地元の造型屋さん 造形 おでかけフォト よつばとフィギュア
少年少女が大人になってもオタクで居続けるようになって、ニーズに応えるように玩具にもハイクオリティな大人向けが登場した。だがそのレベルアップの様は、リアルタイムに見てきた私自身も信じられないほど驚異的なスピードで達成され、いまも進化している。その背景には地域の造型工房群が培っている、さして注目されない職人の技が根付いている。今回はその有様を紹介したい。 地元の造型屋さんを訪れる機会があった。 高知県高知市 カリノ美工一見はなにげない、どこにでもある小さな町工場だが―― 中に入るとすぐに、模型臭い雰囲気が。 床には過去の戦歴がびっしりとマダラに散っている。 このたび訪れることが出来たのは、これのお披露目のためだった。 謎の全身タイツおっさん。等身大。 まだ若いね。そこそこ凛々しいぜ。 このおっさんの正体は何者かというと…… 植木枝盛 (1857~1892) 高知県出身の思想家で、教科書にも載っているレベルの人。2011年8月には高知県立自由民権記念館に展示されるらしい。 モザイク取るとシュールだぜ。おおきさは等身大だ。 彼に着せる衣装もすでにほぼ完成している。服さえ着ればハンサムな思想家の誕生だね。撮影の機会を得たのは、郷土史研究関係者と知り合いのため。坂本龍馬や長宗我部氏などだ。 植木枝盛の服を畳んでいた作業台はエイワ機工というメーカーのものだ。かなり使い込んでいる。完全無欠なプロ用で、けっこうな優れ物らしい。重さも価格も半端ない。 こちらもプロ用、明治100シリーズのスプレーガンだ。総ステンレス製で、頑丈なことこの上ない。 何気なく「標準シンナー」という文字が。シンナーひとつ取っても、用途に応じて幾種類も使い分けてるらしい。私は普通の素人なので一種類しか使わない。 壁面の多くは棚になっており、道具が所狭しと並んでいる。しかしどの部屋も中央部は一定のスペースが取られていて、なにかしらの事故が起こらないよう配慮されている。倒れたら危ないものには安全用の紐が結わえられていた。 時を経た道具が並ぶ。ドリル台と研磨機。こういった造型専門の工房は日本中に何百何千とあるという。当サイトを訪れてくれる方々がよく買うフィギュアの原型も、造型工房(またはメーカー内の造型部門)で産み出されている割合は低くない。メーカーに納品している在野の個人原型師でもそこそこの道具は揃えているはずだ。 サンプル置き場に、植木枝盛の試作品(白いの)が放置されていた。造型という仕事は日常に溶け込んでいる。近所の観光地なり公共の建物なりへゆけば、成果がいくらでも転がっていて、普段あまり気にすることもない。すこし凝ったお店の内装にはたいてい、造型工房のオーダーメイドが混じっている。造型の仕事は日夜生まれ続けている。日本中の造型屋が粘土をこね、パテを盛り、木を削り、鉄を打ち、CADに向かう。バブル経済を経験した日本人の目はすっかり良いものに慣れてしまい、長期不況だろうがお構いなく、顧客としての目は肥え、要望は高い。その結果、技術水準が常に保たれる。日本のフィギュアは職人技の恩恵を受けた、顕著な例のひとつだろう。2mの技を20cmへ落とし込むのに、わずか10年で済んだのだから。