フィギュアの見え方を決める唯一にして絶対の基準は「撮影距離」である。大半の講座が教えるところの「焦点距離」(画角)は、見かけの大きさと写す範囲を決めているにすぎない。 まず基本を示す。フィギュアに適した焦点距離は中望遠(フルサイズ100mm前後・APS-C60mm前後・マイクロフォーサーズ45mm前後)、撮影距離は1/6~1/8スケールで立像全身の場合、1m前後だ。このレンズおよび距離は、フィギュアが歪んで見えなくなるギリギリの水準となる。すなわち撮影のしやすさと撮影クオリティの双方を得られる端っこ、プロのような写真を撮るための「最低基準」となるが、フィギュア業界だと実質これがサンプル撮影のスタンダードになっている。 写真ハウツーのほぼすべてが画角および焦点距離の視点で語るのは、大半の撮影シーンが「マクロ撮影でない」からだ。ところがフィギュアの見え方はマクロの領域である10センチから数十センチくらいの範囲に収まっており、距離によって見え方が激しく変化してしまう。それを今から示す。 焦点距離60mm、標準画角で、スケールフィギュアの全身立像を写した図。中望遠と比べて短足に見えている。女性フィギュアではまだ許容だろうが、男性フィギュアとくにヒーロー系・ガンプラ系で短足はヤバい。撮影距離は45cmと100mmと比べていきなり半分近くだ。足以外はあまり変わらないので、部屋が手狭で撮影距離を取れないときなどはこの画角で写しても実害は少ない。私は2012年くらいまで無知による標準画角での撮影が多かった。なお焦点距離とはレンズ側の指標で、数字が小さいほど広い範囲を、大きいほど狭い範囲を写す。その範囲を画角という。 35mm、準広角。撮影距離は30cm。足がさらに縮み、胴長になり、顔の見え方があきらかに違って縦に伸びている。この辺りの画角はスマホカメラの領域で、スマホでフィギュアを写して「なんで?」となる原因がまさに「撮影距離が近すぎる」から。この撮影結果はどれだけ金を積もうが、画像処理を施しても、絶対に覆せない。ゆえに私はフィギュア撮影における撮影距離と焦点距離(画角)の関係で、撮影距離を重要だと説いている。自身が何年にも渡って散々失敗してきたので、後発に繰り返してほしくない。 スマホカメラ的な欠点をさらに助長したものが下の写真だ。超広角、12mmで写した。APS-Cなら8mm、マイクロフォーサーズで6mm。撮影距離はわずか10cmであり、この数字はカメラからの距離で、レンズ先端とフィギュアの顔はじつは2cmしか離れていない。特殊な効果を狙った場合を除いて、完全に論外だ。インスタ映えで広角化が進行しているスマホでの撮影はおおむね、上の写真と下の写真の間、どこかに属する。 画角基準でのサンプル結果を並べてみた。100人いれば95人以上が100mmを是とするだろう。フィギュア撮影で多用されるAPS-Cなら60mm以上。写真論のメインである「画角視点」で語ると撮影距離が忘れ去られがちになるが、そのじつフィギュアの見え方に与える影響はものすごく大きい。 さて今度は撮影距離基準で見ていく。撮影距離を80cmに固定して、おなじ焦点距離でどう見えてくるのだろうか。まあこの講座の最初の1枚目ですでに答えは示してるけど、形式も大事だな。 60mm。なんかフィギュアがどっと小さくなった。見かけの影響が大きすぎるため、写真論で構図は普通、焦点距離および画角で語られる。だが私があえて距離が一番大事と言うのにも根拠があり、それはまとめで示す。すなわちデジタル時代の恩恵というか。とりあえずこの距離と焦点距離はフィギュア周辺をかなり含むことが出来るので、フィギュア複数や背景付きの画像を「フィギュアをあまり歪ませない」で得るのに重宝する。 35mmになると主題はもはやフィギュア単体でなく背景となる。群像を写すのにちょうど良いだろう。重要なのはとにかく一定以上の距離を取ることだ。 おまけの12mm。肉眼よりも大幅な広角で、80cmですでに「なんだこれ」ってくらいフィギュアが小さく、撮影ブース全体まで網羅してしまう。むろん狙って写すにはいいが、通常の撮影行為では意味のない選択だ。 さてデジタル時代の恩恵をまとめで示す。フィギュア四隅を切り取り、主題のフィギュア単体のみを並べると、すでに出ていた結論だが、フィギュアの見え方はまったく等しい。これがフィギュアの見え方に撮影距離がもっとも重要だと言う根拠で、デジタルカメラの時代だからこそ通用すると考える。ブログやSNS、twitterにアップする用途では、60mmくらいまでは使える。35mmからは厳しい。焦点距離の失敗は画角の不足を除いてトリミング(切り取り)でカバーできるが、撮影距離の失敗は再撮影するしかなく、画像補正では5000兆円でも取り返せない。イベントにおけるイマイチな写りの大半が撮影距離が近すぎることによって起きる。ワンフェスなどでスマホやパッドで寄って写すのは、ひたすらに失敗写真を量産するだけの、徒労にすぎないと断言する。 フィギュア全身をスタイリッシュに写す撮影距離は、フィギュアのサイズで違ってくる。1/6~1/8スケールは1メートル前後は必要だが、ねんどろいどになると60~70cmほどで事足りる。こちらは画角と三次元の関係についての理解が必要だが、小さいフィギュアほど短い距離で十分という事実だけ理解してれば良い。その基準は簡単で、「中望遠・縦構図でフィギュア単体の全身が入る距離」がまさに答えだ。ゆえに撮影距離が重要と語りつつも、そのじつ実際の撮影では焦点距離(画角)で考える。「中望遠使ってりゃ良い」。ただしブンドドや背景入りは標準のほうが良い。周辺情報を写真へ盛り込むため勝手に撮影距離が伸び、中望遠で写すのと同等に離れる。なお人物撮影とくに女性撮影ジャンルでもおなじ理屈が通用する。マクロ領域でなくてもアイレベルの高さから近距離ほど短足に写るという悩みが常に付きまとう。被写体が大きくなるほどマクロ関係なく歪みなく写す撮影距離が必要になる。建物とか何十メートル単位で、どうしても距離が取れない案件も多く、ティルトシフトレンズはそのために発明された。建物には有効なティルトシフトも「サイズを整える」だけで、歪んだ顔の不自然さは解消できない。 フィギュアを小さめに写すと、スタイリッシュがさらに増す。複数筋の検証により、人物撮影でもっとも映えて見える焦点距離が135mmと判明している。フルサイズ機+135mmで全身ないしバストアップを写すとき、その撮影距離が自然とベストに填まる。これは100mm前後でも縦構図でフィギュアの2/3が収まる距離ならおなじ見え方になる。横構図ならフィギュアの頭から足までが入る距離だ。フィギュアの見え方は撮影距離で決まるので、135mmをわざわざ用意する必要はない。ただしトリミング(切り取り)が平気という人だけだ。なおAPS-Cなら85~90mmくらいで135mm相当になる。 横構図でバストアップは、縦構図の全身と撮影距離がほぼ変わらない。縦構図と横構図の比率はマイクロフォーサーズを除いてレンズ交換型カメラはおおむね3:2だ。 さらに拡大。中望遠だと顔のアップなどでも横位置なら50~60cmていどの距離で済む。マクロと接写はおなじようで微妙に違う。コンデジやスマホだとやたら接写能力を誇示したがるが、すでに述べたように撮影距離が短いと物が歪んで写り、フィギュアは可愛くなくなる。歪みを強調したいならともかく、そうでないなら接写行為は誇れるものではなく、自慢にもならない。マクロとは拡大という意味であり、すなわち中望遠以遠の狭い画角で遠くより引き寄せるほうがスタイリッシュで良いのだ。 ねんどろいどのバストアップはさらに接近し撮影距離が50cmとなるが、中望遠レンズなので50cmで済んでいるともいえる。近づくと歪んで見えてダメだと書いたが、パーツ拡大はその例から漏れる。メインはあくまでパーツであって全体ではない。全身撮影で寄るのがダメなのは、顔と足の歪みはわずかでも目立つからだ。おなじ歪みでもリボンや服の一部では、さほど違和感は覚えない。また画面の中央は歪みが最小化される。見せたいテーマを中心に据えるのはマクロレンズ撮影の基本だ。以上、講座第4弾は焦点距離と撮影距離についてさらっと述べてみた。この両者はフィギュア撮影というマクロ的な写真ジャンルでは密接に絡み合っており、離して考えることは出来ない。とにかく撮影距離を念頭に置いておけば、情けない失敗をせずに済む。