東方SS

旭和ラノベ

 東方Projectの2次創作短篇作品。

(なにかCG挿入予定)

東方古脱線 (創作)

 いつも通り縁側でお茶を啜っていると、いつも通りの声がした。
「お〜い霊夢」
 いつも通りの竹箒で飛んできた魔理沙が突然、いつも通りでない二つ折りの藁半紙を差し出してきた。
「謎だぜ」
「どうしたの」
 茶を横に置き、受け取った紙片を広げると、そこには短く、ひとつの単語が丁寧な筆致で記されている。
『古代王国』
「やたらと綺麗だけど、誰の字かしら。あんたのじゃないわよね……で、この一般名詞がどうしたのよ」
「じつは読み方が分からなくてさ」
「いつからどっかのHチルノになったのよ!」
 思わず縁側から境内へ飛び降りると、恥ずかしそうに頭を垂れている普通の魔法使いを叱っていた。
「慧音んとこの生徒にも読めるでしょ。こだいおうこく。こ・だ・い・お・う・こ・く。それ以外のなんに読めるっての魔理沙」
「こだいきみホニャララだぜ」
「きみ――え?」
 頭を傾げてしまった。
 魔理沙は勝手に茶菓子として出していた私の煎餅を失敬して言った。
「ほら霊夢、古墳時代や飛鳥時代だとさ、大王と書いておおきみって読むじゃん」
「それは大と合わせて初めて、意味があるのよ。漢字を輸入したばかりの昔の日本語はまだ、音訓読みの区別がはっきりしていなかったから、おおきみは大王と書いて二文字でひとつなの」
 今度は魔理沙が首をちいさく傾いだ。
「どういうこと? あ、この星形の煎餅旨いな。誰の差し入れだ?」
「同時に質問しないの。差し入れは紅魔館のメイド長からよ。パチェ手作りで魔理沙にぜひ食べて欲しいって。だからちょうど良かったといえば良かったんだけどね」
「あのむきゅむきゅーんもやるな」
「それでおおきみだけど、豪族どもの頭目を示すおおきみという日本語がまず先にあったの。そこに漢字が入ってきた。対応する漢字は大王で、それをおおきみと呼ぶことにした。同時に中国語の呼び方も利用したわ。現在ではそちらだけが残っていて、だいおうと読むわけなの」
「ああ、訓読みと音読みってやつか。どっちがどちらかよく分からんぜ」
「私も正確なところは知らないけど、大という漢字でいえば、おお・お〜が元からの日本語で、だい・たいが中国由来かな。複数の漢字が並ぶ熟語では、大陸の読み方をよく使うわよね」
 得心したように魔理沙が頷いた。
「ところが昔は違っていた」
「そう。たとえば神代の人名に顕著よ。ヤマトタケルノミコトは日本に武士の武に、尊敬の尊で日本武尊」
「この辺の知識と喩えは霊夢の十八番だな。知らなければにほんぶそんとしか読めないぜ」
「ほかにもスサノオノミコトは古事記だと、須恵器の須に、土佐日記の佐に、これの之に、男に命で須佐之男命よ。スサノオは書物ごとに細部の漢字が異なるわ」
「もはや当て字だぜ。蝦夷や琉球の地名に多いな――なるほど、漢字を取り入れた当初の日本は、幕末から明治初めで急速に本土化を進めた、蝦夷地や琉球とおなじ状態だな。急いだ結果、漢字の使い方が退行したと」
 いつもらしくなくて、感心した。
「なんだ、魔理沙も結構知ってるじゃない。外の歴史に通じてるなんて」
「博麗神社に来る前にちょっと香霖堂で調べてね。読み方を思い出したくて」
 縁側でそよ風に揺れる紙片を指さした。すっかり忘れていた。
「かなり横道、逸れちゃったじゃない。で、どうしてこんな簡単な、古代王国、が、読めなかったわけ?」
「じつは霧雨魔法店の、久しぶりなお客様のフルネームなんだぜ。この綺麗な字、先方が里で書いたものでね。こだいきみまでは覚えてたんだが」
「――それを先に言ってよ!」
 私の叫びに対し悪びれも詫びもせず、魔理沙はいつものようにへらへら笑っている。
「あ、いまの喝で思い出した。こだいきみとだ霊夢! 国は洋語のランドに掛けてるんだぜ」
「まったく。人里には妙な名前が増えてるわよね」
「そんなこと言っても、魔理沙と霊夢も洋風の名に当て字してるから変だな」
「博麗神主の趣味ね」
「触れてはいけないお約束事だぜ。それよりも香霖堂の霖之助が言うには、昨今の顕界は幻想郷以上に奇天烈な名前で溢れてるみたいだから、ぜんぜん大丈夫さ」
「そうね――ところでパチュリーの魔法煎餅、魔理沙に取っておいた分があるけど、食べてく?」
「どんどん任せろっ!」
 胸を張った姿はまるで、勇ましい男の子みたいだった。それがなぜか悔しかったので、こう返事した。
「……面倒だから、お茶は自分で淹れてね」

東方SS

東方皐月霊探 (創作)

前書き:原稿用紙換算六〇枚と、過去最長のSS。東方キャラは茨華仙だけ。
     *        *
 校庭の隅で遅咲きの梅が揺れている。そんな卒業式が終わった舞台裏といえば、人のいない校舎の影と決まっている。
「おまえが好きだ!」
「なにそれ。キモッ」
 突然の風に梅が散る。ひとつの挑戦が、瞬時にして終演を告げた。
     *        *
 その扉はいつも開け慣れてるし、築一〇年の一軒家を守る玄関で、反応も軽い。だが今日だけは少年にとって、重かった。
「……ただいま」
 玄関のつぶやきはか細いものだったが、キッチンより母の声が返ってきた。
「あら、やけに早いじゃない。セイ、みんなにさよならは言ってきたの?」
 靴を脱いでいたセイの動きが一瞬止まる。母は顔を見せてない。もう夕飯作りも佳境だし、いちいち出迎えるなんてしない。
「うん、まあ」
 セイの声は相変わらず細いが「あらそうなの」と、五メートル以上離れ壁も挟んでるのに、母はしっかり反応する。年の功だ。
 靴を脱いで無言でゆっくり二階へとあがってゆくセイの背中に――
「その様子じゃ、プロジェクト・サクラチャン・スーパーファイナル・ラブアタック・フォーエヴァーは失敗したようだね」
 あえて聞かせる大きめのつぶやきは、不意打ちだった。
「お、俺のメモ、見てたのかよ〜〜〜!」
 必死に抑えていたセイの、最後の自尊心が瓦解した。
 階段の音がけたたましくなった。勢いよくドアが開き、すぐ閉まる音。立て付けの悪い部分がいやな金属音を響かせ、余韻となる。
 キッチンで母はおかずを盛りつけつつ、ただ首を振っていた。まだまだだぁなと、言わんばかりに。
     *        *
 布団にくるまり、決壊した洪水のままに青少年の心は敗因を探る。
(俺のストーリーは始まらなかった。運命は残酷だ)
 セイとおなじ顔をした、ギリシア風の神が下りてきた。翼をばたばたときつそうに。鼻くそをほじくってセイの頭にぽとんと落とす。
『そんなもん、最初からねえよ』
 神を巨大ハンマーで吹っ飛ばす。
(なにが悪かったのか)
 悪魔があらわれた。セイの顔をしたなぜかセールスマンの姿で。
『わたしと契約しなさい。あなたの命と引き替えに、サクラさんのハートはあなたのもの!』
 にこやかに微笑む気持ち悪い自分の顔を、機関銃で掃射した。悪魔は悲鳴をあげて退散した。
(あの子を解放しろ。あの子は人間だぞ!)
 純白で人の何倍もある巨大な狼が現れた。顔はセイだ。いわゆるひとつの人面犬。
『黙れ小僧! お前にサンが救えるか!』
 もののけ姫かよ! 蹴り倒す。
(僕と契約して、魔法少女になってほしいんだ)
 謎の白い動物が。顔の部分だけが歪んでおり、そこに貼り付くは、どう見てもセイ。
『君たちの願い事を、なんでもひとつ叶えてあげる』
 踏みつぶした。まどか☆マギカに用はない。
(奴はとんでもないものを盗んでいきました)
 なんたら三世を追う有名な警部っぽいものが駆け寄ってきた。顔はやはりセイだが、体の輪郭がはっきりしない。
『あなたの心です』
 ネタが古くてイメージが……セイが生まれるはるか前の作品だし、もちろん見たことはない。知ってるのはたんに、ネットで有名だからだ。
 さすがにアホらしくなって飽きた。
     *        *
 セイは高校生となった。
 入学したのは近隣でも名の通っている進学校だ。式から帰って母親が一番に「みんなにさよならは」と言った理由がこれだった。セイのほかには二人しか進んでいない。セイが意中の女子、大鳩サクラへ告白に挑んだのも、この学校への合格でついた自信が後押ししていた。
 バス停から満開の桃園を抜けると、その学校がある。桃の白い花びらが風に舞い、歴史ある校舎を飾り立てていた。
 校舎までの道を飾る桜はすでに散っているが、新入生たちの顔は揃ったようにみんな明るい。入学時の名物となっている桃の影響も多少はあるかも知れない。
 白い花びらに、桃色が走っている。そんな変わり花びらが、セイの胸元に付着した。
(出迎えてくれる花があるのは、いいことだな)
 卒業式では時期外れの梅が見送ってくれた。その開花がずれた梅と、自分の境遇をセイは自然と重ねていた。
(なるほど、巡り合わせが悪かったのか)
 ならば――このジャストフィットな桃は、なにかの機会となるかも知れない。
 大鳩サクラには振られたが、その名とおなじ桜の花は、すでに散っている。
 新たな恋に対し、セイは前向きに舵を取った。そもそも落ち込んでるときも一人漫才をやってたような、呑気な性質である。
     *        *
 だからセイの新たな恋は、すぐに始まった。
 入学式で、長い校長教頭の話のあと、新任教師が紹介される。その中に、珍しい赤髪――いや、桃色というべきか、そんな不思議な髪の、彼女がいた。
「はじめまして。茨木といいます。担当は古文です。よろしくお願いします」
 壇上で、無難かつ無個性な挨拶をしたその人はしかし、変わったことに右腕にスーツの袖先から指先まで包帯を巻いている。肌がまったく見えない。
 セイは変わった桃の花びらを思い出した。
(きれいな人だな)
 包帯と合わせて、茨木先生という存在がセイの脳に強烈にインスパイアザネクストされた。
 変わった包帯を除けば、どこから見ても大学新卒の、フレッシュマン社会人一年生だ。容姿はもちろん花盛り。長髪で痩身。
 年上の美人である茨木先生は、少年の心を奪うには十分すぎる魅力を放っていた。ほとんど一目惚れに近かった。
     *        *
 振られ男の高校デビューは無難なスタートだったといえる。新たな友人もそこそこ確保し、暗すぎず明るすぎず、勉強は適度に、運動もまあまあ。目立ちすぎず、浮きすぎず。まさに中庸を地で行く四月を過ごしていた。
 それはクラス上位の成績を除けば没個性すぎて、ずっとアンダーな地位に甘んじた中学時代とは、すこし違った空気で、セイにとっても新鮮だった。進学校が醸す独特の環境が、うまい具合にセイの地味な性格とマッチしたようである。
 例外ももちろんあるが、進学校という場所はつまり、地味な人間にはある意味パラダイスなのだ。
 そんなセイの悩みは、中学時代と比べてめっきり減った。入学一週間後に行われた実力テストの順位は中学と比べて一気に落ちていたが、周りのレベルが高いから当然のことだと割り切れるし、落ちたといっても半分よりは上だったので、気は楽になった。
     *        *
 多難を廃したセイの関心はだからこそ、意中のヒロイン、茨木ハナに集中していた。その若さと容姿、さらに古風なハナという名前がかえって印象的で、あっというまに職員室や男子生徒の人気者になっており、その熱ゆえ先生が好きだということは、セイは誰にも話してない。
 セイの恋は中学時代とほぼおなじ、完全に秘密潜伏状態で、プラトニックなものだった。
 噂ではすでにアタックをかけた二年生や三年生の話を聞く。そうなると一年坊主がなにを――となる。
 ハナ先生の情報は放っておいてもセイの耳にどんどん入ってくる。その意味ではセイは楽だった。友人の一人に新聞部に入った佐伯がおり、そこから様々な情報を得られた。
 佐伯は憧れているレベルの茨木ファンで、セイのようにマジ惚れではない。だからこそ気楽に好き好き言っていられるし、それを適当に聞き流すふりをしているセイにはうらやましい。なにより佐伯はどう控えめに見てもイケメンのお仲間だ。普通科平均目凡庸属に分類されるセイには、それがちょっと気にくわない。
 だがその日の朝は、なにかが違っていた。
「あの謎の包帯を外したところ、見たやつがいるんだってさ!」
「なんだそれ」
 茨木先生に関しては、いつものようにたいして興味がないフリをする。
「ほらセイ。茨木センセーの右手って、重い怪我してそうにも見えないし、いつも自然に振る舞ってんじゃん」
「そうかも知れないね」
 佐伯はネタを小出しでしゃべりながら、自分の考えをまとめてゆくタイプの人間だ。そのキャッチボール役を進んで引き受けてるおかげで、セイは校内のトピックスに事欠かない。
 佐伯の話を要約すれば、茨木ハナが顧問になったオカルト研究部で、一年のある女子部員が現場を見たという。ただ詳しいことは佐伯もまだ知ってはいなかった。又聞きの又聞きといった頼りないレベルで、一年のその女子が誰かさえ特定されていないのだ。
「これは面白いことになりそうだ」
 佐伯はスクープネタが出来て素直に喜んでいた。茨木先生ファンでありながら、やはり新聞部部員でもある。それは茨木先生には迷惑なだけかも知れないぞとは、セイは突っ込まなかった。つまらぬことで佐伯との仲にヒビが入ると、後々に響く。どうでもいい、良い奴くらいの距離が、佐伯とはベスト――そうセイは醒めた思考で冷静に評価していた。
 その判断は正しく、最後に佐伯はとっておきの情報を提供してくれた。
「『さつきれいたん』で、茨木先生の知られざる秘密が分かるかもしれないね」
「さつきれいたん? なんだそれ」
 佐伯とのやりとりで、セイの口癖はすっかり「なんだそれ」になってる。
「五月の休みに幽霊を探す、すなわち皐月霊探。オカ研が毎年やってる新歓イベントさ。新入部員たちで、幽霊を追うんだと」
     *        *
(オカルトか……こんな不思議な名前のクラブって、本当にあるんだな)
 幽霊とかいうものにセイは、特別な興味なんか持っていない。
 心霊現象がどうたらという話は、テレビでもセイが幼いころまでしかやっていなかった。
 だからといって、逡巡してはいられない。
 セイは自分の恋愛戦略にひとつの、かつ大胆な舵取りを行った。
 すなわち同日昼休み、いきなりオカルト研究部へ入部したのである。
 来週から世間はゴールデンウィーク。学校も休みが多くなり、茨木ハナ先生の姿を見れなくなる。佐伯からも情報が入らない。
 ずっと受け身だったセイからすれば革命ともいえる行動だった。
 緊張を隠そうとこちこちなセイの前で、気楽に茨木先生は入部届を受け取った。包帯をしている右手のほうで。
「これで規定人数になりました。ありがとう。オカ研は同好会への転落を今年もぎりぎり免れたってわけですね」
 重要なことをなにげにあっさりと言うが、その自然体がセイの硬さを心身共にいくぶん和らげた。
「今日の活動から、参加したいのですが」
「少年、老いやすく、学、成りがたし。課外も一緒ですわな。ま、がんばりなさい」
「は、はい。よろしくお願いします」
 入学式での無駄のない物言いといい、茨木先生の人気は案外こういうさっぱりした性格にあるのかも知れない。
『怪我をしてるわけでもなさそうなのに、あの包帯はファッションか? 髪も染めているとはけしからん、学生気分が抜けてない証拠だ』
 と一部の先生が言っていたらしいが、教諭としての茨木ハナ女史はおおむね好評だった。彼女の赤髪はなんとこれで地毛らしく、黒く染めさせればかえって自由な校風の伝統に傷をつけかねないとして、赤髪のままで許されている。包帯は触れることすら不文律の雰囲気が作られていた。これらの件では、反対派の筆頭だった教頭が一夜にして意見を翻したことが大きかったとされていたが――
「あら教頭先生、お出かけですか」
「……いやあ、ちょっと会議がありましてね」
 じりじりと不自然なほど壁際を歩いてる当の教頭。茨木ハナから徹底的に距離を取ろうといわんばかりの、やたらと怖れるその様は、すでに校内でも有名になっている。返事もなぜか敬語。セイがこの噂が真実であることを確認したのははじめてだった。
「あ、教頭先生。じつはたったいまオカ研の部員が規定をクリアしました」
 にこりと微笑む茨木先生に、教頭は持っていたファイルを落としてしまい、あわてて拾っていた。
「そうですか茨木先生。良かったですね」
 まるで棒読みだ。やはり敬語だし。
「こちらが期待の新入部員です。ご予算のこと、よろしくお願いしますね」
 にこりと微笑むその姿は、セイにとっては大天使そのもの。頭がくらくらしてくる。
 対して教頭の反応は滑稽なほどで、壁に貼り付いてカニ歩きだ。
「わ、分かりました。なら、休み明けの委員会で……」
「ゴールデンウィーク中に、新歓があるんです。このままでは自腹になってしまいます。かわいそうなオカルト研究部員たち――」
 茨木ハナが黙って一呼吸置くと、たちまち教頭の顔に冷や汗が浮かんでいた。
 セイからは見えなかったが、なにか無言のやりとりがあったようだ。
「ね、教頭先生?」
「――――あとで! あとで!」
 とだけ言って、脱兎のごとくを体言するように、走り去った教頭。露骨に避けられた側は、手を振って見送る余裕ぶりだ。
「いってらしゃいませ〜〜」
 職員室で起きた不審なやりとりに、ほかの教師は無関心を貫いている様子だった。その不自然な光景を見て、セイはしかし別に疑問に思わなかった。セイにとって教頭はなんとなく悪者で、茨木ハナは正義だった。
(格好いいなあ)
 どのみちセイのフィルターを通せば、茨木先生はなにからなにまでが全肯定の対象にしかならなかった。
     *        *
 放課後、オカ研の部室へ期待半分におそるおそる入ると、案の定といわんばかりに、予定調和の猛烈な歓迎を受けた。
「やあ君がまことくんだね! いやあありがとうありがとう」
 やおら手を取ってぶんぶんと振り回す長身で野暮ったいメガネ女子。おそらく部長だろう。
「本当に助かったよ同好会に格下げされたら活動みんな自腹だしどっしよか悩んでたこれで君は救世主、私も枕を高くして眠れる殿様いや姫様」
「……部長、彼の名の読みはまことではありません。せいです」
 横でセイより低身長の、おなじくメガネ女子。その言葉にセイを解放したやっぱり部長だった人は、ちびメガネより渡された入部届を見て。
「なるほど、近藤誠でこんどうせい。ひとつのキラキラネームだな!」
 さすがにちょっと腹が立った。セイにとってハイテンションなだけの部長など、どうでもいい存在だ。
「名字が近藤で誠だと、新撰組とイメージ被るじゃありませんか。新撰組は最後に全滅しますから、縁起を呼ぶため呼び方を変えたんです」
「おっ、自己主張するじゃないですか少年」
 後ろより、セイの記憶に重要情報としてインプットされている声が。
「先生っ」
 硬直したセイの横を、茨木顧問が入ってきた。
(ばれた?)
 不意打ちで取ってしまった行動の本意を、誰かに知られてしまったかもしれない。本心を知られることを怖れるセイの本能がすばやく反応し、周囲を観察した。
 部室にいるほかの部員は、六名。女子が四名に、男子が二名。あとセイが一匹と、先生が一人。
 彼ら彼女らの表情を見て――どうやら気づいた者はいなさそうだ、と安心しかけたとき、ちびメガネがセイへピンポイントに微笑みかけた。
 しかも。
「……ふふん」
 と、いわくつきげな台詞付きで。その目を覆うメガネフレームが、コイバナとなると色を変える連中に共通の、無駄に強い光彩を放っていた。
     *        *
「さてとレディースアンドジェントルメン、今日はコンドウセイ君を迎えました。拍手を!」
 ぱちぱちと、反応は小粒だ。でも先生は気にしていない。
「オカルト部なんてどマイナーなもの、県内ではこの学校にしか残ってません。いいかげん時代遅れもいいところですが、なんとか生き延びてますね。さすが歴史ある進学校です。そういえばマイコン部や光画部もありましたねこの高校。流石です。おっと、脱線するところでした。最低限のメンバー全員揃ったところで、さっそくですが、今年の皐月霊探の話をしますよ」
 新任顧問なのに、すでに何年も前からやってるみたいに仕切ってる茨木先生。軽口で自虐まで飛び出している。
「良かったですね君たち。教……じゃなく、学校からちゃんと予算は出ましたから、公費でゴールデンウィークの貴重な休みを遊べるわけです」
 懐より、封筒を一枚取り出す。近くの銀行のものだ。そこから万札が数枚、顔を覗かせていた。なるほど。さすがのセイでも気づいた。教頭の自腹だろう。だけどそれを別に問題視しないところに、セイのセイたる性がある。惚れたモンは弱い。
「私も余計なお金出さなくていいから、助かります――ですが」
 黒板に一単語をさらりと記した。
『規律』
「ド田舎で大自然で開放感に浸れるからって、不純交遊でキャッキャウフフするのはよしてくださいね。ん? 私も新卒二ヶ月と経たず、いきなり懲戒なんてまっぴらゴメンですから」
 そのキャッキャウフフをしかも先生相手に望んでるセイからすれば、けしからん下心ありすぎて弁解のしようがない先制攻撃だった。
「……ふふん」
 またあのちびメガネが新入部員セイを見て、こんな口「ω」をしていた。
 その後の自己紹介で知った名前は、おなじ一年で宮地ヒカリといった。ひらがなでヒカリ。そちらこそキラキラの親戚じゃねーかとセイは心の中でののしったが、思えばそれでセイを笑ったのは部長のほうで、ヒカリは無実である。あとで知ったが、実力テストで学年七位の、かなり出来る奴だ。問題の部長は――どうでもいいので五秒で名を忘れた。どうせみんな部長としか呼んでないし。
     *        *
 ゴールデンウィークの後半、薄紫の藤が咲く五月のあたま。
 新歓イベントの場は、地図にも載ってない山城跡だった。
「見よっ、あのうら寂れた石垣を。この石道を。戦国時代の古戦場、信長の一軍に攻め滅ぼされたサムライどもの怨念が、四百有余年を経て、未だ彷徨っているぞ」
 相変わらず飛び抜けてハイテンションな部長だ。茨木先生といい勝負をしてるが、同系統でもセイにとっての耳障りは印象正反対となる。
「……部長。これ、新歓なんてレベルじゃなくて、超本格じゃないですか。もう登山ですよ」
 駅から歩いて二時間。ようやくたどり着いた現地は、山に入って一時間は経過した、マジモンの山中だった。参考で地図を渡されているものの、開けた箇所もほとんどないため、もはやどこを歩いてきたのか、さっぱり分からない。
「甘いね近藤隊員。幽霊は町中よりもむしろ、人里離れた場所にこそいるのさ」
 部長の指が、周囲をびしびしっと指す。
「見ろこの場所を。どこにも電線も電灯もない。電気がないのだ」
「部長の持論では、幽霊は電気的な働きで存在しているんですよね」
 問題のちび、ヒカリだ。
「その通りだよ宮地隊員。幽霊といえば昔から暗がりにしかいない。夜が定番。なぜか? 幽霊は、電子のふるまいだからさ!」
 びしりと左手をかかげ、まるで昔のフィーバーダンス。元気だなあとセイが思ったのとシンクロして。
「あんたら、元気ですなあ……その若さ、私にも寄越してくれ」
 気のある茨木ハナがそう言ったものだから、セイの心臓は急激に高鳴った。顔の火照りを自覚する。こんなことで――コントロールできない感情と、自律神経が憎い。
 だからこそ先生だけでなくみんなから一人だけそっぽを向く形になったセイだが、その正面にじわりと回り込む影が。
 誰かなんて、とっくに分かってる。宮地ヒカリしかいない。
 やはり口をにやませて、どうしたのかな〜〜? って顔で。分かってるくせに。
 ヒカリはその気になればいくらでもセイの立場を悪くできるのだが、なぜかいつも楽しんでるだけで、しかもそれをセイに見せつけるように動く。やることといえばそれのみで、とくになにも余計なアクションは起こさない。おかげで助かってはいるが、いつほかの部員に知られるかと考えると、セイの心はさして安まることはなかった。
     *        *
 夜が来た。遺跡を越えた尾根にあるキャンプ場から戻って一〇分あまり。懐中電灯と方位磁石、地図に鉛筆、あとはカメラと、準備を整える。
 いよいよ、皐月霊探の本番だ。
「私はここで荷物の見張り番とか適当にしています。きみたち、幽霊探しに、楽しんでGO〜〜」
 と、いきなりの放任ぶりを発揮する茨木顧問は、キャンプ場で一人ご就寝中。
 ……キャッキャウフフ防止するお目付役はどうしたんだよ。
 セイとしては、すこしでも麗しの茨木先生の近くにいたいというのに。
 よりによって。
「わあい。暗いねえ。怖いねえ」
 隣にいるのが、ヒカリなんだ。
 部員は全員で七人。うち一年生がちょうど四人なので、一年生二人一組となって、二組で二方向より山城跡をファントムエクスプロールせよ、という指令だった。二年生二人と三年の部長は、入口で見張ってる。なるほど、本当に一年生だけで行動させるのだ。
 二年生は二人とも男子で、一年生は男子がセイだけ、あとは女子三人だ。
 セイはてっきり、女子のみ、男子のみでグループ分けすると思っていた。男女混合ならすくなくとも三人だ。
 だが部長はその辺、配慮が足りないというか、あるいは原則に忠実というか、結果はヒカリとセイ。
 ヒカリを苦手とするセイにとって、最悪の組み合わせだった。学年七位と優秀な頭で、おそらく口では叶わない。そのうえヒカリは、セイの秘密を一方的に握っていると思われる。
 当のヒカリは平気なもので、セイの前をおおきめの歩幅で進んでゆく。先頭なので、懐中電灯を持つのもヒカリだ。うしろのセイは地図と方位磁石とさらにカメラ担当と面倒ぶんをみんなひっくるめて押しつけられてるが、はっきり言って道を外れればすぐにでもどこにいるか、分からなくなるだろう。
     *        *
「さて、近藤くん」
 五分も経ったころ、ヒカリが立ち止まって急に振り向いた。
「…………」
「ず〜〜っと無言の近藤くん」
「……なんだよ」
「どうしてオカ研に来たの?」
 触れて欲しくないものに突然、分け入ってきやがる。なんて女だと、セイは思った。
「分かってるくせに、それ聞いてくるかよ」
「私ね、小さいころ、魔法少女になるのが夢だったんだ」
(正気かこの女)
 セイは無言で返したが、ヒカリは構わずつづけた。
「でも大きくなるに連れて、不思議なことって、どんどん否定されるじゃない。ママが子供のころって、幽霊や宇宙人や謎の怪物が、よくテレビの特番を賑わせていたんだって。だからママは中学でオカルト部だったの」
 高校生で、知り合って一週間かそこらの異性に、自分の母をママと言う。優秀なヒカリの意外と幼い面に、セイは軽い驚きを覚えた。
「ママが高校のときって、心霊写真って不思議なものがあったんだって。写真がまだフィルムで、デジタルじゃなかった時代のことだけど。いまは心霊の写真って滅多にないんだって。だからか、オカルト部は減っていって」
 内容がセイでも語ることが可能な方面になったので、口を開いた。胸元の一眼レフを触りつつ。
「――そうだろうな。精密機器だから、デジタルカメラには妙なものは写りにくいって聞いたことがある。それにデジタル写真はいくらでも合成できるから、なにが出てきてもでっちあげと言われる」
「そうだね。でも皐月霊探って、しっかりそのデジカメだし」
「もし霊が写ったとしても、かえってロマンがない」
「うん。ロマン。そうかもね、県下一じゃなく二位のこの学校をわざわざ選んで、唯一現存してるオカ研に入ったのって」
 まじまじとセイはヒカリを見つめた。
「おまえ、まさかまだ、魔法少女になりたいのか?」
 すっかり変な女認定しているが、その割にヒカリの正気さを感じた。
 だがそこで、ヒカリが態度を急変させた。
 よくセイに見せるドヤ顔にも似たあの表情をして、いきなりこう言ったのだ。
「おまえが好きだ!」
 ――――。
 これが、硬直というものか。
 生まれて初めて、体験した。
 爆弾発言、というなら、これこそがまさにそれだろう。
 驚きしかない。頭が、真っ白になる。魔法少……がどうした? 胸が奇妙な鼓動をはじめる。
 大鳩サクラのときは断られること半ば予感していたので、正直、ここまでの劇的な衝撃は感じなかった。まさに本当にびっくりしたときは、こうも時間が止まるものなのか。
 それで――宮地ヒカリが、なんだって?
「俺を……好きって? おまえが?」
「あれれ?」
 ヒカリの反応がおかしい気がする。なにか首をかしげている。
「にぶいなあ、きみ」
 その言い方は、とても告白をした女子のそれではない。セイの心に、ふいに怒りが湧いてきた。
「知っていて、俺をからかったのか……」
「あれれ、ち――違うよ!」
 ヒカリが手をぶんぶんと交差させる。なにか焦っているように見えて、セイの怒りはひとまずの鎮火を果たした。考えればヒカリがセイの不利益になることをしたことはない。あくまでも、苦手なだけだ。
「なら、いまのは何なんだ? 分かるように説明してくれ」
「忘れてるの? 春の告白」
 と言われて、即座に思い出す。いやな記憶が。
 中学三年の卒業式、近藤誠が当時好きだった大鳩サクラに向けて、早口で叫んだ言葉。
 それが。
 いま、ヒカリが言ったものと、一字一句、おなじだってこと。
 なにか、気持ち悪くなってきた。
「おまえ……どこまで知ってるんだ?」
 セイにとっては、目の前のヒカリが、おそろしい存在に見えてくる。いきなり不思議なことを言ったり、変な切り込みをしてきたり、ほかに、なにを知見してるんだ、この魔女は。
「わああ、ごめんごめんちゃんと話すから――あの……痛いよぉ」
 気がつくとセイは、ヒカリの手首をきつく持ち上げていた。重心を失ってるヒカリは腰を落とし、端から見たらセイがヒカリを襲ってるようにすら見えるだろう。あわててヒカリを離す。セイの攻撃にさすがのヒカリもすこし動揺してるようで、落ち着いて話ができるまで何分か無言の状態が続いた。
     *        *
「近藤くんが好きだった大鳩サクラって、私の小学校時代の同級生なの」
「同級生って……」
 話がうすうす見えてきた。
「サクラが三月末の同窓会で、県下二位の進学校に進む秀才に告られたって自慢してたの。もちろん名前しっかり聞いたよ。私もおなじ学校に行くし。コンドウセイって名前」
「わかりやすい解説ありがとう」
「だから最初から気になってたんだよね近藤くん。けっこう見てたんだよ。それで、いきなりオカ研に入ってきて、びっくりもしたし」
「え……」
 健全な男子たる者、にわかになにか都合の良い展開を期待していたセイだが――
「でも無謀だと思うよ近藤くん。教師を好きになるなんて」
 ああ、やはりないか。宮地ヒカリはちびでメガネで胸もないが、けっこう可愛いのに。
「それで近藤くん根本的にどうすんの? 最終的に茨木先生とキャッキャウフフしたいの? ふふん?」
 例の猫みたいな口をして聞いてきた。なるほど、部長によく突っ込んでるように、ヒカリの基本は、世話焼きで好奇心が強いだけの子なのだ。相手の弱点を握って、それで利益を得ようという腹黒タイプではない。正体がわからないと、どうしても思考は先入観からマイナスになってしまう。これからはヒカリをそれほど警戒せずに済みそうだ。魔法少女になりたかったって言うような女だし。
 もやが晴れれば、近藤セイの思考は生来の性質が首をもたげ、打算的なものとなる。この妙な女は、味方に付けるべきだ、友人となるべきだ、とセイの脳内会議は瞬時に採択を決議した。
「俺がオカルト研究部に入った理由を、知りたいか?」
「茨木先生とお近づきになりたいからじゃないの?」
「それもある――けど、ほかにもあって」
 セイはオカ研に入る動機となった、新聞部の佐伯との会話を伝えた。茨木ハナの、右手包帯の謎。それを見た、一年女子。確率的にヒカリは三分の一だが――
「あ、それ私だよ」
 あっさり。というか、ヒカリしかいないよな〜〜と、セイも勘づいてはいた。
「新聞部とかが茨木先生のネタ聞いてくるんだ。ほら私って、オカ研で一番おせっかいっぽいじゃない」
 自覚してたのかよ。
「だから口が軽いって思われたのかなあ。そうでもないのにな」
「いや十分にザルですよあんた」
 思わず突っ込みが入ってしまった。佐伯との間ですら情報優先で抑えていたことだ。
 するとヒカリは機嫌を損ねる。当然だが。
「なんだよ。近藤くんのことは誰にも言ってないのに〜〜」
「たまたま聞かれなかったからだろ。俺に興味持つ奴なんて少ないしな」
「その通り! 近藤くん普通にキモいだけだし、おなじようなので茨木先生好きな野郎たくさん居るから、いじりネタとしても弱いしね」
「ノリ突っ込みされたいのか、あん?」
「ふふん……いやあん」
 気がつくとヒカリを捕まえて頭ぐりぐりしていた。いまいちでイケてない普通科平均目凡庸属な男子であるのは事実なので、なおさらぐりぐり。ヒカリが気に掛けてくれてたのも、なんというか入学前に偶然たまたま名前を知った初めての他校出身男子だったからという、身も蓋もない理由だったし。
 セイはこのとき、なにかこれまで感じていなかった、新しい感情を覚えていた。楽しい――そう、楽しいのだ。
 ヒカリとはこの先、良い友人になれそうだった。
 ものの弾みでうっかり胸を触ってしまい、グーでアッパーカット食らった。
     *        *
 さて、ヒカリが言うには、ぶっちゃけよく分からん、とのことだ。
 誰もいない部室から人の気配がしたので、なんとなく静かに覗いたら、暗がりで茨木ハナが包帯をほどいてなにかしていた――逆光で。
「なんだよそれ。俺の一週間を返せよ」
「いいじゃんど変態、私の触っていい思いしたくせに。私に痴漢していいのはイケメンに限る!」
 なにやら問題発言してるぞこいつ。
「佐伯がにこやかにバストタッチしたら許すのかよ」
「佐伯って誰?」
 現在おおきく道を逸れ、近藤セイと宮地ヒカリはキャンプへ向かっている。部長らには秘密だ。部長たちが主道で待機しているが、それを迂回してキャンプ場と行き来できる別ルートを、すでにヒカリが見つけていた。さすが学校のランクを落としてまでしてオカ研に入った本当の秀才は違うね。
「佐伯知らないって。宮地さんさ、俺のことけっこう見てたんじゃないのか?」
「見てたよ。毎日一回は視界に入ってたぜ」
 なんでVサインするのかこの少女は。写真でも撮れってか。
「それでほら、俺がだべってる連中の一人に、イケメンがいるだろ。そいつが佐伯」
「……誰かな? わかんないや」
 なんとなくほっとしたが、いちおう確認のために聞いてみる。
「宮地さんって、メガネ掛けてるときの視力、どれくらいある?」
「うーん、〇・七くらいかな。受験前は一・〇以上あったはずだけど、度が変わってもそのままにしてる」
「それじゃ生活に困るんじゃない?」
「そうでもないよ。度がきついと目がすぐ疲れるっていうし。かえって勉強しづらいじゃん」
 なるほど、家でかなり勉強してると見た。さすが学年七位だ。そのおかげでメガネも度が低くて、遠目では佐伯がイケメンって分からないだけか……
「俺は運が良いのか悪いのか」
「なに落ち込んでるの?」
「いやなんでもない」
 たしかに現金なものだ。俺が好きなのは先生だというのに。疑似告白で、この魔法少女・元志望で妙ちくりんな世話焼き同級生にフラグでも立ったのだろうか。
 たわいない会話をしているうちに、脇道から本道へと復帰した。部長たちの姿は、まったく見えない。
 ミッションの第一段階、成功だ。
 話を詳しく聞くまでもなく、キャンプ地へ行こうと提案したのは、宮地ヒカリのほうだった。
「先生が包帯を外すのは、一人でいるときだよ。そこが狙い目♪」
 もはや見慣れたドヤ顔でヒカリが自慢げに断定する。たしかに考えれば、それが妥当だ。人間肌を綺麗にしたいときもあるだろうし、四六時中包帯を巻いてるわけはないだろう。
 皐月霊探が終われば、男女別々でテントに入る。そうなるとセイとヒカリの組み合わせで行動してると不自然だし、先生のテントを探ってるのを、ほかの部員に察知されるかも知れない。
 チャンスとすれば、いましかない。
 山城跡の霊探は一時間半を予定している。キャンプ地との往復を考えれば、抜けても時間内に戻ってゆける。
 セイだけで行動しても良かったのだが、渡りに船だし、懐中電灯も地図もひとつずつ。
 ヒカリを巻き込んだのは、もはや必然ともいえた。
 それにヒカリも楽しんでいる。やはり生来こういう性格なのだろう。セイの見立ては当たっているようだった。
 一度道に出ればあとは早い。キャンプ地には、すぐに着いた。テントはみっつ。うち二つは大きめな生徒用で、いずれも空。男子用と女子用の中間に、見張るようにちいさめのテント。その中にターゲットが眠っているはずだ。明かりはほとんどない。月からの反射で、かすかに影が判別できるていど。火はとっくに消えているし、照明もない。
 ヒカリがセイを一度見て、セイが頷くと、懐中電灯の明かりを消した。これで光源は月のみだ。天気で良かった。運はいまのところ、味方している。この霊探がヒカリとのペアにならなかっただけでも、セイにこの好機は訪れなかっただろう。ヒカリとはもっと長い間、心を開くこともなく冷たい関係を保っていたかもしれない。その意味では、巡り合わせに感謝しているセイだった。
 だからその流れの締めとして、好きな先生の秘密を、ぜひ知りたかった。
 ヒカリは本来なんの関係も義理もないはずだが、おとなしくセイの要求に応えてくれている。中学時代からさぞや、周囲から頼られただろう。途中で交わした話では、生徒会に入っていたとか。たしかに似合いそうだ。
 ……抜き足、差し足、忍び足。
 最終関門の前についた。三角形にそびえる布一枚を挟んで、目的の秘密が佇んでいる。
 どうしようか。
 セイはヒカリにそんな躊躇するような表情を見せた――つもりだった。
 だがヒカリはセイの真意を測り損ねたようで、ただガッツポーズを返すのみ。
 やはり根本で、人間としての度胸の器が異なるようだ。
 ヒカリがやる気なら、そもそも巻き込んだのはセイだし、男だし、ここは自分で動くしかない。それがセイなりのせめてものプライドだった。
 だから、開けた。いきなり、思い切り、ファスナー全開。
 テントの、出入り口を。
 でっかい音まで立てて。
 最悪の選択だ。
 ヒカリのグーが即座に、セイの後頭部を襲う。いやはや、思ったより手が早い女だ。しかも平手よりグーのほうが音が小さいって分かってる。もちろん痛いよ拳のほうが。
 痛みに震えるセイと、おなじく震えるヒカリ。ヒカリの震えは怒りや焦燥じゃなく、男子の頑丈な頭蓋をぶん殴って自分の手もダメージ受けちゃったからだ。慣れないことはしちゃ駄目だぜ。
 そんな漫才寸劇を横目に、だが――
 中からの、しかるべき反応はなかった。
 そこにはまだ肌寒い初夏だというのに布団をふっとばしてだらしなく眠る、一人の女性がいる。いびきは正確に、胸も規則正しく上下。
 固まっていた二人の闖入者は、息を止め、しばし様子を見て、やがて安心した。
 左腕を見ると、包帯がない。外されている。
 そしてその左腕の地肌は……
 セイは秘密を知った瞬間、激しい後悔におそわれた。
「…………」
「…………」
 ヒカリを見るとおなじ結論にヒカリも達したようで、感受性は人並みで良かったと、セイは安堵した。
 そのとき、そよ風が吹いたような気がした。寒気と同時に、にわかに羞恥心と罪悪感を覚え、セイは好きな先生のテントを静かにかつ急いで現状回復させ、場からそそくさと消える。
     *        *
 去った後だった。
 なにかが、謎の存在感がにわかに、テントの中で蠢いている。
 仄暗い空中に形を作り、正体を――見せない。
 ただひとつ、変化があるとすれば、それは平和な安眠の中にある彼女の、包帯の覆いが消えた、ありのままな右腕だっただろう。
 ありえない速度で崩れゆく右腕。
 ぼろぼろ、ぼろぼろと。
 なにかが剥離してゆくように、しかし煙がたちあがるように。
 個体から瞬間に気体へと昇華してゆくようなさまは、不思議な光景だ。
 それが月明かりを通した狭い個人テントの中で起きている謎の現象だ。
 やがてうす紫の、藤色の冷たいそよ風が、生じた。
 テントの中で漂っていた物理を無視する意識ある風は、テントの幕をあっさり透き通って、外に出て行った。
 中で眠る美人教師はいまや、片腕の五体不満足な姿となっている。さらに頭にも変化が起きていて、小さな角が二本、まるで鬼のように生えてきているが、その人間ではない姿を確認しようとする意思は、誰もいない。なぜならば秘密を見たと思い込み、目的を果たしたと思い込んだその二人は、ただこの場より離れているからだ。
 真の秘密の片割れが寝ていて、もう片割れが浮かんでいる。
 テントの外で、藤色のうす紫色の風となって、浮かんでいる。
 意識を持った無言の風は、離れゆく二人を黙って、ただ見ている。しかもそれが、たくさん。
     *        *
 キャンプ地より霊探の会場に戻る道すがら、二人はほとんど口を開かなかった。ひたすら歩くことに集中していたが、どちらかが離れることはなかった。セイが先行すればヒカリに合わせてペースを落とし、遅れを見せたヒカリは早足になってセイについてゆく。この経験をして、離れるなど論外だった。
 目印としていた石垣に出ると、こらえかねたヒカリがぐすぐすと、ついに泣き出した。
「……あれ……ケロイドだよね」
 ケロイドがなにを意味するのか成績で劣るセイにはすぐ分からなかったが、言わんとするところはなんとなく理解していた。
「やけど――だな。かなり激しい」
 年頃の女性なら、隠すしかない。移植手術を繰り返したところで、あの手の痕跡は一生涯残る。そのくらいは知っていた。
「どうしよう近藤くん。わたし、もう先生の顔まともに見れないし、なんて話したらいいか、わかんないよ」
「大丈夫だ、責任は取る」
「どうやって?」
「よく分からんが、大丈夫だ。俺が魔法をかけるから、任せろ」
「……魔法って、バカ」
「バカというな。宮地さんだって、魔法少女になりたいって言ってただろ」
「過去形だもん」
「じゃあいまここで復活だな。魔法しかないだろ繕う方法なんて。それでこそオカ研部員らしい解決方法だと思う」
 セイなりに足りない頭をフルに使っていて、ほかに言い方は思いつかなかった。アホでもバカでも、なんとかしようという真剣さは伝わったらしく、ヒカリが頷いてくれた。ただ、まだ涙は止まっていない。
「じゃあやるとして、どうやって魔法にするの?」
「とりあえず宮地さんが先生と会うだろ。そしたら、たとえば俺がこうしてウフフすれば誤魔化せると思うぞ」
 ヒカリを抱き寄せていた。なんというか、気づいたらつい、という行動だった。この涙を、放ってはおけなかった。考えるよりほとんど、なにか衝動的な本能に駆られたというべきか。
「えーと、これでなにを誤魔化せるの?」
 予想から百八十度離れた行動にほとんど一瞬で泣きやんだヒカリが、戸惑うように尋ねた。
 自信満々に断言するセイ。
「キャッキャしてるフリなどすればいいのさ」
 バカはやはりバカで、アホだった。その極みに対してヒカリの手が秒単位で拳へと変身し、無言のまま鉄拳となって振り下ろされようとしたとき――
 ストロボ発光と同時に、デジタル一眼のシャッターが切れる音がした。
「あ〜〜〜〜、悪いんだ」
「キャッキャウフフしちゃいけないんだぞぉい!」
 と、ヒカリとセイを照らす黄色いライト。
 顔は見えないが、その声からおなじ一年の女子二人に間違いない。
『ギャ――――!』
 セイとヒカリは同時に叫んで、逃げ出した。
 よせばいいのに、よりによって、おなじ方角に、仲良くすたこらさっさと。
 それを見送るは、女子二人。
     *        *
「あれって、たぶん出来てるよね」
「うんうん。うらやましいけど、冴えない近藤くんが可愛い宮地さん捕まえてくれるなら別にいいよ」
 草むらより出てきた女子二人。正体は簡単なものだった。もうひとつの班で、いずれも一年だ。彼女たちの狙いは、二年の男子だ。成績優秀で見目もそこそこ良いライバル候補が勝手に地味男とくっつくなら、それはむしろ生暖かく祝福すべき吉事だろう。
 さっそくその証拠写真を確認しようとしたカメラ担当の女子が、かちんこちんに固まった。
「どしたの藤香?」
「あの……あも……あお」
 ぶるぶる、小刻みに。
「なによ。寒気でもしてきたの?」
 と、もう一人が硬直する藤香の視線――カメラ背面の液晶に目を合わせて。
「@QSたy櫂Д!」
 声にならない叫びをあげて、二人ともその場に力なく、昏倒した。
     *        *
「えー、部内、というより、私と副部長と会計、つまり二年三年全員で協議した結果……」
 部長の表情は微妙だった。
「これはその――我が部創設以来、最大の成功かな……あ?」
 印刷した一枚の写真が、部室の壁の、高い位置に貼られている。
 それは林の中で、小柄な女子部員を抱き寄せる冴えない男子部員の姿だ。男子の顔は赤面していて必死だが、棒立ち女子部員の表情は落ち着いているようにも見えるが、ほほが濡れており、握り拳を振り上げている。二人の目にはCG加工で黒いラインが申しわけていどに入れられているが、誰が誰かなんて一目ですぐ分かる。
 それだけを見れば、パフォーマンスを伴う告白かなにかの決定的瞬間ともいえるだろう。だが、もっとより、決定的なものが、写ってもいた。
 だから簡単には捨てられない。
 これはオカルト研究部の、歴史的な成果でもあるから。
 空中に浮かぶ――
 半透明な――
 時代錯誤の――
 武者たちの、一群。
 いわゆる百鬼夜行みたいなものが、そこに在った。
 戦に敗れたような凄絶な恰好で、しかしおだやかな表情で、二人を興味深そうに覗き込んでいる。
 おぞましくもあり、ほほえましくもあり、なんともいえない、不思議な写真だった。
「残念だな……誰も信用してくれそうにないってのが」
 部長のつぶやきは、オカルトを好きな者としては深刻なジレンマともいえた。
 デジカメである限り、心霊写真の真偽は証明できない。だからといってかつて心霊写真の定番だったフィルムカメラを使ったところで、写真部ならぬ光画部にすら作業用の暗室なんてものはすでになく、外部へ高いお金を払って現像を頼むしかない。しかも成果が挙げられたとしてもなお、ジャンルとしてほぼ否定されたものが二十一世紀においていまさら確信的に認められるとは、とても思えなかった。
     *        *
 二人は真っ赤になって否定しまくるが、よりによって佐伯の野郎が率先して学内新聞記事にしやがった。
『黄金週間、夜中の告白』
 というタイトルにあるように、もちろん心霊写真のほうではない。あざとすぎて誰も信じないだろう、ってことはすでにオカ研内でも部長以下全員が感じており、本当だよ本当だよと言いふらして、狂人あつかいされる冒険をあえて試みようという愚か者はいなかった。
 つまり、あの写真で残った情報とはなにかというと、キャッキャウフフしかない。
 記事に転載された写真は、霊の部分がトリミングされた、セイとヒカリのツーショットである。
 一年生初となる、公認カップルが誕生した。
 カップルに仕立てられたセイとヒカリの仲がぎくしゃくしているのはいうまでもないが、それも他人の目を通せば初々しいと写るらしい。そういった態度や容姿的なバランスからか、おおむね良好に受け入れられている。あまり嫉妬の対象とはならないらしい。
 適度に勉学へ励むがゆえ、呑気な校風で良かった。そもそも保身が重要な進学校という性格上、新聞部といえども下手なことは書けないから、基本的に穏便な記事ばかりとなる。制御されたスクープというべきか。
 茨木先生はとくにお咎めは受けなかった。教頭の弱みを握ってる――というか、力で従わせているようで。
 もっとも、セイにとってはムシロの日々だ。ちょっとの出来心から、とんでもない事態を招いてしまったのは、間違いなくセイの気が多かったからだ。
「自業自得だよな……」
「反省しなさいよね。迷惑なんだから……」
 なんとなく昼、人の少ない中庭で木陰に隠れ、一緒に食べてる二人。これがさらに公認度をアップさせると気づいていながら、秘密を共有してしまってる仲間意識と、注目から逃れたいばかりに、つい一緒に行動することが増えていた。会話は、けっこう多い。
「これ、余ったけど……セイくん、食べる?」
「おう。貰うわ。ああ、俺の今日は箸じゃねえわ」
「じゃ、あーんしてあげる」
「あーん……おいヒカリ。なんかこれ、深みに填ってないか?」
 いつのまにやら、名前で呼び合う仲に。
「あの瞬間に殴り損ねてからもう、別にどうでも良くなってきたし」
「え? それって」
 真意を確かめようとしたセイだったが、ヒカリはそっぽを向いて黙っていた。
     *        *
「ま〜〜たあいつら、いちゃついてやがる」
 新聞部の部室から佐伯が、望遠レンズでカメラに収めている。新しい記事ネタがひとつ増えた。こうしてなかったはずの既成事実が積み上がるのだ。
「あとで掲載許可をもらいに行くか」
 校内新聞たるもの、無断掲載は出来ない。だが佐伯が聞くのは、ヒカリだけだ。浮気性の友人がOKを出すわけがない。セイが茨木先生に思慕の情を持ってることくらい、とっくに見抜いている。
 カメラの液晶を拡大すると、写った少女の顔がアップになった。
 セイから背けたヒカリのほほに、朱が差している。
「可愛いじゃん。こうなったら意地でも本当にくっつけてやらねえとな」
 いつでもリア充になれるイケメンゆえの余裕だった。
     *        *
「かえって目立つでしょうに、なにやってるんでしょう」
 二人を見ていた視線は、ほかにもいる。
 屋上のさらに高見、給水塔のそばに一人、美人教師が寝ころんで黄昏れている。
 寝ているので茨木ハナの目は、中空へと向けられている。
 いま茨木の視界を代理していたのは、薄紫の煙――藤色の武者だ。一般人には、まず見えない。
「まったく、面倒なことになりましたわね。まさか念写能力を持つ子がいたなんて。さすが少数精鋭のオカ研ともなれば、縁に引き寄せられて、本物も混じってきますか」
 人前ではまだ見せてない、意味深な表情で独白した。
「どうしましょう……包帯を外してる間はあれほど私から離れないでねってきつく言ってましたのに。つい油断して結界も張らず爆睡してしまった私も悪いですけど」
 謎の文字が細かく書かれている、右腕の包帯を眺めつつ、嘆息した。右指をぱちんと鳴らすと、視界を代行していた霊がすすっと戻ってきて、まるで排水口のように包帯の隙間へと吸い込まれてゆく。見えない包帯の下で腕の組織がたちまち回復し、入れ墨となった霊がその姿を現すのだ。
 二人が見たのは、右腕一面に走る数々の、方術的な入れ墨だった。激しい火傷の跡と勘違いしたのは、それこそ暗がりによる思い込みだ。まさか美人教師が、腕にそういうものを彫ってるとは思わないだろう。包帯イコール、なにかの傷。これが囚われる常識というものであるが――。
 茨木ハナの場合、この入れ墨も、腕ですら、本物ではない。むしろ右腕が空っぽのうつろで、角を持つ状態が、自然で本来の姿であった。
「この下界で、いつまで穏便に暮らしてゆけるでしょう。あの二人がどこまで私の秘密を知ってしまったか……」
 この人外の存在、本当の名を茨木華扇、号を茨華仙という。仙人の端くれである。真の住居はここではないどこか、いまでもないいつか。
「本当の仙人になる説法修行のためとはいえ、人間観察も大変ですわね」
     *        *
 惑星最大の大陸よりさらに東方に、強力な結界で守られた箱庭世界がある。
 その幻想郷の住人が、気まぐれで顕界に下りてくる。
 するとその瞬間より、現実は幻想と重なり、幻想郷の理が現世にもあふれる。
 茨華仙の二つ名は片腕有角の仙人。仙を名乗ってはいるが、鬼に近い存在でもあり、すっかりメジャーな鬼となった伊吹萃香とは旧知だ。
 左腕のみでは生活に支障を来すからか、補うため包帯で右腕を作っている。だがそれはふとした拍子にあっさり術が破れ、解けてしまう脆き技。
 幻想郷では別にそれでもよかったが、常識の鎖が支配する人界では大事となる。そのため包帯の施術が解けても、ひとふんばり耐えてくれる生身の右腕を、亡霊で固めあつらえている。
 わざわざ戦に敗れた武者を選んだのは、茨木華扇らしいともいえた。腕を亡くしたのははるかな昔に、人と対峙した際の敗戦による。それとおなじ属性で、マイナスとマイナスからプラスを生もうというのか。だがやはり根本解決にはならない。包帯はどうしても目立つものだ。
 茨華仙が隠れ蓑にあえて教師職を、さらにオカ研を選んだのは、木を隠すのなら森の中、ということだろう。人とは根でちがうもの。完全に同化はできない。ならば近いものに寄り添うのが、賢い選択であろう。
 近藤セイと宮地ヒカリが在籍するかぎり、オカルト研究部には今後もしばらくの間、にぎやかな事件の数々が約束されているようであった。

東方SS

妖夢「これがソードアート・オンラインですか」 (東方×SAO)

 原稿用紙換算49枚
 SAOアニメ化一周年に合わせて。
 ソード妖夢オンラインの没とした初期プロットを要点シーンのみ繋げて台本式&会話劇に。
     *        *

●白玉楼

妖夢「これがソードアート・オンラインですか。
   アバターは面倒なので私そのまま、髪の色だけ人間らしく黒にしてっと」

妖夢「……リンク・スタート!」

●第一層・はじまりの街

妖夢「ここがはじまりの街ですね。剣士だらけで酔いそう。
   私の二刀流はどこまで通用するかしら?」

妖夢「まずは武器を変えないと。
   初期装備の、両刃の直剣なんか不要。片刃の曲刀が欲しいのです」

妖夢「あの店が良さそう――おじさん、これを下取りであの曲刀をください」

NPC店員「あいよお嬢さん。カトラスだぜ」

妖夢「小さくて軽いですね。リーチの短さが気になるけど……そうだ、もう一本ください」

クライン「なんだなんだ、二刀流か? 変わってんな」

妖夢「あなたは?」

クライン「俺はクライン。おなじカトラス使い同士、よろしく」

妖夢「私はヨームです」

クライン「そうだ、ちょっとレクチャーしてくれねえか?
     その迷いのない只者じゃない動き、あんたベーターだろ?」

妖夢「いいえ違いますよ。私はリアルで剣術を嗜んでいるだけです」

クライン「なんという希少種! ぜひフレンド登録してくれ」

妖夢「いいですよー」

●はじまりの街・西の平原

妖夢「これがリーバー、ソードスキルって便利ですね。
   勝手に体が動いて、どんな素人もソードスキルを使ってる瞬間は達人になれる」

クライン「なんだヨーム、さっきからみんな一撃じゃんかよ。どうなってんだ?」

妖夢「力をすこし込めたら、威力や速さが増すみたいです。
   さらに急所も狙えば、最終的にダメージが三倍くらいまで増えますね」

クライン「急所って、すげえな。よし俺も……うわっ、また失敗した。
     力を抜いてりゃ楽なんだが、上乗せを狙うと加減もタイミングも難しいな」

妖夢「失敗を繰り返して馴れるしかありませんね」

クライン「このイノシシ野郎、動くなよ。チェストォー!」

妖夢「そうだ、二刀流を試してみようかしら」

妖夢「あれ、リーバーが発動しない。プレモーションは合ってるはずなのに」

キリト「そこの君、この辺りに警告表示が出てないか?」

妖夢「あ、確かに。すいませんが、あなたは……」

キリト「俺はキリト。二刀流は装備するだけならシステム的に可能だけど、
    ソードスキルが一切使えなくなるんだ。だからほとんど誰も真似しないよ」

妖夢「およよ、知りませんでした。ありがとうございます」

キリト「二刀流なんて無謀なことはせずに、普通に片手一本でいいと思うよ。
    みんな素人だから、通常攻撃なんてへっぴり腰で格好悪くて、見てらんないからね。
    ソードスキルのモーションに任せたほうがずっと良い」

妖夢「まあ、別にソードスキルが使えなくても私は構わないんですけどね。こんな具合に」

キリト「なっ! しょっぱなから四連撃って? 通常の連続攻撃だけでフレンジーボアを一気に倒した?
    しかもアニメやゲームみたいに鮮やかな二刀流。どうなってるんだ」

妖夢「通常攻撃もソードスキルとおなじです。
   タイミングと狙い次第でいくらでも速く打ち込め、強力なダメージを与えられますよ」

クライン「さすがリアル剣術使いは動きが違うな。まるでずっとソードスキルを使ってるみてえだ」

キリト「そうなのか。やはり武道経験者が有利になるゲームなんだなSAOは。
    アバターだけ見れば俺の妹よりすこし上くらいなのに」

クライン「おめえ妹さんがいるのか! 俺に紹介してくれよ!」

キリト「ちょっ、あいつは俺らみたいなゲーマーとは違うから」

妖夢「クラインさん、なんでそんなに過剰反応してるんですか? 私も女の子なのに」

クライン「いや……ヨームがリアルで女って限らねえし、その強さだから歳もアバターとは違うだろうし」

妖夢「クラインさん、ゲームで出逢いを求めるなんて、不純です!」

キリト「クラインっていうのか。あまり素を出すと、せっかく格好いい二枚目アバターが泣くぞ」

クライン「ぐぬぬ、反省だぜ」

●夕刻

妖夢「狩った狩った〜〜!」

クライン「やっと一撃で倒せるようになったぜ。ありがとなキリト。さすがベータテスター」

キリト「クラインのスジがいいからだよ。それよりもヨーム、きみの二刀流、良ければ俺に教えて欲しい」

妖夢「難しいと思いますよ。システムのアシストがあるソードスキルと違って、
   通常攻撃だけで行う私の二刀流は生半可なシステム外スキルよりも高難度なはずですから」

キリト「こう見えても剣道の経験があるんだ。もちろん剣術と剣道は違うってわかってるけど」

妖夢「考えておきます。まずは見て基本動作から盗んでみてください。
   才能があれば気が向いたら教えてあげてもいいですよ」

クライン「そろそろ俺は一端抜けるわ。あれ? ログアウトボタンがねえぞ」

キリト「なんだって?」

妖夢「……鐘の音が」

●強制転移

キリト「ここは、はじまりの街の、転移門広場」

妖夢「変なのが湧いてますよ」

クライン「宙に浮かぶ赤い顔なしローブ巨人たあ、悪趣味だな」

茅場『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。私の名は茅場晶彦……』

妖夢「悪・即・斬!」

茅場『うわあ、やめてくれたまえ! どうしてレベル一か二でそんな高さまで跳べる!』

妖夢「なにこいつ。図体ばかりでかくて、弱っちい」

茅場『システムコマンド、当たり判定透過』

妖夢「あ〜〜、ずっるーい」

●チュートリアル

茅場『カクカクシカジカ、プレイヤー諸君の健闘を祈る』

妖夢「いじわるね茅場って人。せっかく人間になってたのに、本当の姿に戻っちゃった。
   まあ髪が黒から銀になっただけなんだけど。これは目立っちゃいそうです。
   うん、半霊まではさすがに再現できないようね」

クライン「……ヨーム、マジで女の子だったのか。よく見たら妖精みたいで、なんと可憐な」

妖夢「クラインさん鼻息荒いですよ」

キリト「ちょっと来い、クライン、ヨーム」

●路地

キリト「リソースうんたらかんたら、効率なんたらかんたら。だから俺と一緒に来い」

クライン「すまんが、ダチを置いていけねえ」

妖夢「クラインさんも一緒ならいいですけど、
   私は女子なので、殿方とふたりきりというのは、すこし」

キリト「……そうか。ふたりとも、なにかあったらメッセージ飛ばしてくれ」

クライン「おうよ、この礼はそのうちな」

キリト「またなっ」

クライン「キリトよう、おめえ、案外可愛い顔してやがんな。けっこう好みだぜ」

キリト「……おまえもその野武士面のほうが、似合ってるよ」

妖夢「キリトさん。あの――初心者の私が言うのもなんですが、
   ソロはとても危険らしいので、気をつけてください」

キリト「ヨームこそ、いくら強いからといって、あまり無理はするなよ。じゃあな」

クライン「いっちまったな……」

妖夢「これからどうしましょう」

クライン「なあヨーム。俺のパーティーに来ねえか?」

妖夢「そうですね。ほかに知り合いもいませんし、おなじ曲刀使いのよしみで、お世話になります」

クライン「…………!」

妖夢「クラインさん、そのガッツポーズ、彼女候補ゲットとか勝手に思ってません?
   いまがどういう状況か、考えてくださいね。
   それに先に言っておきますけど、キリトさんのほうが私の好みです」

クライン「――がっくり」

●四日後・トールバーナの町

クライン「うひゃあ、こんな早く迷宮区間近に来れるとは」

妖夢「たぶん一番乗りですね」

ダチ(アフロデブ)「これもヨームさんが超強いおかげです!」

ダチ(頭巾ヒゲ)「ありがとう、俺たちの戦乙女!」

クライン「ようし、このまま迷宮区行ってみよう!」

全員『おおぅ!』

●半日後

妖夢「いきなり着いちゃいましたね」

クライン「まさかこの大扉、ボス部屋かこれ?」

妖夢「まあいいです。ちょっと遊んでみましょう」

クライン「危なくなったら即、撤退するからなヨーム」

妖夢「判っていますよ」

●一〇分後

イルファング・ザ・コボルトロード「ぐふっ」

妖夢「なんか倒しちゃいましたね。
   コボルトロードとかいうの、弱い! 弱すぎる! 手応えがなさすぎます」

クライン「異次元の戦いを見てしまった。ダメージの八割はヨームだったな。
     最後のほう、一五連撃くらいしてなかったか?」

妖夢「さっさと第二層に行ってみましょう。まだまだ斬り足りません。
   ボスなんてみんな私が切り刻んであげます」

●第二層・主街区ウルバス

クライン「弱ったな。この層、テーブルマウンテン? みたいなのがいっぱいあって、まるで迷路みてえだ」

ダチ(トサカ頭)「仲間にベータテスターでもいれば案内役として助かるんでね?」

妖夢「そうだ、キリトさんを仲間に勧誘しましょう。彼はベータテスターって言ってましたよね」

クライン「よし、その手で行こう。たぶんレベルも俺たちのほうが上だろうし、誘いやすそうだ」

妖夢「さっそくフレンドメッセージ送りますね」

●数時間後

キリト「……すごいなきみたちは。速攻なんてもんじゃないぞコレ」

クライン「いや、すごいのはヨームだけだな。
     俺たちほかの六人は剣豪少女のおこぼれに与ってるって情けない立場さ」

妖夢「キリトさん。ぜひ私たち風林火山に加わってください。この先はあなたの目が必要なんです」

キリト「俺はきみたちを見捨てた側だぞ。こんな身勝手なソロの俺に関わっても、なんの得も……」

アスナ「ソロ? 私がいるのに?」

妖夢「あのキリトさん。隣の綺麗な方は?」

キリト「ああ、こいつは……」

アスナ「アスナっていいます。ヨームさんが茅場のあんちくしょうを斬ってくれたおかげで、
    勇気を分けて貰い、初日からはじまりの街を出発した口よ」

妖夢「それは、どういたしまして」

アスナ「その後なりゆきからこの黒い変な人といっしょにいるの。
    この人とっても便利なナビゲーターよ。一家に一匹欲しいわね」

キリト「変なのっていうな。一匹っていうな」

アスナ「とにかく宿屋に引き籠もるより、戦ってるほうがずっと前向きよね。これからの旅、よろしくね」

妖夢「はい、私もほかに女子がいれば助かります」

キリト「アスナ、勝手に話を進めるなよ。俺はクラインたちについていくってまだ決めたわけじゃないんだぞ」

アスナ「でもクラインさんたちの装備、私たちよりずっと立派じゃない。
    いろいろと効率が良さそうよ。レベルも早く上昇するんじゃない?」

妖夢「それは正解です。じつは私たちはみんなレベルが八以上あります。
   一緒にいればアインクラッドでもっともハイレベルな集団でいられますよ。
   ちなみに私は一一です」

アスナ「ねっ。私はまだ六、キリトくんも七」

キリト「よろしくお願いします!」

●およそ四ヶ月後

茅場「最前線はすでに第五〇層か……およそ二日で一層ずつ攻略されている」

茅場「台風の目となっているこのYo−muという二刀プレイヤー、
   一〇連撃、二〇連撃といくらでも攻撃を繋げ、
   私がデザインしたソードスキルなど眼中にない無双ぶり。一体何者なのだ」

茅場「このままでは私の計画が大きく狂ってしまう。間に合わない」

茅場「攻略が早すぎて、自殺もヤケになる者も激減し、死者はわずか八〇〇名しか出ていない。
   これは予想とおおきくズレている。私の世界はもっと重く、暗くなるはずだったのに。
   なぜ最前線があれほど和気藹々としているのだ!」

茅場「仕方ない、そろそろ動くべきだな。私のアバターと、最強の神聖剣を引っ提げて」

●第五〇層ボス攻略戦

ヒースクリフ「や、やあ。私もボス攻略戦に参加させてくれないか。私の名はヒースクリフ」

妖夢「この層のボスはクォーターボスでしたっけ。
   偵察戦によると普通と比べたら超強力でやっかいな相手です。
   第二五層とおなじく、当たり所が悪ければ一撃で殺されそうな勢いですよ。
   あなたは初顔さんですよね。レベルは足りていますか?」

ヒースクリフ「たぶん安全マージンは十分だよ。レベルは六〇くらいかな」

妖夢「みなさん! 怪しいですこの人!」

ヒースクリフ「い、言いがかりはよしたまえ」

妖夢「きっちり安全マージンに足りてる人は、攻略組でも私とキリトさんくらいしかいません。
   なぜなら攻略速度が早すぎて、みんな攻略戦とレベリング戦闘がほぼ平行作業になってしまい、
   いつもギリギリだからです」

クライン「もしかしてこのヒョロいの、ヨームが出現を予想してた、あいつか?」

キリト「みんな、このヒースクリフというプレイヤーを、捕まえるんだ!」

ヒースクリフ「うわなにをするやめr」

キリト「あっ、消えた。転移結晶も使わずに。しかもGMしか使えない左手メニュー!」

妖夢「このチート行為で確定ですね。いまの人が、まちがいなく茅場晶彦です」

アスナ「さすがに鋭いわねヨームちゃん」

妖夢「簡単に予見できることですよ。茅場晶彦がただ傍観者で満足できているはずがないんです。
   私がよくいく幻想きょ……もとい学校でも、なにか異変あらば、
   首謀者はおろか黒幕も一緒に混じって遊んでるんですよ」

クライン「相当に面白い学校に通ってんだなおめえ。私立か?」

妖夢「ディアベルさん、指名手配のほう、お願いします」

ディアベル「よし任せろ! キバオウさん、茅場捜索は頼んだ」

キバオウ「なんでや! 丸投げやん。わいも攻略戦に出たいんや!」

クライン「キバオウは、レベルがちいっと足りねえな」

キリト「今回ばかりはレベル四〇台では命がいくつあってもな」

キバオウ「仕方あらへん。ならヒースクリフはわいの手で絶対に捕まえてみせたる!
     来いやコーバッツ少佐」

コーバッツ「ありえない……攻略戦に出れば、経験値がっぽりなのに」

キバオウ「面倒くさいやっちゃな。よし、コーバッツはん。
     ジブンいまから解放軍の中佐に昇進や。これでええやろ」

コーバッツ「不詳コーバッツ中佐、ありがたく任務に精励します!
      キバオウ中将閣下バンザイ!」

キバオウ「茅場を捕まえたら、わいも大将に昇進やな。ほなら、行くで!」

●現実

茅場「……私の世界なのに、完全に追い出されてしまった。
   ほかのアバターで行っても性格までは隠せない。似たような対応が待っていそうで怖いな」

茅場「このままでは、私のシナリオはメチャクチャだ。どうしよう。
   こうなったらせめて、Yo−muの正体だけでも突き止めなければ」

●日本某所

茅場「彼女のIPからすると、この辺りのはずなのだが」

茅場「なんだろう、この古ぼけた、朽ち果てかけた神社は」

茅場「歩き通しで疲れたな。すこし裏の縁側で眠らせてもらおうか」

●数時間後

霊夢「あんた誰? あまり強そうに見えないわね」

茅場「ワキを露出した謎の巫女だと? それに神社がすっかり綺麗になっている」

霊夢「ああ、幻想入りね」

茅場「幻想入り?」

霊夢「あなた、外の世界で忘れ去られた人か、逃げだしたいと思ってた口でしょう」

茅場「…………」

霊夢「ここは幻想郷。外の世界で幻想になった人や、
   人間でないなにかが訪れる、いわゆる異世界よ」

茅場「い、異世界だと……まさかそのようなものが実在するとは」

霊夢「とりあえずあんたのことは後で紫(ゆかり)に相談するとして、いまはこれ」

茅場「ホウキ?」

霊夢「働かざる者、食うべからず。
   私はいまからこたつで昼寝するから、境内の掃除のほうよろしくね」

茅場「この私に、単純労働をしろというのかね。それよりも幻想郷とやらについて詳しく」

霊夢「煩いわね。あなたが外でどんな立場だったかなんて興味ないわ。
   幻想郷に来たのなら、とりあえず郷に従いなさい」

●その夜

紫「霊夢、結界を勝手に緩めないでよ。なんの用?」

霊夢「おかしなおっさんが幻想入りしたのよ。屁理屈ばっかこねて鬱陶しいから、引き取って」

茅場「……ひどい巫女だ。晩飯の用意までさせられるとは」

紫「あらあなた、妖夢を閉じ込めた張本人じゃない。
  妖夢を解放するくらい私の能力なら簡単だけど、面白そうだから様子見してたら、
  あなたのほうから自力で幻想入りしてくるなんて……さすがは世紀の大天才といったところかしら」

霊夢「大天才? この胡散臭い屁理屈おっさんが?」

茅場「私はこう見えても二〇代なんだが」

霊夢「それならもっとそれらしい言動しなさいよ。
   あまりに落ち着いてそんな肉のこけた頬をしてるから、
   てっきり三五歳くらいの虚弱体質って思ってたわよ私」

茅場「……きみは見も知らぬ虚弱な中年へいきなり雑用を押しつけるのかね」

紫「天下の茅場晶彦も博麗の巫女を前にすれば形無しね」

●冥界・白玉楼

茅場「ここは? ずいぶんと閑かな場所だが」

紫「死後の世界のひとつよ」

茅場「死後だと! ……幻想郷とは、また違うのか」

紫「ええ。あなたが欲していた異世界というものは、いくらでもあるわ。
  この日本と関係しているものだけでも、幻想郷にはじまり、
  仙界・天界・極楽・冥界・黄泉・地獄・魔界・妖精界・月都などもろもろ。
  世界に目を広げれば、それこそたくさんね。私も実数なんて把握できないほどよ」

茅場「私はいったい、なにをしてきたのだ。ソードアート・オンラインを作って、
   デスゲームを演出し、世界を創ったと豪語していたのは、ただのまやかしだったのか」

紫「あなたの事情なんかどうでもいいわ。さあ、彼女があなたの探していた妖夢よ。
  ちなみに顕界との接続は私の能力にあの霊夢の力をプラスしてるわ」

茅場「……新手の虐待かね。顔中に心ない落書きがしてあるんだが。美人が台無しだろうに」

幽々子「だって、妖夢が眠りっぱなしでおやつを買ってきてくれないから〜〜。お腹すいた〜〜」

紫「あなたキャラ崩壊してるわよ」

幽々子「うらめしやー」

茅場「人魂? 亡霊? そういえば妖夢といったかな、この子も傍らにおおきな人魂が」

幽々子「私はご明察のとおり亡霊だけれど、妖夢は半人半霊、妖怪よ。
    半分生きていて、半分死んでるわ。そういう種族なの」

茅場「……まさか異界の人にあらざる住人が、私のゲームをプレイしていたとは。
   世の真実は近くにあったのか」

幽々子「純粋な剣士である妖夢にとって、剣一本で戦うあなたの世界こそ、
    長年ずっと追い求めるものだったのよ。誇りなさい茅場晶彦。
    あなたは人間でない本物の異相たる存在を、ここまで魅了するほどの世界を、
    たとえ仮初めであったとしても創り出すことに成功したのだから」

茅場「なるほど、私はそういう意味では、夢を具現したといえるのか」

紫「ではそろそろ帰りましょうか。茅場晶彦、あなたはまだ、顕界ですべきことがあるわよね」

茅場「ああ。私にはやるべきことがある。だがひとつだけ、力を貸して欲しい」

紫「なにかしら」

茅場「このままでは攻略が早すぎて、私の準備が間に合わない。その手伝いをしてもらいたい」

紫「それで私になんの得があるの?」

茅場「世界を変革するささやかな可能性のスタートに、
   立ち合える――歴史の目撃者ではなく、当事者として」

紫「面白そうね。暇だし、ここは乗ってあげてもいいわよ」

●およそ四ヶ月後

妖夢「いよいよ第一〇〇層ね」

キリト「長いようで早かったな。これもみんな、ヨームやクラインのおかげだ。
    あのとき俺を誘ってくれてありがとう」

クライン「キリトこそすげえよ。二刀流なんてユニークスキルをゲットしてよう。
     スターバースト・ストリームやジ・イクリプスのおかげで、
     八〇層からこちら、楽させてもらったぜ」

妖夢「元祖二刀流といっても私のはシステム外のソードスキルレスですから、
   いまとなっては瞬間火力面でキリトさんには叶いません」

キリト「いや違う。なにもかも、ヨームが起点だった。
    きみの頑張りがみんなをわずか八ヶ月で頂上まで導いてくれたんだ。
    やっかいなクォーターボスも第二五層はふいを付かれたが、
    五〇層でも七五層でも死者が出なかったのは、すべて君が起こした奇跡さ。
    俺の二刀流スキルなんか、飾りだよ」

アスナ「キリトくん、ヨームちゃん。はやく来てよ。
    二七連撃と三三連撃の主役がいないと始まらないじゃない」

妖夢「あ、すいませんアスナさん」

キリト「いま行く」

エギル「よーし。ユニークスキル持ちが揃ったぞ」

アスナ「まさか最後の関門が、ユニークスキル持ちが揃わないと開かないなんて、変なカラクリね」

クライン「こうして並んでみると壮観だな。まずキリトの直剣による二刀流、
     俺のカタナによる抜刀術、アスナの細剣による閃光剣、エギルの大斧による旋風斧、
     シュミットの突撃槍による無限槍、シリカの短剣による千手剣、
     リズベットの戦鎚による雷神鎚、アルゴの投剣による手裏剣術
     ……最後に、クラディールの大剣による暗黒剣」

クラディール「みなさんと違って、爆発的な攻撃力と引き替えに自分のHPを削りながら戦う暗黒剣
       ……デスゲームなので、あまりにも使えない」

ディアベル「それでもうらやましい。俺もユニークスキル欲しかった」

妖夢「私もユニークスキルは運悪く得られませんでしたけど、
   得たとしても曲刀二本では使えないので、けっきょく変わりませんね」

クライン「わりいなヨーム。曲刀系のユニークが、まさか上位レアスキルのカタナにしかなかったなんて、
     俺も意外だった。不人気カテゴリーは辛いな」

妖夢「気にしないでください。両手武器のカタナスキルだと本格的に一本しか持てませんから、
   二刀流を守りたい私としては片手用曲刀のままじゃないと都合がつかなかったんですよ」

アルゴ「本当に運ダナ。まさかのユニークスキルが出たトキ、オイラは心底びっくりしたヨ」

シリカ「すいません私みたいなのがユニーク持ちで……ヒロイン補正だと思います」

リズベット「私も驚きだわ。ま、投剣や短剣や戦鎚は使用プレイヤーが少ないぶん、競争率も低いってものよ」

ディアベル「片手用直剣はユーザーが三〇〇〇人はいるから、競争率高すぎたんだよなあ……二刀流」

キリト「じつはディアベル、二刀流は片手用直剣専用じゃないんだ」

ディアベル「なんだって?」

キリト「このスキルだが、片手用の武器であればなんでも有効なんだよ。
    二刀流だけ出現が早かったし、武器種に依存しない謎スキル。つまり――」

ディアベル「片手用直剣専用の、ユニークスキルがまだ残ってるというのか」

キリト「ああ。俺が思うにおそらく、あの某ヒースクリフが怪しい。
    判明しているユニークスキルが九種類というのも、数としては中途半端だろう」

キバオウ「なんやと! あれかいな、わいらがずっと探しとった茅場のおっさんは、
     こん大扉の向こうに未知のユニークスキル隠してふんぞり返っとるわけかい。
     コーバッツ上級大将、捕縛の用意はええか?」

コーバッツ「万端です! キバオウ大元帥閣下、
      我々の永きに渡った捜索の日々も、ここで終わるというものなんですね」

妖夢「語っていても仕方ないです。行きましょう――開ければ、なにもかもが、わかります。
   私もたぶん、最後のボスは茅場だと思っています」

ディアベル「よし、みんな行こう! そして勝つんだ!」

全員『おおぅ』

●第一〇〇層・紅玉宮最奥

ヒースクリフ「待っていたぞ諸君……って、すごい人数だな」

妖夢「攻略組、三レイド、一四〇人よ」

ヒースクリフ「たしかにこの大所帯で戦っていれば、ほとんど人死には出そうにないな」

キリト「久しぶりだな。覚悟、茅場晶彦!」

ヒースクリフ「さて、大勢で乗り込んできたところ悪いが、
       この深紅に染められた空間は見ての通り局所的な圏内で、
       私もシステム上、一般プレイヤー扱いだ」

キリト「…………」

ヒースクリフ「つまり私を倒す手段はデュエルモードしかなく、
       同時に戦うことが許される人数は、わずか一人でしかない」

ディアベル「なんだと! 俺の絶対無敵なゴルディオンハンマー戦術が使えない!」

ヒースクリフ「本来なら全プレイヤー中で最大の反応速度を持ち、勇者の役割を担ったキリトくん、
       きみが魔王たる私の相手となるはずだったのだが、
       あえて私が描いたシナリオ外の相手で決着を付けさせてもらおう――妖夢くん」

キリト「ヨウム? ヨームじゃないのか」

妖夢「……あなた、私の正体を知ってるのね」

ヒースクリフ「ああ。よく知っているとも。白玉楼の防人、幻想郷最強の女流剣士、魂魄妖夢くん」

クライン「おいてめえ! リアルばらしは最大のマナー違反だぞ!
     ……メモメモ、コンパクヨウムちゃん」

妖夢「ク、クラインさん?」

クライン「リアルに戻ったとき、名前を知っておかねえと、会えないだろうがよ」

妖夢「まったくもう……勝手な人ですね」

クライン「ぶっちゃけるとヨームよう。俺、おめえがマジで好きだわ」

妖夢「なっ! ななな、いきなり告白ですか?」

クライン「だってよう、ゲームクリアしちまったら、離れちまうからな」

妖夢「――そうですね。あの、告白してくださって、ありがとうございます。
   前向きに検討したいと思います。真剣に」

クライン「えっ? それってまさか……」

妖夢「でもその前に、茅場を倒さないといけませんね」

アスナ「そうか! この戦いが終われば私たちは……キリトくん!」

キリト「アスナ?」

アスナ「私、あなたが好きよ。後悔したくないの」

キリト「……お、おうっ」

シリカ「いけない! ここは自己主張しないと。私もキリトさんが好きです」

リズベット「私もよ! 私もキリトが、好きー!」

アルゴ「オレっちもキー坊のことが、お金の次くらいに好きダヨ」

クライン「おいおいキリトのやつ、突発的にすげえモテっぷりだな」

キリト「みんなごめん。好意はありがたいけど、俺の体はひとつしかないんだ。
    俺は……俺は、アスナと付き合いたい」

妖夢「じつは私も最初、キリトさんのことが好きだったんですけどね」

クライン「なんとぉ? いや待てよ、最初ってこたぁ……」

妖夢「アスナさんが相手じゃ分が悪すぎるって思って、自分で勝手に失恋してました。
   予定調和になってくれて安心してます。お幸せにキリトさん、アスナさん!」

アスナ「ありがとうヨームちゃん。ねえキリトくん、この戦いが終わったら、第二二層に家を買いましょう」

キリト「それもいいな……でもたぶん、あの男を倒したらこの世界とはもうおさらばじゃないかな」

アスナ「残念ね……なら、リアルで会いましょう」

キリト「ああ。会おう、アスナ。あ、これ俺のリアルネームと住所」

アスナ「私はこれよ。覚えてね」

妖夢「いいなあ。カップルいいなあ」

クライン「なあヨーム、返事をな」

妖夢「およっ? クラインさん、ずいぶん急かすんですね」

ヒースクリフ「そろそろ本番に入っていいかね、妖夢くん」

妖夢「やはり私を指名するんですか。わかりました。ちゃっちゃと終わらせましょう」

クライン「茅場ぁ! なんでそこで止めやがるー!」

ヒースクリフ「公平を期するため、諸君らに私だけが持つ、
       最初にして最後のユニークスキルを教えておこう。神聖剣という」

妖夢「なんですか、その大袈裟な名前。茅場さん、ずいぶん歳を食った中学生なんですね」

ヒースクリフ「くっ……このし――ごにょにょ剣は、片手用直剣と大盾の合体スキルで、
       全スキル中、最大の防御力を誇っている。一方で攻撃性能は普通だ。
       ほかの九種類がすべて攻撃力に特化しているのと、正反対の属性といえるだろう」

妖夢「さすがフェアネスを貫き通したGMの鑑ね。情報開示ありがとう。そこだけは認めてあげるわ」

ヒースクリフ「なお私のレベルはきみと同じ一〇八としている。それは済まないが演出上、了承してもらいたい」

妖夢「私が八ヶ月戦い続けて到達した高みを、データ操作一発とは、さすがにチートすぎますよ。
   でも仕方ないわね。そうでもしないと最低限の勝負にすらならないもの。
   一〇八か――奇しくも煩悩を示す数字とは、未熟な私らしくもあるわ」

ヒースクリフ「それではデュエルだ。モードは――」

妖夢「もちろん、完全決着モード!」

ヒースクリフ「ためらいもしないのだな。さすが冥府の守護。
       それでこそこの戦いも盛り上がるというものだ」

妖夢「私はこの世界で唯一、正真正銘、本物の剣士。あなたの命を奪うことに、なんの感情もないわよ」

キリト「いよいよ始まるのか。最後の戦いが」

アスナ「大丈夫よキリトくん。ヨームちゃんは最強なんだから」

クライン「うお〜〜、ヨームの返事が気になってラストバトル観戦どころじゃねー!」

ヒースクリフ「それでは――行くぞっ!」

妖夢「盾ですか。折伏無間! なに、弾かれた?」

ヒースクリフ「……ほう。まさか攻撃判定のある特殊盾を大胆に掴もうとするとは。だがまだまだぁ」

妖夢「甘い! 炯眼剣!」

ヒースクリフ「剣術で当て身技だと? ぐおぉ!」

妖夢「生死流転斬! あなたていどのド素人剣術なんて、どれほどチートなスキルに頼ろうとも、
   私の敵じゃない! キリトさんのほうがまだ強いわ。円心流転斬!」

アスナ「ヨームちゃんが珍しく技名を叫んでいるわ。よほどノッてるのね」

キリト「システムが用意した最強の攻撃スキルを持つ俺ですら、
    ヨーム相手には最長三〇秒しか持たないからな。相手が悪すぎる」

妖夢「最後は未来永劫斬! ――はい、いっちょあがり。HPバー、削りきったわよ」

ヒースクリフ「……ああ、終わった。これでやっと、私の世界も次の役割へと向けられる」

妖夢「なにそれ? ちょっと、なに深そうなことつぶやいてるんです――」

システムアナウンス『七月七日七時七分、ゲームはクリアされました。ゲームはクリアされました……』

妖夢「おー、七並び。これは吉兆だわ」

クライン「待ってくれ〜〜! ヨーォォォォム!」

●黄昏の空間

妖夢「あれ? ここはどこ? あ、まさかあれ、アインクラッドじゃない? 無音で崩壊してる……」

妖夢「…………」

妖夢「……意外と綺麗な光景ね」

妖夢「…………」

茅場「やあ、魂魄妖夢くん。待たせたね」

妖夢「あなたは――茅場晶彦の、リアルの姿です?
   城はどうなっているんですか? あそこにいた人たちは?」

茅場「これはデータ消去の演出だよ。安心したまえ、あそこにいた生存者は、
   全員すでにログアウトを終えた。私ときみ、キリトくんにアスナくんを除いてね」

妖夢「キリトさんとアスナさんは?」

茅場「正規の勇者にはすでに会ってきたよ。
   あの城が崩壊し終わったら、自動的にログアウトするよう設定してきた」

妖夢「どうして一〇〇〇人近くも死ぬような大異変をしでかしたのですか」

茅場「そうだな。いつしか叶えるよりも行動することが目的となってしまい、
   あまり深く考えたことはなかったのだが、妄想に取り憑かれたから、かな。空に浮かぶ鋼鉄の城の」

妖夢「……あなたが作りたかったものって、本物の異世界ですよね。
   だから私たちの顔や姿を元に戻し、死んだら本当に終わるゲームを演出したのでしょう」

茅場「ああそうだ。だが私は幻想郷の巫女や、冥界で眠るきみを知ってしまった。
   本当の世界とは、静謐で穏やかなものだった。
   私のやってきたことはなんだったのだろうと、考えるようになったのだよ」

妖夢「答えは出ましたか」

茅場「それはこれから、電脳の情報網が出す。答えを求めるための種を世界へと蒔こうと思う。
   私の知識や意識という、見えざる種を。何十年かすれば、きっと世界の仕組みは変わっているだろう」

妖夢「……あなた、死ぬ気ね」

茅場「元々このデスゲームをはじめたときから、生き長らえようなんて甘いことは、
   カケラも思っていなかったさ。ひとつ礼を言おう、妖夢くん」

妖夢「なんでしょう」

茅場「君のおかげでこのソードアート・オンラインは、ひとつの異世界として完結できた。
   私の用意していた、ありきたりでくだらないヒロイックファインタジーのシナリオより、
   よほどエキサイティングだったよ。可能性を見せてくれて、ありがとう」

妖夢「最後まで自分勝手な人ですね。私にその礼を受けるいわれはないわ。
   勝手にお逝きなさい。私はこれからも冥界に住んでいますが、
   私が存命中にあなたと会うことはないでしょう」

茅場「夢は果たされた。私は地獄行きなど、これっぽっちも怖れはしないよ。
   まもなくデータの完全消去が終わる。では、そろそろ行くよ」

妖夢「消えた……知らないって幸せね。予言してもいいですけど、あなた多分、
   年甲斐もなく泣き喚くことになるわよ。あ、聞こえてないか」

●冥界・白玉楼

妖夢「おはよう、ただいまー!」

幽々子「おかえりなさい。どうだった?」

妖夢「なかなかに楽しい休暇でした幽々子さま。
   八ヶ月か――ちょっと長くなりましたね。お勤め、頑張って取り戻します!」

幽々子「そのまえに、顔を洗いましょうね。うふふふふ」

妖夢「え? ――鏡、鏡……きゃー! ゆ、幽々子さまヒドいですー!」

●閻魔裁判の間

映姫「次の魂は……茅場晶彦ね」

茅場「閻魔は人材不足なのか? こんな子供がやってるなんて」

映姫「うるさいわねあなた。順番待ちの列ですでにブツブツ聞こえていたわよ。
   すこしはお黙りなさい。人間が増えすぎて十王様方だけではまったく捌ききれないのよ。
   私は幻想郷と、顕界でこの一帯を担当してるわ」

茅場「幻想郷――なるほど、だからあの紫くんは、私に潜伏場所を変えさせたのか」

映姫「部外者なのに八雲紫を知ってるの? 面倒な子が来たものね。ええっと、
   罪状は自殺と……一万人もの拘束監禁! さらに大量殺人? 一〇〇〇人近くとは、たまげたわ!
   私の受け持ちでこれほどの大悪党を見るなんて、戦国時代以来よ」

茅場「たしか紫くんまたは藍(らん)くんから一筆、書状が届いてるはずだが」

映姫「……ああ、これね。読むわよ。
  『茅場晶彦の大脳新皮質の完全スキャンは成功の模様。
   コピーされた意識群のうち、ひとつを複製回収。新世紀の式神として、幻想郷のために使役予定。
   ネットに散らばったデータにも刺激を与えているので、覚醒は早いだろう。
   代償として死亡したあなたは地獄で安心して大人しく服役なさい』
   だそうよ。私には半分くらいしか判らないわね」

茅場「そうか、無事に成功したか。あの八雲藍くんという式神の仕事は確かだったな。
   まだ半年以上かかったであろう装置の調整と完成を、たった二ヶ月に短縮するとは。
   さすが異界の生き物は、たとえ狐であろうとも格がちがうな」

映姫「とりあえず白黒付けずともあなたの地獄行きは確定よ。落ちる先はもちろん、
   最大の苦痛を受ける阿鼻叫喚の無間地獄ね。服役期間は――二〇万年ほどかしら」

茅場「にっ、にじゅうまん? ちょっ、ちょっと待ってくれないか。
   そんな長い間、私はずっと筆舌の苦しみを味わうのか?」

映姫「仕方ないじゃない、あなたは平和国家日本にあるまじき無差別大量殺戮者なんだから。
   これが戦乱の世なら数千年で済んだでしょうに……」

茅場「差が開きすぎているだろう! どういう理屈なのか、教えてくれないか」

映姫「現代の日本がなまじ史上かつ世界最高の安全な治安国家なものだから、
   情状酌量の余地どころか凶悪犯罪の懲役乗算倍率レートがすごいことになってるのよ」

茅場「理解しがたい」

映姫「世に範を示すため、霊界にも戒めが必要なの。
   八〇年近くもつづく類を見ない安寧の平時にあえてこのような大乱を起こすことが、
   日本の歴史にどれだけの濃い影を落とす、罪深いことかおわかり?
   あなたの悪影響はおそらく、世紀単位で波及するわよ」

茅場「私はただ、自分の想い描いた夢想を実現するために……」

映姫「だまらっしゃい狂人さん。あなたなんてまだまだ小物よ。
   前世紀派手に暴れた某ヒットラーなんか聞いた話、刑期は五千万年らしいわよ。
   乱世の時代で五千万だから、いま同じことをすれば数億年となるでしょうね。
   まあ、あなたがこれから落ちる仏教の地獄とは別の、キリスト教系の地獄なんだけどね」

茅場「私は仏教徒ではない。裁判のやりなおしを要求したいのだが、どこに申請すればいいのかね」

映姫「とにかくこれがあなたに積める唯一の善行なのよ。それではさよなら茅場さん」

茅場「お、おかあさ〜〜ん!」

●埼玉県某所

明日奈「和人くん、最近ネットでなにを熱心に調べてるの?」

和人「いくら調べても出ないんだよなあ明日奈……ヨームの二刀流らしき流派。
   ヨームのやつ、ついに教えてくれなかったんだよ。見つけ次第、リアルで入門したい。
   あれを覚えれば、まもなくサービス開始となるALOで俺は最強になれる!」

明日奈「ヨームちゃん、また会えるといいわね」

和人「俺がキリトとしている限り、きっと会えそうな気がする。ALOでなら」

明日奈「でもそれって、ヨームちゃんがいる限り、和人くんは永久に最強になれないってことよ?」

和人「あ〜〜、……ま、いいか。ヨームの後塵を拝するくらい、
   どうってことない。会える嬉しさのほうが、ずっと上だ」

明日奈「私もおなじよ、和人くん」

●ダイシー・カフェ

壷井「コンパクヨウムちゃん、どこにいんだよう。俺のスイートハート」

ミルズ「クライン、大の男が昼間から呑むな喚くな泣くな。
    あの子にまた会いたいなら、このゲームで待ってるんだな」

壷井「なんだいこりゃ、エギル。アルフヘイン?」

ミルズ「アルヴヘイム・オンラインと読む。通称はALO。
    SAOサバイバーが千人単位で正式サービス開始を待ちわびている。
    いくら半年以上閉じ込められたからといっても、あの日々を忘れるなんて出来やしないさ。
    俺たち、もう知ってしまったんだからな」

壷井「そうか……そうだよな。よっしゃ、今度こそ俺は男を上げるぜ、エギルよう。
   目指すはヨームの横に並んでも遜色ない、最強の魔法戦士だ」

ミルズ「無謀な挑戦の前に警告しておいてやる。
    おまえさんより強かったキリトとアスナも、ALOをプレイするそうだぞ」

壷井「リ、リア充は爆発してろぉ!」

ミルズ「なに言ってんだか。おまえさんも無事再会したら、勝負駆けが待ってるだろ」

壺井「おうよ。待ってろよヨーム!」

●博麗神社

魔理沙「久しぶりだな妖夢! もう当たり前に動けるのか」

妖夢「ええ。妖怪だからか、リハビリは不要でしたよ」

魔理沙「いくらデスゲームといってもおまえのことだから、SAOは面白かっただろう?」

妖夢「剣で暴れまくってさっぱりしてきました。恋も経験できたし、なかなか充実の日々でした」

魔理沙「恋だと! それは聞き捨てならねえなあ。そこんとこ、詳しく教えてくれよ」

霊夢「そんなことより妖夢、神社に来るなら酒くらい持ってきなさい」

妖夢「まったく霊夢さんはまるで変わりませんね」

魔理沙「そうだ。妖夢の用事ってなんだ?」

妖夢「ああ、じつは面白いゲームがまもなく発売されるそうなんですよ。
   ALO、アルヴヘイム・オンライン――妖精の国っていいます」

魔理沙「ソードアート・オンラインとは別物か?」

妖夢「ええ。このゲームですが、魔法を使えるのはもちろん、空を自由に飛べるらしいですよ。
   それも、とんでもない広さだそうです」

魔理沙「おおっ。SAOは剣だけなんで敬遠したが、ALOは楽しそうだぜ。よし、さっそく手配しないとな」

霊夢「まさか妖夢、また結界に小さな穴を開けて回線を提供してくれって言うつもりじゃ」

妖夢「霊夢さんのぶんは幽々子さまと紫さまが費用を捻出してくださるそうですよ」

霊夢「よし、がんばって遊ぶわよ! 幻想郷は飛び回るには狭すぎるのよ。
   たまには外界のゲームで息抜きしないとね! いまから前祝い酒よ!」

魔理沙「タダとなると俄然乗り気だな霊夢。酒盛りとなれば、私も付き合うぜ」

妖夢「私も今度こそ楽しく遊びたいです。クラインさん、また会いたいなあ――あ、一杯ください」

魔理沙「まだ酒が入ってないのに、頬が赤いぜ妖夢」

東方SS

チルノ「アルヴヘイム・オンラインであたい最強!」 (東方×SAO)

 原稿用紙換算62枚
 妖夢「これがソードアート・オンラインですか」の続編。
     *        *

●霧雨魔法店

チルノ「アルヴヘイム・オンラインであたい最強!
    天才のあたいが来てやったからには、もう勝利は確定だよ!」

魔理沙「よう、待ってたぜチルノ。ほらこいつを被って、設定するぞ」

チルノ「おー、これが噂の妖精王国!」

魔理沙「アミュスフィアのユーザー名はCirnoっと。おいチルノ、
    キャラクター名もおなじにしとけよ。名前が分かってないと連絡が取れないからな。
    システムがユーザーネームと被るって注意してきたら正解だぜ」

チルノ「わかったー」

魔理沙「『リンク・スタート』と言って、あとは適当に設定したらゲーム開始だぜ。
    それじゃ、向こうで落ち合おうな」

チルノ「リンク・スタート!」

●エントリー

システム『アルヴヘイム・オンラインへようこそ――キャラクター名を入力してください』

チルノ「名前〜? ち、ち……魔理沙が同じにしろって言ってたな。
    えーと、あたいの綴り綴り、あ、この左上のか! C・i・r・n・o」

システム『ゲーム機本体のユーザーネームとおなじですが、宜しいでしょうか』

チルノ「あたいったら天才ね」

システム『種族を決めましょう』

チルノ「氷、氷、水……ウンディーネ!」

●ウンディーネ領ホームタウン

チルノ「あたい降臨!」

チルノ「お〜〜、みんな青い髪、青い目、青い翼! ウンディーネ!」

チルノ「容姿ランダムって言ってたけど、あたいはどんな姿かな?
    大ちゃんみたいに胸が欲しい♪」

チルノ「あ、この建物の壁、あたいが写ってる!」

チルノ「…………」

チルノ「なんであたいが、そのまんまいるの?」

チルノ「メッセージ? ――M・a・r・i・s・a、魔理沙だ!」

魔理沙『姿いっしょで驚いただろ? そいつはゲーム機に因幡てゐの幸運能力を掛けてるからだぜ』

チルノ「そーなの? ……返事、返事」

チルノ『まりさ とこにいる』

魔理沙『世界樹のふもとにいる。
    とてつもなくでっかい木まで飛んでこい。おまえなら簡単なはずだ』

チルノ『わかつた せかいしゆにいく』

チルノ「でっかい木、でっかい木……分かんない。やい、そこの青びょうたん」

ディアベル「ん? おお、これは見たこともないほど小さなアバターだな。
      珍しい。初期装備か。ゲームをはじめたばかりかい?」

チルノ「世界樹ってどこ? 行きたいの」

ディアベル「いきなりレネゲイドにでもなる気か。俺としてはあまりお奨めできないね」

チルノ「レネゲイドって美味しい? じゃなくて、どこにあるのかな? 世界樹」

ディアベル「そりゃあ、あちらにまっすぐ飛んでいけば、
      ぶっとうし丸一日くらいで着くだろうけど」

チルノ「ありがと。じゃああたい、行くね」

ディアベル「ちょっと待てよきみ。一人だと危ないぞ」

チルノ「うん?」

ディアベル「ここはMMO歴の長い俺がレクチャーしてあげよう。
      こう見えても一週間後に迫ってる選挙で領主候補の筆頭なんだ。
      顔が広いから、いくらでも仲間を紹介してあげられる」

チルノ「いい。魔理沙と会う約束が先だ――飛翔!」

ディアベル「んなっ! 補助コントローラーもなしに、なんだあの速度は!
      初心者の随意飛行じゃないぞ。もう見えなくなった」

ディアベル「そういえば、最初から猛烈な速さで飛ぶプレイヤーが何人かいるって噂があったな。
      仮の名はセブンセンシズ・ガール。その一人がたしか……マリサ」

●虹の谷

チルノ「なんで山より高く飛べないのかな」

チルノ「ときどき勝手に地面へ降ろされるの、うっとーしー!」

チルノ「あ、ここだけ山が低い。なんか出た……『虹の谷』? ここを抜ければ、世界樹だな」

チルノ「変な空飛ぶモンスターが出た! あたいの魔法を食らってみろ! パーフェクトフリーズ!」

チルノ「…………」

チルノ「あれれ?」

チルノ「いやー! 来るなー!」

チルノ「はあはあ、死ぬかと思った。魔法が使えないんじゃ、
    いくらあたいが天才でも最強になれない。こうなったら、聞くは一時の恥ね」

チルノ『まほうつかえない おしえろ ぱあふえくとふりいす』

魔理沙『ごにょごにょごにょごにょ。この呪文を唱えて、最後にパーフェクトフリーズとでも叫べ』

チルノ「よし、リベンジだ」

チルノ「ごにょごにょ、おー、謎の魔法陣だ。パーフェクトフリーズ!」

チルノ「なんか効果が違う気もするけど、効いた! ごにょごにょ、パーフェクトフリーズ!」

チルノ「倒した! わっはっは、無敵だ。あたい天才!」

チルノ「パーフェクトフリーズ! パーフェクトフリーズ! あたい最強!」

チルノ「――うわーん! 魔法力尽きたー! 逃げるー!」

●央都アルン(世界樹のふもと)

魔理沙「たった三時間で辿り着くとは、さすが生粋の妖精……もとい、天才だな。
    私でも五時間近くかかったのに。やはりおまえをパートナーに選んで正解だったようだぜ」

チルノ「……パーフェクトフリーズ、連続で八回しか使えない。
    三〇分くらいで回復するけど、遅い!」

魔理沙「そりゃ熟練度の低いうちは初期魔法でもMP消費が激しいからなあ。
    武器も使えないと、ALOは戦えないぜ」

チルノ「武器? あたいが使ってる、氷の剣の魔法はないの?」

魔理沙「そういうのはかなり魔法スキルをあげないと無理だ。ここは幻想郷じゃないからな」

チルノ「不便!」

魔理沙「むくれるな。でもチルノ、楽しかっただろ」

チルノ「うん楽しい。アルヴヘイム、幻想郷よりずっとず〜〜っと広い。
    こんなに長くまっすぐ飛んでいられたの、はじめてだ」

魔理沙「だからここは戦ってスキルを強くして、もっとどこにでも飛んで行けるようになろうな」

チルノ「あたいに任せろ!」

●三〇分後

チルノ「飽きた」

魔理沙「早っ」

チルノ「敵を探して、見つけて、剣や魔法で倒すだけ。単純なことの繰り返し、つまんない」

魔理沙「仕方ないなあ。じゃあスキマから預かったこいつでも付けてやる。
    私はもう一人でも大丈夫だしな。お友達がいれば退屈しないだろう」

チルノ「なにこの白くて小さくて可愛いの!」

ユイ「八雲結(やくもゆい)といいます。
   このゲームではプライベート用のナビゲーション・ピクシーとなっていますが、
   本来はあなたと同じくらいの大きさなんですよ」

チルノ「やくもゆいちゃんは、あたいみたいに天才?」

ユイ「お役に立てると思います。ただユイと、呼んでください。チルノさん」

チルノ「よろしくな!」

●サラマンダー領ホームタウン・首都ガタン

クライン「領主やめるって、本当かよレイム」

霊夢「好きでやってるんじゃないわよ。見目が良くて強いからって変な理由で、
   勝手に人気投票で赤トカゲの頭目にさせられたんだから」

クライン「でも初代領主がわずか二週間で辞任って、
     補佐役の俺としても、ようやく馴れてきたのによう」

霊夢「私はね、央都アルンですることがあるの。
   こんな博麗の巫女みたいな面倒なこと、現実だけで結構よ」

クライン「てことは、世界樹に行くつもりかレイム」

霊夢「グランド・クエストとかいうのを平らげて、
   世界樹のてっぺんにいる妖精王オベイロンに謁見して、限定解除でいくらでも飛ぶ!」

クライン「サービス開始一ヶ月半でグランド・クエストに挑戦?
     いくらなんでも早すぎると思うぞおい。クエストが実装されたのも、たった一週間前だろ」

霊夢「先行した魔理沙とチルノがエンシェント級の装備でガッチリ固めたって聞いたのよ。
   三週間しか遊んでないチルノが、武器防具でもう私を追い抜いたって、我慢できないわ。
   アルン周辺でないと手に入らないものがたくさんあるわけ。あんたも来なさい」

クライン「うへえ。領主と補佐役が揃って消えると、サラマンダーはどうなっちまうんだ」

霊夢「そんなの知ったこっちゃないわ。モーティマーとユージーンの兄弟がやりたがってるみたいだし、
   摩擦も鬱陶しいから、頭目の地位なんて熨斗(のし)でも付けてくれてやるわよ」

クライン「その思い切りの良さ、まるでヨウムみてえだな」

霊夢「妖夢もホームタウンを出てアルンに来るそうよ。
   そろそろ文通だけじゃ物足りなくなってきたところじゃないクライン?」

クライン「よっしゃ! 付いていくぜレイム」

●央都アルン

チルノ「あははは、霊夢の髪が赤! 変だ」

霊夢「こればかりはね。黒髪はインプやスプリガン、ノームでなれるけど、
   特性が私の趣味じゃないのよ。やはり魔法も武器もパワーよパワー!」

魔理沙「まあ、博麗の巫女が隠密性や幻惑魔法、素材採集に秀でても仕方ないからな」

霊夢「魔理沙は外見を優先してちゃっかりケットシーなんて選んでるじゃない。
   耳がまるでネコみたいだし、しっぽまで生やして、可愛すぎるわよ。
   あなたなら本来、星型のエフェクトが出る魔法をいくつも使えるインプでしょう」

魔理沙「インプじゃ金髪になれないぜ。暗中行動が出来るからってインプを選んだ妖夢はまっくろくろすけだ」

クライン「なあおいレイム、ヨウムはどこだ?」

チルノ「誰このおじさん」

クライン「まだおじさんって言われる歳じゃねえよ」

魔理沙「ほう、この男が、もしかして」

妖夢「あ、あの。お久しぶりです……クラインさん」

クライン「おおうっ、黒髪のヨウム! まるで出会った最初の日を思い出すなあ」

妖夢「はい。もう一年になるんですね。懐かしいです」

クライン「こちらでもよろしくな、ヨウム」

妖夢「クラインさんも。あの、さっそくフレンド登録を……」

クライン「おうよ」

チルノ「妖夢の顔が赤い! なんだなんだ? 珍しいぞ!」

ユイ「ヨウムさんの心拍が急上昇していますね。ドキドキです。可愛いです。素敵です」

魔理沙「まあアレだな、そういうわけだぜ」

チルノ「妖夢はこのおじさんが好きなのか?」

妖夢「ちっ、チルノ!」

クライン「……これで、これで俺もやっと、爆発しろと言われる側になれる」

チルノ「おー、男泣きだ」

霊夢「チルノのせいで収拾が付かないじゃない。
   ほらほら、妖夢とクラインはさっさとあちらで告白でもなんでも済ましてきなさい」

●一週間後

巨像『未だ天の高みを知らぬ者よ――』

チルノ「挑戦するー!」

霊夢「ふっふっふ、腕が鳴るわね」

魔理沙「グランド・クエストへ初挑戦か。
    一昨日は三〇人のパーティーが全滅したそうだが、たった五人でどこまで通じるかな」

クライン「ま、俺らならなんとかなるんじゃねーの? ヨウムもいるし」

妖夢「私はクラインさん赴くところ、どこへでも馳せ参じます」

ユイ「おててを繋いで、すっかりお熱いですねえ。ひゅーひゅーなのです」

クライン「おいマリサ。このチビスケやたらと高性能だけど、本当にナビゲーション・ピクシーなのか?」

魔理沙「ユイはあの悪名高いSAOを動かしてたカーディナル・システムの一部だぜ。
    私の知り合いが途中からメインフレーム維持管理に加わった関係者でね、
    疑似人格といえるレベルまで成長してたから、消去するに忍びなくてサルベージしたんだ」

クライン「……どういうチートだよ」

●さらに一週間後

チルノ「おまえ誰? 妙なトサカ頭」

キリト「俺はキリト。クラインに呼ばれた助っ人だよ」

リーファ「お兄ちゃん、こんな小さな子、はじめて見たわ!」

アスナ「バグかしら? 活動にいろいろと支障あるんじゃない」

チルノ「あたいは最強だから、ちんまくても平気だ」

魔理沙「そいつの言ってることは本当だぜ。私たちの中で、
    チルノはなぜか最強のエアレイド魔法使いだ。全プレイヤーでも上位五人に入ってるだろうな」

霊夢「純粋だから、きっとシステムとの相性がいいのよ。
   妖夢も武器で最強だし、どっちつかずで半端な私と魔理沙の立つ瀬がないわ」

妖夢「キリトさん、アスナさん。ご無沙汰してます」

キリト「……ヨーム。久しぶり」

アスナ「ヨームちゃん、元気そうね。どこか落ち着いて見えるわ」

妖夢「また一緒に戦うことが出来て、嬉しいです。
   それから私ですが、ALOではヨウムで登録しています」

アスナ「ヨウムちゃん、よろしくね」

クライン「キリトもアスナも来てくれてありがとな」

キリト「クラインも直では久々だな。元気そうで……ん? クラインとヨウム、どこか似てるな」

リーファ「あれれ、防具がまるでペアルック〜〜。あやしー」

妖夢「はい……付き合ってます」

リーファ「マジ! うらやましいなー」

アスナ「えっ! おめでとうヨウムちゃん! 良かったね」

キリト「おいおい、初耳だぞ」

クライン「そりゃサプライズは隠しておくってのが相場だかんな。
     これで俺もおまえらに追いついたぞ。コンビとしての強さは、俺らが上だがな」

キリト「ほほう。それじゃあ、試してみるか」

妖夢「別にいいですよ。SAOではとても選ぶことが無理だった完全決着モードでの試合、
   キリトさんと一度、してみたかったんです」

●試合後

キリト「……なにがコンビとしての強さだよ。
    ほとんどヨウムだけじゃないか。ゲームで死んだのは一年以上ぶりだぜ」

クライン「まあ、俺の強さを一〇〇とすりゃ、ヨウムは一〇〇〇くれぇ強いからな。
     俺は牽制役・囮役に徹してるほうが、ペアとしてはかえって強いわけだ」

アスナ「私なんて接近されて五秒と持たなかったわよ。追尾魔法までありえない回避でかわしちゃうし、
    どういう運動神経、もとい、飛行センスをしてるのヨウムちゃん」

妖夢「いつもやってるというか、慣れてるというか、地上戦よりむしろ空中戦のほうが得意です」

キリト「なんてこった。ALOでヨウムに追いつくどころか、ますます離されてしまった……」

魔理沙「キリトからは天才と言っていい迸るほどの才気を感じるけど、
    妖夢のリアル剣術は仲間内でも最強だぜ。何十年も修行して数百余の実戦経験を持つ相手に、
    一年かそこらで追いつくのも無理な話だ。あまり気落ちすんな天才」

キリト「何十年? 数百余?」

魔理沙「おっと、言葉のアヤだぜ。それくらいに相当するほど濃いって喩えだ」

チルノ「キリトとアスナ、本当はかなり強いだろ。
    妖夢が強すぎて弱いように見えたけど、あたいには分かるよ」

アスナ「あれ、この子はさっきの。あ、蘇生魔法かけてくれてありがとうね」

チルノ「よし。ならその恩返しとして、今度はあたいと勝負しろ!」

●空中

キリト「血の気が多いなこのおチビさんは。本当に二対一でいいんだな?」

チルノ「さっきもクラインは適当に飛んでるだけ。ほぼ二対一だった。
    あたいは最強だから、妖夢に負けられない。一人でいい」

アスナ「キリトくん、この子、見た目で判断したら泣きを見るわよ」

キリト「わかってる……蘇生魔法を使えるほどだし、プレッシャーが只者じゃない」

チルノ「先手必勝! ごにょ――パーフェクトフリーズ!」

キリト「なんとか回避できた。というかチルノ、それパーフェクト違うから!」

アスナ「なんて詠唱速度なの! ほとんどスペルが聴き取れなかったわ」

チルノ「ごにょ、アイストルネード!」

キリト「しまった! ぐはあ。そ、それもアイスなんとかと違う」

アスナ「キリトくんに回復魔法を……」

チルノ「させるか! ごにょ、グレートクラッシャー!」

アスナ「ごにょごにょごにょ、きゃあ、は、早い!」

キリト「アスナも突っ込めよ。それ違うって」

アスナ「ごにょごにょごにょ、そんな余裕ないわよ――ごにょごにょはい、ヒール!」

キリト「サンキュー! それでは剣で勝負だチルノ!」

チルノ「ごにょ、ソードフリーザー!」

キリト「なんと氷の剣だと! 相変わらず名前違うけど、
    最高ランクスペル! ――だが俺とてSAOで鍛えた剣の腕が!」

チルノ「遅い!」

キリト「フェイントを交えた俺の一撃が避けられた……ヨウムのときと同じだ」

チルノ「地上と空中は、違うんだよ。ほいぶっすり、はい終了」

キリト「一撃でHP全損か……さすが最上位攻撃魔法。アスナ、あとは任せた」

アスナ「任せたって、キリトくんでも一蹴されたのに、私が叶うわけないじゃなーい!」

●勝負後

チルノ「おまえら、なかなか強かったぞ」

キリト「一方的にのされたあとで言われてもな……わずか五分で二度も死ぬなんて、初めてだよ。
    しかも殺された相手に蘇生魔法の施しまで受けるとは。HP完全回復状態で復活するなんて、
    ウンディーネにしか使えない、おまけに超高等魔法だぞコレ」

チルノ「あたいは水系統限定だけど、攻撃魔法も回復魔法も極めたから、なんでも出来るんだ。えっへん」

アスナ「ねえチルノちゃん。あなたって、MMOはどれくらいやってるの?」

チルノ「MMOって美味しいか?」

アスナ「へ?」

霊夢「その子は強くなることに関しての集中力と記憶力は凄まじいけど、それ以外はてんでダメよ」

キリト「……ということは、ヨウムのときと同じ」

霊夢「からっきしの初心者よ」

アスナ「ねえチルノちゃん、このゲームはじめてどれくらい?」

チルノ「さあ? けっこう日が経ったよ」

魔理沙「まだ五週間くらいだぜ」

キリト「その期間であの強さだと? 飛ぶほうも凄いし――そういえば君はウンディーネだし、
    まさか、セブンセンシズ・ガールの一人か!」

チルノ「セブンセンシズぅ〜〜?」

キリト「先日ウンディーネ領主になったディアベルが目撃してたんだ。
    初心者なのにとてつもない速度で飛べる、常人にない第七の感覚を宿した天才少女アバターがいたって。
    あ、第六感は超能力のことだよ」

リーファ「それを言うなら、お兄ちゃんもたった一時間で補助コンなしで自在に随意飛行できるようになってたじゃない。
     それこそ第六感ってレベルじゃないの?」

魔理沙「つーかそれ以前に、感覚って七どころか一〇種類以上あるんだが、どこのマンガだそれ。
    いわゆる五感ってのは、たくさんある感覚のうち、代表的なものを指してるだけだぞ」

キリト「聖闘士星矢(せいんとせいや)は俺の亡くなった祖父がバイブルにしていたマンガだ。
    それだけネタが古い」

魔理沙「セイント? 悪いが知らん」

妖夢「あのみなさん、セブンセンシズ・ガールですが、私が知ってます。
   クラインさんに教えられたんですけど、私たち幻想郷クラスタ四人のことです」

クライン「当人たちがろくに気付いてねえとは、恐れ入ったぜ天才空戦少女たち」

キリト「ということは、もしかしてマリサとレイムも……」

霊夢「悪いけど私も魔理沙も、空中戦闘――エアレイドに限ればあんたらより余裕で強いわ。
   ま、私たちの戦いを見ればわかるわよ」

魔理沙「そういうこった。善は急げってな」

●グランド・クエスト

巨像『未だ天の高みを知らぬ者よ――』

チルノ「受けるー!」

魔理沙「私たちセブンなんとかが前に出るから、
    キリトたちはクラインと一緒に後ろからサポートに徹してくれ」

キリト「りょ、了解……」

リーファ「お兄ちゃん、覇気がないじゃない。どうしたの?」

キリト「しょうがねえだろリーファ、サポートなんて初体験だし。
    しかもこれ、最高難度のグラクエだぞ」

アスナ「これまでのクエストはいつもキリトくんが先導役で主戦力だったしね。
    さすがに彼女たちが相手じゃ、二刀流の英雄も形無しかな」

クライン「ま、上には上がいるってこったな。せいぜい参考にして、後日の糧としようじゃないか少年」

キリト「おまえは気楽でいいよな。彼女が滅法強くて」

クライン「社会人の俺は分別をわきまえてるからな」

霊夢「最初は妖夢と釣り合うんだ〜って無謀に最強を目指してたわよ、その人。
   私の強さを聞きつけて突っかかってきたから、秒殺して子分にしてやったのよ」

クライン「レイムさーん、それは言わないって約束じゃ……」

霊夢「ここぞとばかりに過去の鬱憤を晴らして大人ぶってるからよ」

妖夢「あの、クラインさん。剣なら私が教えてさしあげますから、強くなりましょう」

クライン「おうよ! 修行デートだな」

チルノ「扉が開いた! 突入!」

魔理沙「一番手は私だ! ごにょ、開幕マスタースパーク!」

妖夢「はー! ごにょ、幽明求聞持聡明(ゆうめいぐもんじそうめい)の法!」

キリト「そんな無茶苦茶な……大出力ビームに、分身の術だなんて」

アスナ「はじめて見るけど、どちらも高位のスペルよね。名前ぜんぜん違うけど」

キリト「ナイス突っ込みアスナ」

リーファ「なによこれ。白い変な戦士がたくさん湧いてるわよ。すごい数」

クライン「ガーディアンどもさ。まっ、これが彼女たちが短期間で魔法スキルをガンガンあげた理由だけんどな。
     サポート魔法中心だけど、俺も地味に高レベルだぞ」

霊夢「ごにょ……八方龍殺陣!」

チルノ「ごにょ、フロストコラムス!」

魔理沙「ドラゴンメテオ!」

妖夢「六根清浄斬!」

霊夢「夢想封印!」

チルノ「アルティメットブリザード!」

キリト「……楽だ。弾幕の間を抜けてくるガーディアンを斬り倒すだけのお仕事。
    というか前の四人、敵のあらゆる攻撃を謎機動でことごとく回避してやがる。あやかりたいぜ」

リーファ「エアレイドの次元が違うわね。とくにチルノちゃんの動きは自然体すぎて、あまりにも天才的よ。
     なんていうか、敵ながらガーディアンが可哀想になってきたわ」

クライン「それでも届かねえんだよな。だから俺は剣技に秀でたおまえらを呼んだわけさ」

アスナ「え? でももう敵、八割方は片付いてるわよ」

クライン「見てなって。本番はむしろ、これからだ」

キリト「なんだなんだ、新手がどんどん湧いて、白い壁になったぞ。むこうが見えない!」

クライン「なっ。おまけにな、こちらはスッカラカンだ」

チルノ「うーん、魔力がつきかけてる。あとは回復用にストック」

魔理沙「ここから先は、肉弾戦だぜ!」

妖夢「私の本領発揮ですね。このムラサメブレードで、今宵も滅殺してあげましょう。
   まず最後のMPで特大の剣撃を放ちますから、そこへみなさん、突撃してください」

キリト「ヨウムのことだから……すごいのが来そうだな」

妖夢「ごにょ、迷津慈航斬(めいしんじこうざん)!」

リーファ「すごーい! 剣が何倍にも伸びて、一撃で三〇体は倒したわよ」

アスナ「これってあのエンシェントウェポンのエクストラ攻撃に、
    インプ専用の高位スペルを合わせた特殊技じゃなかったかしら。名前ぜんぜん違うけど」

霊夢「総員抜刀、突入!」

キリト「そういや前の四人、ヨウム以外の三人は武器を手にしてなかったな。
    前衛なのにここまで素手って、デタラメすぎる」

アスナ「私から見れば、キリトくんも十分にデタラメよ。
    クラインさんが言ったように、上には上がいるって話。さあ、行きましょう」

キリト「ああ。そうだな。この戦い、どこまで通用するのか、俺も行けるところまで暴れてやる」

●五分後

妖夢「はああぁぁ!」

キリト「おりゃあああぁぁ!」

チルノ「やった、抜けた!」

霊夢「あなたたちはゴールの天井に! 残った人は万が一に備えた退路確保のため、
   空間を維持するの。ここを橋頭堡として、守りきるわよ!」

チルノ「任せろ! 行くよ!」

キリト「まさか一回目の挑戦でたどり着けるとはな」

妖夢「私たち、これで七〇回目くらいなんですけどね。
   キリトさんたちのおかげでやっとクリアできそうです」

キリト「ななじゅう? 毎日何回も挑んでたのか。そりゃ、スキル熟練度がすごいことになるはずだ」

チルノ「なんだこれ、動かないぞ。なにも反応しない」

キリト「おかしいな。これってどう見ても扉かなにかだよな」

妖夢「条件が足りてない? でも敵は永久に出てくる仕様みたいで、
   全滅させるのはとても不可能に見えます」

チルノ「なあユイ。なにか分かるか?」

ユイ「えっと、この扉ですけど、管理者権限によってロックされています」

キリト「なんだと? クエストフラグは?」

ユイ「フラグ以前に、この空間にはそれ用の変数がそもそも存在しません。
   つまりALOのグランド・クエストは、普通のプレイヤーがなにをしてもクリアできないようになっています。
   できるとすれば、GM用のアクセスコードを持った特殊な権限の人だけです」

キリト「なんてことだ。実装してぬか喜びさせておいて、実際はまだ未完成だったというのか!」

妖夢「開発チームの怠慢ですね。サービス開始間もないから、
   どうせ誰もクリアできないと、高をくくっていたのでしょう」

ユイ「いえ。扉自体はすでに機能します。この扉はどこかへワープできるよう、
   しっかりデザインされています。ただ、開けないようにしているだけです」

キリト「とんだ悪意を感じるな」

チルノ「なに言ってるのか、天才のあたいにも分かるよう、教えろ」

ユイ「チルノさん。この扉は意地悪な人のせいで、開きません」

チルノ「意地悪なやつ、とっちめる!」

キリト「とにかく撤退だ! ここにいてもいたずらにレイムやクラインたちが疲弊するだけだ」

●宿屋

全員『…………』

クライン「GMコールで抗議文送ってみたけど、仕様ですってテンプレ返答だ。意味不明だぜこりゃ」

リーファ「こうなったら、ネットでこの件、流してみる?」

キリト「信じて貰えるのか? 三〇人はおろか五〇人態勢でも全滅するような難関クエストに、
    たった八人で誰も死なず扉まで辿り着けたって」

アスナ「あーあ。カメラで写真を撮っとけば良かった」

魔理沙「現実的じゃないぜアスナ。悪意には悪意をもって返されるのが世の常だ。
    まず扉を間近で見た者がほかに誰もいない。
    だから運営に捏造だと主張されたら、こちらが逆に糾弾される。
    データ書き換えでデザインを変更されたら、その時点で私たちは詐欺師に転落だ」

霊夢「そこまで悪辣で性根の腐った運営と思いたくないけど」

魔理沙「レクト・プログレスには、ニードルス技術開発に関する暗い噂もある。
    慎重に事を運んでもいいと思うぜ」

アスナ「その件についてだけど、私に任せてもらえないかしら」

キリト「アスナ、さすがにそれは」

魔理沙「なんだ、アスナには妙案があるのか?」

アスナ「とっておきの裏技よ。じつは私の父が、レクト本社でかなり偉い人なの」

キリト「あーあ」

霊夢「悪いけどそのカードを切るのは、アスナ、最後の最後にしてくれないかしら」

アスナ「どうして? 父さんから開発チームのあいつに圧力をかければ、
    すぐに解決するわよこんな理不尽。
    どうせ世界樹のてっぺんで偉そうにしてる妖精王オベイロンの正体は、あいつに決まってるんだから」

魔理沙「よほど嫌いなようだな、レクト・プログレスにいる特定の野郎が」

アスナ「だってあの変態ったら、ただでさえ変態のくせに、
    いいかげん変態の変態なうえに変態すぎて、どうしようもない大変態だし」

魔理沙「生理的に受け付けないのか」

アスナ「名ばかりで実のない口約束だけの許嫁(いいなずけ)だったくせに、
    いきなり権利を主張してキリトくんと私の交際に猛反対したのよ。
    私に本当に好きな人ができたら、許嫁は解消する。
    そんな感じの空手形だったし、父さんも母さんもキリトくんを認めてくれたのに」

キリト「アスナが怒髪天貫いて、あやうく流血沙汰になるところだったよ。
    おかげで俺はどうやら、将来までガッチリ進路が決まってしまったようだ」

リーファ「お兄ちゃん、エリートコース確定だもんね。しっかり勉強しないと、置いてかれるよ」

アスナ「そうなのよ。いまやキリトくんと私は、両家が認めて書面も交わした正式な許嫁なの」

クライン「すげえ。リア充として追いついたと思ったら、
     おめえらとっくに先の果てまで行っちまってたのかよ」

霊夢「アスナ、あなたかなり恵まれたお嬢さまなのね」

アスナ「あまり話したくなかったけど、そうなるわ。
    とにかく私の父を動かせば、この件は一発で解決よ」

霊夢「だからこそ学ぶべきことがあるわ。理不尽なんていつでもどこにでも転がっている。
   まず可能なあらゆる手を探って、なにもかもやり尽くして、
   最後になってからでないと、裏技にはすがりたくないの」

アスナ「レイムさん……」

魔理沙「私も賛成だぜ。まず足掻いてみたい。なにか糸口があると思う」

クライン「でも内側はロックされててダメなんだろう?
     外側つーか、世界樹の幹は侵入不可エリアだしよ」

チルノ「枝は?」

魔理沙「おっ、ずっとだんまりしてた子が、やっと発言したな」

チルノ「だってみんな、なに言ってるのかわかんなかったし」

アスナ「不思議に思ってたけど、チルノちゃん、
    もしかして見た目だけじゃなくて、中身も幼いの?」

霊夢「まんまよ、まんま。九歳くらいと思っていいわ」

キリト「……以後はそれを踏まえて、こいつに接しよう」

チルノ「あー! みんなあたいをバカにしただろ。あたいは最強なんだぞ」

魔理沙「はいはい、チルノは最強で天才っと。で、枝がどうしたって?」

チルノ「中がダメ、外も幹がダメなら、あとは枝じゃん」

クライン「途中で飛行可能時間が尽きて、誰も最下層の枝にすら届かねえぞ?」

キリト「待てよ、その発想、捨てたものじゃない……」

リーファ「なにか思いついたの、お兄ちゃん」

キリト「――ロケットだ。みんなして肩車して、多段ロケットになればいい」

●アルン正門前

リーファ「みんな見てるね……」

クライン「我慢だ。我慢しろよみんな!
     俺たちは伝説になるんだからな。いまは笑われても、気にするな」

霊夢「それではいくわよ、一段目、全力ブースト!」

チルノ「おおう、動き出した! 遅いね、ゆっくり」

霊夢「仕方ないじゃない。私ひとりで、七人も抱えてるんだから! なんで私が最初なのよ」

魔理沙「一番パワーのあるサラマンダーだから、仕方ないぜ」

霊夢「おりゃあああ! 最高速度〜〜!」

チルノ「遅い、ゆっくり」

霊夢「バカにするなぁああ!」

チルノ「おおお、加速しはじめたぞ、やるな霊夢、褒めてやる」

霊夢「軽いからって理由でてっぺんにいる奴は気楽でいいわね!」

●およそ一〇分後

霊夢「そろそろ尽きるわよ、二段目用意OK?」

クライン「おうよ、任せろ!」

霊夢「切り離すわ、それでは、行ってらっしゃい!」

クライン「うぉぉおおお! サラマンダー族の底力を、見せてやる!」

チルノ「霊夢より遅いな。のんびりだ」

●およそ一〇分後

クライン「俺の滞空限界が来たぞ、三段目!」

リーファ「もっと高い位置にいたかったのに」

クライン「飛行能力の高いシルフだからな。あばよっ、下で待ってるぜ」

リーファ「任せなさい、私も妖精の端くれ!」

チルノ「おおー、すこし速くなったな」

●およそ一〇分後

リーファ「四段目、タッチして!」

アスナ「行くわよ、ウンディーネの全力!」

チルノ「またのんびりだ」

アスナ「私、それほど飛ぶの得意じゃないのよ」

リーファ「どんどん離れていく……けど、あまり上昇してないわね」

●およそ一〇分後

アスナ「私の限界が来たみたい」

妖夢「私の出番ですね。五段目、行きます!」

キリト「なんだこの急加速。さすがセブンセンシズ・ガールだな」

チルノ「だんだん枝が近づいてきた!」

妖夢「意外と疲れますねこれ」

アスナ「うわあ、ヨウムちゃんもうあんな高さに。そういえばいま、高度何キロあるんだろう。
    この高さからの滑空は楽しいわね。癖になっちゃいそう」

●およそ一〇分後

妖夢「私も滞空が切れたようです。お願いします」

魔理沙「任せろ! 私の本領を発揮だぜ」

妖夢「吉報を待っていますよ」

魔理沙「行けー!」

チルノ「高い高い! 早い早い!」

●およそ一〇分後

魔理沙「電池切れのようだぜ。キリト、よろしくな」

キリト「七段目、スタート!」

チルノ「あれれ? 三人から二人に減ってるのに、もしかして魔理沙とおなじくらい?」

キリト「これでも俺はスプリガンとしてめっちゃ速いほうで、
    並のシルフより最高速が出るんだぞ。きみたちが極端に速すぎるだけなんだよ」

チルノ「もうすぐ届きそうだよ、枝」

キリト「お? これってもしかして、俺も栄誉に噛ませて貰えそうだな」

●五分後

キリト「やったぞ! 世界樹についた! 七人で良かったんだな」

チルノ「あたいったら天才ね。なにもしなくても天才。
    だから天才で最強。さっそく、写真、写真……キリト」

キリト「なんだ、天才で最強ちゃん」

チルノ「このカメラってアイテム、どう使うの?」

キリト「やはり俺が一緒に辿り着けて、良かったな」

●世界樹

キリト「なんてこった……どこにも空中都市なんてない。ここはもう、ほとんど頂上のはずなのに」

チルノ「いくら歩いても、枝と葉っぱしかないね」

ユイ「アルフらしき、NPCの反応もありません。皆無です。不自然です」

キリト「とにかく写真だ。証拠を片っ端から写すぞ」

チルノ「わあい。悪を暴くんだ」

オベイロン「――困るなあ、いきなりそんなことをされたら」

キリト「誰だ!」

チルノ「くどくて変な顔、変な顔のおっさんだ」

オベイロン「僕の名は妖精王オベイロン。きみたちが崇める、この世界の支配者だよ。
      正規の手段を踏まずに世界樹に侵入してくるなんて、オイタが過ぎたね。
      これはスプリガンとウンディーネに、きついペナルティを与えないといけないなぁ」

チルノ「ここまで攻略したぞ。アルフに転生させろ。あたいはずっと空を飛ぶんだ!」

オベイロン「いや、これは不正な手段だ。だから悪い子にはアルフの町も、謁見の間も見えないんだよ」

キリト「それは理屈としておかしい。あの試練は、あくまでも世界樹の上へと転移する手段にすぎない
    ――そういう設定で、個別の事象のはずだ。俺たちは方法こそ違えども、
    きちんと実現可能なルールの範囲内で、フェアネスに則ってここまでやって来た」

オベイロン「残念だけど、想定の範囲外ってやつだよ。
      うん、何事にも例外はあるんだよ。だからね、不正はいけないな」

キリト「だから不正じゃないと言っている……須郷」

チルノ「あれ、固まったぞこの変なおっさん。すごー?」

オベイロン「……そうか。そうかそうか、きみは――データを参照させて貰うよ……なるほど、
      やはりまさかな、英雄くんがこんなところまで出張るとは、どこまで僕の邪魔をすれば気が済むんだい」

キリト「邪魔だと? 俺はべつにあんたの邪魔なんか」

オベイロン「どうしてSAOを、たった八ヶ月でクリアしたんだ!」

キリト「?」

オベイロン「早すぎる、あまりにも早すぎたんだよ君たちは! ヨームという謎の少女と、
      桐ヶ谷和人(きりがやかずと)くん。君たちふたりのせいで、
      あまりにもあの世界は早くクリアされてしまった! なんという都合の悪いことを!」

チルノ「あたいは妖夢から、良かった事だと聞いてるよ」

ユイ「その通りです。攻略が早く終わったおかげで、死んだ人が思ったより少なくて済みました」

オベイロン「良くない! おかげでどうだ、僕の計画は大幅に狂ってしまった!
      実験に使うはずだった空間も、施設も人もお金も、なにもかもが無駄になってしまった。
      明日奈くんまでもが僕を見捨てた! 選ばれた人間である僕をだぞ!
      なにもかも失った僕には、数億円の借金しか残らなかった。終わったよ、ああ終わったんだ」

チルノ「まるで三流な悪人の告白みたい」

キリト「たしかに悪人っぽいな」

オベイロン「おいおい、絶望に染められた僕の呪詛はまだ終わってないぞぉ」

キリト「別にアルフになれなくてもいいけど、グランド・クエストの半端な実装を詫びて、
    世間に謝罪するんだな。あとは誠意を見せて、クエストをきちんと完成させるんだ」

オベイロン「あーはっはっは! そんなの、無理に決まってんだろが!
      このALOでアルフの町をデザインして、
      アルフ転生イベントの影響と修正を全マップへと実装反映させるのに、
      何千万円掛かると思ってるんだい? そんなことに使うお金があったら、
      僕の借金返済に一円でも回さないといけないじゃないか。分かってないなあ君は。愚かだね」

キリト「……だめだこいつ」

オベイロン「僕はね、きみを心底から憎んでいるんだよ。
      絶好の研究材料と、出世街道の足がかりとなるはずだった婚約者と、
      栄光の未来を、ことごとく奪ってくれたガキが!」

キリト「おまえの事情は知りようがないけど、人の地位や不幸を利用しようとしていたことだけは分かる。
    さらに運営資金の使い込みまで行うとは、須郷、おまえは悪だ」

チルノ「悪か! こいつは悪いやつなんだな!」

ユイ「私の会話分析でも、この人は悪人だという結果が出ています。
   おまけに自分から勝手にネタバレして不利な状況を作ってるように、精神の均衡を失っています。
   話が通じなさそうですから、さっさとやっつけましょう! ――きゃあ」

チルノ「ユイが消えた! おっさん、ユイになにをした!」

オベイロン「なぜAIごときが僕を断罪する! 僕はきみの創造主なんだぞ!
      たかがナビゲーション・ピクシーの分際で……いや、こいつは――これは、SAO!
      基幹開発者、茅場晶彦だと! なぜだ! なぜ僕のALOにまだ、
      茅場先輩の影がいるんだ! 名義はすべて書き換えたはずなのに!」

チルノ「ユイを返せおっさん! さもないと――ぐっ」

キリト「須郷、貴様! ……うぅ。これは、超重力か」

オベイロン「未実装の重力魔法だよ。脆いねえ。いくら強がろうとも、神たる僕の操作ひとつでこのザマさ。
      そう、僕はALOの絶対君主で、最高の支配者なのさ。もう君たちは帰さないよ。
      ここで朽ちてもらう。死人に口なしってね。きゃーっはっはっは!」

キリト「アミュスフィアはナーヴギアとは違う。そんな機能はないぞ」

オベイロン「ちっちっち、甘いねえ君は。出来ることもあるんだよねえ。
      たとえばさぁ、精神を崩壊させたら、殺したのとおなじ効果があるだろう?
      とりあえず英雄くんと、そこのおちびさんの自力ログアウトは不可能にしておいたよ。
      外から無理矢理起こされる前に、どうやって料理しようかなあ」

チルノ「こいつ悪いやつだ! とんでもなく悪いやつだ!」

キリト「貴様ぁ! こんなことをして……ぐはあぁ。な、なぜ腹を蹴られて」

オベイロン「驚いてるかい? そうだろうな。なぜ痛いのかって顔をしてるね?
      傑作だよその表情。きゃーはっはっは! もちろん痛覚を再現したからだよ。
      ペインアブソーバーの抑制レベルを下げたのさ!
      素晴らしいねえ、あらゆる感覚を操作できる神の手!」

キリト「てめえ……」

オベイロン「こうやって痛めつけて、徹底的に仕返しをしたら、いくら英雄といえども、
      心は折れて、精神もやられてしまうだろうよ。だってSAOは、どれだけ敵に斬られようとも、
      潰されようとも、飛ばされようとも、痛みを感じないヤワい世界だからねえ。だが!」

キリト「それは俺の剣――なにを……が!」

チルノ「キリト!」

オベイロン「僕みたいな非力な男が剣を突き刺しただけで、ほらっ!
      簡単に苦痛でのたうち回る! そうなんだよ和人くん。きみは英雄といっても、
      あ・く・ま・で・も、ゲームの世界での勇者だったんだ。どうだい、本物の傷みというものは」

キリト「……きさま。こんなことをして、いいと思ってるのか」

オベイロン「あーっはっはっ! いくら強がろうとも、顔がウソを付いてないよ。
      痛いよ〜痛いよ〜、助けて〜って言ってる。ほら和人くん、僕に頼みたまえ。
      どうか背中の剣を抜いてくださいってな!」

チルノ「おい卑怯だぞ変なおっさん!」

オベイロン「黙ってろガキが。言動が幼いからゲーム機の登録情報を覗いてみたらまさかの九歳って、
      どこまでふざけてるんだ。僕はね、ガキが大嫌いなんだよ。バカだし、愚かだし、煩いし、鬱陶しい。
      小さいからといって、僕がきみに手を挙げることができないって思ってないかい?
      きみにも知られてしまったからには、この和人くんとおなじように、
      心を砕くことにするから、おとなしく料理の順番を待ってるんだな」

チルノ「くそう――あたいは最強なのに」

謎の声『……そうか、きみは最強なのか』

チルノ「え? 誰?」

謎の声『しー、気付かれる。これはきみにしか聞こえていない。小さな声でいい』

チルノ「……誰だ」

カヤバ『私は茅場晶彦――の、残留思念みたいなものだ。非科学的な物言いになるが』

チルノ「妖夢がやっつけた奴だね」

カヤバ『そう、見事にしてやられたよ。システムを簡単に上回る、人間の可能性を見せて貰った』

チルノ「妖夢は妖怪だよ」

カヤバ『いや違う。あの世界では、魂魄妖夢(こんぱくようむ)くんといえども
    プレイヤー以上の力を出すことは出来なかった。だから人間の可能性でいいんだ』

チルノ「どうしてあたいに話しかけてるの?」

カヤバ『それは八雲紫(やくもゆかり)くんに、幻想郷の未来を託されたからだな。
    ニードルス技術は順調に発展しており、やがてニューロリンカーとして爆発的な世界の変革を実現する。
    精神や魂の秘密が解き明かされる日も近い。それは同時に、オカルトとして日の目を見なかった分野が、
    一斉に正統な科学の仲間入りを果たすことも、また意味しているのだよ。
    結界や封印の類を科学で見つけ、科学で解除する日が来る。
    私は新時代の式神として、妖怪たちと人間との橋渡しに選ばれたらしい』

チルノ「天才のあたいに分かる言葉で説明してよ」

カヤバ『そのうち人間は幻想郷を見つけるだろう。仲介役が私だ。
    私は人間の側でありながら妖怪の味方でもあるから、チルノくんを助けるのだよ』

チルノ「あたいは今、なにをすればいい」

カヤバ『一時的にきみを、この世界の神にしよう』

チルノ「最強になるのか」

カヤバ『だがきっと、きみの喜ぶ最強とは違うと思う。それは許してくれたまえ。
    須郷のバカを止めるには、いまはほかに手がないんだ』

チルノ「わかった――なら、最強やるのはキリトに任せる」

カヤバ『ほう、私が平行処理でキリトくんへ同時接触していることに気付いていたか』

チルノ「あたいは天才だからね。キリトもブツブツしてる」

カヤバ『彼には人間として託したいものがあるからね。では行くよ』

チルノ「へえ。わからん……そうか、うんうん、つづけて同じコトを言えばいいんだね」

オベイロン「うるさいなあガキが。さっきから一人で、なにをブツブツと」

チルノ「システムログイン、IDヒースクリフ!」

オベイロン「な、なんだと! なぜその名を言う! 茅場ぁ〜〜!」

チルノ「システムコマンド、マジックコントロール、
    IDチルノとIDキリトに掛かっているグラビティを無効化せよ」

オベイロン「貴様!」

チルノ「システムコマンド、IDオベイロンの管理者権限を強制ログオフ!」

オベイロン「なっ!」

キリト「ようやく解放されたぜ。システムログオン、IDオベイロン」

オベイロン「桐ヶ谷もか! 僕のGM権限をログインしながら乗っ取ったな!
      雑魚でガキのくせに! 茅場め! 死んでまで僕の邪魔をするというのか!」

キリト「うるさいな盗人が――うっ、剣を自分の体から抜くってこんな感覚なのか。
    だがもうすぐ終わる。須郷、あんた名義を換えたと言ったな。
    つまりALOは茅場のシステムを土台にしてるということだな」

オベイロン「茅場先輩の構築したSAOは完成度が高い。流用しない手はないだろ。うへへっ」

キリト「俺もおまえも、他人の舞台で踊ってることに変わりはない。
    俺が雑魚の勇者なら、おまえは盗賊の王だ。
    システムコマンド、この空間のペインアブソーバーをゼロに!」

オベイロン「なっ? なにをする気だ!」

キリト「決着を付けようってわけさ。痛みを感じない茅場の世界で魔王を倒す行為を、
    たかがゲームだと嘲笑しただろ。だから現実とおなじレベルで痛みを感じるようにしてやったまでだ。
    俺とおまえ、どちらが正義か。剣と剣の一対一で勝負を付けようっていうんだよ」

オベイロン「武器、武器……ない、僕の武器がない! エクスキャリバー!」

キリト「ほう、そんな武器があるのか。
    システムコマンド、オブジェクトID、エクスキャリバーをジェネレート」

オベイロン「なんだとぉ!」

キリト「なんてふざけたステータスだ。ほら、特別に伝説の武器をくれてやる。
    俺はこの、ただの店売り剣で相手してやるよ。掛かってこい須郷伸之!」

チルノ「格好いいぞキリト!」

オベイロン「……こ、このガキがぁ!」

●博麗神社

チルノ「それでね、あたいがぼけ〜〜っと見てる前で、こう、何回も何回も切り刻んで、
    変なおっさんはカエルみたいな悲鳴あげながら弾け飛んだ」

妖夢「へーそれは見本のような勧善懲悪でしたね」

チルノ「投げやりだなー、妖夢」

妖夢「そりゃそうよ。この話を聞くのはもう九回目ですし」

ユイ「みなさーん、お茶が入りましたよー」※式神なので実体可

カヤバ「新作和菓子も出来たぞ。私の手製だから、ありがたく食したまえ」※式神

チルノ「美味そうだ! さすがカヤバだな!」

魔理沙「カヤバ、おまえもすっかり神社のおさんどんが板に付いたな」

カヤバ「これも幻想入りして以来の腐れ縁というやつかな。もっとも、
    そもそもなぜ私は女体化しているのか、
    しかもなぜ中学生ていどのイヌミミ少女にされてしまったのか。
    いろんなことを八雲紫くんに問い詰めたい日々だよ」

霊夢「将来のためらしいわよ。まさか茅場晶彦そのままの姿で、
   幻想郷と日本政府との交渉役に使えるわけがないじゃない。妖怪にしても、
   年若い女の見た目でいるほうがなにかと便利なのよ。相手が油断してくれるから」

カヤバ「まあいい。性転換は男のロマンらしいから、しばらくこの姿を楽しむとしよう」

魔理沙「妖怪は姿に内面も引き摺られるっていうぞ。だからそのうち身も心も女になると思うぜ」

カヤバ「それは貴重な観察対象になりそうで興味深いな。
    妖怪というのはなんでもありなだけに、研究材料に事欠かなくて面白い」

ユイ「はい、おやつの用意が整いましたよ」

全員『少女喫茶中……』

妖夢「けっきょく須郷って人は、なにをしたかったんでしょうか? 勝手に自爆しまくっちゃって、
   未熟な私から見てもただの阿呆さん。なにか大それた所業を働こうって輩には見えません」

魔理沙「ところがどっこい、あいつがやろうとしていたのは、人の魂の直接制御らしいぜ」

妖夢「それは……なんという大それたことを」

カヤバ「彼はそれなりに優秀だが、追い詰められると自暴自棄になるところがあってね。
    悪事に走ってしまったのも、私への対抗心がおかしな方向に走ってしまった結果だろう。
    私ほどではないが、愚かな男だ。私のオリジナル体は無間地獄に落ちてしまったが、
    その苦悶はあまり想像したくない」

チルノ「よく分からないけど、凄そうだな」

魔理沙「須郷のやつ、ALOを隠れ蓑にSAOプレイヤーを被験者として研究し、
    軍事用に実用化したかったんだってさ。おっそろしい奴だ。
    準備段階で妖夢とキリトがさくっとクリアしたおかげで何も起きなかったけど、
    須郷はもみ消し工作費や不履行違約金を自腹で捻出するしかなく、多額の借金を背負った。
    そこまでは良くある喜劇だったが、ALOが意外に大ヒットしたのが運の尽きだったな。
    目の前に大金がある。須郷は我欲を抑えられず、
    返済のため一億円以上も会社の金を横領してしまった。開発資金が不足したALOは結局、
    グラクエの完全実装が間に合わなかった。あいつはもう社会的には死んだも同然だ」

霊夢「ALO、早く運営再開しないかしら。物足りないわ」

妖夢「私もクラインさんと会いたいです……バーチャル限定とはいえ、せっかく付き合ってるのに。
   こうなったらダイシー・カフェとやらに突撃してみようかしら」

ユイ「半霊にみなさんびっくりすると思いますよ」

チルノ「みんな楽しみに待ってるのに、連帯とか責任とか社会とかって面倒だな」

霊夢「チルノが難しい単語を連発した!」

魔理沙「私がいろいろ教えたせいだぜ。ALOは運営会社が変わるって話だ。
    移管作業は順調らしい。まあ、あれのおかげだけどな」

チルノ「えーと、世界の種子?」

魔理沙「ああ、キリトが茅場より託された、世界の種子だ。
    ザ・シードというVRMMOパッケージのおかげで、
    バーチャル世界がどんどん広がってるってよ」

霊夢「たとえばどんな世界があるの?」

妖夢「それなら白玉楼へお遣いに来てた永遠亭の鈴仙さんが、銃器の世界を楽しむと言ってましたね。
   名は、ガンゲイル・オンラインだったかしら」

魔理沙「GGOか。あそこは空も飛べないし、埃まみれで殺伐としてるから、
    綺麗好きな霊夢にはあまり向かないな。とにかく増殖中だから、いくらでも選び放題だ」

チルノ「あたいも楽しみたい! 最強になる!」

ユイ「チルノさんはとっくに伝説級の最強プレイヤーですよ。
   キリトさんと共に人知れずALOを救った、英雄チルノとして」

妖夢「私が無双したアインクラッドも新生ALOで実装されるらしいです。
   どこかにデータが奇跡的に残っていたみたいですね」

カヤバ「SAO事件後もALOが発売されたり、鋼鉄の浮遊城が規制されないのは、
    国がニードルス技術を裏で推進しているからだな。
    あきらかに現在の都合より未来への投資を指向している」

霊夢「なんにせよ、私たちにとっての大本命はALOってわけね。
   あらチルノ、すごくワクワクしてるって顔ね」

チルノ「――伝説かぁ、いいな! あたいったら最強ね!」

●P.S.

カヤバ「古い記録を整理していて、霊夢くんが博麗神社の巫女に就任したのが
    西暦換算で一九九六年以前となっているのだが、いまは二〇二三年。
    二七年も昔の話だが、どう見ても少女だな。彼女は一体何歳なんだ?
    魔理沙くんもただの人間のはずだが、おなじく二六年前の一九九七年から文献が残っている」

紫「それはね、幻想郷、公然の秘密よ」

カヤバ「これは興味深いな。永久に歳を取らない人間の少女か。
    博麗大結界をすこしでも長く維持してもらいたくなった。
    研究者として、私は全力を尽くすとするよ」

紫「あなたが気に入ったのは、霊夢と魔理沙、どちらかしら?」

カヤバ「私には外の世界にちゃんと恋人がいたんだよ。だからあの二人を見る私の目は、
    歳の離れた妹や、娘などを愛でるものに近いといえるだろう。
    いまは女だから、なおさらだ」

紫「あら、意見が合いそうね。うふふ。せいぜい励みなさいな。
  そうそう、これ別件に関する参考資料ね。事前対策のため、必要な情報が満載よ」

カヤバ「アクセル・ワールド? ……読ませて貰おう」
     *        *
     最終 2013/07

東方SS
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