リオ・グランデ Rio Grande

全長1260m 全幅72m 全高358m 乗員1216名 ナンバー0501 同盟軍第5艦隊/同盟軍総旗艦
ヒューベリオンやユリシーズに続き、同盟軍を象徴する戦艦である。同盟軍の宿将、アレクサンドル・ビュコックが中将として第5艦隊司令官に就任する際に第5艦隊旗艦として就役し、以後ビュコック元帥を乗せてすべての戦場を共にし、最後の同盟軍総旗艦となった。 全長1260mはアイアース級(パトロクロス級・アキレウス級)大型戦艦の標準1159mよりかなり長く、確認されている範囲では宇宙最長の巨大戦艦であり、帝国軍最長の戦艦ガルガ・ファルムルさえ凌いでいる。
長さを稼いでいるのは艦首の主砲モジュールである。通常のアイアース級に2倍はするビーム集束装置を搭載しており、砲門口を広げずに集束率を高める、すなわち砲門数を減らさずに射程距離を伸ばすのが目的だ。帝国軍の旗艦が総じて大口径長射程(代わりに砲門数が少ない)であるのに、リオ・グランデの建艦委員会が対抗したと考えられる。 リオ・グランデの長射程重視の設計思想はのちにフェザーン経由で帝国からもたらされた技術(シャフト大将の私腹肥やしが関与していたのはいうまでもない)も導入して、(2代目)アキレウス、ディオメデス、ロスタムといったアイアース級最終形態へと受け継がれた。これらの後継艦では装置の改良が進み、よりコンパクトになっている。
もしアイアース級同士で撃ち合えば、クリシュナやアガートラムといった多砲門タイプを別にすればリオ・グランデ一門が確実に勝利するのは想像に難くないが、1万隻の大集団にあって個艦の戦闘能力が与える影響などたかが知れているから、実験的な意味合いが強いのはいうまでもない。 旗艦級で実用を認められた先進機能が、のちに量産艦艇へフィードバックされ全体の力を底上げてゆくのは帝国軍から伺える通りである。もちろん逆もあって、安定した量産艦艇を元に安定が見込める旗艦のフレームを生み出す事例のほうが見た目にも分かりやすく、とくに帝国軍で目立っている。費用をあるていど度外視できる旗艦級戦艦と、コスト最優先の量産艦艇は、互いの特徴を活かしてギブ・アンド・テイクの関係なのだろう。
そのギブであるが残念ながら、同盟帝国折衷なリオ・グランデ型の攻撃思想を帝国当局が怖れた形跡はない。バラートの和約後に帝国側が優先して破壊させた同盟軍の旗艦は、トリグラフやアガートラムなどむしろ多砲門タイプだった。シャーウッドの森に潜んでいなかったら、シヴァも同様に早い段階で抹消されていたかもしれない。
奇しくも破却の優先度が低かったおかげで、リオ・グランデは同盟最後の宇宙艦隊総旗艦として戦場に散ることを許された。 リオ・グランデは元帥に昇進した同盟の宿将、アレクサンドル・ビュコックを乗せ、何倍もの戦力を保有するカイザー・ラインハルトにランテマリオ、そしてマル・アデッタと激戦を仕掛けた。ランテマリオではヤンの来援で長らえたが、マル・アデッタでは善戦するも武運及ばず、自由惑星同盟の滅亡に殉じる形で、最後の同盟軍旗艦としての大役を終えた。
数百万人を道連れにした、リオ・グランデの轟沈と老将ビュコックの死――それは無駄な自滅だったのかも知れない。だがロイエンタールが評したように、老人の挑戦は、戦乱というどうしようもない時代のシステムが、あるいは人間の集団心理が求める、理不尽で非合理的だが、必然でもある矛盾の儀式だった。帝国にとっては宇宙の統一を形として確認し、同盟にとっては避けがたい亡びを受け入れるための、誰にでも明快な通過儀礼として。
歴史をかえりみれば、決戦を経ない終戦は後々、炭火と化してくすぶることが多い。大量の血が一度に流れたほうがかえって長い平和を得られるとは、人とはなんという始末に負えない、あきらめの悪い我が儘な生き物なのだろう。 リオ・グランデは「大きな川」というそのまんまな意味の雄大な川で、米国のコロラド州からメキシコ湾へ流れ、全長3000キロもある。近くにより有名でかつ世界三大河川に数えられるミシシッピ川やアマゾン川があることから、若き戦争の天才たちの後陣を拝しながらも、年長者として英雄の未来と行く末を心配しつづけた、いぶし銀な良将ビュコックの包容力と立場を代弁しているかのようだ。
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