竜しかいない!

旭和ラノベ
原稿用紙換算352枚
 竜だらけの世界で、竜から進化した人類が大航海に乗り出す。
第一話 歴史鳴動、ラナン海海戦
第二話 冒険航海
第三話 秩序の追手
第四話 迷信をぶっとばせ!
第五話 ラナンの亡霊
第六話 見よ、いとしの陸地を
第七話 恐竜狩りと新天地


第一話 歴史鳴動、ラナン海海戦

第一話 第二話 第三話 第四話 第五話 第六話 第七話

 竜しかいない!
 この惑星には、竜しかいないのだ!
 見よ、あまねく海、大地、空を!
 海原!
 首長い海の旅人よ、素早い水の走者よ、恐ろしき海中の狩人よ。どこまでも続く海はすべておまえたちの庭だ。
 大地!
 陸上を駆ける勇者よ、地響きを立てて歩く王者よ、ゆっくりと構える沼の主よ、凶暴なる暴君よ。陸はすべておまえたちの楽園だ。
 天空!
 空を飛び、空気を滑るように舞う悪魔たちよ。無限なるすべての空間を思うぞんぶんに飛ぶがよい。
 大いなる爬虫類たちよ、おまえたちはこの星の覇者なのだな。
 …………。
 おかしい。おまえたち、おのれの繁栄を完全に謳歌している様子ではないな。
 ……なぜそんなに不安そうな顔をする?
 おまえたちを凌駕する存在が、この惑星にはいるというのか?
 そいつらの名はなんだ? 巨大な体をもつ、生物の支配者たるおまえたちをして恐怖せしめる存在とは……
 なに、双角竜――ブルガゴスガ?
 ふたつの角を頭にいただく、小さな生き物だと?
 なぜ小さき者が、巨大で強いおまえたちよりも強力なのだ?
 まあよい。
 ならば、そのブルガゴスガとやらを見てみればいいことだ。
 ふむふむ。
 複雑きわまりない脳のせいで頭が他のどの動物よりも極端にいいのか。それに高度な社会を築き、物を創り、理性により秩序を生み出す能力を持っている……人か。
 これでは、頭のわるい、力まかせのおまえたちがかれらを恐れるのも無理はないな。
 さてと、ある海でやつらが戦いをはじめようとしているぞ。
 戦争か……しばらく、かれらの歴史につきあってみるのも悪くはないな。
 それでは、この惑星でかれらの存在におびえつつもたくましく生きるおまえたち。いっしょにブルガゴスガ人の生活と生きざまを、観察してみようではないか。
     *        *
 ラナン海。
 この惑星のほぼ赤道直下に位置する広くなにもない海で、世紀の大海戦が行なわれようとしていた。
 ムック歴三四一年一月三日午後。
 東方沿海三国科学文化同盟艦隊は、半日の距離にあるラナン海に敵艦隊が集結しているという、先行偵察分艦隊からの伝書翼竜による報を受けて、にわかに活気づいた。
「これは、われわれがみずからの自立を掛けた決戦である。そう、われわれのかつての主であったムック教のためにしていた聖戦などという馬鹿げたものとは、まったく異なる、自由意志による、われらのための戦いなのだ」
 そう高らかに宣言したのは、似合わぬ髭に顔を包んだ、恰幅のいい小太りの男であった。着ている服は豪華絢爛、という言葉しか出ない、高価な薄金板の鎧である。宝石をちりばめた鎧の主は、名をニンといった。人口七七〇万人を誇る大国ラクシュウの王で、壮年の野心家だ。
 その王が立つ場所は、突撃櫂船ウネラーデツの後部甲板室上デッキである。船の甲板のなかでも一段と高くなっているここからだと、甲板の様子が手に取るようにわかる。
「ウオオオ!」
「我らに勝利を!」
 ニンの目の前にいる頼もしい野郎どもは、みんな海の男たちである。同盟国セル公国の戦士たち。いずれも精鋭だ。
 ニンは横を見る。そこには、彼らを指揮する、セル公爵ウネラーがいた。ニンが王位を継ぐどころか、生まれるまえから公爵家の当主であったウネラー。当年六三歳の、建国の武将である。
「ウネラー。この戦いは勝ったな」
 初陣で緊張しているニンは、これまでの生涯で三四カ所もの戦場を駆けた英雄、ウネラーから「そうだな」という返事をもらいたかった。
 しかし広げた地図を見るウネラーから発せられた言葉は、期待を裏切るものであった。
「いや、敵さんの様子がおかしい。ただでさえ寡兵なのに、こんな地の利も活かせぬ広い湾海に布陣している。ニンよ、敵になにやら奇策があると見てよいと思うぞ」
「なぜ敵を無為に恐れる? われら同盟の大艦隊の侵入にたいして、かれらは逃げ続けていただけではないか。われらがラナン海近くまで進軍したので、ウゼラもようやく決戦の意志を固めたのではないのか?」
 ウネラーは青い両眼をニンに向ける。老いてもなお精悍さを保つその目に、恐怖など微塵も感じられぬ。
「ニン、相手の総司令官は『逃げの天才』バッタだぞ。有能な敵武将に用心するに越したことはあるまい? 大軍による傲慢と油断こそ、われら最大の敵だ」
 ニンは、相手がいつもどおりの従属的な反応をしないので、とまどいを禁じえなかった。ウネラーのセル公国はニンのラクシュウ王国を宗主と仰ぐ。いつもならばニンの要請に、それを命令のごとく機敏に反応してくれるウネラーにたいして、いつのまにかニンは彼の評価を実力以下に見ていた。
 ウネラーは武将なのだ。政治の場ではけっして駆け引きが上手いとはいえない彼は、戦場では百戦錬磨の猛竜と化す。
(ふんっ、一〇年ぶりの戦いで、かつての覇気も下火になっているとはな)
 傲慢な大国の王ニンは、ウネラーの反応を自分に都合よく判断した。
「油断ね……それくらいわかっておるわ」
 明らかに気分を悪くした様子で、ニンはウネラーをにらみつける。公爵はまったく怯まない。大国という傘の下で、野望ごっこに取り憑かれた小男を、なぜ人の死を近くで見続けた、人の尊厳と狂気を知る侍が畏怖することがあるというのだ。
「ともかく、このたびの遠征は私が総司令官だ。ウネラー、君の忠告は受け取ってはおくが、よけいな指図はするなよ」
 そしてニンは小船に乗って、おなじ同盟国であるツエッダ艦隊の旗艦に向かった。また、似たような演説を繰り返すのだろう。
「戦意はじゅうぶんに高揚している。いまさら、なんの効果があるんでしょうね」
 老ウネラーのとなりで自分の背丈ほどの長さがある中柄槍を抱えて立つ若い男が、主人に気さくに話しかける。親衛隊長のガナスだ。肉付きのよい体で、栗色の目と髪、そして立派な灰色の二本の角――頭頂から後ろに反る、双角がまぶしい。
 角――これこそが、すくなくとも外見における、人間とブルガゴスガ人との唯一のちがいであろう。ブルガゴスガとは「双角竜」という意味である。この知的生命体は、竜しかいないこの惑星では、やはり竜から進化した、竜たちの仲間なのである。
 ガナスの問いに、傷だらけの角をさすりながら、ウネラーは答えた。
「さあなガナス。いいではないか、彼は初陣なのだ。好きなようにやらせてあげよう」
「でも、それだとバッタのどんな奇襲に遭うか……」
「うむ、それは大変じゃな。でもな、ガナスよ。一回痛い目にあえば、すくなくともわれらの進言も通るようになるだろうさ」
「……それでは無駄な犠牲になる兵士たちがかわいそうですな」
「あの王にはそれしかないわ。まったく、先代が甘やかすからああなるんだ」
「その通りですね」
 ガナスはうんうんとうなずいている。それを見て、ウネラーの目が笑いを含んだ。
「ガナス。おまえ、その犠牲に自分だけは絶対に入らないはずだと思っているんではないのか?」
「……い、いや、そんなことはないですよ、公爵様」
「わはは、おまえの考えくらいお見通しだ」
 ガナスははずかしそうに頭を掻いた。
「まったく、かなわないですよ、あなたには」
「まあいいさ。せいぜい、自分もその運の悪い犠牲にならないように気をつけねばな」
 ウネラーは、自分にも言い聞かせるようにガナスを励ました。
「明日にはラナン海につく。偵察艦隊によると、集結したかれらの艦隊は、こちらの半分だけだ。よほど阿呆な戦い方をしないかぎり、簡単には負けることはないさ」
     *        *
 ブルガゴスガ人の住む領域は惑星中に散らばっているが、そのなかでもある大陸の東端は、とくに進んだ文明を持っている。
 中原と呼ばれている広大な陸地は、北の一神教ムック教と、南の多神教ウゼラ教の勢力圏に分かれ、三五〇年にもおよぶ熾烈な戦闘を繰り広げて来た。
 その中で、ムック教の教義に縛られない中立的立場から物事を見ようという、ターエン客観主義が沿海のラクシュウ、セルの地で台頭した。
 ここはムック教のいわば辺境であったので、教会は異端とはいえ小勢力のターエンには目も向けなかった。しかし教会が気づいたときには、ターエン主義はすっかり根を張り、科学という学問が誕生していた。
 じつは、当時王位を継いだばかりのニンがターエンの考えを是として、国家をあげてバックアップしていたのだ。ムック経典の、独善に満ちた教義からの解放は、あらゆる学問を急激に発展させた。
 ムック歴三二五年から三四一年までの成果は、羅針盤(コンパス)、火薬、鉄砲、活版印刷、ポンプ、水力織機等の、枚挙にいとまのない、時代を変えうる発明の数々。銀行制度、保険制度、郵便制度、裁判での陪審員制度、国家役職の市民への解放など、社会の急激な発展。まさに、ラクシュウとセルはめざましい経済的、社会的発展をとげた。
 ほかのムック教国家はそれを静観していたが、ラクシュウの隣国サーナンドの一領主、ツエッダが繁栄にあやかりたいとラクシュウに接近したことで、事態は大きく揺れ動いた。
 ムック歴三三八年八月。サーナンド王はツエッダが謀反を企んでいるとして、ラクシュウ政府に干渉した。それにムック教会の総本山、神聖ムック帝国も反応、達磨式に騒ぎは広がり、ついにターエン本人の教会への身柄引き渡し要求へとつながった。
 それに対するニンの反応は苛烈であった。いきなりツエッダの自治州をツエッダ王国としてサーナンドから独立させ、ラクシュウ、セル、ツエッダによる、東方沿海三国科学文化同盟を設立、ムック教圏からの分離独立を宣言する。また、以前からすこしずつ進めていた政教分離を一挙に断行、ただちに何らかの政治権限を持っていたすべての神官を拘束し、強制的に国外退去処分とした。
 ムック帝国教会は同盟を異端としてただちに破門、同盟に隣接するサーナンド、トアット、オーナンドに同盟討伐の命を下す。しかし国力に余裕のない二国は動かず、怒るサーナンドも、大国ラクシュウへ攻め込むには兵力が足りなかった。
 サーナンド王はムック帝国に援軍を要請したが、同盟の未知の新兵器、鉄砲に恐怖する高級神官たちは了承せず、けっきょく戦端は開かれなかった。
 そしてムック教圏は戦いの機会もないまま、陸上経済封鎖という形を取った。
 これには、さすがの同盟も鼻白んだ。ムック教圏のはるか彼方にある、西方諸国との交易は、すさまじい富を商人にもたらすのだ。
 ムック教を国の支えとしなくなった間隙を埋めるように、同盟内では、急激に商人たちの力が増加していた。王たちは、商人が求める交易相手を模索しなければならなくなった。
 そして新たな交易相手として、南のウゼラ教圏がターゲットとして掲げられた。さっそくウゼラ=セルをはじめとする複数のウゼラ教沿海国家に、多くの使者が向かった。
 しかし回答はすべて否であった。三〇〇年以上の構造的確執が、簡単に氷解するはずがなかったのである。
 そこで、同盟は南回りで西方に行く航路を開発しようとしたが、外洋航海が可能な羅針盤を持っているとはいえ、広大なウゼラ教圏を無寄港で突破するのは不可能であった。
 こうなったら、ウゼラの制海権を握るしかない。
 商人たちの主張を受け入れたニンは、セル、ツエッダ両国を従え、約八万五〇〇〇の兵力を動員した、大親征を決行した。
 そしてムック歴三四一年一月四日。両勢力は、ラナン海で激突しようとしていた。
     *        *
 ムック歴三四一年、一月四日、午前六時。
(ブルガゴスガの暦は、地球のものにきわめて近い。一日は二四時間、一年は一二カ月、三五〇日である)
 ウゼラ教圏でもっとも暑い海、ラナン海。うっすらと見える陸地はすべて黄色い。砂漠だ。
 ウゼラ教圏の南半分は、砂漠である。伝承ではかつては緑の楽園であったというが、今は不毛の砂漠なのだ。それゆえ、かれらは北の豊穣なムック教圏と衝突せざるを得ない。
 椅子に座してその陸を見つめているのは、すき透る黄色い目と、日に焼けて茶色がかった、たばねた長い黒髪を持つ大男であった。前髪の間から後方に反るように伸びる双角は、くわがたのようなみごとな流線型を描いて美しい。
 この男、名はバッタ。まだ三〇代の彼は、荒くれ者の頭にしか見えない、大ざっぱな格好と風貌をしている。事実、かれは海賊「黒旗」の頭目なのだが、じつはこのバッタこそが、今回の戦場へと同盟を誘い込んだ人物であると言っても、誰が信じるであろうか。
 バッタの乗っている軍船は、カーズ・シャ。ウゼラ神の一人、海神カーズの娘、という意味の三本マストの帆船は、初期の大砲を備え付けた、軍艦であった。
 大砲――鉄砲のただ大きいものにすぎないが、鉄砲がラクシュウで発明されてまだ一二年しか経っていないことを考えると、ウゼラの科学力の恐ろしさがわかるだろう。科学同盟は、こんな連中と戦おうとしているのだ。
 バッタは、大砲の整備をじっと見ていた。
(今日は、存分に暴れさせてやるからな)
 今回の戦いでは、新型の炸烈弾を使用する予定である。これまでの青銅弾や石弾とはちがう、詰めた火薬で爆発する弾だ。四方に火の粉をまき散らし、木でできた船はすぐに炎上する。爆風で人は肉塊と化すだろう。
(同盟とやらも、これにはかなうまい)
 そう、バッタは確信している。そして今日の作戦も。
「お頭、トウルのベミル将軍が来てますぜ」
 心地よい思考をいきなり邪魔されて、バッタは機嫌が悪くなった。
 とはいえ、相手は一国の将軍、今回の作戦では第一陣の最右翼をまかせる艦隊の司令官だ。「会いたい」と向こうからわざわざ出向いてきたのを、無下に断ることはできない。
「通せ」
 とぶっきらぼうに答え、自分は無造作に椅子に座ったままである。
 バッタの前に現れたのは、立派な皮鎧に身を包んだ、なかなかの偉丈夫であった。肩に軍神クーズの紋章の入ったマント留めを付け、風にひるがえるマントにはトウル王国の紋章が刺繍されている。
 その男――ベミル将軍は、海賊船にいる全員を蔑視する態度も隠さずに、一軍の司令官のくせにまともな格好もしていない、あまりにも軽装なバッタの目前で立ち止まった。
 彼にとってはすべてが嫌であろう。海賊が総指揮官、その上礼儀も知らないのだ。将軍である自分に、座ったままで面会できる者は、自国の元帥と王族だけのはずなのだ。こんな奴にこちらだけが礼儀を尽くす義理はない。ベミルはいきなり口火を切った。
「私は不愉快だ。相手の軍船は四〇〇はいるという話ではないか! われわれはたったの二〇〇。奇襲すらかなわぬこの広いラナン海で、どうやったら倍する敵に勝てるというのだ!」
「ほう、私めのたてた作戦になにかご不満でも?」
 バッタはまったく冷静である。その様子に、ベミルはさらに激昂した。
「あたりまえだ! この作戦は貴様らウゼラ=セルが提案したんだぞ。この海までまったく戦わずに奴らムックの悪魔どもをおびき寄せたのは貴様なんだぞ、バッタ!」
「ふむ、確かにそうですな。ところで将軍、彼らはもはやムック教から独立したのであって、ムックの悪魔ではありませぬぞ」
「そんなことはどうでもいい! 大事なのは、なぜ俺たちが、敵の最初の矢面に立たなければいけないのかということだ!」
「不満ですか? まさかこの戦いで我々が負けるとでも本気でお考えではありますまい?」
「そ、そんなわけないだろ!」
「なら何も問題はありませんね。それでは、お引き取り願えませんか、将軍」
「…………!!」
 将軍になるだけあって、さすがにベミルは理性を精神の端で支え、寸前で暴発はしなかった。だが、やはり憤慨を隠し切れない様子で、乱暴な歩みで小船にもどっていった。
 会見時間、わずか一分。
 バッタは同胞を心底馬鹿にした様子で、自分の船から離れ行く小船を眺めていた。
 バッタは貴族、王族が嫌いである。何もせずに、民衆から税という形で公然と搾取する奴らは、実力で奪う俺たち賊よりもひどい連中だと、彼は本気で思っていた。
 この時代、貴族でない者が一軍の将などにはなれない。だから、ベミルはバッタの嫌悪の対象になるのだ。
 そのバッタであるが、実はウゼラ=セルという、ウゼラ教圏最大の国のひとつに数えあげられる大国の、お抱え海軍の将軍という身分を得ている。これには事情があるのだが、説明は別の機会にしよう。とにかく彼自身も彼の配下もみんな、あくまで海賊であった。
 バッタは、となりにいるお気に入りの切り込み隊長、メノカに話しかけた。
「なあ、メノカ。奴は将軍のくせに、彼我の戦力分析もろくにできないらしい。今回の戦いほど、数の差以前にわれわれの勝利が約束されている戦いもないのだがな」
「そうですね、バッタ様。三国同盟は、火矢の一本を当てる間もなく、大砲の弾幕の餌食になります」
 メノカは明瞭に答える。どうやら育ちがいいらしいが、この青年は何も話さない。海賊は素性不明の者が多いので、誰も気にしない。
「その通り。もはや衝角による突撃戦法を主軸とする戦いは時代遅れだ。同盟には火薬、鉄砲はあれど、大砲はまだないのだ」
 そのとき、主帆柱の第二帆軸上に作られた物見台にいた海賊が、東の水平線上に物陰を発見した。
「敵艦隊だあ! お頭、敵がきたあ!」
     *        *
 やがてラナン海の水平線上に、三国同盟の軍船が現れた。数は四〇〇!
 細長いスリムな形状の軍船が大半である。それらは三国同盟軍の中核をなす、三段櫂船である。艦隊は、見るからに威風堂々。
 一五〇人の漕ぎ手で左右三段ずつ、一五〇本の櫂を動かすのだ。速力はすさまじいものがある。
 この突撃櫂船で、火矢、鉄砲を撃ちながら高速で敵船に接近、船の先にある衝角で穴を開けて沈めたり、櫂や舵を破壊して航行不能にしたり、あるいは乗り込んで白兵戦を挑む――これが、同盟およびムック教圏での、一般的な水上の戦法であった。
 目のいいウネラーはいぶかしんだ。
「おや、敵は帆船だぞ……」
 ウゼラ教圏では、大砲の登場でもはや櫂船は約立たずなのだ。櫂を漕ぐ人の空間があるならば、それを大砲の弾を保管するために利用したほうがいい。そのため、櫂船は短期間でウゼラの海から姿を消した。そのことを、まる一〇年もウゼラとの艦隊決戦を行なっていない同盟が知るはずがなかった。
「敵はなにか秘密の火器を持っている可能性あり。気をつけよ」
 ウネラーがそう結論づけるのに、さしたる時間はかからなかった。なにせ、ウゼラに火薬の技術を伝播させてしまったのは、他ならぬウネラー自身のせいであったからだ。
 手紙の形でわざわざラクシュウ艦隊旗艦まで届けられたウネラーの懸念は、ニンに一蹴された。
「何を言うか、あの腰抜けが」
 ニンは、もはや勝利を確信した初陣の若武者気取りであった。いまの彼には、誰の声も届かない。
「敵は少ない。こちらは数に任せた包囲陣だ。連絡急げ」
 ラッパが鳴り、旗信号が交わされる。
 三八〇隻の突撃櫂船は、遠洋航行用の帆をたたみ、戦闘の邪魔にならぬよう、帆柱を斜めに傾ける。二〇隻の補給帆船団が後方に退き、半刻(一時間)を待たずして戦闘準備を整えた。
     *        *
 ウゼラ連合艦隊はすでに一六〇隻あまりの帆船が、まるで同盟の包囲陣を予想しているかのように、弓形陣で待ち受けている。その後方には、四〇隻ほどの小集団がいる。バッタの「黒旗」艦隊だ。
 ウゼラの弓形陣を半包囲する同盟の艦隊は、中央がラクシュウの二二五隻、左翼をセルの八五隻、右翼をツエッダの七〇隻が受け持つ。ここまでは、戦術論の本さえ読んでいたら、素人にでもできる芸当である。問題はここから先だ。
「ううむ、やはり右のツエッダが薄いな。よし、中央の船を二〇隻ほど向かわせろ」
 という、よけいなニンの指示が、すべての元凶のはじまりであった。
「馬鹿な! 敵の攻撃可能範囲で不要な動きを見せるとは! 止めさせろ!」
 ウネラーは叫んだが、ニンとの距離は一里(二キロメートル)も離れている。届くはずがない。
 同盟艦隊の不自然な動きを見て、バッタは不思議に思った。
「なんだ、あの阿呆な動きは?」
「罠ではありませんか?」
「いやメノカ。あれはただ、右翼へ増援を出しているだけだ。しかし敵の総指揮官は馬鹿だな、指揮系統のちがうふたつの艦隊が一カ所に集まったら、どうなるかを教えてやる。作戦変更! 全艦、敵の右翼に襲いかかるぞ」
 バッタの作戦は、第一陣である数カ国の連合艦隊をまずぶつけておいて、同盟のすきに第二陣である自らの艦隊を投入し、総崩れに持っていく手順であったが、敵に明らかな落ち度があれば、そこにつけ込むのは当然のことであった。
 戦場をおおきく時計まわりに移動した「黒旗」を掲げた艦隊が、一気に同盟右翼に襲いかかった!
「なんて速さだ!」
 遠くから見ているウネラーが驚く。風があまりないので今は足の遅いはずの帆船なのに、まるで風そのもののように、櫂船に肉迫していく。すごい練度である。刻一刻と変化する風を最大限に利用しているのだ。
「海神カーズよ、守りたまえ。目標を一番近くの間抜けな軍船にしぼり、撃てえ!」
 どうん!
 午前八時、カーズ・シャが大砲の右舷一斉砲撃を行なった。
 それが、ラナン海海戦のはじまりである。
 不運な櫂船ラティメリアの甲板上に到達した数発の火薬弾が衝撃で弾け、爆発した。甲板上にいた兵の半分が一瞬のうちに爆死し、火炎は櫂船を包む。
 漕ぎ人のいる船内は大混乱である。広いがぎゅうぎゅう詰めでお互いに急な動きは取れない。それでも、迫り来る炎から逃れようと、必死にもがき、人が折り重なり、そこに炎が被さった。しかし彼らは熱さを感じる間もなく、数秒後には大量の海水に襲われた。
 ラティメリアは、被弾してすぐに沈んでいった。ツエッダ艦隊はたちまち混乱する。見たことも聞いたこともない新兵器だ。しかも、一瞬で船を沈める力を秘めた恐るべき怪物だ。
 さっきまで目前の帆船をひ弱なものだと見下していただけに、兵士たちの衝撃は大きかった。
 そしてひるんだツエッダ艦隊に、バッタの黒旗艦隊が一定距離を保ちながら、一列に並んで片舷砲撃を続ける。ツエッダ艦隊はなすすべもなく各個撃破されていく。
 しかし、提督のクフォ将軍はそれなりの修羅場をくぐり抜けてきた人物であった。ツエッダ王ツエッダから任された艦隊を、なにもせずに全滅させるわけにはいかない。そう言い聞かせて、なんとか落ち着きを保ちながら命令する。
「艦隊を散開する!」
 密集していた陣を解き、損害を減らすためである。ところがここで、思わぬ邪魔が入った。ツエッダの将軍の指揮下にないラクシュウからの増援分艦隊が弾から逃げるために勝手に動き回り、ツエッダ艦隊分散をさまたげる結果となった。
 かえって混乱は助長された。
「ほら見ろ、俺の勘は正しかったぜ」
 バッタは会心の笑みを顔に浮かべた。
     *        *
 一刻(二時間)後、午前一〇時。
 ツエッダ艦隊およびその増援艦隊は、なんの抵抗もできずにその数を四分の三にまで減じていた。この時代の海戦としては、すでに驚異的な損害率である。
「もはや敵の意図は明らかである。我らがあの弓形陣を崩すのは不可能である。即刻全軍撤退すべし」
 最初の櫂船が沈んでから何度も、ウネラーはニンにこの手紙を伝書翼竜で送り続けた。
 しかしニンは意固地になってこれを無視した。
「なぜ数で圧倒的に優るわれわれが、ツエッダの混乱ていどで敵に背を見せなければいけないのだ? もうよいわ、混乱する右翼は無視して、中央、左翼は前面の敵に突撃せよ!」
 結局、ツエッダの犠牲は無駄となった。勝利の幻想に現実を無視したニンの命令で、すでに悲壮感をただよわせながらも、ラクシュウ、セル艦隊は果敢にも突撃を敢行した。
 ウゼラ第一陣は、敵が寄せてこないかぎり、動くなとバッタからのきつい沙汰があったので、今まで動かなかった。しかし、戦端が開かれて二時間もたって、ようやく敵が全面攻勢に出たので、はりきった。
 ウゼラの戦意は極めて高い。いつもは敵同士である各国は、侵略者である同盟に対して、一時とはいえ、固く結束している。緒戦のバッタ艦隊の優勢に、自信もでている。
 この時点で、すでに勝敗は決していた。
 二刻後、ラナン海は煙と血と塩の匂いで充満していた。
 午後二時、ニンはようやく遅すぎた撤退命令を出した。
「撤退……だ」
 ちいさな声であったが、その命令を待ちわびていた側近は、大声で伝令旗兵にその旨を伝えた。
 すでにこのとき、ツエッダは五割、ラクシュウは七割、セルは四割の損害を出していた。
 ウゼラの弓形陣は一三〇〇門の大砲でもって、一斉射撃を続けている。音が邪魔をして、ニンの撤退命令が全軍に伝わるのに、半刻以上はかかるだろう。
 そのころ、この無為徒労の突撃を成功させつつあった艦隊がいた。
 同盟左翼、セル艦隊である。
 その先頭にいるのは、ウネラーの高速三段突撃櫂船、ウネラーデツ!
「いまだ、右舷前方の船に突撃!」
 とうとう、ウネラーの突撃船が一隻の帆船に真横から激突した。水柱があたりを埋め尽くす。
 大部分が海面下にある衝角が、帆船のもろいところを突き、ウネラーデツの五分の一ほどが、帆船に突き刺さる。
「白兵戦用意!」
 親衛隊長ガナスが叫ぶ。栗色の髪が汗で顔に張り付く。時間的に、一番暑いのだ。それに、緊張と高揚が重なっている。
 鉄砲の一斉射撃で、帆船の兵士たちをひるませる。そのすきに梯子を掛け、縄を投げ、ウネラーデツの兵士たちが敵船に乗り移る。
「ゆくぞ、ガナス」
 皮鎧に身を包んだウネラーが剣を握る。自らも最前線に出るというのだ。
「はい、ウネラー様」
 ガナスも、自分の得物である槍を持つ手に力を入れた。
     *        *
「何をしている! あれはトウルだな」
 常に戦場を見ていたバッタは、第一陣弓形陣の最右翼が崩されているのを発見した。
 火矢が刺さり、燃えるトウルの船たち。その間を我がもの顔で蹂躙するセル公国艦隊。ちかくの帆船は、同胞トウル国の船が邪魔で砲撃ができない。そのうえ、一隻の大きな船は、白兵戦まで許しているのだ。
「あれはあの馬鹿将軍の船だな。やはり、弾幕の張りかたが甘かったんだ」
 バッタは副頭目で、分艦隊の指揮を任せてあるヤイドノを呼んだ。この男は海賊にしか見えない、そんな悲劇的な容姿をしている。
「俺はいまからベミルを助けに行く。こんな楽なはずの戦いで将官に死者が出たとあっては、作戦立案者たる俺の名に、傷がつく」
「わかったぜ、お頭」
 ヤイドノは快諾した。すでに同盟右翼は組織的抵抗ができなくなっている。ツエッダ艦隊提督クフォは戦死し、指揮を引き継いだ少将は後方勤務が多かったため、相変わらず右往左往するだけだ。ラクシュウからの増援分艦隊にいたっては、完全に全滅している。
 バッタは数隻の船だけで、また戦場をおおきく迂回した。
     *        *
「ムック教の悪魔め、我こそはトウル一の――」
 船で最後まで抵抗したトウルの将軍ベミルは、その名を言う間もなく、ガナスに眉間をひと突きされて生き絶えた。
「よくやった、ガナス」
 返り血を浴びたウネラーが、ガナスの手柄を誉めた。老齢ながら、ウネラーも自身で三名の雑兵を血祭りにあげている。
「それにしても……どうやら、もはやわれわれの敗北は覆せないようだな」
 周囲を見ながら、ウネラーは悔しそうに吐きすてた。
「残念です」
 ガナスがちいさくうなる。
 ウネラーは甲板に備え付けられている大砲に目を移した。近くの部下に命令する。
「これをいくつか、ウネラーデツに乗せろ。弾丸もだ」
 大砲と弾丸、投降した捕虜を母船に乗せたあと、ウネラーデツはトウルの帆船から船首を抜く作業に入っていた。
 周囲を、二隻の僚船が守る。突撃船は、この瞬間がいちばん危ないのだ。
 そのすきを逃してくれるようなバッタではなかった。
「ああ、間に合わなかったか。まあいい、あの船につけろ! 直接殺してやる」
 自分の作戦が完全でなくなったことに、とうとうバッタは本気になった。彼は海賊である。血の気はすさまじく多い。
「うわあ、『黒旗』だあ!」
 黒い旗を掲げた、バッタの軍船カーズ・シャは、うまく追い風に乗って、すさまじい速度でセル公国軍に肉迫する。
 それを迎え撃とうと、ウネラーデツを護衛していた二隻の突撃櫂船がカーズ・シャに襲いかかったが、カーズ・シャの後方からついてくる海賊船の砲撃に、ことごとく炎に包まれて航行不能になった。
 炎の間を、カーズ・シャが進む。紅蓮に染まった地獄からの使者が、セル公国兵士を震えあがらせた。
「弾幕、寄せつけるな!」
 ウネラーが無言でうなずくのを確認して、鉄砲頭が叫ぶ。
 鉄砲の一斉掃射!
 しかし、それを予期していたカーズ・シャは、鉄砲の射程ぎりぎりで進路をかえ、トウル船側の死角まで迂回してから、ふたたび接近した。
 衝撃!
 トウル船に、バッタたちが乗りうつる。数は三〇人前後。
 それを迎えるのは、まだトウル船に残っていたセル兵一七名。
 乱戦のなか、バッタは槍を持ったひとりの若い男と対峙した。バッタは片刃剣を持っている。長さも厚みも、ふつうの倍はある怪物だ。すでに二人のセル兵の血を吸っている。いずれも一薙でたおし、一合も打たせなかった。
 しかしこの男はちがった。体格、力は大男バッタにはるかに劣り、重い鎖かたびらを装備しているのに、バッタの重く速い攻撃をことごとく避け、受け流すのだ。
 この一騎討ちは別として、多勢に無勢、しだいにセル側は押されていった。
 やがて、トウル船にいるセル軍は、バッタと戦っている男を含めてわずかに七人となった。
 そのとき、ごぎりっ、というひときわおおきな音がした。船が揺れる。
 つぎの瞬間、槍の男は号令を発した。
「飛びうつれ!」
 彼らが必死の戦いでかせいだ時間で、ウネラーデツはトウルの軍船から抜け出すのに成功した。同時に、開いた穴から海水がはいり、帆船は急速に沈みはじめた。
 セル軍兵士たちは、つぎつぎとウネラーデツに戻っていく。
 それを追った一部の無謀な海賊は、ウネラーデツ船上でなぶり殺しにされた。
 さいごに飛びうつった槍の男に、バッタは沈みゆくトウルの船上から大声でたずねた。
「貴様の名は?」
「……ガナス」
「ガナスか、覚えておこう」
 そしてバッタは、となりに付き添っていたメノカに指示を出し、小型の弓を受け取ると、矢を放った。
「これは選別だ!」
 矢は正確にガナスを捕えていたが、そのとき高い波がウネラーデツに当たり、船がおおきく揺れ、矢はガナスの脇をすり抜け、ひとりの老いた兵士――ウネラーの肩に命中した。
 老将は崩れ落ちる。船上が騒然となるが、興奮したバッタは名のある武将を射ったことに気づかない。
「くそっ」
 バッタはもう一度弓を引こうとしたが、トウル船が一気に傾いて海に投げだされた。
 波間から顔を出したバッタは、不敵な笑みを浮かべていた。
(まあいい。またいつか、あいつとは決闘できそうな気がするからな)
 熱血漢で気楽な海賊の頭目は、自分の船にむかって泳ぎだした。
     *        *
 午後四時、勝敗は決した。
 東方沿海三国科学文化同盟軍は壊滅的打撃を受けて敗退、潰走した。
 戦死者、行方不明者、捕虜となった者を合わせて約六万七〇〇〇人。動員数八万五〇〇〇人のじつに八割ちかい者が、故郷に帰れなかった。
 船舶の被害もすさまじかった。沈没二二三隻、座礁、捕獲六五隻。動員船舶四〇〇隻のうちの二八八隻が、未帰還であった。
 対するウゼラ教圏沿海諸国混成軍は、動員数三万六〇〇〇人のうち、戦死はわずか二〇〇〇人、船舶被害は沈没一隻の快勝であった。被害の大半がトウル国の者であったのは、いうまでもない。
 ラナン海海戦は、ウゼラ教圏におけるウゼラ=セルの勢力を拡大させ、東方沿海三国科学文化同盟は、既知の西方との交易ルートをすべて遮断された。
 かくして、あたらしい時代展開への布石はそろった。
     *        *
 ニンは悔しかった。
 すべてが嫌であった。
 敗戦の航海中に、負傷していた部下たちがつぎつぎと死んでいくのだ。
 同胞ではツエッダ艦隊の提督、クフォ大将が戦死しており、さらにセル艦隊総司令であるウネラーも、肩に重症を負っている。
(俺のせいじゃない!)
 ニンは、もう四日も自室にこもったまま、そう自分に言い聞かせていた。
 歴史的大敗!
 すでにこの事実は動かない。これからどんな善政をしようとも、公式史書を改算しようとも、汚点は汚点として残るのだ。
(すべては、俺の判断を狂わせたウネラーのせいだ!)
 そう思い込もうとしていた。
 しかしその直後、ニンは一番ショックな報告を聞くこととなる。
「ウネラーが死んだだと!」
 敗血症であった。肩の矢は運悪く静脈を突き破っており、止血に手間取っているうちに、傷口から入り込んだ大量の雑菌が老齢の公爵を蝕み、とうとう鬼籍に彼を送り込んだのだ。
(これで、奴は英雄となるか……)
 敗戦では、死者は罪をなすりつけられるよりも、むしろ英雄とされて民衆の不満を反らすために都合よく利用される。一国の支配者で、生前からすでに勇者であった彼は、英霊の代表という役目にぴったりであろう。
(これでは、俺は誰を憎めばいいのだ……)
 脳裏に、ある海賊の名が浮かんだ。
(バッタ……いつか復讐してやる!)
 ニンはバッタへ自分の感情の行き場を転位させようとしていた。このことが、数百年に渡って蠢いてはいたが、やはり沈滞していた中原の歴史を急激に加速させ、数年に渡る騒乱と革命の時代へと繋がる引き金になろうとは、このプライドが肥大した王にも、そして中原で割拠するどの権力者にも、まったくわからなかった。
     *        *
 まったくあいつらは小さいくせにすさまじい連中だな、巨大なおまえたちよ。
 あいつらは、同じ種族どうしで覇を競い合っている。せっかく、法を律する力を持っているのに……
 進化の過程で得たふたつの能力が、彼らをしてああいうジレンマに陥らせているのだな。
 生物が成長し、子孫を残すためには、どうしても他者――敵への攻撃と、仲間――味方との共存という、ふたつの力をあるていど持つ必要がある。
 すべての動物の頂点に立ったが故に、あの小さき者は敵というものを己の仲間に求めてしまうのか。
 おなじ種族の間でああも無情に殺しあう残虐さと、仲間へのいたわりを同時に有する――不思議な連中だな。
 まったく面白い。
 この戦いは、どうやら南の連中が勝ったようだが、はて、北の連中はまだなにかをしようとしているみたいだな。
 ううむ。ブルガゴスガ人が、どういう葛藤を経て、どういう結論に行き着くのか、本格的に見てみたくなったわ。
 というわけで、わしはしばらく、この惑星に居座ることにしたぞ。巨大で立派なおまえたちも、あの恐い小さな連中にけっこう興味があるだろう?
 なに、恐くはない?
 一対一で相手が素手なら、誰が負けるかだって?
 笑わせるなよ。
 そんな限定された条件でしか勝てないから、惑星上のいい場所をすべて取られたんだろうが。
 だいたいあいつらだって、双角竜っていう名前があるじゃないか。つまり、おまえらと同じ竜の仲間だってことだろ。
 ………。
 泣くなよ。
 いいじゃないか、後輩が先駆者を追い抜くことは、どの世界でもよくあることさ。とくに進化っていう途方もない生物の奇跡ではな。
 とにかく、あいつらも竜だ。
 この惑星では、竜だけがおおっぴらに大手を振って、存分に日の下を歩けるんだぞ。
 見てみろよ、あの木蔭を。小さな毛だらけの動物が震えているぞ。
 え、あれはなかなかおいしいだって?
 そんなことは今は関係ない。あいつの子孫を残す方法が、おまえらどころか、ブルガゴスガ人よりも効率的だって知っているか?
 お腹から自分の小さいのを出す? そう、ご名答。卵を腹の中で孵すんだよ、これがどれほど環境の変化に強いか知らないだろ。
 わしがその気になれば、この惑星に大隕石を落下させることもできるんだぞ。冬が来る。そうなれば、あいつらは生き残るが、ま、おまえたちは寒さに耐えれずに死ぬだろうな。
 あの双角竜も、住んでいた平地に山が出来て寒くなったため、それに対応するためにああ進化したのだが、どうなることやら。
 まあいいわ。わずかな時間しか生きぬおまえらにとっては、どうでもいいだろう。
 え、「巨大なおまえら」はいやだから、名前が欲しい?
 そうだな。見てくれから率直に――恐竜――どうだ、気に入ったか?
 よしよし、素直だな、恐竜たちよ。
 それでは、中原へと戻るかな。
 この竜しかいない惑星で、どう生きているのだ? 双角竜人よ。


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