キュクレイン Cuchulainn(Z:Kücrain)

全長800m前後 帝国軍ドロイゼン分艦隊
mp3 ショスタコーヴィチ交響曲第8番第3楽章よりシヴァ星域会戦序盤
1/5000ガレージキット(提供ウォルフ(Wolfgang)さま)
ミッターマイヤー麾下のドロイゼン分艦隊旗艦。旗艦の中では本伝の最終盤で登場した。新世紀号を巡る遭遇戦を利用してシヴァ星域までイゼルローン共和政府(政府)軍を引きずり出し、ミッターマイヤー艦隊の一部としてそのままシヴァ星域会戦にも参加した。
詳細なサイズは不明だが、全長800mていどの小型旗艦である。その正体は全長790mのバレンダウンと、次世代標準型戦艦の雛形を争った競合試作艦であった。戦場に投入されていたのは実地試験を兼ねてのことである。
帝国軍は伝統的に標準型戦艦へも一個艦隊を指揮可能な内装的余裕を与えることが知られており、試作艦といっても内部は旗艦専用の高性能な機器類・センサー群を装備していたと思われる。
艦首主砲は6門。量産艦艇で傾斜装甲を実装する仕様上、従来よりごく狭い範囲に全門を密集させており、放熱問題から射撃管制が難しくなっているが、防御面で現行の戦艦より有利になるのはいうまでもない。同盟軍並に密集させたしかしより大出力で長射程のビーム砲群を正確かつ過不足無く運用するノウハウは、割合最近に獲得できたもので、今後不可欠な技術となるだろう。艦首部の形状的特徴はバレンダウンも同等である。
※キュクレイン(右)とバレンダウン(左) 試作らしく両艦は個別の建艦思想により開発された。バレンダウンは従来の標準型戦艦にブリュンヒルト等で培われた新技術を量産向けに当てはめた定向進化型である。対してキュクレインは巡航艦の最終形態ともいえるクヴァシルの艦容を基礎として、そこに様々な新参技術を取捨選択しているようだ。もちろん要となるブリュンヒルトにはじまる装甲理論も実装しており、理由は後述するが防御面ではむしろバレンダウンより優れていると考えられる。
戦艦そのものをベースとするバレンダウンには及ばなかったようで、残念ながらキュクレインのデザインは採用に至らなかった。だが複数の設計思想によるアプローチは互いの開発チームを奮起させ、多くの建設的なアイデアを発掘したことだろう。開発レースで得られたキュクレインの糧は、後発の艦になんらかの形で受け継がれると思われる。 キュクレインの推進ブロックは横に突出しており、巡航艦型の配置を採用していない。エンジンはおなじ大きさを3基束にしており、これは超巡航艦クヴァシルの影響を受けていると思われる。巡航艦は小さなエンジンを集合させて運用面の安定性を得ていた。
帝国軍では巡航艦より小さな艦艇あるいは補助艦艇の類で、エンジン群がすべて同じ大きさとなる傾向にある。逆に戦艦の類は旗艦級戦艦も含め、大きめのメインエンジンと小さいサブエンジンで構成されていることが多い。
異なる大きさのエンジンを積むと整備性やコストパフォーマンスが低下するが、機動力や加速性能などが向上するのではないかと思われる。巡航艦や駆逐艦と比べ戦艦は総じて足が遅いので、その重い巨体を可能なかぎり機敏に動かしたいのだろう。 下部張り出し部正面にセンサー群を集約させているのも巡航艦的なデザインで、ブリュンヒルトおよびその直後に建造された特殊旗艦群も採用している。この機能配置のおかげで、キュクレインは第2次ティアマト期以来・戦艦の伝統であった上下稜線構造を必要としなくなっていると思われる。
標準型戦艦などでは稜線にアンテナを寝かせているのだが、この盛り上がりが傾斜装甲を実装する上ではマイナスに働くと考えられる。すでに述べた通りキュクレインは新型防御装甲理論の廉価版を採用しており、その耐ビーム装甲性能を活かすべく各所に傾斜や曲線が設けられている。
またその傾斜は張り出しエンジン正面にまで及んでおり、以上のことから総合的な装甲防御力はライバルであったバレンダウンを上回ると思われる。バレンダウンは艦載機搭載の問題からエンジン正面を傾斜できず、戦艦伝統の稜線も規模を縮小したとはいえまだ残っている。 中央上部には小さなセンサー集合体が覗いている。こういった部位は弱点となりやすいが、真上からの写真では周辺を囲い保護しているのが伺える。情報機能の分散は戦艦クラスの艦では高い確率で行っており、被弾一発で通信機能などが失われるのを防止する、一種の保険といえるだろう。
キュクレインの横面を見ると、メンテナンス・ベイの銀色円盤がひとつしかない。これは動力炉が1基しかないことを示しており、戦艦としては非常に珍しい。この仕様は間違いなく巡航艦の設計思想を受け継いでいると考えられ、融合炉のパワーはかなりのものだろう。このお陰でエンジンが被弾しても炉が遠く、誘爆の確率も低いはずだ。結構な種類の戦艦が、エンジンのすぐ前という危険な位置にサブ炉を配置しているのだ。 エンジンの外側に小さな翼が備え付けられている。姿勢制御用またはアンテナフィンと思われ、旗艦級戦艦にこういうのを持っている艦は少なからずいる。エンジン内側の縦板構造は推進炎より艦本体を守る衝立だろう。
後部のスリットはこれまで旗艦級大型戦艦にしか採用されていなかった、開放型ワルキューレ格納庫の可能性がある。同盟軍の旗艦級で普通に見られるこのスリット構造は、側面にある誘導用と思われる露出機器が目印だ。前部艦底やエンジン内側上部に見られる四角形の黒い穴は、同時期の新造艦に見られる特徴から、シャトルなど大型の内火艇を収容している可能性がある。
最後尾上部の半球構造は意味深な構造体だ。巡航艦にもクヴァシルにもこんなものはなく、似ているものといえばニュルンベルグやパーツィバルだろうか。この2艦の同部には艦橋が収まっており、防御を追求した艦としてふさわしい。 以上のように防御面ではバレンダウンをかなり上回っていたと考えられるキュクレインであったが、新しく採用した様々な要素が急造ゆえの構造的問題ないし欠陥を抱えてしまったのか、総合的なバランスでライバルに劣っていたと判断され、次世代標準型戦艦の競争に敗れることとなった。バレンダウンが下地とした標準型戦艦の系譜には半世紀以上の運用で最適化された機能面の洗練があり、その実績と信頼はキュクレインが一芸に秀でたぐらいでは覆せないものだったのだろう。動出力などでコストダウン優先とも取れる巡航艦的な特徴を継承しているのも影響していたかも知れない。
キュクレインはケルト神話における半神半人の英雄クー・フーリンの呼び方のひとつ。アルファベットは良くできた表音文字であるが、それぞれの固有名詞が発祥した地から離れると、スペルに縛られて異なる発音ルールに従わざるを得ない傾向はどうしようもない。表意文字である漢字圏ともなればなおさらだろう。
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