧いた妄想かなにかの代償行為? たしかに私がヌリカベとかしたらかわいいかも知れねえが、それはあの今回むかつきまくりな大阪ボケのアイデアだったよな。それでぬいぐるみ喫茶ならペンギンか。誰の発案ですか? ――はあ、メガネね。これがもし大阪の発案ならいかに外面全開な私でも拒絶したかもしれないけど、メガネとなると仕方ねえなあ。着てやるよ。
うわ歩きにくいなあ。
え? かわいい? あはは、それはいいかもねえ。褒められるのはうれしいぜ。くくく。これで私もスクールレポート評価アップだし、小遣いも増えるぜえ、へへへへ。
やいゆかり先生、かわいいだろ。見ろよこれを。学期末の評価はいいのを頼むぜ。
どん!
……あーん、なにするんですかー。じたばたじたばた。じたばたじたばた。
91 おなじ (アニメ版16話3~5【原作3巻42・50~52P相当】)
文化祭での私のスペシャルコスチュームは、ずばりペンギンだ。見よこのかわいらしさを! だが困ったことに、こいつはとても動きにくい。人に触れると転ぶし、自分では起きあがれないし、机の角に頭はぶつけるわ、物は食べられないわで散々だ。人の同情というか憐憫というか保護欲というかそういうのを激しく呼び起こさせたようで、いつもより5割増しでずいぶんと可愛がられた。
さてと、ようやく解放されたぜ。もっと他のコスチュームはなかったのか大阪?
「ペンギンやなかったら、ぬりかべやったんでー」
え? ぬりかべて、あの話もしかして冗談じゃなかったのか?
「私も――もしおばけ喫茶になってたら、たぶん着せていたと思う」
メガネも? ――ということは、どれになるにせよ、私は転びまくったり痛い思いをするはめになったってことかよ! だー!
日直の用で職員室に出席簿を持っていくと、糞ゆかりに突然松阪牛を食べたことはあるか? と聞かれた。表情から見てなにか裏があると踏んだが、いきなりなにかされることはないだろうと思い、あると素直に答えたら甘かった。痛い不意打ちを受けたのだ。この本能だけで生きてる獣め、野蛮人が。
お歳暮のカタログを見せられ、なにが欲しいかと聞かれた。なるほど、あまりにひもじくていやしく、高級な松阪牛を贈られたことも食べたこともないのだ。私を金持ちの代表に見たて、鬱憤を晴らしたのだ。素直に超高級食器セットを欲しいと言ったら殺されかねない。手頃にアイスクリームと逸らそうとしたが、食べ物だったのが痛恨のミスだった。松坂牛のが美味しいでしょなどとわめきちらし、職員室を半壊させてようやく取り押さえられ、そのまま精神病院に送られたのだ。
危なかった。あのような貧民ガイキチにはわずかなミスが命取りになる。だが私には貧乏な者の気持ちなどわからない。いくら気をつけても無理なものは無理だ。あのようなヤツとまだ一年以上もつき合わないといけないとは、まったく心底いやなことだ。
お歳暮のカタログを読んでた自己中がいきなり私になにがいいか聞いてきた。なんだと? そんなの決まっている。このアイスクリームセットが最高に決まってるじゃないか。
そしたら自己中のやつ、松阪牛のがおいしいでしょ! とか叫びやがった。まったく卑しい目しか持っていない俗物めが。
アイスクリームセットの値段をよく見てみろ。超高級品で、2万円だぞ。
辛抱溜まらなくなってボケの家に潜入した。
ふふふ、ボケが風呂に入ってる隙に、ベッドの下に潜り込んだぜ。
ふふふふふ、ボケが速く寝ることは知ってるぜ。だからボケが寝たところで、ふふふ、いろいろないたずらをしてやる。
ボケが部屋に戻ってきた。かわいい足だぜ。学校だと生足なんて水泳のときにしか拝めないからなあ、さすってみたい。おおおお、なにやらいいにおいが。いい匂いが、仄かに! これがボケの本当の匂いか、ふうう、ふうう――辛抱溜まらん。これだからボケは最高だぜ。
私は興奮してボケが寝るのを待った。 ……が、こいつめ、ちっとも眠りやがらねえ。10時……11時……だめだ、私のほうが、もう……
――――ぴゅぅぅぅぅぅぅ
う、くせえ!
なんだこの臭いは!!
……しまった、おならをしたのか?
ばれてまう、ばれてまう!
「……なんやー、オナラー?」
うう、ボケが感づいたか?
――結局ボケはそのまま気付かずに寝てくれて、いたずらする気の失せた私は戦略的撤退をした。
翌朝、愛しのボケは暴走バカに「私のやないオナラのにおいがしてきたんや……」と、怪談してた……それの犯人、私だよ。
大阪さんの前では、オナラは厳禁だなぁ。
クリスマスプレゼント貰えるとしたらなにがいいかって? 決まってる。駅前にある大きなツリーのな、てっぺんの星だよ星。昔から欲しかったんだよなー。
あれ? なに汚れてない心って正体不明なこと言ってるんだ? あれの中には私の発明品が入っているんだぞ。人の愚かな行為を発見したら撮影するカメラが。それはもう貴重な宝だけど、毎年12月にしか飾られないのが難点だよな。それで自動転送装置が3年前に壊れてさあ、お宝データ溜まってるんだよね。
クリスマスの話をしていたら、暴走一直線がトナカイがいないと言い出しやがった。私はすかさずトナカイの絵を描き、暴走一直線に日頃の鬱憤をぶつけた。バカじゃない、バカじゃないと繰り返し泣き叫んでいたが、うん、あんたはたしかにバカじゃない。
大馬鹿だ。
夢の中に入る機械を発明中だ。1年の初夢で連中が気になる反応をしていたからだ。私は奴らにどう思われているのか? 試作機が完成したところで、ちょうど2年の大晦日となった。テストでいきなり大阪や智バカの夢はきついだろう。わりあい安全だと思われる、榊さんの夢に入り込もう。
……なんだこの世界は! 私のお父さんがぬいぐるみだと? あれは誕生日に大阪から貰ったやつじゃねえか。ペンギンがメイドしてたり、わけわかんねえ。夢の中の私は変なことばかり言いやがって、くそ。私は榊さんの夢の中で変なちよを演じさせられている。夢のちよと同一化していて、体が勝手に動いている。
う……とまと……トマトは嫌いだ。なのに好きなことになっている。学校での好き嫌いがないという外面が定着しているようだ。これは本当の私ではない――ぶえー、まじー。なのに頬がゆるんでおいしいと言う。ほらっ、猫人形は赤いのにいやだとか言ってるぞ。それが本当の私だ。いやこの猫人形の行動は、むしろ榊さんの無意識がなせる技。私は知ってる。榊さんは赤いものが秘かに嫌いだと。榊さんの大人しい性格が、派手や攻撃、そういうものを示す「赤」を拒絶し、それがこのぬいぐるみキャラに投影されているにちがいない。どうでもいいが、苦痛だ。ペンギンメイドも猫人形父もふざけやがって。
こうなったら誰かの夢を別に飛ばし、むりやり起こさせてやる! ここは……荒療治だ、大阪さんの夢! 私はかすかに残っていた体の自由を用い、現実の世界で眠っている私を動かし、大阪さんの夢に意識領域の分身を飛ばした。
大阪はなんと平和なことに、富士山をぼーっと眺めていた。両手には、2鷹3なす。1の富士と併せ、縁起もの大集結だ。じつに大阪らしいというか――そういえばなぜ私は飛んでいるのだろう。なんか髪がむずむずとする。おさげが上下に激しく揺れてる!
「ちよちゃーん。なんで飛ぶのーん??」
勝手に体が動いて舞い降りた。
「11歳ですけどー」
「おなじやー。ちよちゃんかわいーなあ」
わけ、わか、らん! なんだこれは? 航空力学を考えろって。高校生だろおまえ? あー、やはり大阪はヴォケだ。とにかく根性で体の自由をなんとか取り戻し、要請する。
「じつはお願いがあります」
「なんやのん?」
「榊さんのおうちを訪問しましょう」
「ええでー」
なんだ? あっさりと引き受けてくれた。はう……よかった。
こうして私は榊さんの夢から脱出することに成功した。相手の夢に入ると体の自由を大幅に奪われるなど、まだまだ改良の余地がある。完成までにはなお数ヶ月必要だろう。完成した暁には、そうだ、まず智バカの夢に入り込もう。そこで日頃の復讐でも晴らしてやるか。
メガネが正月、北海道に行って来た。飛行機にはじめて乗って自慢げなところが小市民っぽくて笑える。しかもそれで金持ちの私を仲間みたく思っている。このあたりは実にあの自己中担任っぽくて良い。私がすでに地球一周や南極観光を体験していると知ったらどう思うだろうか。しかもその費用は私自身が株で儲けて捻出しており、親の力など1円も借りていない。ふふふ、まだその機会ではないので今は黙っておこう。ちいさな幸せを楽しむがよい。私がこうして心の中で笑ってやってやるから。
メガネからおみやげを貰った。品名は「白い恋人ブラック」。なんやっちゅーねん。白い恋人のノーマルはけっこう美味しいが、これはどうだろう。うっ、チョコ味だ。スイートでビター。メガネにしてはやるな。でも白くてブラックって、岸和田博士の科学的愛情に出てくるブラックシルバーみたいな訳のわからなさだな。
智の暴走バカが自己中担任をつれてきた。カニごときがよほど悔しいのだろう。ふふふ、どっちもどっちだな。低レベルだ――あれ? なぜふたりがこちらに来るんだ? 私までまきぞえでなにかされるのか? いやだな。あん? ジンギスカン? ああ、よかった。質問か。なるほど、私にその料理がどうであるのか聞きに来たのか。
ジンギスカンごとき、どういう料理であるのか知ってるぜ。私の生き字引ぶりを見ろ、あはははは。なんなら作ってやってもいいぜ。かわりに材料費はそちらもちだがな。うまいかって? ――えーとなあ……あ、喰ったことねえ。
この私が。この私が~~~~!!!
ジンギスカンを、食べたことが、ない、ので、ございます、よーーー!
どうしよどうしよ、どうしよどうしよ。知識だけあって実がないなんて、なんかおたくっぽいよ。これまで経験が伴っていたのに、なんでジンギスカンだけないんだ? あーー。お父さんのバカ。
……という混乱が、わずか1秒で私の脳を駆け抜けた。さすがだぜ私。天才だから常人なら10秒はかかるものが一瞬で済む。気付かれなかったようだな。ふふふ。ここは演技で抜けるぜ。ぬけぬけとおいしいですよ、と言ってやった。あはははは。見ろよ、メガネがまた酷い目に遭ってるぜ。
見物だぜ、楽しいぜ……空しいぜ。
94 ちがう (アニメ版18話1+原作3巻86P)
メガネが北海道土産を持ってきた。白い友達ブラック? 熊シチュー? ふっ、商標権問題か? 本物は恋人とカレーだろうが、おい。これってニセモノだぜ。妙な商品掴まされてるんじゃねーよメガネ。お、意外とうまいな白い友達。
108 踏んだり蹴ったり (原作3巻91~92P)
雪が積もってきた。
「ちよちゃん、雪合戦や!」
ほほう、天才である私に挑んできますか?
「うけてたちましょう!」
私がじつは雪合戦が得意なの、ボケめ知らないな。ふふふふ。
校庭に出た。雪だらけだぜ!
わ――!
つるっ。
……いてえ。
頭を打ってしまったぜ。
大阪まで一緒に転んでるのが気にくわないな。
天才である私が、ボケといっしょにお笑いやってちゃはじまらないぜ。
さあ大阪、勝負だ。
……あれ? 大阪誰と投げてるんだ?
ちよだな。でもちよは私だぞ? ……なっ! この体、もしかして神楽かっ! 心が入れ替わってしまったのか?
――それにしても神楽(と仮定)め、あまりに夢中で入れ替わってるのに気付いてないな。ぜんぜん当たらないな。ボケはともかく、神楽は以外と雪合戦が苦手なようだな。
よし、ここはひとつ天才ちよの技を見せてあげよう!
さっそく雪玉を作り、ちよ、いや、神楽に投げる。
ジャストミート。体が替わっても勘は大丈夫だぜ、さすが私。
「私もまぜてよー」
大阪が困ってるぜ。そりゃそうだ、私は天才だからな。
「私と一緒のチームなら」
それはそうだなあ。あはははは!
「ええっ」
神楽が泣いてるぜ、まったく困るよなあ? あん? おお、私の姿に驚いて口をぱくぱくさせてるなあ。それに自分の体を見てさらに困惑してるぜ。ようやく気付いたか。それにやはり神楽だな、私の体にいるの。
その体、返して貰うぜ!
雪合戦で不遜な神楽を痛めつけてやったぜ。
ボケは相変わらずちっとも当てなかったがな。圧勝だぜ。気持ちいいぜ。
「あー、おもしろかった!」
つるっ。
――――。
おお、体が元に戻ったぜ。
……痛いじゃん?
ちょっと、なんかあちこち痛いんですけど。誰がこんな酷いことを……あっ、私じゃん。
「って、神楽!」
「ちよちゃーん、また雪合戦やらない?」
「あのいえちょっと困るそれあのそれ……いや手を引かないであの……」
「大丈夫。元に戻ったから今度はちゃんと当たるよ。ふふふふふ」
「あのーー!!」
人の夢の中に入る機械を発明した。私が仕方なく友人のふりをしてやってる奴らが以前、私を初夢で見たといったときの反応が気になっていた。私は彼女らにどう思われているのだろうか。とくに気になるのがあのときあきらかに優越感に浸っていた智だ。
智野郎の夢に入り込むと、さっそく智がいた。目の前に私が出ると、いきなり私が死ぬボタンとやらを出してそれを押し、私を殺してしまった。くそ。あまりのショックに怖くなった私は、他の2人の夢に入るのがすっかりいやになった。機械も押入に封印した。くそ。
インターネットテクニック? そんなわけないだろ、インフォメーションテクノロジーだよ。
……メガネのやつ、ITの正式名称知らなかったよ。
信じられない。仲間内では私のライバルはこいつくらいしかいないのに、思ったよりバカのようだな。うちの学校は平等がどうのこうのと言って、テストの上位ランキングを公開しないからこういう思い違いもある。
私のライバルはいないか? 大山でもライバルにしてみるか? ランキングがないからあまり意味はないが、いればいたらで勉強に張りが出るというものだ。
家に帰って、ぼろぼろになったメガネの壁紙を剥がす。うわ裏側がすっかり針穴だらけだぜ。よくストレス発散にダーツ投げてたからなあ。隣の大阪はきれいなものだぜ。辛抱たまらんで頬ずりしすぎて脂テカテカだな。
メガネの跡にクラス写真を拡大した大山を貼り付けよう。変な顔だな。ダーツを投げて修正してやる――あれ? 針が折れてるや。しかたがない、他のを出そう。えーと、なんだこれ、セットだ。古そうだなこのダーツ。なんでこんなボロいのが私の部屋にあるんだ? まあいいや。このダーツを大山に投げつける。ほらっ。今度の数学は負けないぞ。ほらっ。英語は満点取ってやるぞ。ほらっ。あはは、鼻の穴にクリーンヒットだぜ。さっぱりした。これで今夜は勉強に身が入りそうだぜ。
翌朝教室に入ると、大山が鼻に栓をしていた。あれ? おかしいなと思い聞き耳を立てると、友人に昨夜鼻血が大量に出たと言っている。
……その時間って、私がダーツ投げた時間だぞ?
その晩、またダーツをたくさん投げてみる。顔中にヒットさせた。ちょっと明日が楽しみだぜ。いやまさかだよな。偶然だと思うぞ。
翌朝、大山は――げ。ミイラかよ! 顔が包帯ですっかり白いぜ。うむ、いきなり窓から蜂の群れが侵入してきて襲われたとか。
どうやら私は超能力のようなものに目覚めたようだ。相手を呪えるのだ。ふふふ、暴走バカに復讐するよい機会だぜ。
壁に特大に引き延ばした滝野智を貼り付けた。ボロいのは捨てて、外国製の高級ダーツを新たに100本用意した。こいつをすべて、投げつけてやる。ほらー! ふふふ、ほらー! ふふふ。ほらー! あはは、明日が楽しみだぜー! ほらー! ふふふ……――
翌朝私はうきうきな気分で教室に入ると、わくわくしながら暴走バカを待った。もしかして怪我がひどくて来れないかも知れない。それはそれで笑いものだぜ。あはははは。
「おっはー」
……なぬ? きさま、なぜ平気だ。しかもいつもより肌もつやつやでまるで健康そのものじゃないか。
「ともちゃん、今日はずいぶんと調子良いみたいですね」
「おうよちよちゃん。なんかさあ、体が軽いんだよねー。血行もいいし」
おかしい。なぜだ、なぜなんだ。
私は家に帰ると、すぐにダーツをチェックするべく部屋に向かう。原因はおそらくダーツにある。謎のボロダーツを捨ててしまったことを悔やんだ。あいつでないと効果がなかったのかも知れない。私に超能力が生まれたのではなく、ダーツが魔力を持っていたのだ――部屋に入り、ダーツを細かく確認すると、なんと驚くべきことが!
『メイド イン チャイナ』
……針灸かよ。
ITの真の意味を説明してやったら、どこで習うのか聞いてきた。そういえば私は、どこでこういう知識を覚えるのだろう。勉強に忙しくて、テレビ・ラジオ・新聞はほとんど触れない。新聞もあまり読んでいない。ITは教科書にほとんど載っていない若い言葉なので、時事に興味がないと意外と意味を知る機会はないだろう。
不思議だ、私は思った以上にいろんなことを覚えている。まるで知らないうちに刷り込まれているかのように――どうしてだろう。さあ、今日もたんまり勉強して疲れたぜ。お母さんが枕元で楽しい本を読んでくれるぜ。疲れたといっても肉体が元気なので、こういう助けが必要だ。
「ねえお母さん、今日からはどんなご本を読んでくれるの?」
「つぎは大辞林の増補版よ」
「わーい、楽しみー」
12歳の誕生日だぜ。
今年もいつも通りいろんな人からたくさん貰えるぜ。うれしいな。でも気になることがある。あの呪いのアイテムを、今年ももらうのでは、と。
モンプチ。
うう……こいつはいつも私の部屋に居座っている。勉強するときも寝るときも、私をじーっと見下ろしている。その後方には、あの榊さんがいるのだ。いきなり動き出しそうで怖い。
誕生日当日、いまのところ呪いのアイテムはない。
「てなわけで私たちは2人で1セットです!」
よかった。神楽さんだー。神楽さんは性格はちょっと変だけど、他の部分は普通の女の子っぽいので榊さんの暴走を抑えてくれそうだ。
と思ったら甘かった!!
正体不明の存在があらわれた! 未確認名「ねこっぽい」×2
……なにこれー!
あうーって言っていいですか? はへーって言っていいですか? 叫んでこれ床に投げつけ、踏みつけていいですか?
もちろんだめですねはい。そんなことしたらこれまで築き上げてきた私の外面人生おしまいですよできませんよくもこんなおかしなもの送りつけてくれたなこいつああーていうかそもそもこれなに?
「おっと! 1つ1つで見ればわかんないかもしれないけど、ガシャーン! 合体!」
……なにー?
ねここねこのつもりですか? ねここねこのつもりですか? ああん貴様らこの私を、天才ちよちゃんをバカにしてますねしてますねしてますねもう決定永遠にゆるさねえぞ。そもそも小学生低学年が作るような出来で、いまさらクレーンゲームの景品でもこれはないぞという完成度で、私にこんなもの贈るとはどういう了見ですか?
呪いですね? 呪いのアイテムですね? また見に来るというのですね?
「……ごめん」
あ――榊さんがあやまった? あ、そうか。あはははは! そりゃそうだなあ。いくら榊さんでもなあ、これが変だってわかってるよなあ。そうそう。それでいいんだよ。これでこのゴミ、心おきなく捨てることが……
と、外面発揮して許してしまったのが運の尽きだった!
「そうか? ならいいんだ。この子には名があって――」
ええええええええ!!
あ、あったんスか? この妖怪にも?
「また見に来ていいか?」
ああああ……はい、もう好きにして。
こうして私の安眠を妨害する視線が、一挙に3倍になった。
98 体験しました (アニメ版19話3~5【原作3巻127~128P時系列】)
消しゴムがなくなったので夜道、コンビニにまで買いに行ったぜ。でもな、夜の道って暗くて怖くて、もうおばけが出そうでイヤなんだよな。
まずはあの灯りまで走るぞ――あわわわわわー! はあはあ。つぎは……あの灯りまで――あわわわわわわー! つぎは……ぎゃー! 灯りがねー。どうしよどうしよ、回り道しようか? あちらもねーぞくそう。
「ちよちゃん?」
ぎゃー! はあはあ……驚かすなよ神楽。あ、神楽さん私のボディーガードになってーー。コンビニまで行きたいんですぅ。
夜のコンビニって不思議だなあ。妙な兄ちゃんたちがうんこ座りしてて、こちら見てにへらと笑って手を振ってきたり、頭にはちまきネクタイして寝てるサラリーマンがいたり、老女がぼけーっと徘徊してたり。大人になったらいろいろあるんだな。私もちょっと大人な夜を体験してみるぜ。よし、はじめての深夜ラジオだ!
『つぎのお便りは涙のダイエット少女ちゃんからです』
なんだ? いきなり変わったPNだな。穀物抜きダイエット? それって先月メガネが挑戦して失敗したやつじゃないか……ああ、仔細までそのままだぞ。あはははは! あいつこの番組に投稿してるのか。涙のダイエット少女ねえ。これは発見だぜ。大人っておもしろくていいなー。
今度は深夜テレビだぜ! ぱちっ。
『あんっ、あんっ。あんっ、いい、イクー、イクーー!』
ぱちっ。
……奥が深いです。これが大人なんですねー。う、股間がすこし。
きょ、今日はもう勉強をやめて、ベッドに入って――いけない、頭がくらくらする。くらくらくらくら。目もぎんぎんして、寝られないぜ。手が、いけない手がなぜかおまたの間に……あ、なんか気持ちいい……いけない……こんなこと――ああ……あ、あ……やめて私の手――めっ、だめ……あん、も、もう止まらないよ……