アガートラム Airged Lamh(F:Agateram/Airget lamh)

全長983m 全幅72m 全高356m 乗員1041名 ナンバーBG-20 同盟軍フィッシャー分艦隊
機動運動の天才エドウィン・フィッシャー提督の、バーミリオン会戦までの乗艦。ヤン艦隊機動の運用全般を統括していた。 本艦はアイアース級(パトロクロス級)では試作番外艦、旧資料たるアキレウス級では正式16番艦に分類される。サイズ的に分艦隊級の規模しかないが、ヤン艦隊全体を手足のように動かしていたように、情報能力の要であるアンテナ数は1159mクラスと拮抗している。
アガートラムの特徴はいうまでもなく、仰け反るような特異形状にある。とくに艦橋部はセンサー・ブロックが独立して上後方に突き出すという、思い切った配置が採用された。艦橋本体は伝統的に半露出した純水タンクの前に配置されるので、フィッシャー提督は赤い星間物質取り込み口の辺り、艦首砲門直後のくびれた部位にいると考えられる。艦橋の直上にある構造物がまとめて100m後方へとスライドした形だ。こちらのほうがノイズ対策になるという話で、機能向上を優先する試作艦ならではの事情があった。アイアース級とかなり異なる各アンテナの位置も、同様の適化に起因している。 3箇所に分散された艦首砲門群は合計64門。主砲の集束口径は25cmから22cmへと細められたが、一斉射の破壊力はアイアース級の標準を上回る。
帝国軍が着々と新たな旗艦を開発していたように、同盟軍も限界の見えていたアイアース級にかわる次世代の旗艦を模索していた。その答えはより縮めた艦体に、よりパワフルな攻撃性能と指揮能力の両立へと落ち着いたようである。
かくして試作されたアガートラムの姿は、想定された機能を実現するため見た目をかなり犠牲とした、ひょうきんなものとなった。競合艦のトリグラフも、お世辞にも洗練されているとは言い難い奇妙な外観を与えられている。主砲ブロックをおおきく3つに分割させる基本概念は両艦とも共通していた。 貧乏な同盟軍の情勢により、アガートラムはアイアース級の発動推進機関をそのまま流用した。これで砲門を増やしてもエネルギー容量が足りないので、大型のチャンバを搭載して一時的に蓄積できるエネルギー量を増強したが、しょせんはバッテリー的システムの大規模なものにすぎず、6回の斉射で使い果たし、防御一辺倒の待機状態に陥ってしまう。
攻撃性能を発揮できないという致命的な欠陥に加え、アガートラムはさらに別の問題を抱えていた。奇妙な形状により重心が艦底に偏ってしまい、バランスの崩れから操艦が難しかったのである。これらによってアガートラムは次世代旗艦の競争に敗れた。だが総合的にアイアース級を上回ると思われる艦隊管制能力はもったいないわけで、同盟軍の窮状もあり、使えるものはなんでも使えとヤン艦隊の分艦隊旗艦として配備された。当のライバルだったトリグラフも僚艦となる。 アイアース級を雛形としているアガートラムは、幾つかの機構でアイアース級の標準機能を簡素化している。艦尾下部FTLアンテナは埋設化され、後部シャトル格納庫には小型のシャトルしか入れない。下部に並ぶスパルタニアン格納庫は12基あるが、うち3基がなぜか別の構造物で覆われており、定数9という標準型戦艦と同数の淋しい編成で運用するしかない。この辺りの急場凌ぎ的な外見的特徴に見られるように、アガートラムは試作艦ならではのカオス的要素に溢れている。
あまり触れられてない事実だが、アガートラムと同様試作艦でありながら実戦投入されていたアイアースは、アガートラムに近い配色をしている。もしかしてこの特徴的な茶系統の塗装は、試作艦を示す色かもしれない。試作艦から制式へと定められたトリグラフは期待を込めてか鮮やかな緑色をしており、アイアース級標準の深い緑と並べてもくっきりと目立つ。 ナンバーBG-20は現場で使用されていたアガートラムのカラー番号である。
バーミリオン会戦まで幾つもの激戦を無傷で駆け抜けたアガートラムは、バラートの和約による帝国軍の指示で解体処分となった。失敗作とはいえ、新しいものはとりあえず早めに壊しとけという帝国軍の思惑が働いたようだ。和約は同盟側による戦艦の所有を禁止していたためヒューベリオンなどの旧式艦もいずれ破壊される運命であったが、順番が廻ってくる前に騒動が起こり、うやむやの内に現役復帰している。
アガートラムの由来はケルト神話の神ヌアザ。戦いで片腕と王位を失ったヌアザは銀の義手を得て力を回復し、王としても蘇った。この銀の腕こそがアガートラムである。生きた航路図エドウィン・フィッシャーはまさに名将ヤンの隠れた片腕であり、それを示すにふさわしい艦名であろう。
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