
ベイオウルフ(人狼)Beowulf(Z:Beiowolf)


ベイオウルフは疾風ウォルフと共に数多くの戦闘や作戦に参加し、その回数は姉妹艦トリスタンよりも多く、ケーニヒス・ティーゲルにつぐ。それだけ重用されていた戦場の人ミッターマイヤーであり、危険に身を投じる機会が多いぶん、被弾も幾度か受けている。その中のひとつは戦死との誤報を帝国軍に流すほど際どいものだった。

コスト抑制とはすなわち既存技術との融合、掛け合わせが手っ取り早い。ベイオウルフの背中を走る稜線構造は標準型戦艦の系譜に見られる埋設アンテナ用の盛り上がりである。傾斜装甲の途中まで引っ張っているため傾斜装甲の効果はそのぶん下がると思われる。艦首砲門群も傾斜装甲の一部に割り込んでいることから、中途半端の印象を拭えない。

横におおきく張り出したサブエンジンは242m。ヴィルヘルミナの241mとほぼ同じであるが、ヴィルヘルミナの半分近くの排水量しかない小振りのベイオウルフに、これほどの横幅は本来不要のはずであった。後部に横方向のアームまで架けて従来より延長させたサブエンジン配置は、旋回等の機動性能を高め、被弾時の誘爆を未然に防ぐダメージコントロールを期待したものである。しかし当然ながら被弾確率は上昇してしまう。
安全と危険のバランスを天秤にかけ、後者が有利であろうと判断した試みの一環であった。こういうことには反証が伴う。同時期の旗艦群ではサブエンジンを艦本体と一体化するスリム化の試みが、ブリュンヒルト型やアンテナを4本生やしてる旗艦群を中心に行われた。将来の個人旗艦では最終的に、ベイオウルフやトリスタンの伸長タイプが標準使用される見込みとなっている。

ベイオウルフ開発の意識は攻撃能力になく、防御性能と指揮性能の向上を、より安く実現させることに集約されていた。いずれもブリュンヒルトで転換された旗艦開発の流れであり、大艦巨砲からの脱却である。
集団戦にあるべき旗艦とは、正確な情報を集められ、素早く部下に伝達し、危険に晒されても提督を生還させうる艦であろう。大貴族の自尊心を満足させ、無駄に巨大で威圧的な艦では決してない。脱大艦巨砲の起点となったブリュンヒルトは天文学的な費用のかかった特別製であり、白き美姫で得られたノウハウをいかに安く実現するか、またその欠点と利点をどう融合させるのかが、のちのより廉価な通常の個人旗艦群でさまざまに試され、ベイオウルフは幸運にも成功した側に立った。

中央エンジン直下に見られる2枚の円は冷却機構である。ほかの艦ではほとんど見られないので、試験的に採用された装置だと考えられる。

ロイエンタールに後を託されたミッターマイヤーは親友の遺言を守り、最後まで生き延びた。双璧の片翼が欠け、もはや帝国の至宝となった彼の両肩には、今後も命より重い重責がかかってくる。そうなると宇宙を馳せる疾風の姿はほとんど見られなくなり、同時にベイオウルフも漆黒の空を飛ぶ機会は減ってしまっただろう。
それで良い。ベイオウルフは大量の戦艦を指揮し、結局は死をまき散らすための特殊艦であるからだ。
艦名は古英詩ベーオウルフの主人公。怪物や竜と激しい戦いを繰り広げ、最後は大怪我が元で死ぬ。だが宇宙の人狼はしぶとく生き延びて見せた。
