ソード妖夢オンライン1 東方剣舞郷 〜 Sword Youmu Online.

旭和ラノベ ソード妖夢オンライン全話リスト

原稿用紙換算453枚
 東方Project×ソードアート・オンラインのクロスオーバー。魂魄妖夢&キリトの二刀流コンビがデスゲームを無双する。妖怪少女たちと攻略組による、わりとユルいSAOプレイ。幻想郷――具現化する異世界は最初からあった。
 アインクラッド第一〇〇層まで登頂し、ALO・GGO・マザーズロザリオ・キャリバー・アリシゼーション編すべて完走。東方サイドは妖怪や神の発生から幻想郷の歴史、ゆくえまで語る。

少女祈祷中 Now Loading...
 本編東方キャラ視点、過半妖夢。恋愛要素で東方×SAOカップル、同原作内カップル有。
 恋愛不遇&死亡キャラ救済。東方紺珠伝&SAOP3巻以降非対応。《 》用いず『 』。
 再構成オリジナル展開、全七部。起承転結と付く回三人称、他一人称。誤表記指摘を歓迎。
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〇一 序:世界を変える力

〇一 〇二 〇三 〇四 〇五 〇六

 いつも感じていることがある。これが渇望なのだと気付いたことがある。
「剣と剣をぶつけあう熱い仕合がしたい!」
 純粋な剣士でありながら剣の使い手と戦う機会が少ない。だって私は人間じゃないから。半霊って人魂をいつも傍らに連れている『妖怪』なんだ。みんないろんな能力を持ってるから、人外の戦いでわざわざ剣が使われる率なんてたかが知れている。おかげさまで女流の最強剣士にすぐなれたけど、剣と剣で戦えない不満はずっとくすぶっていた。そんなある日、いきなり転機が訪れたんだよ。
「見ろよ妖夢(ようむ)。これがソードアート・オンライン。外界で話題の、世界初といわれる仮想現実RPGだぜ。科学が創った別の世界へ五感ごと幻想入りするんだ」
 友人の魔法使いが不思議なゲームを教えてくれた。
 プレイ画面を見ることは出来ない。ナーヴギアというヘルメット型ゲーム機とネットの紹介を見せて貰っただけだ。ソフト開発の最後に行う、クローズド・ベータ版というテストらしい。
「魔法がなくて、剣だけで戦う……」
 そのゲームが持つ最大の特徴を知って、とても気になった。以前から欲していたものがあるような気がしてきたからだ。剣と剣の対戦が!
「このゲーム、面白そうだろ。いかにも剣士の妖夢向けだと思わないか?」
 ノートPCでいくつもの動画を見せつけた魔法使いが、得意顔で私に感想を求めた。
 魔法使いの目論見通り、とっくに魅入られている。
「私にも……遊べるでしょうか」
白玉楼(はくぎょくろう)にはテレビが入ってたな。ケーブルだよなアレ? 冥界まで電波が届くわけないし」
「ええ」
 七〜八年ほど前、友人の河童娘が三日がかりで繋げてくれた。そのテレビは昭和時代を再現している茶の間にあって、いまでは幽々子(ゆゆこ)さまとふたりでテレビドラマを見るのが日課となっている。
「ケーブルの回線を使えばいけるはずだぜ。正式サービスは秋口かすこし先ぐらいだと」
 昨今の幻想郷(げんそうきょう)は一世紀半遅れの文明開化が大ブーム中で、ネットやテレビもある。まだないのは電話くらいだろう。
 サービスやケーブルといった片仮名もとっくに馴染みだ。以前なら知らないワードだったけれど、テレビを通じて大量の外来語を覚えいまや普通に使っている。
「ふうん……秋口ね」
 気のない返事をしたが、私の半霊がおかしな挙動を取っていたように内心ではとても気になっていた。
 ソードアート・オンライン。
 通称SAO(エスエーオー)
 視覚・聴覚・触覚をはじめとしてあらゆる感覚を総動員し、自分の体ひとつと手にした武器だけで数多(あまた)のモンスターを切り倒し活動領域を広げてゆく大舞台。
 ――それはもはやひとつの異世界だった。
 西暦二〇二二年、真夏のことだった。
     *        *
 私は見た。幻想郷の里にある業者とネット契約を結び、香霖堂(こうりんどう)で買った中古のデスクトップ型PCを設置して――ソードアート・オンラインの評判を。
 生まれて初めてのキーボード操作は一週間で覚えてしまった。確固とした目的があれば多少の壁など問題にならない。私は若いのだ。肉体的と精神的にだけど。
 魔法使いが言っていた以上の興奮が、そこにある。
 バーチャルリアリティ。仮想現実というのがよく掴めないが、現実の物理法則を民生用ゲームソフトとしてはもっとも忠実に再現しているらしい。そのようにリアルな空間で自分の体とアバターが一体となる感覚を体験したかった。
 たとえ最初はレベル一で、体の機能が激しく低下しようとも。半霊が見えなくなろうとも。
 超常の力が及ばないSAOゆえ常に武器でもって敵と渡り合う。飛び道具の類すらほとんどないから、剣と剣で戦うことも多くありそう。手に持った剣で直接、鉄の塊をぶつけあう。本気で倒し倒される。想像しただけでウズウズする。戦う相手はモンスターだけじゃない。プレイヤーとも試合が可能。そうかこのゲームなら人間とも全力で戦えるんだ。私のほうが力を抑えて手を抜く――わけじゃなく、ゲーム世界だからバランスそのものが簡単に取れてしまう。公平な環境で戦えるから、仕合可能な相手が幻想郷よりもぐんと広がる。純粋な技量と読みと速さ、上手いか下手かの世界だ。楽しそうでわくわくする。
 私のやりたくてしかし現実にはできなかったことが、SAOの世界ではたやすく実現する。もはやただのゲームではない夢の闘技場だ。永遠亭(えいえんてい)に置いてある凡百のアクションゲーム群とはなにもかもが違っている。私は以前からたまに剣戟ゲームで遊ばせて貰っていたけど、これまでのゲームはどれだけリアリティに迫っても嘘だとすぐ分かるニセモノの体験でしかなかった。それがSAOは段違いに変わっている。
 きっとこれは本物になるよ!
 ゲームと分かっていても仮想空間での経験が身になるていどには本物だ。外の世界で大評判なのも頷けた。
 ソードアート・オンラインをどうしても遊びたい!
 しだいに庭師の仕事が手に付かず、幽々子さまから注意を受けるようになった。心配もされた。このご主人さまは最後には、彼女の親友にして賢者の(ゆかり)さまに相談までしたらしい。まだまだ未熟者で済まない気持ちになった。
     *        *
 秋になってナーヴギアを注文した。
 なんてことはない、天狗のお届け代行を利用したまでだ。天狗の住む山には昔から大結界のほつれがあって、顕界(けんかい)との謎インフラ接続もそこを通じている。外の世界には守矢神社(もりやじんじゃ)が残してきた別荘のような家があり、そこに送ってもらうことで人間からいろんなものを手に入れるんだ。高速飛翔のできる天狗は多少の距離などひとっ飛びなので、このサービスを守矢三柱(みはしら)神より委託されている。
 ただ外の世界は物価が高い。天狗の手数料とナーヴギア本体で、私の給料二ヶ月ぶんが吹っ飛んだ。四年ほど前に空気を斬れるようになって、ようやくお給金が出るようになったんだけど、もうすこし上げて貰いたいものだ。幽々子さまと直接交渉してみたところ「時間を斬れたら考えてもいいわ」となしのつぶて。
 空気のつぎの段階、時を斬れるようになるには、これまで修行してきた期間のさらに三倍の修練が必要だという。先が長くてため息が出るばかりだ。私の剣は最初は物だけ、固体を斬っていた。つづけて雨を、つまり液体。いまは空気すなわち気体を斬れる。水や空気を斬るとは、斬った状態で元に戻らなくなるということだ。いろんな応用が利き、たとえば大気より窒素肥料を斬り出したりなど、庭師的用途に便利だ。
 白玉楼に届いたナーヴギアでユーザー登録をしようとしたら、フルダイブ不適合の判定が出た。どうも人の身ではないため脳波の内容も違うみたいだ。
 仕方ないので技師の河童娘に相談したら、あっさり解決する見込みとなった。なぜならば魔法使いのナーヴギアを改造したのもその子で、ついでに自分のぶんまですでに用意していた。一〇月末日発売のパッケージ初回版を魔法使いより融通してもらえることになったらしい。ゲームの世界にはたくさんの人間がログインしてくるはずだ。もっぱら友人としかコミュニケーションを取らないので普段はそう見えないが、この河童はかなりの人見知りだったはずだ。どういう心境の変化だろう。
 私もパッケージ版を予約しなければ。いずれ簡単に買えると知ってはいても、できれば初回ロットから遊びたい。日本中のバーチャル剣士と戦えるチャンスなのだから。好評を聞きつけて私のような本物の剣術家が混じってるかも。それこそ望むところだ。いざ尋常に勝負。想像しただけで心が弾むよ。
     *        *
 予約開始日はPCの前で脳内シミュレーションを重ねつつ、そのときが来るまで待機していた。あと一〇分あまりで予約解禁……いくつかの通販サイトをブラウザで開いている。ネットの予想では数分以内に売り切れるという話だ。どれかひとつでも成功すれば御の字だが……
 とんでもないタイミングで邪魔が入った。
 白玉楼に半年ぶりとなる襲撃者がやって来たのだよプンスカ。私は白玉楼住み込みの人魂より連絡を受け、すぐさま前庭に出る。
 たまにいるのだ。幽々子さまと私が守っているこの世界を支配してやろうと、軽率に事に及ぶような痴れ者が。数千万の人口を抱えるひとつの世界を任されている者が、どういう特殊な存在であるかも考えずに。そいつは私のお爺様がかつて退治したやつだった、らしい。というのもそいつが前回倒されたのが私の生まれる以前、はるか昔のことだったからだ。その化け物は地獄での服役を終え、二年ほど前に浄土たるこの地へ還されたのだが、浄化されるを良しとせず雌伏を経て白玉楼を再襲撃してきた。何百年かぶりくらいに。
 全身真っ赤で顔が犬っぽい丸々と太った変なものが庭を荒らしていた。石灯籠を片手で簡単に粉砕しているから、知り合いの鬼、星熊勇儀(ほしぐまゆうぎ)並の怪力だ。あの攻撃は何十発か受ければ死にかねないので絶対に避けたい。体高は三メートルほど。下働きの人魂たちが遠巻きにしている。幽々子さまは近くの里に出ておりいまは留守だ。
 私を視認するやあきらかにバカにした単眼でサイコロデブが腕組みをした。それで強さと怖さをアピールしているようだが、予約があるのでこちらはさっさと済ませたかった。数百年の怨念なんか知るか。
「なんだこのひょろっとした小娘は! 魂魄妖忌(こんぱくようき)の糞野郎はどこ行った! 一つ目鬼の劾鬼(がいき)さまが三〇〇年ぶりにわざわざお礼参りに来てやったというに」
 長短二振りの宝剣を背より抜いて私は対峙する。二本とも切先より刀身に走る刃文がこれからはじまる鎮魂の宴を祝うように激しく波打っており、刀匠の性格を示している。その切れ味も違わず、とくに人でない存在に対してじつに鋭利な名刀だ。常に傍らにある大きめの人魂――半霊が実戦に武者震いしている。
半人半霊(はんじんはんれい)に寿命があるって知りませんか? 私は孫の魂魄妖夢(こんぱくようむ)です」
 ノーマルの妖怪は不老だけど、人の定めに従う半人半霊は成長し結婚し子をなし老いて死ぬ種族だ。
 全身真っ赤で半裸をした一つ目の化け物はあざけるように笑った。
「これはとんだ見込み違いだったか。俺が灼熱に焦がされて苦しんでいた間に、勝手に年老いてくたばってやがったとは。まさか時間が解決してくれるとはな」
 鬼を名乗っているくせにしっぽが生えていて、不気味に揺れている。こいつは本物ではない鬼モドキだ。犬顔で角もないし、図体ばかりで剛腕を除けばたいした奴ではない。すでに半霊を通じた霊感レーダーで走査しているが、畏怖のカケラすら感じなかった。
 勝利を疑わない劾鬼が陶酔しつつ前口上を続けている。
「くっくっく、この世界は頂いたも同然だぜ。浄化だと? 浄土だと? バカらしい。形を失って人魂になり、さらに記憶まで失って転生することになんの価値がある。意味すらもないわ! 俺様は俺様のままで、久遠に居続けるのだ!」
 どうも陰陽の法則すらねじ曲げたいようだ。知性生物のイメージが象る万物の循環は、天人や閻魔ですら抗えない絶対の法理だぞ。だいいち世界をひとつ支配する力が本当にあるのなら、なぜ刑期内に地獄の牢破りすらできなかったのだ。
「価値? 意味? 日本列島に付属する死生世界群の掟は何千年もかけて日本人の観世音(かんぜおん)――潜在意識が決めたのですから、こんなものだって言う以外になにがありますか。それにお前にとって残念なことに、お爺様はまだご存命です。いずこに隠遁されているかまでは私も知らないけれど」
 半人半霊の寿命は千数百年。いきなり『出奔』されて四〇年にはなるけど、亡くなっておられる確率は低い。
「それで後継者がなにをトチ狂ったかこんな尻の青い小娘か。西行の姫は永く存在しすぎて気がふれたと見える。冥界の守りも手薄になったものだな。とんだ笑い話だ! 傑作だぜ! 来いよ娘……なぶり殺しその柔らかそうな肉を食らってやる。そのつぎはあの姫で、俺さまが支配者だ!」
 権威をないがしろにし、禁句の領域へどっぷり踏み込んでいる。ここまで言われるともはや看過できない。私には白玉楼に楯突いた愚か者の生殺与奪権がある。冥界の管理者としてミレニアムに君臨する幽々子さま。不老不滅・長命富貴なその絶対的な威光を守るため私はこいつを斬り捨てなければならない。ただのお礼参り目的なら軽くいたぶって地獄に送還するだけで赦してあげたのに。
「……悪即斬。言霊(ことだま)、劾鬼!」
 両手の剣が二本とも、白銀の輝きをまとった。封印解除。
「なに?」
 それ以上、化け物に言わせなかった。二刀で空を斬って霊力弾を一〇発ほど発生させ、やつの視界を塞いだ。突発的な桜色の高速弾幕。劾鬼はとっさに腕を組んで防御したが私の剣気は甘くないぞ。ぶつけたうち半数がクリーンヒットし軽くのけぞる鬼モドキ。それで十分だった。私はすでに自称鬼の懐へと飛び込んでおり、大上段より楼観剣(ろうかんけん)の一太刀を浴びせた。
 劾鬼の腹がおおきく抉れるが、血や贓物が出てくることもなくすぐ元に戻る。おそるべき復元力に見えてしかし鬼モドキの顔は苦痛に歪んでいた。
 反撃を許さない猛攻を加えつづける。やつがすこしでも自力で動きを回復する様子を見せると、瞬発的に繰り出せる蹴りや肘打ちなどを急所に打ち込んで劾鬼の体勢を崩し、とにかく攻撃を繋げてゆく。言霊を受けた剣は、白い霊波を放ったままだ。距離が離れると光弾をお見舞いして早足で詰め、余裕があれば名前の付いた技で大ダメージを稼ぐ。
 私の剣技は天女返し・七魄忌諱(ななはくきい)・業風神閃斬と、次第にエスカレートしていった。大技のたび派手な霊光とアクロバティックな剣閃がほとばしり、おまけの妖力弾が追撃。半拍遅れて鬼モドキの苦悶が響いた。転ばせないよう斬る部位を調整してどんどん押していく。三〇メートル以上は飛ばしただろう。
 およそ一五秒で四〇連撃ほどを重ねたところで、やつの復元力も終末点に近づいたようだった。そこで私はトドメとして居合い斬り抜けの五連鎖を敢行、細切りにしてあげた。奥義技の西行春風斬(さいぎょうしゅんぷうざん)だ。剣圧の残響として私の身の丈を超える巨大な桜の花びらが数枚、風に散るように舞っている。これは瞬間的な霊力の放出がそう見えるからだ。それで幽々子さまが付けた名が春風斬である。私の代で私が編み出した、私のためのオリジナル技だ。男がこの華やかな技を使っても間抜けだろう。
「――ウグォオオォォン」
 桜色の斬撃にもはや形状を回復することもなくただ崩れ去ってゆく化け物の顔には、信じられないという表情と消滅への恐怖が見られた。だがそれもほんの数秒で消えて、空中に溶けるように薄れ無に戻った。なにも残らない。臭いすら。劾鬼は妖忌お爺様にかつて殺され、一度地獄に落ちて出戻ってきた、つまり魂だけで強引に受肉したような存在だった。いくら斬ってもすぐ元に戻るのだが、魂そのものは着実にダメージを受けて削られていた。それが限界に達した二度目の死は、完全な霊魂の滅びを意味している。浅はかなお礼参りなど死を覚悟するよりも重い選択だったであろうに、灼熱地獄でなにも学べなかったようだ。
 強いのは使い手ではなくじつは剣のほうなのだ。
 二振りの剣が役割を終え輝きを消失してゆく。茫洋とした残光を余韻として風になびかせ、破邪の宝剣がただの日本刀、封印状態へと戻った。無言で鞘へと収める。
 これが私の特殊性であり、秘密だ。
 静寂が帰ってきた日本庭園は、桜が何本も倒れ池は濁り灯籠が破壊され、玉砂利もコケも掘り返されてすっかり荒れている。幸いなことに寝殿造りの白玉楼御殿そのものに被害は及ばなかったが、庭とはいえ冥土の首府がこれではみっともない。一刻も早い原状回復が必要だ。私の半霊がぷるぷる震えている。今回の敵は弱かったが損害は最近では大きい方だ。もっとも壊したうちの半分は私がやったのだが、強くない鬼モドキといっても怪力には違いなく攻撃を許して良い相手ではなかった。私自身は小柄な少女にすぎないから、守勢に回れば危なく、とても手を抜ける敵手ではない。
「……これは庭師として、後片付けが大変ですね」
 私は剣士であると同時に庭師でもあった。表の顔が白玉楼の庭師、裏の顔がお庭番な剣士だ。もっともどちらもまだまだ未熟。
 劾鬼を一方的に伏滅できたのは、剣の封印を解いたからだ。普段はただの日本刀でむしろナマクラなほうだが、名前を言霊に乗せて斬ると対象の生命力や迷いの念を一挙に奪い、浄化し尽くす恐るべき霊剣と化す。とくに長刀の楼観剣は、転生寸前の無垢な人魂であれば一振りで一〇体まとめて消滅させてしまう破壊力を持つ。家宝の白楼剣(はくろうけん)も迷いを断つ強力な剣だ。
 それにしても不満だ。劾鬼のど阿呆は素手だった。白玉楼や周辺の里で暴れる知恵なしどもは、体ひとつで戦う腕力または妖力自慢のバカどもばかりで、こちらを見た目だけで舐めてきてどうしようもない。もっと心の躍る洗練した戦いはできないものか。できれば剣と剣で。槍や斧でもいい。
 SAOへの憧憬が強まった。秘剣の力なしで、純粋な剣技だけでどこまで通用するのか試してみたい。私は剣士なのに白玉楼の特殊性に縛られて、剣士として剣士と戦う機会が少なすぎる。楼観と白楼は名前の通り白玉楼に所属している備品。私が自由になるということはこの二振りを受け継ぐ次代を見つけて育てあげることを意味している。義務より解放されたお爺さまは、今日もどこかで元気に剣豪遊戯にでもふけっているのだろうか。悟りを開いた――頓悟(とんご)された先代の心境がおぼろげながら想像できるようになってきたとはいえ、私の肉体年齢はまだまだ未成熟もいいところ、人間に換算していまだ一四歳かそこらでしかないのだ。心のほうも体に縛られて追いつかず、恋すら経験したことがない。あっというまに心身ともに成長する人間がうらやましくもある。
「恋か……どんな感じなんだろう。してみたいな、初恋」
 私の鬱屈を代弁するように半霊が複雑に揺れている。
 庭の手直しを後回しにして部屋へ戻ると……SAOの予約はすでに終わっていた。ぎりぎり間に合ったと思ったのに。
「みょ〜〜ん!」
 SAOの生きた情報が手に入るMMOトゥデイの掲示板をおそるおそる覗くと、どうも数分どころかわずか数秒で売り切れたらしい。
「なによこの高難度」
 こうなれば手はひとつしか残されていなかった。
     *        *
 一〇月末。
 私が幽々子さまの目を盗んで仕事をサボるのは四年ぶりだ。それだけSAOに入れ込んでいる。
 空気を斬って給料をいただく身になってから私の性格は微妙に変化し、大胆さや積極性が増している。未熟なりに自信が付いているからだ。ほんの五〜六年前の私ならとてもサボリなど出来なかっただろう。一〇年前なら思うことすらしなかったかも。
 残された手。それはパッケージの直・接・購・入! ネットオークションと天狗の代行を利用すれば、白玉楼にいてもソフトは手に入る。しかしお金がかかりすぎる。年中住み込みでろくに休暇もないのに、私の月収は一〇〇貫文(かんもん)。日本円に換算して一〇万円ほどとパートのおばちゃんていどしかないのだ。冥界や幻想郷ならそこそこのお金だけど、日本はなにしろ物価がすごいから。ナーヴギア購入で薄給ここに窮まり、余裕はさほどない。だから実力行使に出た。まず香霖堂で換金し日本の紙幣を調達。軍資金は五万円だ。道楽店主の森近霖之助(もりちかりんのすけ)は手数料をほとんど取らないので貧乏な私には助かる。
 白玉楼の正門より長い階段を降り、降りた先よりとある方角に進めば、やがて幽明結界(ゆうめいけっかい)をまたいで幻想郷へ抜ける。天狗や河童の棲まう山に向かい電線を辿っていけば、勝手に結界のほつれへと誘ってくれる。事情により塞がれず置かれているものだ。
 時刻は夜。
 気がつけば星空の様子が違っていた。盆地状の幻想郷であればうすく霞がかかったような感じであるのが、青みを帯びて澄んでいる。大結界を抜けておそらく外に出たのだろう。すこしチリチリと肌がざわつく。人間に効くが私たち人外の理には効かない、心理的な防御結界が張られていた。人間が近づけば無意識に引き返してしまうよう促す特殊なものだ。それにしても空気の澄んだ高山にいるはずだが、喉が若干ヒリヒリする。これが排気ガスとかいうものの影響だろうか? 呼吸法を変えて酸素を多く取り込む。何分かで慣れた。
 とにかく目的は明日に解禁となるパッケージ売りだ。手に入る確率がもっとも高いのは、一五店舗に二〇〇〇本もが割り当てられた、東京都は秋葉原。これまで近場の市町村にしか行ったことがないので、本格的な大都会は初めてとなる。
 妖力で空を飛び一路南を目指す。すぐ信濃を抜けて甲府盆地をひとっ飛び、最初の目標は特大のランドマークである富士山。その先は海沿いにひたすら東だ。ただ近寄りすぎるといくら夜中でも見つかってしまうので、三浦半島をまたいで横浜へ入るところで地に降り、そこから鉄道などの公共機関を乗り継いだ。剣は置いてきた。女の子が持っているものだし鞘から花まで生えてるから、まさか本物だとは思われないだろうが、万が一バレたら銃刀法違反で捕まってしまう。騒ぎとなるので半霊も見えないように消している。空気を斬れるようになってから、半霊消しが出来るようになった。理屈は私自身もわからない。
 なんという人間だらけの都市だろうか、東京はあまりにも異様な場所だった。あちこちでずいぶん注目を集めているのは、やはり服装が変わっているからだろうか。冥界や幻想郷では普通なのだが。流行の移り変わりが激しい外の世界では、何年経ってもほとんど変わらない保守的な私の見た目はどう写るのだろう。息苦しいほどに空気が淀んで汚すぎる。地底ですら何倍もキレイだ。あまりにも灯火が多く、空を見上げても星どころか雲の有無すら判別できない。混沌としていて騒々しい巨大な坩堝だ。
 紆余曲折を経て、おそらく最短ルートの三倍はかかってようやく秋葉原に到着した。有望そうな列を見つけて並んだが、人間の男たちが向けてくる視線が妙な気がする。どうしてこんなに見られているの?
 変なのか? 変なのか私? リボンがおかしいのかな? それともフリルのせい? 半霊を消してるから霊感センサーの感度が低い。男子たちの妙に浮ついた感情はなんなのだろう。長野県でもときどき感じてはいたけど、これほど集中を浴びるのは初めてだった。
 いいかげん恥ずかしくなってきて、思わず列を飛び出しそうになっていたが――ある者の親しみやすそうな声がそれを留めた。
「マジかよ。あんなゲーマーもいるんかよ。おいおい、えらい可愛い子じゃねーか。人形か? 妖精か?」
 ――え? カワイイ?
 横を向くと四〜五メートル後列に赤バンダナを付けた二〇歳よりすこし上くらいの男がいて、目が合った瞬間に視線を反らした。頬が赤くなっている。まさか照れている? その原因が私にあるというのか。世辞を言われる筋合いでもないし、つまり彼がうっかり漏らしたのは……本音だ!
 へえ……可愛いのか。あははは。私は可愛いのか♪
 嬉しさのあまり突発的にスキップでも踏みそうになったが、二回だけでかろうじて自制する。小躍りなどしたら本当に変な子だよ。彼らの不思議な感情は私という異質が混じってる緊張や御機嫌だ。思えば幻想郷の人間は私の正体を知っているから、人間の若い異性よりこういった素の感想をあまり聞いたことがない。同族というか人間以外の仲間たちはみんな我が強くてスレている――私がほぼ最年少に近いくらいだし。長野の地方都市でも、ここまで視軸が幾重にも連なったことはなかった。東京のさらにアキバは、どこもかしこも若者だらけの町だ。私は若い人の目に留まりやすい。すなわち可愛いから! なるほど、これは新鮮だ。そこな人間よ褒めてつかわす。
 天然パーマの小太りさんと茶髪トンガリ頭のお兄さんが、赤バンダナ男をからかっていた。
壺井(つぼい)さん、あの子に聞かれてましたね」
遼太郎(りょうたろう)はすぐ大声になっちまうからな」
 ツボイリョウタロウ――バンダナ男の友達が言った名を記憶に刻む。東京にやってきて大きな収穫があった。自分の容姿と服装に自信が持てたということ。あとはどれだけ視線を受けようがジロジロ凝視されようが、もう平気だった。
 ――結果的にいえば、パッケージは無事、手に入った。
 ただし自信が付いたせいでうっかり暴走し、とんでもないポカをやってしまった。
 おかげで私のささやかな悪行は幻想郷全体の知るところとなり、幽々子さまより『みょん刑』を受けた。みょーん。
     *        *
 ベータテスターだった魔法使いがSAOの初回ロットを遊ばないらしい。河童の子はどうするんだろう。
 その辺りは教えてもらえなかったけれど、かわりに面白いアバターのデータを貰った。ちょっとしたサプライズだ。
 魔法使いはこのお方と面識はないが、私に内緒で幽々子さまより借りたという写真だけですごく似せてきた。ネットゲームはある意味、いつもとは違う自分になる舞台でもある。素顔は注目されすぎるのでこのアバターは有り難く使わせてもらおう。
 まあ、私は可愛いですからねっ。
 とっておきの情報を教えてもらった。なんとソードアート・オンラインには、私が日常的に使っている種類の武器が存在しているらしいのだ。てっきり西洋風一辺倒かと思っていたけど、そこは日本人の作ったゲーム。やはり望まれるものもあるようだ。私が目指す装備はそれになる。良い目標ができ、いよいよ楽しみとなった。
     *        *
 一一月五日午後。
 裏庭でいつもの修練稽古中、白玉楼へ突然あらわれたその御方が日傘を優雅に差して私へと問う。
「ねえ妖夢。あなた、世界を斬り伏せる力を手に入れたら、どうする?」
 実直で問答の苦手な私にとってその真意は不明瞭であるが、もしかしたらSAOプレイに関係することかも知れなかった。この人が世界と表現するとき、それは特定の異世界であることが多い。なぜならばこの賢者はあらゆる境界、それこそ世界から世界のスキマをすら結界や法則を無視して難なくまたいでみせる存在で、それゆえ個々の世界というものに対して様々な愛着やこだわりを持っているからだ。
 剣をどうこうする世界といえば、私にはソードアート・オンラインしか思い浮かばない。しかもサービス開始は明日のうえ、この御方は幽々子さまよりSAOで腑抜けとなっていた私に関して相談まで受けている。
 いまは反省しているが未熟に拍車が掛かっていた恥ずかしさからか、私はなぜか楼観剣を構えこう答えていた。
「言葉は無粋! いざ尋常に勝負してください!」
 私は普段より敬語を使うことが多いが、勝負のときは格上相手であっても口調が変わる。
 勝負といっても先日のように命をかけるようなものではない。幻想郷とその周辺世界における独特の対戦方法で、ルールに則ったものだ。だから私は幻想郷関係者にはそれほど躊躇わず剣を向ける。それは喧嘩の類に似ていて、宝剣もナマクラな棒と化す。言霊の封印は絶対に解かない。
 彼女は私の挑戦を受け、目はそのままで唇だけを歪ませた。その様は凄絶に美しく、同性ながらとても妖艶に見えてぞくりと背筋が冷えた。
「いい覚悟ね。来なさい魂魄妖夢、遊んであげるわ」
 ――およそ一〇分後。
 その人は言う。
「世界を変える力を、あなたは望むの?」
 新作スペルカード『境符・剣舞四重結界』で、私を散々にいたぶった後で。剣舞の名が示すように見事な剣の形をした弾が何百何千と飛び回っていた。やはりSAOが関係していたようだ。ただ……やはりなにを言いたいのか、この人の発言は不躾な表現をすれば、意味深で胡散臭くいまいちつかみ所がない。
 最後は同時に五発も受けた衝撃から半分気を失いかけており、またこの問いかけが来る二〜三分前から私にとってどうでもいいお説教がつづいており、返事をする気力も余裕もなかった。世界を変える力をどうするって? ――意味不明だったが、悪い予兆にも思えてならなかった。だから悪いけど無視させてもらった。
 幻想郷独特の決闘方法であるスペルカードルールには二種類あり、今回の対戦は弾幕スタイル。エネルギー弾を遠距離より放つものだ。私は剣で相手を直接斬ることができない、というより厳禁だ。だがもうひとつの格闘スタイルにしても、接近戦でかつ相手も武器を持っていないと意味がない。やはりスペルカードルールでも私の望む戦いなど滅多に起こるものでもない。
 境界の賢者がスキマに消えたあと、白玉楼の庭に倒れたまま思いの丈を空へとぶつけたのだ。
「ああ……ソードアート・オンラインで、自分の本懐を表現したいです! 私は剣士よ。魂魄流の筆頭よ。みょんでもなんでも、剣士なの!」
 すでに二四時間を切っているのに、正式サービスが待ち遠しかったよ。


※独自設定/東方Project
 公式設定&二次設定混じり。さらに独自設定もあり。物語の展開や都合に合わせるために、ないこと書いたりするので注意。大きな事柄を除き解説しない。
※大結界のほつれ
 じつは公式。電線を通す都合で当作向けに表現を変えている。独自設定に見えて公式設定という情報は今後も大量に登場するので以後は割愛する。
※劾鬼
 当作オリジナル。オリ敵・オリキャラ・オリアイテムは今後も出てくるので、以降は省略。
※楼観剣・白楼剣の仕様
 言霊封印解除は当作オリジナル設定。公式への付加設定は以降もたくさん。以下同文。
※壺井遼太郎
 SAO側の「じつは〜〜」の一例。Web版。数が多く以下略。

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