フィギュア撮影講座9 レンズ&センサー 企画 よろずなホビー

企画
執筆:2019/10/18

趣味のフィギュア撮影でカメラ(センサー面積)とレンズは正直なんでもいいが、高性能な機材ほど「厳しい条件」で余裕を生じる。 下はイメージセンサーサイズの異なるカメラ2台と5本のレンズで、おなじ距離よりほぼ条件を揃えて写した全身像だ。セットで実売価格に45万~5万と、9倍もの差を生じているが、小さいと見分けが付かない。 45万円セット。最新のフルサイズミラーレス機に、35mmフォーマット用写真用中望遠マクロとして世界最大口径かつ世界最高額(特殊用途を除く)のレンズで、動画撮影にも対応している希有なモデルの組み合わせ。 フルサイズ機+ニコン純正の中望遠マクロ。10年以上昔という設計の古さから最新の社外レンズに光学性能ですっかり見劣りしているが、逆光耐性の高さやAF精度でミラーレス機だと正確無比。 APS-C機に標準マクロ。35mm換算で90mmF13となる。写る範囲が微妙に広いが、100~105mm相当に切り取るとほぼ同じ狭さになるはず。なおカメラの実際の絞りはF8だ。APS-Cとフルサイズ機は同じピント範囲を得るのに1と1/3段差を生じる。 最新のフルサイズ用標準ズームとAPS-Cトリミング。70mm端と絞りF8で換算105mmF13の写りになる――が、マクロレンズより広い範囲が写っており、60mmマクロに近い。 一番安い5万円セット。2万円台で投げ売りされてるフルサイズ用の標準ズームと、APS-CエントリーD3400の70mm。写る範囲は最新の標準ズームと変わらない。マクロレンズのほうが大きく写るのはレンズ設計の特性。 なんにせよ高級カメラだろうが超安いカメラだろうが、また超高級レンズだろうが格安投げ売りレンズだろうとも、フィギュアの全身を写す撮影距離では目立った差は生じない。以前の講座でも私は「なんでもいい」と述べている。あえて高いツールを使ってるのは操作性と見栄、さらに逃げ道封じだ。撮影結果が悪くても機材のせいに出来ない。 続けてアップとなる。マクロレンズの本領が発揮されるレンジだ。やはりおなじ距離で写しているが、これも縮小だとあまり違いが分かりづらい。とくにスマホだと写る範囲以外、まったく違いが分からないだろう。 45万円セット。マクロ専用レンズでかつ得意とする領域。最高の描写を保証されているカールツァイス――のだが、良さは分かりづらいかも。ツァイスの最新レンズ群はおもに分解能スコアで各社純正を差し置き、世界トップを走っている。 社外レンズに抜かれまくってるはずだが、ウェブサイト掲載サイズでは世界最高~なレンズとの差はまるで分からん。一辺数千ピクセルなんて超拡大な領域でやっと分かるていどの違い。ツァイス使ってるのはまさに見栄。 標準マクロとAPS-C機。微妙に広く写る。銘玉と大人気のマイクロ60mmだ。解像度とボケの柔らかさと値段のバランスが取れている逸品で、このサイトでも4年に渡りメインレンズとなっていた。 APS-Cクロップと標準ズームの70mm端だが、マクロの60mmとあまり変わらない広さ。全身像を写したときとおなじ現象で、ズームのこちらのほうがほぼ正しい画角。マクロには写る範囲が実焦点距離より狭くなるという特徴がある。写りの差は――分からんな。 一番安いセット。長辺800ピクセルだとスマホでもPCでもマクロとの差は分かりにくい。よく見たらボケ質は高級マクロより数段階も落ちてるんだけどね。じつはこの検証的な撮影の寸前に、高価なレンズや安いレンズで様々な組み合わせで代わる代わる写し、サイトに掲載してアクセス変動などを調べたが、明確な違いが出なかった。 アップでもマクロで写す意味はかなり小さいんじゃねえかねえという、なんともアレな結果が実地で出てしまったわけだ。もっともカメラがオートで決めてくれた数値をそのまま現像に反映させる方法に変えた結果だけど。それまでのニコンDf用の設定だと、何年か続けてたシャープネス放棄路線が災いして、APS-Cやズームのほうがマクロで写すより減っていた。すなわち最近のカメラお利口で、私の追い込みは条件変われば通用しないアホの子。 ズームレンズをフィギュア撮影で使えば、レンズ交換なしで広いのも狭いのも高いのも低いのも自由自在だよ。超高画質にこだわらないならズームで決まりだ。さらにAPS-Cカメラならフルサイズ機より絞りも1と1/3段有利だし、シャッタースピードもそのぶん速くなり、ブレにくくなる。ついでにカメラとレンズも軽く済む。マイクロフォーサーズはさらに軽く速く安い。 ならばなぜあえてフルサイズ機と本格マクロなのか? それは部分拡大で分かる。プロの現場はブツ撮りもフルサイズ機が主流になっている――うーむ、小さいと分からんね? じゃあ大きくして比較だ。まず45万円セットのマクロ域アップ。ピントの合った範囲からボケ部分まで、めっちゃなだらか。マクロレンズは近距離ほどボケが美しくなるよう設計されている。ほとんどのレンズはベストに写る距離帯が決まっていて、そこより離れるほど描写性能が落ちていく。 マイクロ105mmも美しい写りだ。遠景のボケは煩くなるのに。超アップでも世界最高~との差は分からん! 分解能は1.5倍も開きがあるけど、縮小なしの「等倍」にしてやっと分かるもの。1.5倍ってのは等倍から2/3縮小ですでにおなじ分解になってしまう。 マイクロ60mm。左側の首筋の影部分がPCモニターで見るとモヤモヤってしていてグラデーションが綺麗に出てない。フルサイズとAPS-Cの差、「階調」だ。センサー面積が小さいほど、色のなだらかな移ろいにランダムな凹凸が生じやすくなる。このレンズも遠景のボケは煩い。 マクロの遠景ボケが煩くなる実例を示す。安いズームレンズと変わらない。前ボケ(石とか)は近距離で綺麗。 にわかに単焦点とは信じられない、エッジのギザギザな背景ボケ(スマホでは分からん)。マクロレンズの描写性能はあくまで近距離に特化している。遠近自在は可能だが作品作りとなれば難しい。 待望のZマウント標準ズームだ。若干2線傾向があるが、アップでもしっかり写ってる。 マイクロ60mmとの比較。現像で通した解像やノイズ処理の設定はカメラ任せ。おかげさまで前後に幅の広い、ピントを合わせるのに絞る必要のあるフィギュアで、APS-Cクロップ+Z24-70mmの登板が常態化している。ただやはりフルサイズと比べたら切り取り耐性が低い。 このレンズがベストに写る距離は数メートル。背景ボケはなだらかで、ニコンが誇る2本のナノクリ等倍マクロより完全に上だ。苦手なはずの至近でも遜色なく写ってくれる、万能選手。さらにピント位置の変動で画角が変化していくフォーカスブリージング現象がほぼ皆無という、動画と構図作りに優しい凄い子だ。この現象はマクロだと構造的にとても大きく、動画撮影用のマクロレンズはブリージングを抑制するため数十万円もの高額帯になってくる。 さて……安ズームのアップだ。ほぼ最短撮影距離で、解像すらしていない。ボケは2線どころか3線? ピント部分からボケへの遷移も分かりづらく破綻している。これらの特性により、24-85mmはフィギュアレビュー撮影で1度としてメイン登板はない。これでも全身図となればちゃんと解像してくれるので、あるていど距離を取ったフィギュア撮影だとなんの問題もなく使える。 最新の賢い標準ズームとの比較。ちょっと小さな画像になれば差は分かりにくくなる。たぶんスマホだと分からない。やはり極端な差でも、レンズはなんでもいいという結論はアレか。ただしプロの世界では通用しないだろうが。少なくとも趣味での撮影なら機材の高い安いは気にするほどの違いは超アップでないと、しかも良い例と悪い例を並べてみないと、分からないていどの、そんな差だ。 最後に、最高額の組み合わせと最安価の組み合わせを、アップで並べたもの。一見すればおもにPCでかなりの違いがあるように見えるが、ごく近距離で、かつ切り取りアップで、やっと分かる。そんなていどの違いが、価格9倍、重さ3倍。高いほうは取り回しヒイヒイだし、高額なので神経質に取り扱う。 Web公開サイズじゃ違いなんて分からないし、野外でのフィギュア撮影なら、プロでない限り安くて軽いほうがいいと思うよ。マクロレンズは遠景が苦手で、本当に近距離でしか美しく写らない。バカ高いマクロ揃えて10年ずっと写してる当人が言うんだからたぶん間違いない。


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