バレンダウン Barendown/Barham Down(Z:Valendown/Balendown)

小ささには秘密がある。バレンダウンは次世代の標準型戦艦、その試作艦として建艦されたのだ。ヴァーゲンザイル艦隊旗艦として、実地の運用によるテストを行っていた。本艦の基本性能はほとんどの数値が標準型戦艦よりも高い。当然ながらこれは同盟側の現行の標準型戦艦よりも強いことを意味している。
バレンダウンは最初から新たな標準型戦艦の座を約束されていたわけではない。何万隻と建造することになる艦を、いきなり決めるのは将来どのような不具合が生じるか分からないからである。リスク分散の常として、バレンダウンにはキュクレインという競合艦がいた。ほかにもライバルはいたかも知れないが詳細は不明である。わかっているのは、最終的にバレンダウンが勝者となった事実である。

ブリュンヒルト以降旗艦級で育まれてきた攻防一体の設計思想は、バレンダウンでようやく実を結んだ。新技術は量産レベルに達してはじめて意味を成すからだ。
主砲は模型では4門しか見えないが、前とおなじ6門。各砲の威力は向上しており、副砲も前方に放てるので、全体の中長距離火力はかなりの上昇を見た。砲門は従来よりもかなり狭い領域に集中しており一見冷却の問題が心配されるが、半世紀の技術発達で実現できたと思われる。事実、通常運用レベル中、最強の砲門を持つガルガ・ファルムルのように、近年の帝国軍艦には狭い先端に強力な砲を備えたデザインが複数見受けられる。

張り出し部が被弾に脆い危険性に対しては、大気圏航行用の空気取り入れ口を開閉式として装甲で覆う対策が取られている。
艦前部の上下には従来の標準型戦艦と同様の稜線構造が見られる。ここにはアンテナやセンサーの類が寝そべって集中配置されていると思われる。このような単純化は当然ながら、建造やメンテナンスのコストを低く抑えられる。エンジンなども含め、標準型戦艦が育んだ合理設計のバトンを新世代の申し子はしっかり受け止めている。

新しい標準型戦艦に54機ものワルキューレ――将来何万隻も産まれるすべての戦艦に、そのような大量の戦闘艇を揃えることは可能なのだろうか? 考えるまでもなく現実的ではない。物理的には出来るだろうが、人的資源の側面から見て論外である。全軍で未曾有のワルキューレ乗りが新たに必要とされるが、粗製濫造されたパイロットでは防空を到底任せられないし、才能がない低い適正の者でも乗り込めるだろうから、練度を維持できない。

ワルキューレの格納場所は正面から見て隠れるようになっており、出撃時の隙を狙撃されにくいようになっている。緩やかな傾斜を設けただけで、見えるときには見えてしまうので、対策としては無いよりはマシていどのものだろう。
合理化は運営システム面でも図られている。バレンダウンの運用人員は現行の標準型戦艦を下回り、同盟軍標準型戦艦並に落ち着いている。バレンダウンは艦隊旗艦仕様なので、通常の量産仕様ではさらに少なくて済むだろう。
艦名はアーサー王伝説に登場する最後から2番目の戦場「バーラムの丘(バラムの丘)」を昔風に呼んだもので、現在の英国ケント州バーラム村郊外。Downは昔の英語で「丘」に似た意味合いを持つ。戦艦バレンダウンは最後から「2番目」の会戦に登場しており、スタッフの遊び心が伺える。
