ムフウエセ Muh'wäse(F:Muffuese)
1/5000ガレージキット(提供ウォルフ(Wolfgang)さま)
ヒューベリオン艦長から提督に出世したマリノ准将が席を置いたムフウエセは、きわめてアグレッシブに攻撃的な特注艦だ。闘将マリノにふさわしい戦艦といえるだろう。
ムフウエセは標準型戦艦の攻撃能力および旗艦能力の双方を増強させた艦である。さらにエンジンにも追加装備を施しており、攻撃・指揮・機動の3要素で運用人員が増えた関係で、標準型戦艦としては突出した乗員を必要とする。
顕著な外見的特徴となっている艦首形状はまるでシュモクザメを思わせ、作中に登場する標準型戦艦のバリエーション艦ではもっとも知名度の高い艦となっている。 艦首主砲は8門より10門も増えて18門。集束口径は20cmから18cmへ下げられているが、一斉射撃の衝撃力は通常の標準型戦艦に2倍はするはずだ。この圧力を受ければ、ノーマルな標準型戦艦では撃ち破れない防御スクリーンでも貫いてしまうことだろう。
問題はバランスの悪さから来る操艦の難しさである。同盟帝国双方を見渡せば、艦首先端に張り出し構造を持つ艦艇がほとんどいないことに気付くだろう。てこの原理の親戚みたいなものだが、力点から離れるほどわずかなおまけで安定感が損なわれるのだ。
上下左右にかかわらず、横方向への突出部がエンジンに近くなるほど艦艇は安定する。船といっても宇宙を疾駆する以上、その性質はロケットとなんら変わらない。それゆえ先細り・元太りが普通になっていると思われる。
同盟軍は元太り傾向が帝国より低いが、力点(エンジン)後方にもテールフィンなどの構造を配置している艦種が大半であり、これによって帝国軍に比肩するバランスを確保していると考えられる。帝国軍駆逐艦のように重心を大きく前にずらした低バランスの艦艇は少数で、そういう艦種はたいてい近接戦闘に特化してるか、元より戦闘での運用を想定していない。 安定が損なわれるとかわりに旋回性能が増すため、短距離戦闘を主体とする帝国軍駆逐艦などはわざとバランスを悪くしているように見受けられるが、長距離砲戦を主体とするムフウエセでは意味がない。そもそも離れて戦うことを必定とすべき旗艦級であるから、もってのほかであろう。
そのためムフウエセは当然のようにエンジンを補強した。エンジン下部にバルジ状のこぶが見られるが、これが補強部分である。エンジンそのものは一基であるが、下半分の推進力が相対的に増している。
艦首にあるシュモクザメ状の増設武装は上部に設置されており、重心は上側に若干寄っている。そこに推進軸の対象角となる下側を増強すると、上向きの旋回成分がさらに強まってしまう。無重力空間でムフウエセを推進させるとジェットコースターのように仰向けに旋回しつづけるはずだが、実際は普通に前へ進む。
その理由はとくに説明されていないが、おそらくは艦内重力制御の影響だと考えられる。じつは銀英伝の艦艇にはエンジンの配置から考えて、普通に推進させると常識では上下どちらかにひっくり返る艦が後を絶たず、そういった船はとくに帝国軍に多い。 [5枚目以降はバトルシップコレクションの写真を使用予定]
銀英伝のメカニックコンセプトを定めた加藤直之氏によると、銀河英雄伝説の宇宙戦艦は重力を考えてデザインされている。アニメの演出にもあるように、艦内には常に重力制御がかかっている。その影響を考えれば、ムフウエセの構造配置は常識外れではなく、むしろ必然となるだろう。
動力が停止しても働きつづける謎の艦内重力は演出上のご都合主義のはずであったが、それが何気ない外見にも意外な影響を与えているのは、仮想科学であっても細部を追求する銀河英雄伝説ならではのこだわりといえるだろう。
ムフウエセの出自は、アスターテおよびアムリッツァで多数の戦力が失われてから新たに開発された、分艦隊旗艦級戦艦の一隻である。
分艦隊規模以上の旗艦には可能なかぎり旗艦級大型戦艦を据えるのがアスターテ以前の伝統であったが、莫大な艦艇を喪失した結果、その配備は金銭的に無理な相談となった。そのため従来であれば辺境守備隊の旗艦がせいぜいだった標準型戦艦に、分艦隊旗艦のお鉢が回ってきた。
部隊旗艦専用のバリエーション艦は以前から存在しており、たとえばマルドゥークはスペック上、分艦隊を統率可能な能力を有している。しかしこの系統の艦は制式艦隊クラスの分艦隊旗艦としては物足りなかったようである。マルドゥークの出自が戦闘機会の少ない警備艦隊旗艦であったことを考えると、苛烈な決戦に身を投じることを前提とした専用の艦が求められたのはいうまでもないだろう。
こうして開発がはじまり、ごく短期間で実戦配備までこぎつけた初期型艦の一隻がムフウエセである。同様の戦艦は確認されている範囲では第11艦隊分艦隊旗艦のアバイ・ゲセルがおり、劇中に登場しなかっただけで他にもすくなくとも数隻が存在したとされている。旗艦級戦艦が新機能の実験場となる関係上、まったく同じ形状を持つ同型艦はほとんどいなかったと思われる。
それら個性的な戦艦群の中でムフウエセは、歴史に残るレベルの活躍をした幸運な戦艦となった。猛将といえるマリノを迎えたことが大きいだろう。並の提督では、ムフウエセの特色を活かせなかったに違いない。
特色とはなにか、というと、ずばり軽快さと瞬発力である。ムフウエセは旗艦級戦艦ながら基本はあくまで標準型戦艦であり、その機動力は1000メートル前後の大型戦艦よりもずっと上だ。瞬発力とは標準型戦艦に推定2倍する高い砲戦能力だ。ただしエネルギー供給源はあくまで標準型戦艦ベースなので、2倍の照射性能は長時間保たない。
これらの特徴を如何なく発揮できる運用とはなんであろうか。ずばり、別働の奇襲部隊旗艦である。バーミリオンではローエングラム公のペチコートをめくる先陣となり、同会戦中盤では隕石を引き連れ囮艦隊となった。回廊の戦いではローエングラム公の本陣へ奇襲を仕掛けてシュタインメッツ戦死のきっかけとなり、半包囲したアイゼナッハ艦隊へ突入してその旗艦ヴィーザルをおおきく後退させ、長時間の抗戦を断念させた。
ムフウエセの活躍はヤンが地球教に暗殺されて終幕を迎えた。多少の動揺と混乱が収まり、再構成されたイゼルローン軍において、マリノの位置はかつてのフィッシャーに相当するものとなっていた。ムフウエセはマリノと共に後の戦闘にも参加していたが、艦隊運用に専念するマリノがもはや率先して突撃することは有り得ず、ムフウエセの獰猛な狼の牙を突き立てる機会は2度となかった。
ともかくも本艦が最後まで生き残ったのは確かである。
艦名はネイティブアメリカン(インディアン)はメノミニ族の神話に登場する、人の産みし小狼。艦形から連想されるシュモクザメとはまったく関係なく、スペックから名付けられたと思われる。そして名前負けすることなく、狼らしい武勲を立ててみせた。
ヒューベリオン艦長から提督に出世したマリノ准将が席を置いたムフウエセは、きわめてアグレッシブに攻撃的な特注艦だ。闘将マリノにふさわしい戦艦といえるだろう。
ムフウエセは標準型戦艦の攻撃能力および旗艦能力の双方を増強させた艦である。さらにエンジンにも追加装備を施しており、攻撃・指揮・機動の3要素で運用人員が増えた関係で、標準型戦艦としては突出した乗員を必要とする。
顕著な外見的特徴となっている艦首形状はまるでシュモクザメを思わせ、作中に登場する標準型戦艦のバリエーション艦ではもっとも知名度の高い艦となっている。 艦首主砲は8門より10門も増えて18門。集束口径は20cmから18cmへ下げられているが、一斉射撃の衝撃力は通常の標準型戦艦に2倍はするはずだ。この圧力を受ければ、ノーマルな標準型戦艦では撃ち破れない防御スクリーンでも貫いてしまうことだろう。
問題はバランスの悪さから来る操艦の難しさである。同盟帝国双方を見渡せば、艦首先端に張り出し構造を持つ艦艇がほとんどいないことに気付くだろう。てこの原理の親戚みたいなものだが、力点から離れるほどわずかなおまけで安定感が損なわれるのだ。
上下左右にかかわらず、横方向への突出部がエンジンに近くなるほど艦艇は安定する。船といっても宇宙を疾駆する以上、その性質はロケットとなんら変わらない。それゆえ先細り・元太りが普通になっていると思われる。
同盟軍は元太り傾向が帝国より低いが、力点(エンジン)後方にもテールフィンなどの構造を配置している艦種が大半であり、これによって帝国軍に比肩するバランスを確保していると考えられる。帝国軍駆逐艦のように重心を大きく前にずらした低バランスの艦艇は少数で、そういう艦種はたいてい近接戦闘に特化してるか、元より戦闘での運用を想定していない。 安定が損なわれるとかわりに旋回性能が増すため、短距離戦闘を主体とする帝国軍駆逐艦などはわざとバランスを悪くしているように見受けられるが、長距離砲戦を主体とするムフウエセでは意味がない。そもそも離れて戦うことを必定とすべき旗艦級であるから、もってのほかであろう。
そのためムフウエセは当然のようにエンジンを補強した。エンジン下部にバルジ状のこぶが見られるが、これが補強部分である。エンジンそのものは一基であるが、下半分の推進力が相対的に増している。
艦首にあるシュモクザメ状の増設武装は上部に設置されており、重心は上側に若干寄っている。そこに推進軸の対象角となる下側を増強すると、上向きの旋回成分がさらに強まってしまう。無重力空間でムフウエセを推進させるとジェットコースターのように仰向けに旋回しつづけるはずだが、実際は普通に前へ進む。
その理由はとくに説明されていないが、おそらくは艦内重力制御の影響だと考えられる。じつは銀英伝の艦艇にはエンジンの配置から考えて、普通に推進させると常識では上下どちらかにひっくり返る艦が後を絶たず、そういった船はとくに帝国軍に多い。 [5枚目以降はバトルシップコレクションの写真を使用予定]
銀英伝のメカニックコンセプトを定めた加藤直之氏によると、銀河英雄伝説の宇宙戦艦は重力を考えてデザインされている。アニメの演出にもあるように、艦内には常に重力制御がかかっている。その影響を考えれば、ムフウエセの構造配置は常識外れではなく、むしろ必然となるだろう。
動力が停止しても働きつづける謎の艦内重力は演出上のご都合主義のはずであったが、それが何気ない外見にも意外な影響を与えているのは、仮想科学であっても細部を追求する銀河英雄伝説ならではのこだわりといえるだろう。
ムフウエセの出自は、アスターテおよびアムリッツァで多数の戦力が失われてから新たに開発された、分艦隊旗艦級戦艦の一隻である。
分艦隊規模以上の旗艦には可能なかぎり旗艦級大型戦艦を据えるのがアスターテ以前の伝統であったが、莫大な艦艇を喪失した結果、その配備は金銭的に無理な相談となった。そのため従来であれば辺境守備隊の旗艦がせいぜいだった標準型戦艦に、分艦隊旗艦のお鉢が回ってきた。
部隊旗艦専用のバリエーション艦は以前から存在しており、たとえばマルドゥークはスペック上、分艦隊を統率可能な能力を有している。しかしこの系統の艦は制式艦隊クラスの分艦隊旗艦としては物足りなかったようである。マルドゥークの出自が戦闘機会の少ない警備艦隊旗艦であったことを考えると、苛烈な決戦に身を投じることを前提とした専用の艦が求められたのはいうまでもないだろう。
こうして開発がはじまり、ごく短期間で実戦配備までこぎつけた初期型艦の一隻がムフウエセである。同様の戦艦は確認されている範囲では第11艦隊分艦隊旗艦のアバイ・ゲセルがおり、劇中に登場しなかっただけで他にもすくなくとも数隻が存在したとされている。旗艦級戦艦が新機能の実験場となる関係上、まったく同じ形状を持つ同型艦はほとんどいなかったと思われる。
それら個性的な戦艦群の中でムフウエセは、歴史に残るレベルの活躍をした幸運な戦艦となった。猛将といえるマリノを迎えたことが大きいだろう。並の提督では、ムフウエセの特色を活かせなかったに違いない。
特色とはなにか、というと、ずばり軽快さと瞬発力である。ムフウエセは旗艦級戦艦ながら基本はあくまで標準型戦艦であり、その機動力は1000メートル前後の大型戦艦よりもずっと上だ。瞬発力とは標準型戦艦に推定2倍する高い砲戦能力だ。ただしエネルギー供給源はあくまで標準型戦艦ベースなので、2倍の照射性能は長時間保たない。
これらの特徴を如何なく発揮できる運用とはなんであろうか。ずばり、別働の奇襲部隊旗艦である。バーミリオンではローエングラム公のペチコートをめくる先陣となり、同会戦中盤では隕石を引き連れ囮艦隊となった。回廊の戦いではローエングラム公の本陣へ奇襲を仕掛けてシュタインメッツ戦死のきっかけとなり、半包囲したアイゼナッハ艦隊へ突入してその旗艦ヴィーザルをおおきく後退させ、長時間の抗戦を断念させた。
ムフウエセの活躍はヤンが地球教に暗殺されて終幕を迎えた。多少の動揺と混乱が収まり、再構成されたイゼルローン軍において、マリノの位置はかつてのフィッシャーに相当するものとなっていた。ムフウエセはマリノと共に後の戦闘にも参加していたが、艦隊運用に専念するマリノがもはや率先して突撃することは有り得ず、ムフウエセの獰猛な狼の牙を突き立てる機会は2度となかった。
ともかくも本艦が最後まで生き残ったのは確かである。
艦名はネイティブアメリカン(インディアン)はメノミニ族の神話に登場する、人の産みし小狼。艦形から連想されるシュモクザメとはまったく関係なく、スペックから名付けられたと思われる。そして名前負けすることなく、狼らしい武勲を立ててみせた。