もし、ちよちゃんが腹黒く、かつ間抜けだったら……。全126篇。
飛び級だ! との喜びも束の間だった。
今日ははじめて飛び級した高校に行きました。小学校ではみなさんのおバカさんぶりに多少まいっていましたので、お利口さんがたくさんいるのだろうと楽しみにしていました。なのに、初日から担任の先生からしていきなり失礼なことを言いました。
「ガキのくせに勉強できるからっていじめないで下さいね」
なんという失言でしょう。でも私はいろんな本を読んでいて、このような人はたいてい一生孤独で、可哀想な結末を迎えることが多いことを知っています。そしてこのような方々はなにを言っても寝耳に水で、あらゆる諭しが無駄であることも。道理をわからない先生の哀れな半世紀後を確信した私は、自分の素晴らしい成功に充ちた半世紀後と比べ、そのあまりの落差にすっかり同情し、彼女を許していました。
担任の先生からしてこうでしたので、他の生徒も推して知るべしでした。よみさんという人だけはけっこうおりこうさんのようですが、友人には少々恵まれていないようです。子供扱いする男子は苦手なので、とりあえず女子のおりこうさんに混じって人間関係を構築しようと思います。願わくばよみさんの友人とはあまり深い仲にはなりたくないです。彼女はどうやって入学出来たか想像できません。どう見ても近い将来私をいじめるようになりそうな感じで、それは私が読んできた本の情報からも推測できます。
72 因果応報 (アニメ版3話1【原作1巻14P相当】)
私の体格に合う体操服が出来たというので、職員室に取りに行った。黒沢先生から受け取ると、自己中担任が「にゃもー」と黒沢先生の愛称らしき呼びかけと共にどこからともなく発生した。どうやら机が隣同士らしい。とても汚い机だ。いろんな本や書類が山積みになっていて、まるでゴミ捨て場のようだ。ちょっとしたきっかけで大崩落を起こすだろう。
黒沢先生がなにを思ったか、貸した辞書を返してと自己中に言ってきた。自己中は無造作に危険な紙と本の山に手を突っ込むと、難なく辞書を引き抜いた。おお、山がぐらぐらと崩壊の前兆を示しだしたぞ。自己中は高い確率で紙雪崩の被害を受けるにちがいない。
自己中よ、自業自得だぜ。
ふふふ、これは見物だ……しまった! このまま崩れたら、私も被害を受けるぜ!
逃げようかと思ったが、私の猫かぶり根性がそれを許さなかった。私は自己中が崩壊に気付く寸前に書物の山に手をかけて支えてしまっていたのだ。
お、重い――やい自己中、感心していないで、さっさと助けろよ……も、もうダメ。
あいやー!!
あーん、重いですう。
う、さらに崩れて……
ゆかり先生、ちゃんと片づけてください……
はい、私が自業自得でした。
2 宇宙人 (SF+原作1巻17P・2巻18P・4巻37P)
親衛隊隊員1号に乗って宇宙を散歩していると、頭のアンテナが面白い電波をキャッチした。どうやら近くに未知の知的生物がいるようだ。それにしても遅い通常電波を使っているとは、まだかなり原始的な存在のようだ。もしかして大発見かも知れないので、さっそく向かうことにする。それにしてもハイル・ヒットラーとは面白い発音だ。
発信源の惑星についた。原住民がわんさかといて大量の電波が飛び交っている。頭のアンテナがちくちくしてすこしくすぐったい。あのヒットラーとかいう面白いヒゲ野郎はすでに死んでいたし、この星の原住民のライフサイクルに換算してわずか2世代でかなり科学が進歩したようだ。私の母星もかつてはこのような急激な進歩を経験したのだろうか。とにかく200年ぶりに見つけた知的生物だ。いろいろ観察してみることにする。
母星と連絡を取り、第一発見者の権限でこの星を私のものとして自由な裁量権を得た。一部の自然保護団体がうるさく言ってきたが、知的生物ほど他の生物を絶滅させる存在もいないので、保護するに値しないと思うのだが。実際この星の原住民もかなりの種を滅ぼしている。もしこの星の生物を保護しようというのなら、まず寄生虫である原住民を他の不毛の惑星に移住させるのが先決だろう。
この星の時間にして5年ほど惑星中をうろついた。この星の原住民は私たちの女性体に近い見かけをしているので、変装は服だけで済んだ。しかしこの星では私は子供に見られてしまうのが難点で、ロボットの「両親」を常につけていた。だがロボットだと融通が利かなく、時々回避できないトラブルが起きて幾度か原住民を殺害する事件を起こしてしまった。私はこの星では金持ちがたくさん住む国の子供に見えてしまい、貧しい国に行くと誘拐魔が近寄ってくるのだ。豊かな地域では逆にロリコンと呼ばれる変態が集まってくる。どうやら私はこの星でも容姿では上等の部類にはいるようだ。あまりに殺しすぎたので、仕方なく父に来て貰った。
父は一流の戦士でとても強く、手加減の妙を心得ていて相手を殺さずに済む。この星の最高の兵器を食らっても大丈夫だ。しかしこの星の原住民は男も女も似たような外見なのが残念だ。母は500年前から他の星の観察に忙しくて来れないし、親戚一同はこの星の権益を狙っており、私の財産を横取りする気なのでだめだ。父の護衛があるとはいえもう惑星上を旅するというわけにもいかない。これからは定住戦略に切り換え、原住民の保護も得ることにする。
定住場所として、私がよく間違われる金持ちの国に決めた。ここは安全で、誘拐事件も世界で一番少ない。潜在的なロリコンが多いが、メス全体の成長がにぶくロリ傾斜なので、私以外に標的が分散するのが良い。これまで両親役だったロボットを元の親衛隊に戻して護衛役になって貰うことにした。親衛隊員はちょうどこの星では愛玩動物に似ている。ただし親衛隊員2号は滅びかけの保護動物に似ているため近くにおけないことが判明した。
普通の「猫」になってもらおうと思ったが、旧式なので一度姿をかえると内部機構が安定するまで数年は要する。父を無理して呼んだ直後のため、母星にはあまり迷惑をかけたくない。しかたなく2号にはその猫が保護されている島に行って貰った。私の護衛は1号のただきちさんでしばらくは大丈夫だろう。
近所のリアル猫の言語を勉強し、懐柔して現地要員として雇うことにした。さっそく知り合ったばかりのウザい木偶の坊を襲わせることにする。そうそう、私はこの星では子供なので、学校に通うことになった。定住する以上、怪しまれないようにするにはそうするしかない。だがさすがに小学校というところには幼稚すぎて行けないので、飛び級という設定を役人に刷り込ませて高校というより高度な学校にゆくことにした。ちょうど新学期がはじまった直後で、1年でいきなり転入という普通ありえない状況だったが、みなの判断力をアンテナから毒電波を流して麻痺させた。
これから1年、現地の時間で3年を学校という環境で過ごすわけだが、現地人の成長に合わせて私の体も大きくしなければならないようだ。これがけっこう手間がかかるのでいやだが、定住すると決めた以上しかたがない。いろいろな設定を周囲の人の頭に刷り込ませ、美浜ちよという人間の過去を作り出した。今度の両親役はリアル人間だ。ロボットではすぐばれる。母星から連れてきた父には普段はサンタクロースとかいう夢を売る職業についてもらう。これは1年に1回しか大仕事がないので、ボディーガード役としては最適だろう。それ以外はもっぱら北極をうろついており、たまに未確認生物として騒がれているようだ。
なにやら私の父のことに木偶の坊が気付きだした。やばい。このメス、どいういうわけか私の脳波と共鳴するようだ。そのせいかよく私の近くにいる。もしかして同性愛者か? と思ったが、たんにかわいいものが好きなだけのようだ。とりあえず現地要員に定期的に襲わせて牽制する。西から来たアホと、現地のバカが私をよくいじめる。あまりに幼稚なので、こいつらには現地要員をけしかけるまでもない。いつか派手に殺してやる。
今日は待ちに待ったあるゲームソフトが出る。そいつの初回特典品限定版がどうしても欲しい。おまけのフィギュアで、たった1500個しか作られなかった。しかも予約一切お断りという一級レア品だ。ある店での秘密入荷および開店30分後ゲリラ発売という情報をキャッチした私は、プロを雇って並んでもらうことにした。
このプロ、レア物を狙わせたら、ワールドカップのチケットからスペースシャトル搭乗権に至るまで確実にゲットできる伝説の転売屋だ。ネットオークション等で家を建てたほど稼いでいるらしい。年齢不詳だが、見た目は大学生で通じるほど若々しい。
3時間目か……もうとっくに売り切れてるな。一部の出し惜しみを除いて、日本中で店舗に並んでいる限定版はひとつもあるまい。あいつは無事にゲットできただろうか。3万円もの前報酬を払ったのだから、ちゃんとやってくれよ。
それにしてもゆかり先生遅いな……あ、やっと来たぞ。大遅刻じゃないか。なに? ゲームを買いに行ってたってあんたなあ。型破りもほどほどにしないと、解雇されるぞ。暇な大学生が並んでいたせいって、それが大人のいいわけか? まあいいや、目的のゲームは無事ゲットできたのか。ほほぉ――おい、そのタイトルは私が狙ってたやつじゃねーか。まあ抜け出す価値はあるけどさ。へへえ、すごいな。大汗にまみれて限定版をゲットかよ。野蛮人らしいぜ。私はスマートに人を使って獲得だぜ。
昼休みに携帯を使って転売屋に連絡を取った。
「おい、例のブツはどうなった?」
「……すまん。俺としたことが、失敗した」
なななな、なんだってーー! それにしても声がずいぶんと細いな。背後では機械の音がしているが、雑音がないのでしずかな場所のようだ。
「どうしたんだ一体。おまえほどの者が失敗するなんて」
「腰を複雑骨折して病院に運ばれた……」
「誰だ! 誰にやられたんだ」
「遅刻すると吼えて突っ込んできた、いかつい顔をした怪力ゴジラ女だ」
大阪に
走りで勝っても
空しいぜ
ちよ
私は天才だが、体育だけはどうにもならない。1.5倍も長く生きているおじさんやおばさんどもの体力は尋常でなく、かけっこでは超低速のマスコット扱いされる始末。まるで高校総体の選手がオリンピック代表と競うようなものだ。
だがそんな私にもようやく遅い春が来たようだ。私より半月遅れで大阪から転校してきた春日歩というやつがいる。最初はゆかり規模の強敵かと思っていたが、どうやら先入観による思い込みだったようだ。静かだし、ぼーっとしてるし、運動能力もかなり低そうだ。この低い運動能力が大事だ。計算してみたら、もしかして「届くかも」と出た。
春日が転校して最初となる体育の授業で、さっそく彼女と走る機会を得た。ふっふっふ、勝ってやるぜ。私は今日、朝から筋肉増強剤や保存赤血球でのドーピングを行っていて、いつもより20%増しの力で走ることができるのだ。もちろん10歳児が20%速くなったていどでその辺の15歳に勝てるはずもないのだが、相手が超絶運動音痴なら話は別だ。今の私は10歳児の普通よりすこし上にまでレベルを上げている。
いよいよかけっこの順番が来た。私の体内の赤血球よ頼んだぜ、12種類のドーピング薬品たちよ頼むぜ。私に奇跡の勝利をプレゼントしてくれ!
そのときだ、隣で春日がつぶやいた。
「ま、まけられへん」
なんだとう、こうなったら死んでも勝ってやる。
よーい、どーん!
うぉぉぉぉぉ! 体が軽いぜ、すばらしいぜ。お、やるな春日、私に食らいついてくるか――くっ、抜かれた! 負けてたまるか、勝つのは私だ、私だぁぁーー!!
最後のほうは記憶に残っていない。ただ、彼女が両膝をついて残念がっているのを見て、どうやら勝ったのだと自覚できた。
「やっぱ天才にはかなわへんねやろかぁー」
「ちよちゃんに走りで負けたのあんたが初めてだよ」
そうだ、私はついにやったのだ。この私が、1.5倍も長生きしている巨人どもが割拠する不可能の辞書に、ついに1勝という奇跡の記録を書き残すことに成功したのだ。8000メートル級の山を征服したかのような充実感が体内を駆け巡り、気怠い心地よさに私はゆっくりと腰くだけてにははと笑った。
これでマスコットとはおさらばだぜ、ふふふ、ははは、あはははは、がはははは! 春日にマスコットの座を禅譲してやるよ。ありがたく受け取れや。
私は内心を顔に出さず、見事に隠しながら春日に近寄っていった。ふふふふふ。見ろよこの無様な敗者を。人でありながら大地に四つん這いになって、まるで家畜のようだぜ。そうだ、貴様は家畜なのだ。私は天才だ。天才はマスコットになってはならぬ。皆から尊敬され、畏怖されなければならぬのだ。だから家畜である貴様は皆のマスコットとなり、皆に愛でられてバカにされるがよい、あははははははははは。
皆が近寄ってくるぞ。ほら皆の者よ、私を褒め称えるがよい。そして尊敬するのだ。
「ちよちゃんがんばったねー」
「うんちよちゃん可愛いね」
うんうん、それでよい。そしてこの人生の落伍者をコケにせよ。
「春日さんってけっこう運痴なんだね」
「意外ー」
そうだ、そして私へのこれまでの扱いを是正するのだ。
「あ、みんな走り終わったみたい」
「今日はつぎなにするんだろう」
え? それだけか? おい、なぜみんなこいつにそれ以上なにも言わないのだ。
不安を胸に抱きつつ、授業はさらに先に進む。私の努力はいったい……
今日はどうやらバレーボールの練習をするらしい。球技といえばこれまでの最高レベルがドッヂボールていどだったので、いきなりの本格的なやつに私の好奇心は充たされた。ただこれは高さがないと無理な競技なので、私のようなチビにはどうも出来ないもので対策に困る。
「じゃあ2人1組になってトスの練習――」
練習といっても私と体格の合う者など誰もいない。どうすればよいのだ? と弱り果てていると、春日が近寄ってきた。
「ちよちゃん一緒にやろかー」
ほう、そう来たか。もしかして体力が近いからなんとかなるとか? あるいは先ほどの雪辱でも果たそうとしているのか? ふふふ、受けて立とう。私も貴様ならなんとかなるやも知れない。アタックは無理だが、トスの練習ならドーピングの効果も期待できるだろう。
春日の球が来たぜ、よし、この私のミラクルトスで返してやる!
すかっ。
え?
べん。
「にゃ」
うう、手の間を抜けて頭にジャストミートだぜ。これではサッカーのヘディングじゃないか。ああ、春日が笑ってる。くそう、だめだ天才の名に恥じぬようちゃんとしないと。
ほい、返したぜ。
すかっ。
ぼん。
「う」
あはははは、おまえも私とおなじかよ。貴様こそサッカーしてるんじゃねーぞ面白いやつだな。よし、また来たぞ今度こそ!!
すかっ。
ほえ?
べん。
「にゃ」
……だめだ。これはドーピングなど無意味だ。これは……私って、もしかして思った以上に運動音痴なのだろうか? あ、みんなこちらを見てくすくす笑ってる。やめてくれその目は! その私を優しい視線で見るのはやめてくれ、それはバカにしているんだ、そうなのだ。私はお子さまではない、私は、私は天才なんだ信じてくれよ、なあ……マスコットなんてもういやだよー!
うわああああああーん!!
「あー、ちよちゃん泣いてもうた」
は! しまった! あああ、涙が止まらねえー。うわあーん!
「泣いたらあかんねんで。かわいい顔が台無しやー。痛いの痛いの飛んでけー」
頭なでなでだとぉー? ふ、ふざけるなー!!
「ちゃうねん」
「おお、一発で泣き止んだ……ちゃうねん?」
Sという人物の属性を検証している。彼女はどうやらネコが好きなようだが、他にも好きなものがあると思われる。
今日はうさぎで調べてみる。用意したのは2体のうさぎ人形だ。1体はリュックで、雇った人に背負わせてSの前を通過させた。するとSはうさぎを追った。反応があったので実験に入る。バイトに連絡して自販機でジュースを買うよう指図する。Sはバイトが屈んで背負ったうさぎリュックが揺れるのに合わせ、体を傾けた。まるで子供のような興味深い反応だ。
今度は私自身が巨大なうさぎぬいぐるみを持っていかにも大変そうにSに近づく。すると案の定Sはぬいぐるみを持ってくれた。ぬいぐるみ内には各種観測装置がついていた。後で回収した数々のデータから、Sが幸せな気分でぬいぐるみを抱いていたことが分かった。どうやらうさぎも好きなようだ。
まだネコとうさぎでしか確認できてないが、Sの属性は「かわいいもの」の可能性が高い。属性が「動物」であるなら、作り物に対してあれほどの反応は見せないはずだからだ。
調査を継続する。
73 THE SINKING SERVICE (アニメ版4話2~3【原作1巻43P相当】)
プールだぜ! 準備体操だぜ! 泳ぐぜ!
お、暴走バカが1番乗りだとー? そうはいかないぜ、私もいくぞ――くっ、わずかな差で間に合わない。
「いっちばーん!」
言われたし……しかたない。
「にばーん♪」
すくなくとも私の後にはまだ数十名がつづくのだ。2位でも十分な功績だろう。オリンピックだとメダルは3位まで貰えるのだから。
水に浸かって、高校にあがってはじめての冷たさを味わう。
うーん、いい感じだ。さて。
ちょんちょん。
あれ?
ちょんちょん……
……ない。
あしが、足が届かないーー!!
しまった! 1番乗りになることばかり考えて、深さを――ぶくぶく。
22 なまこが一生 (アニメ版3話2+SF【原作巻49~50P時系列】)
昼休みでくつろいでいると、教室に自己中担任が入ってきて 「バスケットやるぞ」とかで体育館に連れてこられた。 こいつの思考パターンはわかっている。どうせ同僚が人気があるのをくやしく思い、トリの脳味噌で無謀にも人気稼ぎをしようと考えたのだろう。私にはさらにその先が見える。すぐに目先の勝利にめがくらみ、目的を忘れて暴走するはずだ。
私は頭はいいが体力はない。この自己中の一時の満足のためにせっかくの昼休みという時間を、一生のこの瞬間にしかないとある日のとある平和なはずの昼休みを、実に不快な思い出に塗り込められたらたまったものではない。犠牲になるのだけは避けないと。だが西から来たボケのチームに入らされ、しかもチーム名はなまこ。やはり自己中め、かくじつに勝てる手に出たか。
試合はもちろん負けまくり。このままだといやな思い出が残る。いろいろと手を考えてみたが、どうやっても無理だ。しかたなく最終手段であるおさげの怪電波を使用した。ふふふ、くだんの体育教師を召還してやった。そらみろ、みんな人気のあるこいつのほうが良いようだぞ。自己中め墓穴を掘って、さらに不人気大下降決定だ。あっはっはっはっは。じつに愉快だ。これで私の平和な昼休みはまたとない素敵な思い出となった。
ざまあみろ。
……だが、なまこチームは変更のしようもなく……くそう、記憶力がよいせいで、脳内変換ができない。
なまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチームなまこチーム……
うえええーん。
7 おいしそうだったのに (原作1巻51~58P)
自己中担任が仔猫を拾ってきた。普段ならその身勝手ぶりを発揮して無視するくせに、たまに先公であることを思い出すところが困る。ほら、また今回もだ。誰か飼えと無理難題を言ってくる。私の家には素晴らしい猛獣がいて、この仔猫はちょうどいい餌になるのだが、すこしみたら小汚いので周囲に合わせて飼えないと言った。隣でのっぽのバカがなにか泣いている。あまりの小汚さに憐憫の情でも湧いたのだろうか。そうだ、とりあえず綺麗にして食わせようと思い、仔猫を引き留めるためにみんなで飼おうと提案した。
するとまた自己中の牝がいけないなどと言いやがる。いいじゃん、どうせ猛獣の餌になるんだから。大阪のバカが高尚にもねこまんまの起源について聞いてきた。本当は知っているのだがあまりお利口ぶりを発揮すると睨まれるので適当にぼかしておいた。話が進まず自己中担任がその本性を顕してキレかけたとき、智のバカが自分が飼うなどととんでもないことを言った。一瞬しまったと思ったが、保健所が近いんだとボケたのでほっとした。とりあえず泣くマネをして智の腰を折った。
仔猫がにあーと鳴いて起き出したので、チャンスとばかりに一番で触った。小汚いが、実においしそうだ。猛獣にだけでなく、私も食べたいと思った。韓国みたく死の恐怖と絶望を最大限に味あわせ、旨味を凝縮させて残酷に殺そう。だがここであまり長時間抱いていると他のバカ連中が私の野望に気付くかもしれないので、セオリー通り回してやった。するとあろうことか、のっぽのバカが仔猫を怖がらせ、逃がしてしまったのだ! バカバカ、この野郎。
このときは美味しい餌が逃げたので、本当に涙が出た。自己中担任は大丈夫と野放図に語って場を納めたが、どいつもこいつもバカばっか。
保険体育のテストが返ってきた。点数は92。まあまあだ、と思ったら、智がなんと100点!
あほうに負けた……
……きー! はっ! 暦さんに表情を見られてしまった! ああ、隠してきたのに。負けず嫌いってことを。たしかにこの年で5学年も飛び級するからには、そういう傾向が人より強くないと当然無理だろう。だが年上に囲まれてうまく関係を保ってゆくには、自分を年齢相応にかわいく見せないといけない。まちがっても生意気なように取られる行為は慎まないと。暦には見られた以上、しかたがない。彼女とは今後、交友関係を結ぼう。自分を守るにはそれしかない。
……あ、もしかしてそれは、自動的に彼女の腐れ縁である、智のくそバカも同様ということではないのか!
うーむ……ああ、なるほどな。ということは、おもいっきり自分を出せるってことか。ふふふ……ふふふふふ……あははははは!! 私が智に総合的な学力で劣っているはずがない。かならず復讐する機会はあるぞ。つぎの英語だ!
英語の授業の最後で、テストが返ってきた。休み時間になってさっそく後ろの智に聞き耳を立てる。
「英語って保体とおなじ日にあったよね」
「あはは――おかげで35点さー」
はあ? 35点ですってえ~~??
それって、赤点境界オンラインじゃあ~りませんこと?
バカだ。真性のバカだ。ふふふふふ。復讐決行! 胸の内で溜めた優越の感情を、顔に集中させて、一気に振り向く。どーだっ! ってオーラを発散し、イヤでも気付かせるぜ。気付いた瞬間に前に戻す。ふふふ。最高のタイミングで攻撃完了。
「おー! なんだこのガキやるかー!!」
あはははは。知るか。どうせこれから仲間になってやるんだからよう。せいぜいわからない問題の質問なり宿題写しの頼みなりしてくるがよい。こちらはそのたびに優越に浸ってやるぜ。あはははは。
……まてよ、もしかしてこれって、私が智にいじめられるきっかけになりはしないか? いやまさかなあ。これから2年半もあるのに、まさかなあ……
夏休みだぜ! 海だぜ! 泳ぐぜ!
みんなを引き連れて別荘に来た。荷物を置いて水着に着替え、さっそくプライベートビーチに出たぜ。ここは私の家のビーチではなく、「私の」ビーチだ。そう、私が株で儲けた自分の金で買った土地だ――むろん金魚のフンどもにはこの事実は教えてないがな、ふふふ。
「海だー! スイカ割りしよーぜー!」
暴走バカが早速スイカ割りをしようとしてるぜ。くくく、じつはそのスイカ、さっきニセモノと取り替えておいたのだよ。ついでに面白くしようとして、アレも隠したぜ。
メガネが近寄ってきた。海辺に来てまでメガネ着用とは変なやつだな。
「棒とかバットとかないかな?」
メガネが質問してきたが、これこそが隠した「アレ」だ。
「ないですねぇ」
そうとぼけた。ちゃんとスイカ割りに使えそうな棒くらいあるのだが、棒で間接的にやると面白くないのだよ、今回の仕掛けはね。つまり、だ。
「あのー、提案があります。素手で――」
「チョップ! チョップでいこう!」
――ったく、暴走バカの大声で私の小声は完全に打ち消された。まあいい、結果はおなじことだ。素手でスイカ割りをするのだ、これ一番。スイカは案外脆く、女手でも比較的楽に割れる。みんな頷いて素手によるスイカ割りがはじまった。
暴走バカが目隠しをして、イの一番と意気込んでスイカに向かった。
「右、みぎー」
「左やでー」
みんな本当のことと嘘を適当に混ぜてバカを混乱させている。ふふふ、見ていてなんと面白いのだ。暗中模索とはこのことだな、足場の悪い砂地の上を、よたよたふらふらと目隠しをして歩むバカ。普段もバカなのに、今のバカっぷりはさらに絵に描いたようだぜ、ふふふ……よし、暴走バカめ、にせものスイカの真ん前に座ったぜ。チョップをお見舞いする体勢に入った。いよいよだ、いよいよだぞ。わくわく、わくわく――
「とお! とお――!」
…………当てろよバカ。
ったく、暴走バカにこそ遭って貰いたかったどっきりなのに、なんでもう……次? 次はそうだな、大阪とかどうだ?
「ちよちゃーん、やってみー」
え? いやあのそんな、私は最後でいいですよはい。
あうあう……押し切られてしまった。表には白い素直な猫の毛皮しか見せていないため、どうしてもこういう部分で自由意志がどうにもならないことがある。
まあよい、適当にめちゃくちゃに歩いて適当にちょっぷをすればいいさ。
目隠しをして、視界ゼロ。くるくる数回まわって、平衡感覚がずれた。
「左だ、左~~」
「そのまま真っ直ぐいけー」
ふっ、なにを言うかおばかさん連中め。この私が目隠しをされたぐらいで位置関係を見失うとでも思ったか。目隠しをしても隠しきれない視覚情報がある。それは太陽だ。太陽がある方向を見るとかすかに明るい。そして波の音だ。この2つの情報で自分が向いている正確な方向くらい理解できる。スイカの位置もだ。あのスイカは私の歩幅にして12歩のところに置いてある。さて、外界の音を無視して、私は自分の信じた情報に基づいて……
1、2、3……8、9、10。よし、ここで大丈夫だ。あと2歩ぶんある。ここで座って、砂地にチョップをすれば私は「惜しかった」という評価を貰えるはずだ、ふふふ。
ちょーっぷ!
ぽす。
「へ?」
「さすが天才、スイカの位置変えたのにすごいや」
え、あの? 暴走バカさん、あなたが?
ちゅどーん!!
74 秘技ねずみ返し (アニメ版5話4【原作1巻85P相当】)
私のブルジョアぶりを見せつけようと連中を伴って別荘に来ている。浜辺で花火となったが、その花火も100%私のおごりだ。ふふふ。ありがたいだろ、褒め称えよ。
そんなときだ、背後に禍々しい気配を感じた。ほほう、大阪のボケがなにかしようとしているな。この音は、あのねずみ花火だな……私の尻のすぐ下に配置したわけだ。ふふふ、だがそのねずみ花火には細工が施してあるのだ。元々私がおまえを驚かそうと思って用意した特注品なんだからな。それを選ぶとは、貴様もあさはかよ。右手に隠したこのスイッチを押してと――ふふふ。
ほらほら、いつまでたってもぜんぜん花火が発動しませんねえ。導火線がめちゃくちゃ長いんですかねえ? ――気になるかボケさんよう。ほーらほーら、気になるなら確かめに近づけよ、よしそれでいい。あと2歩、1歩……いまだ! スイッチオン!
ぼんっ!
「うわあぁー!」
あはははは! 驚いたか、驚いたかボケちゃんよ。よかったぜ。こいつはシュルシュルとは回らず、遠隔スイッチで煙を出すタイプなんだよやーいやーい。面白かったぜ。
あー、楽しかった。私はその気分を維持したままのこりの日程もすごし、無事に家に帰ってきた。
「わんっ」
お、下僕1号よ、元気だったか。よしよし、散歩に連れて行ってやる。着替えてくるぜ。待ってなよ。え? 服をみんなクリーニングに出して帰ってくるのが夕方? しかたがないな、合宿中に着ていたやつで比較的汚れてないやつに着替えよう。
なんか町の連中の視線が気になるなあ。いくら私が世界一かわいくてプリティーで天才な美少女だといっても、いまはラフな格好なのに。どうしてだろう。奇妙に思いながら散歩をつづけていると、大阪のボケに出会った。
「ちよちゃーん」
夕食の買い物のようだな。ブルジョアの私は優雅に犬の散歩だが、おまえは帰って早々食糧調達か。そのへんが小市民と私との絶対的な差なんだぜふふふ。
「うしろー」
「えー? なんですかー」
ボケがあうあうと半分焦ったように私の腰の辺りを指差してくる。だが別になにもおかしなところはないが。
「なんですかー?」
「……あかんわ!」
ボケは走り寄って、耳元で囁いた。
「今日はストライプやったんやねえ」
「な、なんだってー!!」
よく見ると、お尻にシルク製の白と水色の旗があらわれておりました。
ネ、ネ、ネズミ花火でズボンに穴が開いてたんですよぅ……エッチなのはいけないと思います。
新学期
自己中だるいと
いとおかし
ちよ
目立つと苛められるので、目立たないよう努力してきたつもりだ。しかし飛び級という事実はそれだけで私を目立つ存在としてきたようで、幾人かに目を付けられてことあるごとに軽いいじめを受けていた。
そして今日、クラス委員長を決めるとかで事件が起きた。バカ智の無謀な立候補を阻止しようとするゆかり自己中が、なにを思ったか私を対抗馬に推薦しやがったのだ。これ以上目立ったらよりとんでもないことになりそうで怖い。最近私のおさげを注目しているボケ大阪などがさらに精神的な細々しい苦痛を与えてきそうだ。
そして――予想通り、私が圧倒的多数で委員長に祭り上げられてしまった。私もじつは自分に投票している。それはなぜか? バカ智が委員長になり、横暴のかぎりを尽くすのが許せないからだ。あやつが今後も私を一番にいじめるであろうことは想像に難くない。引き返せない道ならば、その中で最良の道を選ぶべきだろう。
さて、祭り上げられたからには、皆を味方に引き込んでなんとかいじめられるのを回避しないといけない。私は緊張しているふりをし、教壇に頭をぶつけて皆の同情を得ることに成功した。これで2学期はなんとか無事にすごせそうだ。委員長の権力を利用し、なんとかバカ智のちょっかいを防いでみせよう。
大阪や智はよく顔が壊れる。いくつか伝統のパターンがあり、実に個性的だ。人にないもの、勝つことに興味がるためそれが秘かにうらやましかったが、このたび私もひとつの壊れるパターンを身につけた。トラウマを得たのだ。
自己中担任の車に乗っておじいちゃんをひき逃げした記憶が実に鮮明に記憶野の一部にこびりつき、海馬の神経連結が強く働いて強固な条件ネットワークを形成した。このトラウマによって私はその気になればいつでも白くなれる。おそらく大阪も智も、脳にこういう強いパイプを幾つか持っているのだろう。簡単なことだった、強烈な体験をすればよかったのだ。お利口のあまり、これまで順風満帆に来すぎたのがいけなかったのだ。そのお利口も自己中には一切通用しない。やはり人生行路に予期せぬ波乱は必要ということだ。
気付いた日には嬉しさのあまり家でずっと白くなりまくった。両親が心配していたが、見た目とちがってこちらは嬉しかったのだよ。すまんな心配かけて。人には人ごとに喜びかたがある。
二学期がはじまったけど、暑い。とても暑い。なぜクーラーは職員室にしかねーんだよ。ったく先公どもめ、いい思いしやがって。私にも涼ませろ!
授業で使った教材を第三資料室に戻す役割をお利口なお人好しのふりをして智から奪ってやったぜ。ふふふ、これで職員室にいける。第三資料室は職員室の隣にあるからだ。用事をあっというまに済ませて、職員室で気持ち良く和んで涼んでいたら、離れたとこで自己中担任がなんと「教室にクーラー入れて欲しいわ」とか抜かしやがった! なんだとこの野郎! それににゃもが当然反論するぜ。体育教師も大変だよなあ、この残暑厳しい中、炎天下だもんなあ。
「そんな事はしらん」
なっ!! ――こいつ、殺す! きっとにゃももおなじ意見だろうぜ、かすかに震えてやがる。まったくなんてぇ教師失格な奴だ。
よかろう、私が教室でも涼しくしてやろうじゃないか。
私はその夜、雨を呼ぶ機械を作った。
暑いので下着姿で作業だ。誰も見てるやつはいないので平気だ。
家の地下で、巨大な雨蛙がげこげこ鳴いている。
こいつが雨を呼ぶのだ! ふふふふふふ。
――大雨よ降れ降れかあさんが、蛇の目でおむかえうれしいな。蛇の目ってなんだろう。怖いななんとなく。そんなのどうでもいいや。
よーし、完成だ。鳴け、叫べ、雨を呼べカエル!
「げこげこー」
大雨を降らせてやるぜ。わはははは。
「――ちよちゃんハアハア」
……なんだ?
夢の中で、なにかイヤな台詞を聞いた気がした。
朝からずっと雨だぜ。まったくこの日は涼しくて快適に授業を受けることが出来たぜ。それでいて職員室は相変わらずの冷房状態で、自己中教師、急性のクーラー病にかかって保健室に運ばれてやんの。ふふふ、ざまあみろ。
復讐も済んだし、そろそろ帰るとするか――あれ? なんだ? 雨がひどくなって来ているぞ?
――なんだこの大雨は? 私はこんなにひどく降るように設定した覚えはないはずだが?
トイレの個室に入って端末を出し、カエルと連絡を取る。
「おいカエル、もういい。止めろ」
『ゲコーゲコー』
「え? 永遠の愛を探したい? なにを言ってる貴様」
『ゲコゲコゲコー』
「世界の中心で愛を叫ぶだって? ばかか貴様、おまえはカエルなんだぞ!」
『ゲコゲー』
「カエルにも人権があるって……おまえ機械だろ!」
『ゲコゲコゲー! ――プッ』
うわ切りやがった。
理由はわからないが、なにかに目覚めてしまったみたいだ。というか、なんか「ご主人さまと結婚させろ」とか言ってた気がするが、どういうことだ――というか、ご主人って私じゃねーか。
意気消沈して教室に戻ると、智の暴走バカが「私どしゃぶり大好きー!」とか叫んでいるところだった。バカかおまえ? こういう奴にかぎって、本当は恐がりなんだよな。
「でもなんか雷がなりそうな……」
とちょっと脅かしてやろう――としたときだった。
カッ!!
「き、にゃーー!!!」
なんだ? 光った? ええええ?
「あー! あー! 机のしたに――!」
「それは地震」
へ……?
私は机の下で体育座りをした状態で、我に帰った。のぞき込むメガネデブが、「動揺しとる動揺しとる」と言っている――
しまった……墓穴……
「ちよちゃんカエルのパンツだー」
げ、よりによって暴走バカに見られた。
そうだよ、雰囲気を出すためにカエルのパンツ穿いて昨夜作業したんだよ。カエルのパンツ一丁でな。
――ああ! そうか、わかった。だからカエルの野郎、私にハアハアなんかしたのか? リボン付けたメスのカエルだしなあ、これ。
……どうしよう。家に帰ったら、なんかヤヴァいことになりそうな気がする。
今夜は戦争になりそうだ。
女子高生とか好きな木村に「これはこれで」と言われた。
……だー!! おぞましい。なんと身の毛がよだつことか!
コノウラミ、ハラサデオクベキカ……
やつめの身辺調査をしてみる。ふむふむ、妻と子が1匹ずつ。まさか扶養家族がいるとは。家に張り込んでみる。奥さん、美しいな――ん、あれがお子さんか。
か……か……かあいーじゃねーか!! たまりましぇーん。しまった、百合の血が騒ぐぜベイベー。我慢しねえとな。どういう遺伝子の繋がりだ? 病院で調べると実子だな。
あのお子さんで復讐するのはダメだなあ。いつか頂くとして、奥さんを利用するか? 奥さんきっと木村に手込めにされたんだろうな。しかし彼女の周囲を調べてみると、どうも予想とちがう。恋愛だったようだ。しかも大往生、いや、大王道の劇的な恋愛劇。たしかに木村があれじゃ、奥さんの両親猛反対だろうし、当の木村の身内まで揃って反対したらしいな――その大反対を押し切って結婚し、勘当同然で引っ越して今の仕事を得て……奥さんとお子さんだけ両家への出入りが許されていて……
…………。
思わず同情するぜキムリンよう。おまえのその性癖がどこから由来しているかは知らないけど、最初は今ほどひどくなかったようだなあ。周囲から否定されていくうちにしだいにひどくなり、今の性格になったのか。たしかにうちの学校のような変わったところでない限り、おまえのような半分社会不適応なやつが就職できるわけねえよな。うちの学校のスカートの短さやブルマ維持からして、校長や理事長あたりの思惑が見て取れるものなあ。
奥さんからして、おまえのそのあまりのふがいなさに強烈な母性本能というか守護してやりてえって思ったみたいだな。いるんだよな、そういうヒモを囲いやすい体質って。立ち直って、そして今はちゃんと働いているんだよな、偉いよ。
すまんなあ木村よ。あんまりみっともないんで、すっかり復讐する気がうせたぜ。かわりになあ、思いっきり笑ってやるけどな。
あーひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!
しもべと共に散歩していると、木偶が通せんぼしやがった。どうやらしもべの忠吉にひどく興味があるようだ。かわいがりたいらしい。ふふふ、うらやましいか? そうかそうか、貴様のような貧乏人には到底飼えまい? よーしよーし、今回は特別に許してやろう、さあさあ、しもべの頭を撫でて悦に浸るがよい。そして家に帰って、その幸せが一時の幻でしかなかったことに渇望してのたうちまわるがよい。ふふふ……
ふふふふふ……
ふふふふふふふふふ……
…………
おい。
い つ ま で 撫 で て る ん だ よ !
「あの……そろそろ」
「これだけ大きいと乗れそうだな……」
30分も撫でてて一言の謝罪もなしかい。
よし、貴様のような無礼者には、さらなる嫉妬を与えよう。
私はしもべに乗って見せた。そうなのだ、こいつは私が疲れたときに、馬となる便利な存在なのだ。ふふふ、見ろよ、木偶がじつにうらめしそうにしてるぜくくく。よしこのままこんな鬱陶しい木偶とはおさらばだ、いくぞしもべ、散歩のつづきだ。
「……いいなぁ。忠吉さんいいなぁ……」
くくく、木偶めよだれを垂らしてるぜわはははは。
私はじつに楽しい気分で家に帰ってきた。
「わんっ」
なんだしもべしきりに頭を脚で掻いて――痒いのか? そうだよな、あんなに長時間おなじところを撫でられ……もとい、擦られたらな、生え際の毛根が痛むだろう可哀想に。まったくあの木偶め、私のハイソサエティの象徴に傷を付けやがって、おいおい大丈夫か? なでなで、痛いの痛いの、とんでけ~~って、すまん、つい痛んだ箇所に触ってしまった。大丈夫かしもべ。
私は犬用の皮膚の薬をしもべに塗ってやった。その夜は実に食が進んでいた。木偶めに一泡吹かせてやれてうれしかったぜ――
「ちよ、どうしたのその手」
「なんですかお母さん」
「いや、あの……なんか、ちょっと腫れてる? 見せて」
「ええ?」
母が慌てたように私の手を取った――って、なんだこりゃー!
私の手に、妙なぶつぶつが出来ていたのだ!!
……翌朝、しもべの頭も毛が抜けて大変な有様になっていた。私の手も本格的に腫れ、熱も出たことから数日の休みを余儀なくされた……原因はついに不明だった。
謎の保菌者である木偶は、ずっと平気だった。
英訳を指名されて黒板にすばらしい流暢な筆記体を書いていると、暴走バカが一言。
「低くて見えないよ」
……く、屈辱だ。たしかに暴走バカは前の席がやつより背があるメガネブスで見えにくいだろうが、そもそもそういう席順で文句なく平気なバカ(普段から黒板を見ていない証拠)が悪い。だが私は天才。いくらチビでも、天才である以上その辞書に不可能などない! そう、天才とは1%の発想と、99%の汗なのだ。汗こそ大事、というわけで努力だ努力。飛び跳ねて、飛び跳ねて、より高いところに書いてやる!!
ぴょん、ぴょん。
「あ、ごめん……跳ねなくてもいいから」
――だめです。それは天才の名に恥じること。諦めるわけにはいかへんのやーって大阪ボケじゃあるまいし。
ぴょん、ぴょん。
はあはあ。見ろよ、ふふふ。ちゃんと書ききってみせたぜ。すごいだろ、えっへん。
「あー、ちよちゃん?」
なんだ自己中担任よ。
「上手だけど、筆記体だと読める人半分もいないの。私が高校生のころはみんな筆記体だったけど今はほら、大半の中学が教えてないから。私自身は筆記体読めるから、テストで書いても採点するけど、黒板に書くときはずっと活字体でしょ?」
……はい?
「悪いけど、横に書きなおしてくれる?」
後ろを振り向くと、みんな頷いてました。私は茶運び人形のようにカクカクと黒板に向かい直したのであります……。そして。
――ぴょん、ぴょん。
75 お遊び (アニメ版6話2~5【原作1巻118~124P相当】)
私は勝負が好きだ。いや、勝つのが好きだ。もちろん体育祭でも勝ちたい。勝ちたいけど、私は体力が小学生でしかない。だからみんなの足を引っ張るのは確実で気が引ける。
最初の競技がはじまる直前、天才だからか激励の言葉を求められた。はい、がんばりましょう。でも、私のせいで負けたらどうしよう……あの、え、お遊び? そそそそうですよね。体育祭なんてお遊びですよね。
ああ違うって、ちがうってなんですか自己中先生、必勝なんてそんな覚悟、いくら勝つのが好きな私でも持ってませんよはい、さすがに今回は気弱です私……
そのときだ、私の頭をぽんと叩く温かい手が。
……木偶の坊。
「大丈夫、任せろ」
――え? まさか私を励ましてくれた? これは――ありがたいぜ? いや違う。この私が木偶の坊ごときに元気を貰うなんて、あー!
こうなったらいたずらしてやる。
借り物競走で、ひそかに「スクール水着」を混ぜてみた。あはは! 5組の神楽ってのが引っかかったぜ。
フォークダンスでは参加人数を操作して、榊を男子のほうに入れさせた。あはは! 困惑してるぜ木偶の坊。うん? かおりんのときとは妙に合ってるな。百合っぽいぞ。その直後のキムリンとの落差が激しいぜ。まるで死にそうな顔だな。ふふん、かおりん木偶の坊が好きなのか。
キムリンがしだいに私に近寄ってくる。あいつと踊るのはいやだが、私はちゃんと計算している。抜かりはないぜ。ほら、寸前で終わった。キムリンのやつ、私を見て残念そうにしてるぜあはは。
そのときだった。
「アンコール、アンコール」
ちょ、ちょっと待てよおい。
「アンコール、アンコール!」
あうあうあう……げー! 音楽はじまった。
「ようこそちよちゃん、つぎは私でーす」
あうあうあうあうあうあうあう……あーうー!!!
「楽しいかーい、ちよちゃーん!」
あうーーー!!!!!!
私は勝負事に負けるのが嫌いで、運動も例外ではない。個人競技はどうしようもないが、団体戦となると話はべつだ。頭を使い、なんとか勝つ。
このあいだの体育祭は「私のせいで」と泣き真似をして皆の奮起を誘い、自分の競技は勝てないことがわかっているものや点数とは関係ないものに集中させた。これら最大限の努力のおかげでなんとか勝てた。ふふふ、愚民どもよ、私の頭脳に感謝するがよい。
今日、春日歩がまたもや面白い現象を見せた。お昼に弁当を屋上で食べたのだが、天気がいいのを見て「飛べるかも」などと言っていたのだ。それが半分本気であるのを知っていたため、思わず服を押さえてしまったのは私の不注意であった。観察対象に干渉してはいけない。春日歩の放置研究はまだはじまったばかりなのだ。つまりは彼女が実際に確かめたとしても、それを止めてはならない。もちろん私が止めなくても周囲が止めるだろう。それはそれで自然な行為であるから、妨げにはならない。現象の一部と、彼女が周囲に与える影響として記載できる。あくまで観察者本人が干渉してはならないだけなのだ。
それはともかく、この現象にはまだつづきがある。さらに高いところで食べると気分がいいという言葉に、春日歩は階段登り口のさらに上を見ていたのだ。先の連想が、まだ尾を引いていたわけである。これは夏の合宿でまた聞きした痔・イルカのエピソードに近い。そのときも思わず服を掴んでしまったのは失策であった。
どうやら私は彼女を徹底的に信用していないらしい。いや、そもそもまるで動物でも見るようにこのような記録を取っている時点で危ない。まるで宇宙人が地球人に混じって観察しているかのような文章であるが、その実は暇つぶしになにげなくはじめたお遊びが本気の研究になってしまっているだけだ。
ともかく彼女の行動パターンにまたひとつの法則を見出した。今日の収穫はおおきい。今後もひきつづき春日歩の観察を続行する。これは将来私がなにかの研究者になるときの予行演習として役に立つだろう。彼女には悪いが、その踏み台になってもらう。もちろんなんらかの形で御礼はするつもりだが、この記録は絶対に見せるわけにはいかない。人権侵害になるからだ。
さて、つぎは智ちゃんの記録に移るとする。今日は――
目安箱でぬいぐるみ展覧会と書いたのはだれだ? という話題が秘かに交わされている。私が疑われているが、いくら私が子供っぽいというか子供そのものとはいえ、ある意味不名誉なことだ。人によっては名誉に思うかうれしいかも知れないが、はやく大人になりたい傾向の強い私にはそういう感情はない。ここは一念発起し、ぬいぐるみ展覧会と書いた犯人を突き止めてやる。
犯人候補はこの4人だ。他にはいない。平々凡々で普通の女の子な千尋さん。いつもキャーキャーいってるかおりんさん。なにを発想するかわからない大阪さん。秘かにいつも猫のパンツを穿いている榊さん。
まず千尋さん……彼女は普通にすぎて、容疑者に残った。普通すぎることがかえって特徴となっていて、彼女は意外と目立つ。女の子っぽい発想もグッドだ。ただ彼女には目立ちたくないという思いもある。それも普通だ。だがそれは匿名にすれば関係なくなる――そして実際匿名だった。だが、致命的な要素に思い至った。彼女は普通に面倒臭がりだった。いくら匿名でも無理っぽい。なぜならば匿名性を守るためには、目安箱に入れるところを見られてはいけないのだ。これは実に面倒くさい! こいつはちがう。
つぎはかおりんさん。そういえば本名を知らない。彼女は榊さんの周囲にいつもいる。どうやら百合らしい。百合の世界はよくわからないが、榊さんが関係しないことにおおきな労力を割くとは思えない。彼女も普通のことに関する面倒くさがり度は通常のレベルだ。よってないと見る。
大阪さん。彼女の発想力には実に驚かされるが、ピント外れが多い。それがぬいぐるみ展覧会のようなすばらしい答えに行き着くだろうか? それゆえ私が疑われているのだ。だが大阪さんとてたまにはホームランっぽい、私を思わずうならせることを言う。だから無視できない。まるで清原選手のようだ。彼女はかなり有望だ。できれば大阪さんであれば話は早い。でも――残念ながら、それはない。というのも彼女なら、まちがいなく大阪弁で書くはずだからだ……匿名にもするまい。だいいち一人で行動しているのをほとんど見たことがない。たいてい誰かといる。誰かに隠れて投稿するというのがあるだろうか? いやない。
最後は榊さん。彼女は背がクラスで一番高く、私は一番低い。だから私は榊さんの下着を週に1回は見てしまう。その際、たいてい猫のパンツを穿いてる。かわいい性格だ。そして彼女は一人きりでいることもよくある。もしかして今回のぬいぐるみ展覧会を希望したのは、彼女ではないだろうか? そういえば進路希望で花屋さんとか獣医さんとか書いていた。いい人なのだ。頭もけっこう良く、このぬいぐるみ展覧会という見事なアイデアを思いつくに申し分ない。
……だが、問題は私以外の人間が、榊さんのこういう隠れた本質をほとんど知らないことだ。かおりんさんにしても間違いなく彼女の幻想を追っているように思える。つまづいた……どうやって彼女の本質を皆に……うぬぬ……しかたがない、このあいだ手懐けたボス猫に、なにか頼んでみよう。
文化祭で使った猫の着ぐるみをもらった。
よし、これで忠吉めを驚かせてやろう。ふふふ。
「ただきちさーん」
わんわんわんわん!
ふふふ、成功だぜ。忠吉め、すっかりおびえてやがる。ピレネー犬のくせに情けないぜ、面白いぜー!
「ちよですよー」
わんわんわんわん!
わはははは、後ずさりして尾が完全に下になって服従ってやつ? もう一押しだぜ!!
「ただきちさーん!」
わんわんわん!!!
がぶ。
ドッヂボールをしていて、私だけ残ったぜ。いやーん、ボールが来たよー。うわーん、また来たよー。
頼む、誰かとどめ差してくれ。生き恥をさらしたくねー。
5分後。
いやーん、ボールが来たー。うわーん、また来たよー。
10分後。
いやーん、ボールが来たー。うわーん、また来たよー。
15分後。
キーンコーンカーンコーン。
88 勝負師 (アニメ版17話5+原作1巻159P)
カラオケに行った。ボケは65点か、けっこういい点数じゃねーか。テストよりいいなー。そうか、点数が出るんだよな――そうか……。よし決めた。勝ってやる。それが私の生き様だ。
暴走バカは72点、木偶が意外と上手くて88点! これで目標は89点に定まった。あ、まだ私の前にメガネがいたな。いろんなことを一定水準以上にこなすから、歌も上手いかも知れない。これは要注意人物だ――
……あんぎゃー! へたくそすぎるー、やめてくれー。それは騒音だ、暴力だ、ジャイアンソングだ、公害だー!! ――はあはあ、やっと終わったか。安息が戻ったぜ。平和になったぜ。点数は?
『50』
ま、待てよ。なんだそれは、なんだこの高い得点は! どうやったらこんな評価になるんだおーい採点機よ? せいぜい5点が関の山だろーが。まあいい。どちらにせよメガネは最低点なわけだから優秀な私には関係ないね。採点機がなにやら煙をあげているな。メガネのせいで壊れかけてるんじゃねーか?
さてと、いよいよ私の出番だな。本命登場だぜ。じつは私はお稽古の一環で演歌もやっていたのだ。高い授業料でプロを呼び1対1の指南を受けていたから、私の歌唱力は保証書付きだぜ。そのへんのチャイドルなぞ足元にも及ぶものか!
あー……あれ? なんか変だぞ。音程が半音ずれている? やばい、これはメガネ悪影響だ! ――なんとかして修正しないと。よし、これでいい。ちゃんとうまく行ったぜ。ふふふ、上手だろー。みんな静かに聞いているぜ。あはは。聞き惚れてなにも言えまい。
――あー。気持ちよかった。どうだ! すごかっただろ。
「ちよちゃーん。えらいね。上手かったやんー」
そうだそうだ、褒めろ。点数もすごいだろうぜ、さあ表示しろ! こら、なに煙を出したままなんだよ。メガネとちがって私の歌は賞賛に値するものだっただろうが!
『49』
……へ?
つぎの瞬間、採点機が光った。
ぼんっ!
30 結果はおなじ (創作+原作2巻14~16P)
「ちよちゃんはなんで飛ぶのん?」
「……はあ? なに言っとるんやこのボケ! 爆撃するぞ 『どこまでもな』」
ひゅるるるーん、ひゅるるるーん。
どかあぁぁぁーーーん! どかあぁぁーーーん!
「あああ! ごめんなさいごめんなさい」
「あははは! ただいま激しく爆撃しております! 『なんやっちゅーねん』」
「ちよちゃん、あのおさげに操られとる! ちよちゃん助けたる!」
「なに言ってるんですかあ? この私を倒すとでも? ははは! 無駄無駄無駄ぁぁぁぁぁ! 急降下爆撃で、木っ端微塵にしてやる」
ひゅーーーん……
「いまや!」
ぽんっ。ぽんっ。
「『あーべーしー!』」
ぽて。ぱたり。
「ああ……ちよちゃん。なんで動かへんの? そんな変な笑み浮かべて固まってないで、起きてやちよちゃん――うわああ、ちよちゃん殺してもうた。こんな私なんか、どっかいってまえー」
かちっ!
ぱたぱたぱたぱた……
天才なのであらゆる勉強が必要だ。最近は女の子ながら18禁ゲームをしている。シナリオ重視のものが面白い。さて今日はどれをしよう――なんだ、メガネと暴走バカが帰ってるぞ。寄り道か。この幼馴染み、2人だけではどういう会話をするんだろう。案外、怪しい関係だったりして。隠れて調査だ。
ふっ、18禁ゲームをしてると邪推というものをしがちになってしまう。こういう発想はくだらないが、けっこう面白いぜ。調査という名目のノゾキも心が躍るものだ。暴走がたいやきを買ったぞ。盗まないのか? ……いかん、それはKANONだって。
「うめぇー!」
できればもっと他のセリフで言って欲しい。うぐぅ。
天気女なので逆さてるてるちよちゃんに挑戦だぜ。足を縛って、ほら吊られるぜー! おい待ておまえら、スカートが盛大にめくれてるだろー! 押さえろよ! 舶来シルクのパンツ見えてるじゃねーか、こら下から見てるキムリン、なに写真撮ってるんだー!!
ハアハア……ジャージ穿いて再トライだぜ。がんばるー! 今度はちゃんと私の逆さパワーが天に届いているだろうぜ。なんだキムリン、なにまた写真撮ってやがるこの変態教師!
私は晴れ女だ。しかも強力な。晴れたらいいなと思った日はほとんどカラカラ。日記から統計を取ってみると、確率論的には目下1億分の1ほど。偶然と呼ぶレベルはとっくに越えているが、人類の数を考えればまだまだ統計学上の域内であると思われる。
大阪のヴォケがマラソン大会がイヤって言ってる。私も頭脳は高校だが体力は小学生なので、その体格には辛い距離を走らなければならない。だけど私はまったく文句を言うつもりはないのに、根性がないなあこの娘は――仕方がないか。それが大阪だ。
このとき私はどうかしていた。大阪の発想力を考えれば、ここで私が晴れ女だとばらすのは危険だった。なのに私はつい、自慢混じりで明かしてしまったのだ。
そして大阪は逆さに吊ったらどうか? などと言った!そんなアホな? でもなあ……智ちゃんが試してみるかと言ったとき、私の中でなにかが変わった。なぜか知らないけど、つい試してみたくなったのだ。本当に、雨が降るかも知れない。なにしろ1億分の1の女だ。
本当に吊され、頑張った。心の中で精一杯祈ったよ。よし、これで明日は雨だぜ! 証明してやる! そして「やった!」と喜んだ矢先だった。あいつが「んなわけないって」と突っ込んだ。
……もしかして私、突っ込まれました?
あのクソ智野郎に、智野郎に? おしまいじゃないですかーーーー!!! 晴れ女だから、もしかしてなどと思った自分がバカだった。なんということだ! そうだ、天才も失敗する。だから別にいいじゃないか。今回はたまにしかないその稀な事例だ。私は愚かではない。うん、愚かではない。私は天才なんだ、天才なんだ、天才なんだ、天才なんだ。
そして次の日、見事に晴れ。快晴ですなあ。天気予報は30%だったのに、曇りのかけらもありませんなあ。私は別に望んだわけではないのに、晴れ~~。証明されるとかいう以前に、なにか妙な因果が働いてていそう。
マラソンがはじまった。私は最初から後ろのほうを走る。一緒に走ってくれるのは大阪だ。こんなときだけ嬉しい。智のバカは暴走女子高生よろしくさっさと先に行ったが、彼女がすぐに私のところまで来るのは目に見えている。ほら、3キロ地点で死にかけのバカに追いついた。
彼女は自分の考えを語った。どうせ1番になれないのなら、最初だけでも1番になろう。なるほど! 私の中でなにかが叫んだ。そうだ、私は1番にこだわる人間なのに、なぜ最初から勝負を捨てていたのだ。一瞬でも1位になれば、目立つことができる! そうなのだ、勝利する方法は1つだけではない。こんな単純なことに気付かなかったとは、智もなかなかバカにはできない。そういえば昨日からして私を見事に突っ込ませたその実力、いままで過小評価しすぎていたかも知れない。
よし、私もやろう! 今更遅きにすぎるが、来年の予行演習だー!
全力で走ったね、もう。すぐに疲れて息苦しくなり、ぜえぜえとなりはじめて気付いたよ。
意味ねえって。
後で合流してきた智バカにな、言ったんだよ。この生き方はだめですってな、そしたらな、あいつさあ。真顔で言ったんだよ。私もそう思うってなあ。思ってたんかい! 突っ込みたくなったけどさあ。乗せられた私が悪いんだよねおい。……失敗だよおい。
2日で2回もさあ、天才ちよちゃんがね。
泣いていいかい? いやそれより牛の刻参りだよなあここは。
ね、智ちゃん♪
マラソン大会でビリになり、最下位回避を大阪ボケに譲った。固まっていたのでその気になれば最下位は免れたが、ここには深慮遠謀がある。
「はうぁー、最下位だー」
とぜいぜい苦しそうに演技して、周囲の同情を誘った。ほらっ、みんな私を見て複雑な目をしてるぜ。当然だろう、10歳が15~16歳に混じって走ったわけだから。数人が歩み寄ってきた。その手にはジュースが。それは20位以内に入れた者しか貰えない特典だ。それを同情で横取りしようという算段だけど、飲みかけはいらないね。
誰かまだ飲んでいないやつはいないかなあ……おおっ、榊さんが飲んでないジュースを持って来たよ、よかったー。この同情作戦、半分賭けみたいなところがあったからなあ。走った後にジュースを出されて、その場で飲まない確率のほうが低いからね。でも女子の部だから、ダイエットしてる人とかがいて飲まれない可能性もあると踏んでいたんだよな。
ありがたく頂きましたよ。ごくっごくっ……電解質補充だぜ。
あれ? 大阪さんもなにか飲んでいるな。彼女も誰かの同情を引いたのだろうか? まあ彼女なら好いている男子が五万といるから私のような策略など用いなくても――はっ! あれは……あれは豆乳。私がこの世で一番大好きな、目がない豆乳パックじゃん!! しかも500ミリリットル!
「なんやちよちゃん? これっ、これブービー賞や」
うかつだったー! そうだ、世の中にはブービー賞もあったのだ……この学校の自動販売機には、豆乳がない。帰り道のどの自販機にもない。たしかに変わった味だしレアな飲料だが、私は大好きなのだ。ときどき親が買ってくれるのを楽しみに飲んでいる――
「変な味やー。罰ゲームやで」
ちがうんだよ大阪……そこがいいんじゃないかその渋さが。これだから素人は。
「どうしたんやちよちゃん。ポカリなんか差し出して。交換して欲しいんか?」
はっ! 私ったらなんというはしたないことを。でも、我慢できない。頷いた。
「あはは、ええよ。私もそちらのほうがええもん」
ああ――幸せだー。いい味だなあ。和むなあ。いまごろ私、顔が壊れてるよー。
「……ちよちゃ……変わった……」
かおりん? なんだごにょごにょと千尋に小声で。ここは私の地獄耳発揮だ。
「――――春日さんと間接キッスして喜んでいる……うわー、仲間だわ」
一緒にすなー!
背の高い無口女が私の伸びるべき身長を取った。どうやって奪い返してやろう。やはり食べるのが一番か?
木村の奥さんがなにかの用事で学校に来た。智バカやメガネは実物をはじめて見て驚いているが、私は彼女がいかに天然で良い人か知っている。大阪のかすかな毒性を抜いて大人にしたらこうなるだろうな、という感じだ。そのあたりをバカとメガネに披露してやろう。さてと適当な空き缶を――あ、バカが飲んでたジュースを飲み干して転がした……ああ、追いかけてゆくよ奥さん、柱にぶつかってお約束ですなあ。ゴミはゴミ箱へと、よくできました。まる。
……それよりなあ、私の発想がなあ、智バカとね、まったくね、『おなじ』、だった、と、いうのがなあ、個人的に、とってーも、とぉ~~~っても、ショックなんですけどねえ。
しかもな、木村のやつ、奥さんに私のこと話してたんかい。かわいいって褒められるのは光栄だけどさ、あいつの口から伝えられたってのがなあ、こいつも、けっこう、ショック、なんですよ。
あー、なんかストレス溜まった。帰ったら飯喰って風呂入って裸でカルピス一気飲も。
78 ぼーがい (アニメ版9話3【原作2巻43P相当】)
木偶の坊が私の誕生日プレゼントを選びに商店街を歩いている。ふふふ、ここは邪魔してやろう。お、本屋で猫の本に目を付けたようだな。だがその本はすでに持っているのだ、2冊もいらねえよ。バイトで雇った子を走らせ、木偶が取る寸前で本を奪わせた。あはは、これであやつはまた別のものを見つけなければならないぜ。
つぎのあやつは機械仕掛けのおもちゃ猫に注目したようだ。ふふふ、そんなこともあろうかと、すでにそいつにはあるからくりを仕込んであるのだ。ほれ、スイッチオン、煙をあげて壊れたぜ。あはは、おもしろいぜ。木偶のやつ、自分のせいで壊れたと思ってショックを受けたぞ。
今度はUFOキャッチャーか? よし、近くに知り合いはいないかなあ。かおりんとかいれば恰好なんだが――くそう、都合よくはいかないか。あ、掴みそうだ、妨害してやれ! 遠隔振動銃で、落とすぜあはは。また掴みそうだ、また落とすぜいえーい。まだやるのかあきらめが悪いなあ。また落として――くっ、失敗したぜ。2個ゲットかよ。まさかその安物を私への誕生日プレゼントにする気かおい。冗談じゃないぜ。
「モンプチ……」
うわもう名前付けてるよ。センスのない名前だなあ。まさか私に呼ばせる気じゃねえだろうな。いやだぜそんな勝手な名前のついた呪いのアイテム。
いたずらは不十分に終わったぜ。あーあ、帰ろっと。なんだ小娘?
「もうバイト代はやっただろ? さっさと去れよ」
「この本いらないからあげる」
「いやそれもう持ってるから――」
あーあ、激しく手渡されたよ。困ったなあ、本末転倒じゃねえか。今度はおもちゃ屋の店員さんが怖い形相で走ってくるぞ。なぜだ? ばれてないはずだが。
「防犯カメラに映ってたのはあなたね! 弁償なさい!」
……あ。
11歳の誕生日だ。
日頃から外面を良くしまくっているので、もういろんなものを貰ってウハウハだぜ。榊ののっぽからも人形を貰ったぜ。なかなか可愛いな。真っ白で塗りがいがあるせ。そうだ、秘かに迷彩色にしてやろう。楽しみだな。名前はなんにしよう。
「それはモンプチ」
……はい?
「大事にしてやってくれ」
はあ。まあいいけどさあ。普通、人に贈る人形にいきなり名前つける? ていうかさあ、これどう見ても新品だろ? 古いのをあげるならわかるけどさあ。
「モンプチは末っ子なんだ」
……おーい。
「上に2人……お兄さんと、お姉さんがいるんだ」
なんですかー、この人。
なんかえんえんと設定を語っているよ。なんかやだなあ。そんなに手放すのがいやなら、お兄さんとお姉さんとやらを連れてくればよかったじゃん。
「旅に出たモンプチは――」
うわ物語はじめたよこいつ。真性だね。これはだめだな、この人形、気味悪くなってきた。迷彩に塗ろうと思ったのにちくしょう、背景(創作だけど)知ってしまったら楽しめなくなったぜ。髪の伸びる人形みたくバッドアイテム決定だ。こうなったら早々に消却処分してやろう。
「ときどきモンプチを見に来ていいか?」
「……へ?」
私は同性愛嗜好者だ。大阪さんが好きで好きで辛抱堪らん。だがまだ幼いので、しばらくはプラトニック主義で行きたい。彼女は私のおさげをよく触ったり遊んでくれたりする。誕生日にも変わったネコさんをくれた。私にはわかる。彼女は私を愛しているに違いない。
その愛の贈り物を、榊さんというやはり魅力的な女性が私のお父さんだと変わったことを言った。よくわからないが、深い意味があると思った。おそらく私の父をお父さんと呼びたいのだ。つまり婉曲にラブメッセージを送ってきたのだろう。ああ、すばらしい。私は彼女もいいなと思っている。大阪さんも榊さんも私を愛している。
私にはすでに大阪さんがいるが、榊さんの愛も捨てがたい。どちらを選べばいいんだろう。ここは仲間であるかおりさんに相談したいところだが、彼女は榊さんラブなので出来ない。誰にも打ち明けられない世界一不幸な悩みで、今夜も寝つけない夜を過ごすのだろう――